その夜
ホブゴブリンを轢き殺した夜、マサルは一言も喋らないアデリナに戦々恐々としながら夕食の準備をしていた。
「………アデリナさん?夕飯出来ましたけど。」
「……………………………。」
「まだ怒ってらっしゃる?」
「………もう怒ってないわよ。」
「………じゃあ、食べようよ。」
そう言って炭焼きの焼き鳥を火からあげていく。
「ねぇ、本当にマサルは国王やらないの?」
「んっ?やらないよ?」
「何でよ!こうして大きなチャンスがあれば成り上がろうと思うのが普通でしょ!?なんでマサルは何時だって何かを手に入れても簡単に手を離すの!」
何故か怒られてしまったが、マサルは所詮は日本のホームセンター勤務の小市民なので昇給したいも思った事はあるが、昇進したいと思った事もなければ成り上がろうと思った事すらない。むしろ、昇進と言われても残務処理に終われ遅くまで店に残って片付けをしていた上司の姿しか思い出せず、心の底からお断りと言うのがマサルの日常だった。
「何でって…面倒だし、事務仕事するより現場で動き回りたい人だし、生活には困らなそうだし。」
「………その面倒なのを人に押し付けようとしてるクセに…。」
「でもアデリナは今はどうか知らないけど、チャンスがあれば成り上がりたいって思ってた人でしょ?実際に街の運営任されて生き生きしてたしな。」
「それはそうだけど!」
「じゃあ、何が不満なんだよ?」
「わたしの力じゃない!わたしが本当に造ったとか、わたしが本当に一番信頼されて代表してる訳じゃないもの!本当に一番頼りにされているのは貴方で、一番上手くやれるのも貴方!わたし知ってるもの!」
今にも泣き出しそうな顔で威嚇する様に「うぅ〜っ!」と唸るアデリナの頭にそっと手を乗せて撫でてやる。
「アデリナは頑張ってるよ。それに頼りにされているのは俺じゃない、アデリナだ。…俺は頼りにされてるって言っても所詮は緊急事態要員さ…俺が目立つ時なんてのは多分皆が困っている瞬間だけなのさ。考えても見ろよ…俺の水準で常時、政治してみろよ…誰がついて来れる?間違いなくアデリナは結婚も出来ず仕事に追われるぞ?」
「結婚は………今もする相手がいないわよ……。」
「だいたい俺にこれ以上権力持たせたら他の国が息しなくなるだろうが。」
「確かに…マサルは補佐くらいで遊び回っているくらいが平和なのかも知れないわね。」
「そうそう、神様と交流あるヤツ止めるとか部下が苦労しそうだしな!」
ガハハと笑うマサルをジと目で見ながら焼き鳥を頬張るアデリナ。
「それだけは本気で勘弁して欲しいわ。」




