迷宮10)いっぱい増築☆
チチチッ、チチチッ♪
小鳥が迷宮の壁の上に並んでさえずっている。
スズメに似た感じだけど、色合いが少し淡い感じ。
たまに、数匹揃って歌っているから、普通の小鳥じゃないのかもしれない。
温室のガラスの天井にちょこんと飛び乗って、小首を傾げた。
『コビットさんの木の実が食べたいのかな? はい、どうぞ』
ガラス張りの天井を空けてあげると、小鳥達が温室の中に舞い降りる。
チチチッとお礼を言うように鳴きながら、小鳥達は赤い木の実をついばみ始めた。
二メートル程度しか育っていない木なのだけれど、小指の先ぐらいの小さな赤い実が一杯なっているのだ。
コビットさんが大分前から温室に植えていたのだけれど、まさか木の実がなるとは思っていなかった。
小鳥が歌い、スライムさんがぷにぷにしている。
今日も迷宮は平和だ。
でも……。
『こびー……』
『そうだねぇ。今日も来ないねぇ』
フェアリアちゃんの様子を見に行くといって、ルーくんが走り去っていったのが早一ヶ月前。
その間に、数組の冒険者が迷宮にやってきたけれど、ルーくんは来ない。
『ぷにぷに、ぷににーん』
『スライムさんも、ルーくんこなくて寂しいのかぁ』
『ぷにー』
『スライムさん当てゲームが出来ないもんねぇ』
わたしとコビットさん、そしてゴーレムさんで遊んでいることが多いけれど、スライムさん当てゲームはルーくんがいたほうが楽しいと思う。
ぐぐーっと意識を迷宮の上のほうに持っていって、村の方を眺めてみる。
うーん、ルーくんはやっぱり見えない。
当たり前だけれどね。
『こびこびー?』
『ううん、それは駄目。コビットさんが村まで行くのは危ないわ』
コビットさんが自由に消えたり出来るのは、迷宮の中だけなのです。
迷宮から離れても行動できるけど、ルーくん以外の村人に見つかったら大変だから。
ルーくんのことは気になるけれど、コビットさんが危険にさらされるのも嫌なのです。
『うーん、どうしちゃったんだろうねぇ』
わたしからルーくんに連絡を取る手段が思いつかない。
こうゆう時、動けない迷宮って、不便だ。
増築でもしちゃおうかなぁ?
ルーくんのおかげで溜まりまくった迷宮パワー、ぜんぜん使っていないんだよね。
増築しちゃうとルーくんがより一層迷っちゃうからやめていたけれど、村側にぐぐーっと増築したら、もうちょっと村の様子を見れるかもだし。
うん、しちゃおう。
ルーくんが迷っちゃったら、誘導すればいいんだしね。
わたしは、意識をむむむーんと集中する。
すると、地面からぽこぽこと生えるようにレンガが出現し始めた。
早送りするみたいに、茶系のレンガが次々と積み重なっていく。
どんどん迷宮パワーを使い続けると、ぐぐっと村が近づいた気がする。
うん、このぐらいが限界かな?
何かあったときの為に迷宮パワーも少しはとっておきたいしね。
増築数は、ひぃ、ふぅ、みぃ……おぉっ、十七部屋も出来たっ。
ルーくん、いっぱい迷うなぁって思っていたけれど、ものすっごくほんとに迷ってくれてたのね。
最初からあった部屋数と合わせると二十一部屋。
うん、迷宮っぽくなってきましたよ?
『こびーーーーーーーっ☆』
『えぇえっ、コビットさん、どうしたの?!』
視界の隅で、コビットさんがいきなり光った。
そして。
『『こびこびっ☆』』
『コビットさんまで分裂?!』
コビットさん、二人になったよ?
いつからゼリー状だったんだろう。
ううん、そんなはずないよね。
スライムさんみたいに半透明じゃないし、ぷにぷにっとしていないし。
どうゆうことー?
『こびこびっ』
『えっ、ダンジョン妖精はダンジョンが育つと一緒に増えていく? そうだったのかぁ』
コビットさんまで分裂したのかと思ったよ。
でも落ち着いてみれば、違うって判るね。
スライムさんは見た目が微妙に違うけれど、中身はみんな同じスライムさんだった。
でもコビットさんはそれぞれ別人だ。
人じゃないから別妖精?
いつものコビットさんと同じように、もう一人のコビットさんも剣を持っている。
そしておもむろに素振りをし始めた。
『こびっ、こびっ、こびっ、こびっ!』
『うんうん、修練を欠かさないのね? こっちのコビットさんは戦闘系なのかなぁ』
ルーくんが言っていたよね。
他の迷宮のダンジョン妖精は、冒険者に切りかかってくるって。
それを考えると、こっちのコビットさんは普通のダンジョン妖精なのかな。
『こびこびっ☆』
『コビットさんは、ちょっと特殊だったのね。普通の子は、栽培しない感じ?』
『こびー……』
『そっか、わからないよねぇ』
『こびっ、こびっ、こびっ、こびっ』
『こっちのコビットさんは、えーっと、紛らわしいかも? 名前、あるのかな?』
分裂するスライムさんと違って二人のコビットさんは容姿が違うから、見た目で間違えることはないのだけれど。
呼ぶときに二人ともコビットさんだと、どちらを呼んでいるのかわからなくなっちゃう。
『こびこび、こーびっ☆』
『こびっ、こびこび、こびびこび』
『うんうん、名前は特にないのね? わたしがつければいいのかぁ』
名づけ、ねぇ?
