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元刑事、異世界で真実に辿り着く  作者: 月乃音


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第40話 眠るレオへの独白

レオが寝ている間に、お互いの予定を擦り合わせる。

グレン様は、俺達を公爵の元へ送ったら、辺境へ帰るようだ。

どうやら、ロベルトに上手く使われたか、分かっていて乗ったか。

後者だろうな。

食えない人だ。


「エドガー、たまには帰ってこい。俺だけ会ったことがバレたら……」


「暇になったらな。親父が話さなければいいだろ」


「いつ暇になるんだ」


それに返事を返さず、酒を飲むエドガー。

エドガーは王都に来てから、一度も帰ってないな。

微妙な空気が流れる。


「グレン様、公爵様とはすぐに面会できそうですか?」


「問題ないだろう。先触れを出しておいた。お前たちのことも伝えてある」


「ありがとうございます」


グレン様は、こういうところは抜かりがない。

俺とエドガーは予定が急変したため、公爵様に連絡ができていない。

まさか、こんな急に動くとは思っていなかった。

原因はレオだ。


「リック、王都に着いたら、嫁の顔を見てくるか?」


グレン様が陽気に言う。


「残念ですが、任務中ですので遠慮しておきます」


「親父、こっちの任務にちょっかいを出すなよ。ややこしくなる」


「分かっている。公爵とは関わりたくない。まったく、よりにも寄ってあの公爵家の騎士に……」


ブツブツ文句を言うグレン様。

エドガーが、あからさまに嫌な顔をした。

グレン様は酔いが回っているようだし、お開きだな。



「エドガー、そろそろ部屋に戻ったほうが良いんじゃないか」


「ん? ああ、そうだな」


「明日、朝市に寄って行くだろう。レオが楽しみにしていた」


「ああ、風呂も入りたいと言っていたし、戻るか」


「そうしよう」


「親父、部屋に戻る」


エドガーは席を立ち、ぶっきらぼうに伝えて扉に向かう。


「そうか」


その姿を、少し寂しそうな視線で追うグレン様。

不器用なところが似ている親子だな。


「グレン様、お酒美味しかったです。失礼します」


「ああ、二人とも、ゆっくり休め」


エドガーの後に続き部屋を出る。

レオのいる隣の部屋に入ると、エドガーはすぐに声を掛けた。


「レオ、終わったぞ。起きろ~」


さっきまでの態度はどこへ?

