魔蟲
村人総出で慎重に探すとそれはいた……。
「あれは何ですか?」
「あれはトンボの幼体でヤゴです…トンボは幼体の時は水中で生活してエラ呼吸をするんです。食欲はとても旺盛で自分より大きな身体をした生き物でも補食するんです。」
目の前にいるヤゴは体長が1m半を超えており、水中の中だけでは食べる物が足りず、水辺に近付いた人や家畜を襲ったのだろう。
「あのアゴは成体のトンボ捕まえた事がある人なら想像して貰ったら分かると思うのですが、とても噛む力が強いんですよ…しかも、ヤゴの時にはあのアゴが伸びて噛みつき離れた場所の獲物を一瞬で捕らえます。」
「確かにトンボを捕まえたら噛まれた事がありますな…普通のサイズでもとても痛かったのを覚えています。」
村人はそう言って懐かしそうに田の上を飛ぶトンボをじっと眺める。子供の頃にでも捕って遊んだのだろう…マサルも虫取り網で捕まえたトンボが網に噛みつき、あまりのアゴの力の強さに噛み付いたアゴより首がもげた経験が何度もある。ちょっと生物的には欠陥じゃないかとも思うがそれほど深く強く噛みつくのだ。
「因みに、成体になると奴等は怖いぞ………トンボってのは成体になっても肉食なんだ。」
ぎょっとした様に馬鹿みたいにデカいヤゴを見る村人たち。
「しかもトンボは自分より小さな生き物は何でも餌と認識して食べる………しかも暴食なんだ。蜘蛛なんかは1度食べると暫く食べなくても良いけど、トンボはとにかく目に付いたら食べる…あれが成体になったら大変だぞ…。」
村人たちは完全に引いている…。
「しかし、あのサイズになると普通に攻撃しても剣や槍が通るか怪しいし、魔法でとなると田んぼに被害が出る………暫く様子見ようか?」
「そんなに危険なら早く倒した方が良いのでは?」
「噛まれたら一瞬で餌だよ?それでもやる?」
えっ?自分たちがやるの?とマサルを見る村人たち。
「まぁ、こういう生き物は弱点があるからそこを狙おう…近づかなければ安全だし、適当に遠くから監視して餌をやりながら脱皮するのを待とうじゃないか。あの様子ならもうすぐ脱皮するハズだよ。」
「しかし、トンボにさせる訳には!!」
「大丈夫大丈夫、俺に任せて見てなさいよ。って事で誰かコイツ見ててね♪絶対に顔の正面にはいかないでね?危ないから。」
ヤゴはアゴを伸ばして獲物を捕らえるが横には伸びないので、正面に立ったり、近づかなければ危険ではない。
「じゃあ、コイツの餌と皆のご飯になりそうな獲物探してきま〜す♪」
それから数日の間、マサルは村人たちと交代しながらヤゴの観察を続けた……5日目が経とうとした時、村人が慌てた様子でマサルを呼びに来る。
「大変です!ヤゴが脱皮を始めました!」
「よし、すぐ行く!」
マサルが現場に向かうと水から上がったヤゴは木にしがみつき、あまりの重さに木の根が剥がれ傾いていて、その上に乗っていた。
「もう少し太い木があるだろ…って言ってる場合じゃないな…みんな準備は出来てるかな?」
「出来てるよ!」
出てきたのは村の女たちだ。この数日で何とか飛ぶようになった弓矢をそれぞれ持っている。
「じゃあ、一斉に射ってやって下さい。」
マサルは色々と考えた結果、この巨大なヤゴを自分で倒すよりも村の女たちに倒させてレベルを上げ、村の人々の生存率を上げようと画策したのだ。
「脱皮中の虫程、狙い目の獲物はいないよなぁ…絶対反撃来ないし、柔らかいし……。」
次々と脱皮しようと出てきた白い身体に軽々と刺さる矢の数々……しかし、ヤゴは反応の仕様もなく矢が刺さるのを待つしか出来ない。…10分程が過ぎただろうか。
「死んだな………でもこれは結構グロいな…。」
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【ジゴクオニヤンマ】
魔獣化したオオオニヤンマ。成体になる事が出来ず矢が40本以上刺さって死んでいる。
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「やっぱり魔獣なのか……しかし、これは使えそうな素材は無いから焼却かな。」
スキルでヤゴが倒した木を完全に切り倒し、乾燥させて薪にして穴を掘ってから一緒に焼却する。
「一応、村人にとっては仇になるし、自分たちで倒せた事は意味ある事になるだろう……それにしても少し遅かったらコレが大空を席巻していたかと思うとヤバかったな……メイが俺に話を持って来させたのはファインプレイだったかもな。」
トンボ………あいつらめっちゃ喰うねん!
子供の頃、川で15cmくらいのフナ?コイ?みたいなの捕まえてバケツに入れてたら、一緒にヤゴが入ってた事がありました。
どうやってその魚倒したのか知りませんがヤゴが魚を食べてましたね…あれにはビックリでした。