うーん……。
コビットさん二人と、いつの間にか隣に来ていたゴーレムさんとスライムさん、それに小鳥たちまでがじっとわたしを見つめている。
なんだかちょっと照れちゃうね?
『ソード、なんてどうかなぁ?』
確か英語で『剣』って言う意味だった気がする。
わたし、英語苦手だったからうろ覚えなのだけれど。
『ソード、こびこびっ』
あ、ソードでよさそう?
ダンジョン妖精改め、ソードさん、嬉しそうにその場でくるっと回ってお辞儀した。
小鳥達も歌って祝福してくれるし、コビットさんとゴーレムさんは拍手、スライムさんは分裂してぷにぷにっと祝ってくれた。
うんうん、仲間が増えると嬉しいね?
『こびこびっ!』
『えっ、人がくる?』
コビットさんに言われたとおり、わたしは意識を村の方へ集中する。
村の方から数人、冒険者らしき人達が急いで向かってくるのが見えた。
『あわわ、みんな、急いで温室に隠れてね。ソードは初めてだよね。コビットさん、温室に案内してあげて』
『こびっ☆』
ゴーレムさんも今回は一緒に温室に避難してもらう。
小鳥達は、魔物じゃないから隠れなくても大丈夫だよね。
チチチッと鳴いた小鳥達が、迷宮の上空に飛び立ってくるくるっと旋回した。
いつも通り温室をレンガで包んで隠すと、冒険者の集団が迷宮の入り口にたどり着いた。
剣士に魔法使い、僧侶と戦士、かな?
バランスいい感じ。
この間みかけた気がする。
「派手な音がしていたが……この迷宮からで間違いないだろうか」
「おそらく」
「先日来た時には、こんなに大きな迷宮ではなかったはずじゃがのぅ……」
「……邪悪な気配は感じませんね」
口々に呟く会話を聞きながら、わたしは頭を抱えたくなった。
レンガをあんなにいっぱい一気に積んだら、そりゃ音もするよっ。
勢い良く積み上げちゃったもの。
「まぁ、いいじゃないですか。また宝箱があればいいのですが」
「そうそうあのレベルの薬草があるとは思えんがなぁ……」
「旅商人の噂話は、なかなか馬鹿に出来ぬ」
「でも大量には無かったじゃない。確かにいい薬草だけれど、ここまで来るより王都に出たほうが遥かに割りのいい仕事があるわ」
旅商人って、ルーくんが以前薬草を売った商人かな。
噂が広まったら、いっぱい冒険者が来てくれるかしら。
旅商人さん、頑張って噂を流してね。
「部屋数は多いが、敵はいないな」
「綺麗なダンジョンよね」
僧侶さんが迷宮の壁を撫でて微笑んだ。
そうでしょうそうでしょう。
コビットさんとスライムさんが毎日お掃除してくれているものね。
間近で見られてもすべすべです♪
少しだけ迷いながら、冒険者達は女神像の間に辿りついた。
宝箱を開けて、薬草をいそいそと回収する。
綺麗なダンジョンって褒めてくれたから、次にきてくれた時には薬草増量するからまた来てね。
『こびっ、こびっ、こびっ!』
『えっ、ソードさん、急にどうしたの? 静かにしてっ』
『こびこびこびっ!』
『戦いたいって、そんな駄目よ。みんな、ソードさんを押さえてっ』
温室を出ようとするソードさんを、慌ててゴーレムさんが取り押さえた。
良かった、コビットさんと違って、ソードさんは迷宮を自由に移動は出来ないみたい。
「……いま、何か音がしなかったか」
「聞こえたわね」
「そうじゃろうかのぅ」
「こっちだ」
やばいっ。
冒険者達が温室に来ちゃうわ。
外からは入れないようにレンガで塞がってるけど……。
お願い、みんな、じっとしててね?
スライムさんにコビットさん、ゴーレムさんにソードさん。
そしてわたしもぐっと息を潜める。
冒険者達は温室の前に集まり、上を見上げた。
チチチッ、チチチッ。
小鳥さん達がさえずって、踊るように温室の上をちょんちょんと移動する。
「なぁんだ、ただの小鳥じゃない」
「そのようじゃの」
「神経質に成り過ぎていたか」
「魔物もいないようだし、戻りましょ」
肩の力の抜けた冒険者達が、迷宮を立ち去ってゆく。
小鳥さんたち、ありがとう!
ソードさんは、いっぱい反省してね?
『こび……』
『嫌だ、戦いたい、ですって?』
『こびこび、こーびっ!』
『うーん、どうしようかな』
『俺、戦ウ。ソードと、戦ウ』
『ゴーレムさんが? そうね、戦いたくなったら、二人で遊ぶといいかも。あ、でも、ちゃんと怪我をしない程度にですよ?』
『判ッタ』
『こび!』
ソードさんとゴーレムさんはしばらく戦ったあと、疲れたのか迷宮の片隅で寄り添って、ぐっすり眠ってしまった。
うん、仲がよくていい感じ。
でも……。
わたしは村の方を見る。
今日もルーくんは来なかった。
本当に、どうしちゃったんだろう?