呆れるぐらい優しい顔をして、レオに呼びかけている。

エドガーはベッドに腰掛け、レオの頭を撫でる。


「ん? 起きないのか?」


「ああ、ぐっすり眠っている」


「珍しいな」


俺も近づいて、覗き見る。

まったく起きる気配がない。


「リック、レオの状態を見てくれるか?」


レオから視線を外さず、心配そうに言う。


「分かった」


レオをそっと魔力で覆う。


「……」


「どうした? なにか問題が?」


焦って、聞いてくるエドガー。


「いや、安定している。今日はこのままで大丈夫だ」


「良かった」


ホッとした顔で言う。

そんなエドガーを見つつ、違和感に思考が引っ張られる。


「……」


「リック、先に風呂へ入ってくれ。もう少しレオを寝かせてやりたい」


「あ、ああ。そうさせてもらおう」


俺は準備をして風呂に入る。

先に体を洗い流す。

久しぶりの湯船にゆったりと浸かりながら、思考に沈む。


「かなり魔力を使ったはずだが……」


いままで一番安定していた。


「魔力操作になれた、のか?」


良いことだが……、しっくりこない。


「ふ~、今考えても答えは出ないな。――あの呪いをおさえる方法を探さないと」


最近、落ち着くと考えることは、レオのことばかりだな。

エドガーに毒されたか。

苦笑いしながら、肩まで湯船に浸かり力を抜いた。



****************



じっとレオを見る。

安心したように無防備にぐっすり眠っている。

頬をつつけば、嫌そうに手で払うが起きない。


「ハハ、可愛いな」


俺は、どちらかと言うと子供は苦手だった。

こちらの都合は考えない、好き勝手で我儘で、思い通りにならないと直ぐに癇癪(かんしゃく)を起こし、そして泣く。

そう、子供はとにかく面倒な存在だった。


「……」


嫌な事を思い出した。

あれは、本当に最悪だった。

この任務のおかげで、逃れられて本当に助かった。

あれには、もう関わりたくない。


「でも、レオ。――お前は違う」


伯爵の養子が地下室に閉じ込められ、長男ダリルのはけ口になっていると聞いていた。

可哀想にとは思ったが、そこまでで特に興味はなかった。

貴族では良くある話だからだ。


だがレオに会って、――後悔した。


記憶を、自分のことまで忘れるほどの暴力。

体は傷だらけで見るに絶えず、内傷は治癒されては繰り返し暴力を受けていた。

そして、極めつけは――最悪の呪い。


良くある話だと決めつけ――俺は、俺達は確認を怠った。

怠ってしまった……。

レオの事を聞いて、すぐ確認に行っていれば、まったく違った道があった筈だ。

いくらでも、見に行くチャンスはあった。

それなのに……。


「俺が、確認していれば――呪いなんか受けずに済んだのに……」


俺の後悔など知らずに、穏やかな寝息を立てるレオ。

レオに手を伸ばし、柔らかな頬にそっと触れ優しく撫でる。


「――許してくれ、レオ。――すまない。本当にすまない」


撫でる手が震える。

頬から手を離し、固く拳を握りしめる。


――身を切られるような心の痛み。


まさか、自分がこんな思いを、誰かに感じるとは思いもしなかった。

普通なら、心から愛する女だろうにな。


「レオ」


静かに名を呼ぶも、まだ起きる気配はない。


「どうして、そんなに穏やかな顔で眠れるんだ?」


初めて会ったあの日、呪いに苦しみ震えながらも、静かに自分の死を語り俺達を気遣う。

自分の寿命は短いと淡々と話す。

死を、――当然のように受け入れているお前に衝撃を受けた。


その後は、なんだかんだとレオのペースに巻き込まれ、今にここに居る。

そして、――レオが苦しむのを見る度に、自分の罪の重さを思い知る。


「どうしたら、助けられる? いっそ、俺が代われたらいいのに」


顔が歪む。

そう、頭では理解している、してしまっている。

どうあがいても,――レオは助からないと。


胸が押しつぶされる。


「どうして……、レオなんだ」


頬に流れる一雫の水。


「……ハハ」


乾いた笑いが漏れる。

乱暴に拭い、まだ溢れそうになる水を、ぐっと目を閉じて上を向き堪える。


「泣いていいのは、お前だよ。――レオ」


死を分かっても、伯爵家の使用人や騎士のために王都に向かうのを厭わない。

あまつさえ、自身の傷や呪いまで証拠にする、心の強さ。

子どものくせに、その強かさには舌を巻くが……。

見ている方は、心が押しつぶされる。


「レオなら、誰からも慕われる立派な大人になれるだろうに」


呪いの苦痛だけでも、代わってやりたい。

あどけない寝顔を見つめる。


「ハハ、どうして俺はお前に、ここまでの感情を抱くんだろうな?」


はじめは、危なっかしくて目が離せず、一人で抱え込む事に苛立った。

手を差し伸べて、懐いたかと思えば壁があった。

だが、その壁がだんだんと薄くなり、俺に心を許し不器用に甘えるようになる。


「ふっ、それでも、はじめは頑なだったよな」


呪いを受けて死を目の前にしても、いや死が近いからか、――全てを一人で抱え込むお前と、一緒にいると決めた日。


「頑ななお前を、必死に口説いたな。この俺が」


なりふり構わず、ずるい言い方もした。

それで、捕まえた。


「レオ、女だったらすぐ落とせる俺が、なりふり構わず捕まえたんだ」


近くで話しているのに、起きないレオの頬をつつく。


「俺に、そこまでさせたんだ。責任取ってもらうぞ。絶対離してやらないからな」


……。

溜め息をつき、頭を掻く。


「違うな。俺がお前と一緒にいたいんだ。贖罪(しょくざい)もあるが、側に居て守りたい。守らせてくれるよな?」


返事はないが、関係無い。

絶対離れない――最後まで。


「でも、本当にどうして、お前なんだろうな? 自分で言うのもなんだが、俺はここまで他人に興味が湧くことはなかった。確かに、野良猫が俺にだけ懐いた感があって、可愛くて仕方ない。だが、それだけじゃ収まらない。なんていうか……」


