ついにスキルを見られました!!
「ダメだ、こっちには見当たらなかった。そっちは?」
「こっちもダメ。」
俺達は湊と凪沙の二人を追いかけて来たのだが、二人が追いかけていた奴がいきなり壁の向こうに消えた。
視線を戻し二人を目で追おうとするがなんと二人まで消えたのだ。
俺はサーチで探そうとしたが気配を感じることが出来なかった。
「……? ちょっと待って」
ミュールは壁に手を向けて少量の魔力を放出する。
物体に魔力を通しても何も変化はないはずなのだが、壁にノイズのようなものが走る。
「これは?」
「このノイズは魔法同士が干渉したときにおこる現象よ。今私が壁の中に魔力球を作ろうとしたらああなった。つまり……」
「この壁は魔法で創造されたもの?」
「そういうことになるわ」
ミュールは壁の中に魔力の玉を作ってみたらしい。
ただの魔力球なら霧散して消えるはずなのに、今回ノイズのようになった。
これは魔法の中に魔法で物を生成しようとすると拒否反応が出る。
「俺達のことがバレたからこんな魔法を? それともただのカモフラージュか?」
「なんにせよ、この先に二人が居るのは間違いないと思うのだけれど。どうする?」
ミュールの言う通りこの先には二人が居る。ただ俺達のことがバレていればおそらく何かしらの対策をしているはずだ。
そこへ馬鹿正直に飛び込んでは相手の思う壺だ。
人質を取られていると動きづらいし、逆にこちらから相手を探る手立てもない。
気付かれないように侵入するのは俺一人なら出来るかもしれないがミュールが厳しいだろう。
やはりここから先は一人で行くべきだろう。
「ミュール、ここから先は俺一人で行くよ。俺一人なら気配を消して忍び込める」
「待ち伏せの可能性を考えてってことね。でもそれは却下、さっきも言ったでしょ魔法でしかできないこともあるって。それに相手は気付いてないと思うわよ?」
「相手が気付いてない? どうしてそんなことが言えるんだ?」
「簡単よ。私達を足止めするつもりなら攻勢防壁を張ればいいし、攻勢防壁を張れなかったとしても何かしらの工夫するはずだもの」
「つまりこの壁ただの張りぼてってことか」
「そういうこと用心するに越したことはないし、私達を誘っているのかもしれないけど。そこは行ってみないとわからないし、何よりこれ以上考えている暇はないんじゃないかしら?」
「……わかった。ただ無理はしないように頼む。それと俺より前に出ないこと」
ミュールが頷くの確認して俺は壁の向こうに入る。
壁を潜り抜けるとそこは木造の大きな屋敷の廃墟があった。
先ほどはこんなもの見なかった。
「なるほど、さっき二人が追いかけて来た奴らの正体が読めて来たわよ。多分だけど裏の連中ね」
「裏の連中? なんだそのヤバそうな奴ら」
「簡単に言うと金さえ払えば何でもする奴らよ。もちろん犯罪にも手を出すわ」
なるほど、ってそれ二人の所に急がないと不味くないか?
俺はミュールに先に急ごうと言い歩き出す。屋敷に入ると玄関ホールに二階へ続く階段と奥には大きな扉が見える。
床は朽ちているところもあり、注意が必要だろう。
俺達は光源を生み出す魔法を使い先に進む。
サーチを使い罠や周囲環境を確認しながら慎重に。まずは一階奥の扉の先を確認しに行く。
朽ちている重い扉を開けると、先には食器や楼台がいくつも置いてある。
「ここは食堂か? テーブルも椅子も朽ちているから。もう使われてなさそうだけど」
「いえ、よく見て。この食器、放置されてるのだとすれば綺麗すぎるわ。埃一つかぶってないなんて」
「ここを根城にしている連中が使ってるのかもな。それよりもミュール、あそこの扉なんだけど」
俺の視線の先には一つの扉があった。
木製の両開きの扉、ドアノブが付いており鈍く光っている。
その扉だけまるで時が止められているかのような新しさがある。
その先をサーチで確認しようとしたのだが何かノイズのようなものに邪魔されてしまい、状況を確認できない。
「あの扉……? ッ!? 浩輝、あの先にはいないそれだけは分かるわ。あの扉のことは放って置きましょう」
なぜかミュールがその扉を見て焦りだす。
きっと何か不味いものなのだろう。後で話を聞くとして今は二人を探す。
その後一階で何も見つけられなかったので二階に上がろうと思た矢先ミュールが俺にある提案をしてきた。
俺と別行動で動きたいと言ってきた。王都に招集されるほどの実力者、それもローレライと言う異名も持っているため大丈夫だろうとと思い承諾した。
