月夜の詩
「で…どうするんだよ…ついて来てるぞ。」
「…………………。」
毒で麻痺させて捕獲したピンクの身体に白き翼の生えた象の魔獣ピンファントの処分を検討した結果、誰も殺せとも殺すとも言わず解放する事となったのだが、暫くすると動ける様になったピンファントは必死な様子で追いかけてきて今は三輪戦車の後ろを嬉しそうについてきているのであった。
「迷子の魔獣を保護しています…どこかに保護者の方はいませんか〜?」
「「「「「「いねぇよ!」」」」」」
「……………………。」
「保護者は責任持って面倒見ろよ。」
「………はい。」
速度をあげても小休止に止まっても、夜にキャンプをしてもピンファントは逃げていかない。
「こいつ…まさか、本当に夢を食べてる訳じゃないよな?誰か…知るわけないか。」
マサルたちがワイワイと食事を行う中、ピンファントはマサルの身体に鼻を巻き付けたままウトウトしている。そこにクックが上機嫌に現れる。
「何か親に甘えているみたいにマサルにくっついてるな…こうやっていると魔獣といえど可愛いものだ。」
「こんな大きな子供はいらん!結婚もしてないし、いきなり子持ちなんかになってたまるか!」
「結婚………しないのか?」
「お前が言うな………弟に先を超されてる癖に。」
「おい、それは言わないお約束だぞ!」
「ふっ…俺も気が付いたら好きな女が他の男結婚して…それから他の世界をみようともせず1人でずっと腐っていたからクックの事は言えないんだけどな。」
「………どうした今日はヤケにしんみりしているな。」
「別にしんみりしてる訳じゃないさ…ただ今日は何だか月が綺麗だなって思っただけさ。」
「なんだそりゃ?…大丈夫なのか?無理はするんじゃないぞ?」
「あぁ、本当に何でもないよ。」
そう言い残し、ピンファントの鼻をそっとほどいたマサルは独り皆から離れて空を見上げる。
「月夜よし 夜よしと人に 告げやらば 来てふに似たり 待たずしもあらず………ふっ、らしくないな。」




