ポータリィム防衛戦3
『島に行ってきます、探さないで下さい。マサル』
防衛戦も5日目になり、連日の様に自分の執務室にきたランスロットが見たのはこの置き手紙だった。
「やっぱり行きやがったあの馬鹿っ、何で1人で動きやがるんだ!毒にやられたら命に関わるんだぞ…ウェイド!クック小隊を準備させろ!オレが連れて島に出る。マサルを連れ戻すぞ。」
「かしこまりました、すぐに準備させましょう。」
まさかの早朝からの呼び出しで魔物の巣に出陣を命じられ、ろくに朝食もとれないままで急かされながら準備する6名。
「これより貴様らはオレの指揮下に入る。目的は単独、島に潜入したマサルを連れ戻す事だ。可能なら臨機応変に魔物の巣や生態について確認してくる。貴様らは弓が全員使えると聞いている。ここにマサルが街に交易品として出した弓があるのでこちらを各自貸し出しするので使えるようなら使って構わん。トロント材にワームの弦の弓だ。精度、強さ共に一級品だ。」
全員が皮鎧に弓矢と短槍を持ち、ショートソードを腰にぶら下げたスタイルで統一され、森林でのゲリラ戦を意識している。ランスロットでさえ島迄の船上や森林戦で不利な愛用の大剣は置き、同じ装備を着けている。
「準備は出来たな、それではすぐに出陣する!遅れるとヤツは1人で祭を始めてしまうからな。」
ここで皆は悟ってしまった。
「「「「「「こいつ、一緒に暴れたいだけだ!!」」」」」」
しかし、上司に逆らえないのも騎士団の悲しい習性なのであった。
懸念していた船上での襲撃はなく無事に島に上陸すると辺りは驚くくらい静かで生き物の気配が全くしない。
「おかしいな…今日はまだ蜂すら見てないぞ。アイツ何をやらかした?」
ここ何日も日が昇り始めると同時に島から飛び立つ蜂の魔物の姿さえ見えない事でマサルが何やらしている事は既に明らかだ。
「とにかく、警戒はしながら先へ進むぞ。」
この小島には周囲に雑木林、中央に高さ100m程の岩山がある。身を隠す場所は多いが逆に奇襲される可能性も高い為に慎重に一行は岩山へと足を進める。
「何しに来たの?」
岩山まであと少しというところで突然に声をかけられて全員がとっさに臨戦体制になるが誰もいない。
「何処だ!?…マサルだよ…な?」
「何処だって…目の前にいるけど…。」
「目の前って…………っ!!マサルなのか?」
一行が見付けたのは枯れ木や木葉などを全身に纏った目だけがかろうじて見える人型の何か…完全に周りの雑木に溶け込んでいて、歩いたり動いたりしてないと見付けられないだろう。
「あぁ、俺だよ。ちょっと待ってくれよ…。」
身体を覆っていた物を脱ぎ、口元や頭を覆っていたマスクも外すとやっとマサルだと判別できて安心する一行。
「なんなんッスかコレ!?これ着て魔物の巣に入ってたんスか!?」
「これは凄いな…目の前にいるのに完全にわからなかったぞ…。」
ガイとバギーは目をキラキラさせながらマサルの脱いだスーツに目を奪われている。
「これはギリースーツと呼ばれる野外隠密用の装備で、動き回るには邪魔だけど偵察や奇襲には便利なアイテムだよ。ヤツ等蜂の魔物は目が良いから奇襲するには専用装備がいるかなって用意したんだ。」
ギリースーツとはスナイパー等が地形に溶け込む為に枝や木の葉、苔などを模して身を隠す為に羽織るスーツである。
「奇襲って…問題のヤツ等はどうした?まさか………もう全滅させてしまったんじゃないだろうな!」
「ランスロット司令、本音が漏れてますよ。」
溜め息をつきながらツッコむクック…。
「いや、巣に入るのはこれからだから手伝ってくれるなら助かるが…。」
「まだ見せ場はあるんだな!良かった…蜂の姿が見えなかったからもう全滅させたのかと思ったぞ。」
「…………………。」
意気揚々と岩山に向かうランスロットの背中から、そっと目を反らすマサル。
「ちょっと…マジッスか!?司令の見せ場は無しって事ッスか!」
「何っ!?」
勢いよく振り向きマサルに詰め寄るランスロット。
「何をやらかした?怒らないから言ってみろ?」
「いや………なんて言うか………岩山の中が洞窟になってて丸々巣になってるのが判明したから日が昇る前に入り口をふさいで中に大量の煙で燻してたんだ…。そろそろ全滅とはいかないだろうけど動ける個体はもういないと思うぞ?」
「…………どれくらい煙で燻してた?」
「もう4時間だから………騎士団の朝の会議が始まってから昼食くらいまでの時間かな?」
ランスロットは慌てて装備を担ぎ上げる。
「急いでいくぞ!このままじゃあオレの見せ場は完全になくなってしまうじゃないか!」
「今は中の換気中だから入ったら危ないぞ?」
「………危ないって、ただの煙じゃないな?」
「流石エルダム!火に入れると危ないって言われた毒茸や毒草を大量に使って燻したから中は多分凄い事になってたと思う。…大丈夫、それでも人が簡単に死ぬようなヤツじゃあない…と思う。」
「……………………。」
ランスロットは既に絶句である。
「………司令。全滅してないと良いですね。」
そんな言葉は耳に届いてないのであった。