ミュールは先ほど見つけた扉に向かったらしい。
俺は二階の探索をするためにまずサーチを発動させる。
「やっぱり何人かいるな。階段上がってすぐの所には誰もいないか。『シャドウダイブ』」
周りに誰もいないことを確認してからスキルを発動させる。
すると俺の体がすぅーっと階段の手すりの影に溶けてしまう。
このスキルは職業スキルの一つで暗殺者のシャドウダイブだ。以前使った影狼とは違い、気配を消して相手を尾行できる。
ゲーム内では発見状態にならずに敵の横を通り抜けたりする、所謂便利系スキルだ。
俺はそのまま二階への階段を上り影伝いに各部屋を覗いていく。どこかしこも服の破れた者や自分の得物を手入れしている者ばかりで二人の姿は見当たらない。
この屋敷自体をサーチしようとすればノイズがかかり、数メートル先を見るのがやっとのため地道に探すしかない。
俺はまた同じ様な部屋に入るとそこでは興味深い話をしていた。
「へへへ、これで俺たちもこんな仕事から足洗えるかもしれねえな」
「ああ、だが急いでは事を仕損じるかもしれない。ボスの計画通り進めること、それだけに今は集中しよう」
「ああ、そうだな。それにしてもあの男何者なんだ? 魔族の子供達を攫うだけで俺達を王国騎士団に入れてやるなんて」
「さあな? 俺達には分からない事だ」
「ま、そうだな」
魔族の子供を攫えば騎士団に入れてやる? そう唆されてるのか。
魔族の子供達これは二人のことも含まれてるのだろう。
人間さんに連れてこられたという証言とも一致しする。そして、こいつらを二人が追いかけてきた理由。
それも今のでなんとなく理解した。
今「あの男」と呼ばれていた奴との契約が魔族の子供を攫う、というのが条件だったのにこいつら、二人の逃走に関して全く知らないことだったように感じる。
つまりあの時二人を誘っていた奴、ここの親玉しか気づいていなかったと想定。
導き出せる答えは、二人減っても気付かない程の数攫っているってことか。
これが明るみに出れば人間と魔族の全面戦争になりかねないな。
魔族側は子供達が居なくなり大騒ぎしているだろう。そのうちこちら側、人間がやったと一方的に攻めてきてもおかしくない。
俺は情報を共有するためにミュールのいる一階の食堂に向かった。
「という感じだった。二人もそこにいるのかもしれない」
「やっぱりそうだったのね。こっちもあの扉を見たとき少しだけその展開を予想できたわ」
「どういうことだ?」
「あの扉は魔族を閉じ込めるために作られた特別な魔法をかけてあったの。もしかして何か危険な魔族を閉じ込めてあるんじゃないかと思って浩輝を離れさせたの」
なるほど、さっきの別行動はこれを調べるため、か。
「それでこれからの方針だ。俺は魔族の子供達を助けたい、そう考えてる。どのみち魔族との敵対はしてしまうだろうけど少しでも丸く収まるように動こうと思う」
「……やっぱり分からないわね。どうしてそこまでするの? 確かに戦争になれば私達は間違いなく戦場に送り込まることになるでしょうけど、だからってわざわざ魔族の子供を助けるなんて」
ミュールの話を聞いて改めて理解した。
この世界では魔族と人間の言うのは互いにどうなっても構わない、そう考えているのだろう。
「何度聞かれても俺は同じ答えしか返せない。そうするべきと思ったしそうしたいと思うからだ」
こればっかりは俺にもわからない。なにせそう感じるだけだから。
以前にもあった本当に自分の意志なのかと疑問に思うあれだ。
「それに湊と凪沙に関しては必ず住んでいた場所に送り届けるって約束したしな」
「……そうですか。まあ、これから一緒に旅をしていけば何か分かるかもしれませんし、そういうことにしておきましょう。それで魔族の子供たちを助ける算段をつけましょうか」
「すまない、ありがとう」
「そういうのは子供たちを助けてから。それで子供たちの監禁場所についてはさっき話した通りあの扉の奥そう考えて間違いないと思うわ」
「あの扉は開けられるのか?」
子供とは言え魔族の子供を閉じ込めているのだ。
鍵ではなく魔法が掛かっているかもしれない。
「うーん、そういう魔法はかかってないみたい。単純に強度の上昇しか掛かってないわ。でもこれは内側から開かないような作りになってるんじゃないかしら? じゃないと鍵も掛かってない説明がつかないわ」
「確かに、それじゃあこの扉壊すか」
俺はそういて刀を取り出す。
扉に向けて刀を構えると慌ててミュールが割って入る。
