増援
ガラスが高い音を上げて割れ、病院の中の人々に降り注いだ。
全員が声を上げて、腕で体を守りうずくまった。
ユリアも例外ではなかった。
「何?」
ユリアはガラスの割れた原因を探るべく辺りを見回した。
ガラスの破片が突き刺さり、怪我をしている人が数人いた。
幸いにもユリアは入り口のところにいたのでガラスの破片を浴びることは無かった。
「きゃああああ!!」
突如、ナースの一人が叫び声をあげて、腰を抜かした。
その手はぶち破られたガラスの方を指差していた。
その方向を眼で追うとそこには、おぞましい怪物が存在していた。
形容すれば、コウモリのような翼、恐竜のそれを思わせる顔、長い首は蛇のようであり、その目は充血していおり、口から唾液がベトベトと垂れていた。
「まさか、未確認生命体?」
ユリアはそう推測した。いや、断定だ、この状況でそれ以外の生物だと言う人間がいるとすればそれは頭の中がメルヘンの塊で出来ている余程のロマンチストだろう。
しかし、目の前の生物はそんな伝説の中に出てくるそれにあまりに酷似していた。
冷静な視点から今の状況を洞察したユリアでも、一瞬そんなおとぎ話を信じたくなるような程にだ。
だが現実は伝説よりも残酷だ。次の瞬間、ものすごいスピードで飛来したそのドラゴンのような生物が一人の人間を捕らえた。ナースだ。
ナースは叫び声を上げる間もなくドラゴンのような生物から上半身を食いちぎられた。
あたりに、血液や、汚物が飛び散った。
その場にいた人間は叫び声をあげ、逃げ出した。
その間に、生物は啄ばむように口を動かし、大きな獲物をほおばっていた。
にげた人々は我先にと出口を目指すが、当然の事ながら出口は混雑し、それは人々が格好の標的になる事を意味していた。
ここは軍用の病院であるため、大多数が兵士であるはずなのだが、準備も何も無かったために、誰一人として、未確認生命体に挑もうとはしなかった。
ユリアもまた、逃げようとしたが、子供が二人、逃げ遅れているのを見て立ち止まった。
「なんでここに子供が?」
一人は男の子で、もう一人は女の子、容姿からして、二人は双子のようだ。
兄と思われる方が、妹と思われる女の子が泣いているのを手を取りながら励ましている。
ユリアは二人のもとに駆け寄り、女の子の空いている手を取り、避難させようと試みた。
しかし、次の瞬間ドラゴンの様な生物が、獲物の捕食を終え、次の獲物を捕らえるべくじっと動き回る人間達を観察しているのにユリアは気付いた。
そして、次は間違いなく自分達が狙われるであろうことも。
案の定、ドラゴンの様な生物の目にはユリアたちが映っていた。
ユリアは、二人を庇うようにして前に進み出て、目を閉じた。
鮮血が舞う。
悲鳴にもならない様な金切り声が上がった。
一瞬、ユリアは自分がその声を上げているのかと錯覚した。
しかし、違う。自分の体をゆっくり目を開けて見る、引き裂かれてなどいない、どころか健在だ。
後ろの子供達も無事なようだ。
「?」
恐る恐る前を向く。そこには、見慣れた後姿があった。
「士郎!」
ユリアは士郎の名前を叫んだ。だが、士郎は振り返らなかった。否、振り返ることが出来なかった。
敵はまだ、その活動を停止していない。
ユリアたちを襲いかけたワイバーンの死角に潜り込み、士郎は思いっきり鈍器のようなものを振り下ろしたのだ。
鈍器はワイバーンの首筋に当たり、ワイバーンはその為に苦痛の声を上げたのだ。
同時に、ワイバーンは士郎の存在を認識し、後ろに跳び下がった。
翼を何度も上下に動かしながら、ワイバーンは飛んでいる。
その風圧で、士郎の黒髪が何度もなびいた。
ワイバーンは怒りの形相で士郎を睨み付けた。食事を邪魔したか弱い人間を見下ろしていた。
士郎は鈍器を正面に構えて威嚇を行った。手にしている鈍器は金属で出来た窓枠だった。
ワイバーンが病院に突入した際、ガラスと一緒に外れていたのだ。
ワイバーンは士郎の威嚇には動じず、空を大きく旋回し、襲い掛かってきた。
士郎は突進してくるワイバーンの頭へ目掛けて、鈍器を振り回した。
ヒットした、だが、金属の棒はあっさり曲がってしまった。
首筋に比べて、頭はゴツゴツとした鱗に守られており、ずっと硬かったのだ。
「くっ!」
士郎は慌てて横に転がり、ワイバーンが繰り出してくる牙を避けた。
そして、折れ曲がった金属の棒を敵へ投げつけ、丸腰になった。
「来るなら来い!ユリアには指一本触れさせない!!」
士郎は叫んだ。ワイバーンはそれに答えるように投げつけられた物などものともせずに士郎にむけて空を滑空し、向かってきた。
次の瞬間、、バリィィィン!と再びガラスが割れる音がした。
ワイバーンは空中で動きを止め、音がした方へ体を向ける。士郎も音の方向へ意識を向けた。
そこには、セイファが立っていた。
右手には日本刀のようなものが握られている。
「いやあ、間に合ってよかったぜ、ねえ、隊長?」
その後ろから、ひょっこりとイグナが顔を出した。
そして、続いてサラも顔を出す。見知らぬ人間が数名がそれに続く。
「うん、いいんじゃないかな、イグナ、あの士郎って奴、改造受けてないのにあの身のこなし、
俺は、彼が入るのに賛成。」
見知らぬ数名のうち一人が呟いた。
「確かに、動きは一般兵にしては上等だけど、俺としては反対だ。まだアイツはそのレベルに達していない、サクヤ、買いかぶりすぎじゃないか?」
もう一人ぼやく。
「いや、あの動きならそこらの改造兵よりずっと使えるぜ、賛成に一票。」
「俺は、どっちでもいいにゃ~。」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないんじゃないの?」
残る数名もそれぞれ思い思いの言葉を口にする。
「え、えっと、わ、わたし、は士郎さんが入るのに、一票・・・です。」
サラもその中に加わった。
「おい!お前達、いいからアイツを仕留めろ!」
セイファはワイバーンを指差しながら怒鳴った。
「んじゃ、俺がやりますよ。」
イグナが前に進み出た、その手には身の丈ほどもある大剣が握られていた。
「あ~、ズルイズルイ。」
見知らぬ数名のうち一人、(少年と思われる。)が、ぶーぶー文句を言った。
「悪いな。ロト、俺の獲物だ、さあ、行くぜ!」




