冒険者ギルド 2
盗賊の砦はアーヤたちの魔法での探知と、魔王軍を使っての山狩りですぐに見つけることができた。
複数の小屋を建てて周囲にはバリケード、見張り台まであった。ちょっとした村である。
「話し合ってくるからそこで待っててね。ダメそうだったら攻撃して」
レイはアリシアたちにそう言うと堂々と近づいていく。
「おい、お前! それ以上近づくんじゃねえ!」
と停止を求める声と同時に矢が飛んでくる。殺すつもり満々だ。
レイは飛んできた矢をつかみその場で興味なさそうに投げ捨てた。
「お前らは包囲されている。死にたくなければ投降しろ」
面倒くさそうなレイの姿に、見張りはムキにになったのか顔を真っ赤にして矢を放つ。
「てめえふざけんな! 死ね!」
矢がレイに向かい一直線に突き進む。
だがレイはまたもやひょいっと矢をつかみ、放り捨てる。
「はーい、みんな。後は頼んだ」
「はーい♪」
アリシアたちが出てくる。
「じゃあまずはオレが行くぜ! アースウェイブ!」
シルヴィアが地面に手をつくと、土が隆起し並のように盗賊のアジトに押し寄せる。
建物は土砂に流されつぶれていく。
あわてた盗賊たちが建物から出てくる。
「今度は私が行きますよー! 出でよソウルイーター。魂かじっちゃっていいよー♪」
まずはアーヤ。一瞬で魔方陣を展開し、そこから死神を召喚する。
死神は大鎌を手に盗賊たちに襲いかかる。
サクサクと斬られた盗賊たちは外傷こそまったくないが、青い顔をしてそのままその場に倒れた。
「よし次。マスター、私が行く」
「いやちょっと待って。もうやり過ぎだよね?」
「衛星からの超絶破壊光線」
レンが手をあげると空から「ズドドドド!」とあり得ない音を立て光線が降り注ぐ。
光線は周囲を焼き尽くしていく。それどころか光線によって山がえぐれていくのが見える。
土が舞い散ったりなどしない、全てが焼け消えていく。
「最後はわたしー!」
「もういいから! やめたげてー!」
「ブラックホール!」
調子に乗ったアリシアが戦略クラスの魔法を使う。
ぐにゃりと空間がゆがみ、周囲のものが吸い込まれていく。
レイたちの周囲だけエネルギーフィールドの防護壁が張られ、安全は守られている。
だが山への被害は甚大だ。山がどんどん消えていったのだ。
そして数分後……。
「えーっと、盗賊さんはどこだっけ?」
アリシアは目を点にする。だがレイと目を合わせようとしない。
「まったく根性がねえなあ」
シルヴィアも適当なことを口にする。だがレイと目を合わせようとしない。
「もー、みんな。自然を破壊しちゃダメですよ」
一番適切な魔法を使ったアーヤは少しだけドヤ顔をしている。
「マスター、おなかへった」
レンは平常運転だ。
そこはかつて山だったもの。
おそらく盗賊は消滅しているだろう。物理的に。
「あらら。レイ様、生命反応ありです。盗賊さんたちが生きているみたいです」
「どこにいるかわかるか?」
「この土の中……」
アーヤがだいぶえぐれた土砂を指さした。
「今すぐ掘り出してー! 死んじゃうからー!」
すぐにレンがゴーレムを召喚して発掘作業にあたる。
破壊したときよりも少し時間がかかったが盗賊は生きていた。
盗賊たちは子どもが乱暴に扱った人形みたいになっていたが……。
「ふう、ギルドに運ぶぞー」
「はーい!」
山を破壊し尽くしたレイたちは村を目指す。
盗賊たちは倒木で作った檻に閉じ込めて、レンのゴーレムで引きずって運んでいく。
盗賊たちは命に別状はないが、魂をかじられたせいで抵抗する様子はなかった。
ここまでは順調だったが『レウ』の街の前まで来ると衛兵に取り囲まれた。
建物ほどの大きなゴーレムが足音を立てながらやって来れば、警戒するのは当然と言えるだろう。
「お、お前ら、なにしに来た!」
完全に警戒モードである。
レイたちはぐるりと周囲を槍を持った衛兵に囲まれる。