「ちょ、ちょっと!? そんなことしたら流石にバレるでしょ! とりあえず私が外すから浩輝は扉を抑えてて」
そう言ってミュールは扉を開けて俺に支えるように言う。
まあ、どうせ俺達のことはもうそろそろバレる、面倒だなと思いながら刀を袋に納め扉を支える。
ミュールは杖を使わずに蝶番に向けて火を放っている。周りの物が燃えないように範囲を狭くし、ピンポイントに熱している。
蝶番が赤くなり相当な高温になっている。
そしてそれを魔法で凍らせてしまう。
正確には冷却しているのだがこれによって蝶番にひびが入った。
「なるほど、ヒートショックか……」
金属を高温にした状態から急速に冷却する、つまり温度差によって亀裂が入る現象。
実際に活用する日が来るとは思ってなかった。それにしてもこういう知識はやっぱりどの世界でも共通であるものなんだな。
「これで良しっと、浩輝。そのまま後ろの壁に立て掛けて行きましょう」
そうして俺達は扉の先に進む。
扉の先は居間のような空間が広がっていた。
「どこにも居ないな」
「ええ、でも浩輝この空間魔法で干渉を受けてるわ。本来の場所とは違う場所につながってる」
「どうすればいい?」
あの扉の先、魔族の子供たちが監禁されているはずの場所に奴らに気付かれる前に行かないと面倒なことになる。
「この手の魔法はその魔法を崩壊させるしかないわ」
「魔法を崩壊させる? どういうことだ?」
「この魔法の基盤になっている物を壊すのよ。この手の物はただ切って繋げてるだけ、だからその繋がりを断ち切れば」
「元の場所に戻れる?」
「そういうこと」
それから俺達は手分けをして探した。
しかしこの空間で俺のサーチをうまく発動させることが出来ず、何の情報もないまま探している。
ミュールも探してはいるのだがやはり何の手掛かりもなしに見つけ出すのは難しいようだ。
「その魔法の基盤になってる物はどんなものでもいいのか?」
「空間を切って繋げるためには楔を打ち込む必要があるから物を基盤とするの。ある程度の条件はあるのだけど今回の場合その条件に当てはまるものが多すぎる」
ミュールの言葉を聞いて思っていた事がある。
この魔法は切って繋げているだけ。それなら……
「ミュール、3つ質問なんだけど、ここと屋敷の繋がりを力ずくで切ったらどうなる?」
「それは元の場所に戻れるけど……?」
「二つ目この部屋の外はどうなってるんだ?」
「この手の魔法で繋げられている間は別の次元に幽閉されているからよくわからないわ」
「最後にここを全壊させたら向こうの本来この部屋があった場所はどうなる?」
「わからない、けどそれを気にしてっる場合ではないと思うわよ。それにしてもさっきから意味の分からない質問ばかりよ? どうしたのよ」
ミュールがそう不思議そうに俺に問いかけてくる。
この世界で俺は魔法に対し無知だ。一生やってもこんな場所出れないだろう。
でも今質問して確信した。俺にできる、いや俺にしかできない脱出法あるじゃないか。
「ミュール、俺の後ろに来てくれ。今から全力でぶっ放す!」
「は? ちょ、何をする気なの!?」
驚いたように俺の後ろまで駆けてくる。
どうせこの先ミュールの前でスキルを使う場面が来る。ただそれが少し早くなるだけだ。
それに今足踏みしている暇はないしな。
肉厚の大剣を取り出して構え大きく息をして呼吸を整える。
ミュールが後ろに居ることを確認し思いっきり踏み込んでスキルを発動させる。
「『グラビティースレイヴ』!!」
俺が大剣を横に一薙ぎすると部屋の中の物は大半が壊れ、剣を振った際に起こった風で物が宙に舞っていた。
そして室内に一つ大きな亀裂が入り、そこから剥がれ落ちるように先ほどの部屋から別の場所へと景色を変えていく。
初めて放つ全力攻撃だったがこれ程とは自分でも少し認識が甘かったかもしれない。
ミュールは言葉を失い尻もちをついていた。
「あー、このことなんだけどできれば内密に頼む」
俺がそう言うとミュールはただ茫然とこくりと頷いていた。
今回見てくれた方、ありがとうございます!!
まずは遅くなりまして申し訳ないです。まあ、待ってくれた方が居るかわかりませんが……
年末ですよ! 年末! いやクリスマスはぼっちっちクリスマスなんで一日中書いてれますけどね……
それより今回は、もう浩輝人前でスキルを使用していました!
次回はなるべく早くできるように頑張ります!
ではでは次回また会いましょう!!
それでは皆さんよい読書を!!