ポータリィム防衛戦 結末
「何か変な臭いがするけど大丈夫なのか?」
巣へと続く洞窟の入り口をふさいでいた岩をアイテムボックスへとしまうと入り口の周辺には30を超えるマダラグンタイバチが落ちていた。入り口付近にも煙の発生源があった為か多くの煙を吸ったここに落ちている蜂たちは完全に死に絶えていた。
「変な臭いは煙が少し残っているからかもね。身体には良くないから口元は布で覆った方が良いぞ?生きてるのはいるだろうから完全に換気はしきってないしな…回復しても困るし。」
そう言うマサルはギリースーツを着る時に顔を覆っていた目のところだけ穴の空いた目出し帽の様なマスクをかぶっている。念のためマスクの中には目の細かい布をフィルターにしたものが入っている…自分だけ用意周到だ。
ランスロットとクック小隊の面々も懐から治療用に持っていた布で顔を覆っていく。
「何だか山賊みたいだな…。」
というマサルの感想に、
「お前は暗殺者だけどな。」
とクックが返し、皆が同意する。
「で、何で1人でこんなところにまで来た?」
ランスロットの顔には明らかに「何でオレも連れていってくれなかったんだよ」と書いてあるがそこは無視して答える。
「何でって言われても俺はグレイタスの兵士でもなければ騎士でもないし、命令権がない代わりに命令される事もない。かといって1人で知らんと帰る訳にもいかないし、防衛戦って言って待ち続けても何日かかるか解らないだろ?なら自分から行けば良いじゃない!と閃いちゃったんだよね。」
「閃いちゃったんだよねって…言ってくれれば…。」
「大勢で来たら見付かるだろ?でも、言ったら1人で来させないだろ?」
「………うっ。」
世の中そんなものなのである。自分が興味があればどうしても待てない人種は存在するのである。
犬の待てより開き直る分だけ質が悪い。
「よし、進もう!煙の効果が切れるぞ!」
「………誤魔化した。」
「誤魔化したな。」
「誤魔化したッス。」
ピクリと反応して少し速足になって奥に進んでいくランスロットを皆で苦笑いしながらついていく。
「で、因みに蜂は全部殺すつもりなのか?」
マサルの意外な言葉に全員が再び足を止める。
「えっ?その為に来たんッスよね?」
「一体何を言ってんだ!?」
「…また頭痛がしてきた。」
「おいおい…ここの魔物は資源にならないのか?と聞いているだけなんだけど。」
それぞれ頭を抱える姿に返ってきた言葉に全員の動きが止まる。
「どういう事だ?ちゃんと説明しろ。」
「じゃあ、奥に歩きながら説明するぞ?………まず、街で記録を見たんだけどこの蜂たちは特殊な矢の材料になったりするんだろ?だから毎年街に被害が及ばない程度に間引きながら付き合っていく事は出来ないのかって言ってるんだけど。」
「しかし、魔物だぞ?」
「オオトカゲだって、風切りウズラだって、ツノ兎だって魔物だぜ?付き合い方さえ知っていれば街の資源になるんじゃないかと思ったんだが。」
「付き合い方か………この凶悪な魔物との付き合い方と言われてもな………。」
「やっぱりコイツらの習性を知らなかったんだな………結論から言うと条件次第ではコイツらは人は襲わないんだよ。こっちから手を出さない限りね。」
全員が驚愕に足を止めて顔を見合わせる中、マサルは完全に死んでいる蜂の魔物をアイテムボックスにしまっていく。
「コイツらを観察していてわかったんだけど、生きたまま獲物を運んでいくのは知っているだろ?」
「あぁ、だからこそ生きたまま餌として捕まる事で恐れられているんだ。」
「そうなんだ!コイツら凄く頭が良いんだよ!自分たちの運べる相手を選んで襲って餌として捕まえているんだよ。」
「………何が言いたい?」
「何でこの時期じゃないとこの魔物の被害がないと思う?」
「何でって………何でだ?そんな事考えても見なかったぞ。」
ニヤリとして転がる魔物に指を指す。
「さっきから数匹ずつで洞窟内に魔物が落ちているのは気付いたか?」
「………確かさっきは5匹でその前は3匹…その前は5匹ッス。」
指を折りながら記憶を確認するガイ。
「もう回りくどい言い方は止めてはっきり言おう。コイツらはそれがそれぞれ小隊なんだよ。つまり、この魔物は自分たちの運搬能力まで考えて獲物を選んで狩りをしているんだ。」
「つまり、大きな群は大きな獲物を狙うって事か?」
「あぁ、だから群全体が大きくなって小隊の単位が多くなってからじゃないと街が狙われる事がなかったんじゃないかと思っている。」
「………じゃあ、毎年街が襲われるのは………。」
「倒して小隊の維持が難しくなってから増えていく迄にだいたい1年かかるんだろう。」
「それが本当ならコイツらは…。」
「そう、増える前にこうやって巣を煙で燻して数を減らしてやればかなり安全に資源としながら付き合っていけるって事だ。」
今度こそ誰も声が出なかった。この危険な魔物を前に駆除ではなく共存の道を探していた事も、既にその道を構築してしまっている事も、何よりそうする事が当然として魔物と付き合っている事も誰も考える事すらなかった。
オオトカゲですら肉になるという意識がありながら増やそうとか保護しようなんて考えた事がなかった一行は自分たちが本気で何かを学ばなければならないと思わされたのである。
「本当に分蜂するなら奥にはまだ女王蜂が2匹いるハズなんだ。1匹は狩って周囲の世話係と働き蜂を少し残して今回は撤収だな。女王が2匹いなかった場合はただ群が大きくなって小隊の規模が大きくなっただけだな。」
結局のところ分蜂の兆しはなくマサルが舌打ちをする中、黙々と間引き作業を終了させ街に戻った。こうして街の資源が新たに増えたのである。
こんな風な結末に終わりました。
生き物や世界との付き合い方みたいなのを書いてみたんですがいかがでしたでしょうか?