「私たちはギルドから盗賊討伐の依頼を請け負った冒険者です。このゴーレムはうちの召喚術士の召喚獣です。そこの箱に盗賊を放り込んだので捕縛してください」
レイがそう言うと衛兵たちは、顔を見合わせてから檻を確認する。
檻の中には世にも悲惨な状態になった盗賊たちが放り込まれていた。
「しょ、承知した。ギルドに確認を取るのでここで待っていてくれ」
「かしこまりました。じゃあみんな少し待ってような」
「はーい♪」
待ち時間の間、アリシアは草むらで花を摘んで、シルヴィアはアリシアの摘んだ花で器用に花冠を作っていた。
アーヤは木陰で読書をして、レンはその側でレイからもらったパンを食べていた。
みんなの分の花冠ができたころ、ようやく衛兵がやってくる。
「確認できました。ギルドへ来てください……ってなんすかその花は……」
レイの頭にも花冠が乗っていたのだ。
「うちの子たちが作ってくれたんですよ」
そう答えるレイを衛兵はキツネに鼻をつままれたような顔で見ていた。
通されたギルドの応接室にはハゲ頭でヒゲの生えた屈強な男が待ち構えていた。
(着ている服が上質だ。責任者に違いない)
「おう、兄ちゃん嬢ちゃんそこに座れや」
男の口調は乱暴だが、不思議と悪い気分にはならない。
レイたちはソファーに座る。
「俺はギルドマスターのゴーバッシュだ。盗賊の討伐ご苦労だった。それで聞きたいんだが……山を消滅させたのはお前らか?」
「遺憾ながら盗賊の仕業ではないでしょうか? あ、紹介が遅れました。私はお嬢様方の守り役を務めさせていただいているレイと申します」
なんとなくそれっぽいことを言ってみただけである。
「盗賊の仕業ね……報告書にはそう言うことにしておく。貴族の嬢ちゃんたちかと思ったら、王国の新しい兵士ってとこか……」
これで公式には山の消滅は盗賊の仕業になった。
「そのように思っていただいて結構です」
まさか「魔王とその将軍たちです」とは言えない。
適当に返事をする。
「そうかい俺が悪かった。もう聞かねえよ。それで……あんたらは何しにここに来やがったんだ?」
「勇者の情報を得るためですよ。なんでも各地で無体なことをして回っているとか」
「……勇者ね。正直言ってあまり評判はよくねえ。あいつら接収どころか略奪してるらしいぞ」
「ところで勇者のお名前は?」
「知らんのか? ミヒャエルって男だ。この街にももうすぐ来るんじゃねえかな。頭が痛いぜ」
ゴーバッシュは心底疲れた顔をした。
レイはそれを見て愛想笑いをする。
「そうですか。では報酬などの話に移らせてもらいましょうか」
「おっとすまねえ。これが報酬だ」
ゴーバッシュは袋を三つ出す。
「その三つが金で、こっちの袋が宝石だ」
ゴーバッシュは宝石入った小さな袋を出す。
レイは銭貨の入った袋を一つだけ受け取り、他を返す。
「なんのつもりだ?」
「山を崩した迷惑料……には足りませんが、当面の補償として関係者に配ってください。山は後日こちらで直しておきますのでご安心を」
「お、おい、山を直すなんてそんなことできるのか?」
「我々のバックは国家……とだけ言っておきます。もしなにかあれば食料の支援なども可能でございます。遠慮なく仰ってください」
嘘は言ってない。国家である。ただし魔王領なだけだ。
「お、おう。なんか悪いな。でもあの山は地元のもんも近づかねえ。元に戻すだけでも充分すぎるぜ」
「ではその方向で、私どもはこれで失礼いたします」
レイは最後まで腰が低かった。
レイたちは外に出る。
もらった報酬の残りはアリシアたちのお小遣いになる予定だ。
帰り道でアリシアはレイの腕に抱きつく。
「ねえねえ、レイ。なんで勇者の話をすると怖い声になるの? ミヒャエルって人はレイになにをしたの?」
「あー……あのな。大人にはいろいろあるんだよ」
ごまかしてレイはアリシアの頭をなでる。
「いつでも言ってね」
「ありがとよ」
レイには秘密が多い。それでも魔王軍の四天王なのだ。
アリシアはレイを信じていた。