言葉にするのが怖い、自分でもおかしいんじゃ、変人になったのかと、最近思うようになった。

いや、レオに邪な感情は一切ない。

ないんだが、――俺以外に懐くのは嫌だし、ずっと側に居たい。

出来るなら、ずっと抱っこしていたい。


「……俺、やっぱりヤバくないか?」


いやいやいや。


「……」


じっとレオを見る。

深呼吸をして落ち着かせ、冷静に考える。

頭の片隅に何かが浮かぶ、なんだ?


「ぅ~ん」


レオの声に、思わずビクつく。


「レ、レオ。起きたか?」


「んう? エドガー?」


「ああ、風呂入れそうか?」


「ん~、お風呂……、お風呂!」


ガバっと起き上がるレオ。

思わず吹き出す。


「ハハハ、よほど風呂に入りたいんだな。おはよう、レオ」


顔を真赤にするレオ。

本当に可愛い。


「おはよう」


恥ずかしそうに言う。


「よく寝ていたから、先にリックが入っている。そろそろ出てくるから、風呂に入る準備するぞ」


「うん!」


元気に返事をして、収納から着替えを出す。


「石鹸やタオルは あるかな?」


「あったぞ」


リックがちょうどよく出てきた。


「起きたか」


「ああ、ちょうど今な」


「よく寝ていたな。今、お湯を入れ替えている。体を洗っているうちに、お湯が溜まるぞ」


「そうか、助かる。レオ、行くぞ」


レオの出した着替えと、自分の着替えを持ってレオを見る。

すると、船を漕いでいた。


「……」


「……」


リックと顔を見合わせて、声を殺して笑う。


「エドガー、先に体を洗って終わったら教えろ。レオを連れて行く」


「それが良さそうだな。頼んだ」


リックに頼み、先に風呂へ行き、体を洗う。

連れてこられたレオは、半分意識がない。

それでも気持ちよさそうに、体を洗われる。

これは、寝かしたほうが良いと思うが、念のため声を掛ける。


「レオ、風呂に浸かるのはやめておくか?」


「え? やだ。入る! 一緒に入ろう」


即答だった。

よほど風呂が好きらしい。

湯船に一緒に浸かる。


「はぁ~~~。気持ちいい~~」


「ふは、おっさんかよ」


「ええ~、気持ちいいじゃん。エドガー、俺が部屋に行った後、何を話していたの?」


「ん~? そうだな……」


少し話すと、途中から反応がなくなり、寝息が聞こえてきた。

リックに迎えに来てもらう。


レオの状態を見て、リックは笑いを堪えるのが大変だ。


「頼む」


俺も笑いそうになり耐える。

頷き答えたリックは風呂場を出ていった。


「ハハ、どれだけ風呂が好きなんだか」


もう一度、湯船に浸かりゆっくりする。

レオが起きる前、何かを思い出しそうだったんだが……。


「……あ」


嫌な顔を思い出した。

そして、嫌味ったらしい男は俺に言った。


『エドガー、君はさ……』


あの頃は、ふざけるなと笑い飛ばしたが……。


『君は絶対、僕に会いに来ることになるよ』


今でも思い出すだけで、イラッとする。

だが、お前の言うとおりかよ……なんか腹立つな。

でも、背に腹は変えられない。

首洗って待っていろ、お前の望み通りに会いに行ってやる。





ここまで読んでいただきありがとうございます。

エドガーの独白、いかがでしたでしょうか。

思い入れのある回になります。

この先のお話も読んでいただけたら嬉しいです。


次回 6/17 (水) 20時~22時の間に更新予定です。

よろしくお願いします。

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