ヨルムンガンド
今日、遂に士郎達の実戦の日が訪れた。
未確認生命体による被害が確認されている地域、アラスカはアメリカの最北端に位置する州で、アメリカの中では最大の面積を誇っている。
そんな州の上空に、いくつかの軍用ヘリが迫っていた。もちろんその中には士郎が搭乗しているものもある。エリアの軍用ヘリならば、アメリカの領空に入っても狙撃されることは無い。
エリアという国は、それだけの権限を持った国家なのである。
今回の目標は、内陸部に存在する北アメリカ最高峰であるデナリ山で目撃されている。
実際に、動物の数が減り、人間も多くその近くで行方不明になっているらしい。
目撃情報や、資料などから、敵は「ヨルムンガンド」である確率が高いと分析されている。
「ヨルムンガンド」、とは北欧神話の世界を覆うような巨体の大蛇の名を採ったものであり。
実際には世界を覆うほどの大きさは無いものの(当たり前だが。)その名に恥じぬ巨体を持つ未確認生命体「sin」の一種である。
「ヨルムンガンド、ですか。また大層な名前を付けますよね。
よりにもよって、神々に終焉をもたらした伝説の怪物の名前ですよ?」
士郎はヘリの中で、同僚のマックスにぼやいていた。
「まあ、あんまり気にすることなんて無いんじゃねえか?
まっ、俺様が野郎のどてっぱらに重い一撃を食らわせて、今夜は蛇のハンバーグをたらふく食わせてやるよ、シロー。」
「それって、アメリカンジョークって奴ですか?蛇のハンバーグだけは食べたくないんですけど。」
「もちろんジョークさ、初めての任務でガチガチになってるシローをリラックスさせてやろうと思ったんだ。」
マックスはガ八ハハと戦国武将のような馬鹿笑いをしながら士郎の背中をバシバシ叩いた。
士郎はむせ返り、ゴホゴホと堰をしてしまう。
「まあ、よ。」
と、マックスは不意に士郎の背中を叩くのをやめて、士郎の背中を今度はさすりながら神妙な面持ちになり、告げた。
「お互い、生きて帰れるように祈ろうぜ、シロー。」
「はい。」
その後も、マックスは周囲に笑いを振りまきながら、彼らを乗せたヘリはデナリ山付近に到達した。
―マックスとは結構仲が良かったんだ。
良く僕は、チビだのヒョロヒョロ、もやしっ子だのと馬鹿にされていたけど。ジョークの一環だっていう事は分かっていたから。
何よりマックスは面白い人だったし、同期の兵士の中では一番多く接した人だったから。
ヘリは、デナリ山中腹に士郎たちを降ろした。中腹での目撃証言がもっとも多かったのだ。
デナリ山中腹には、すでに雪が大分降り積もっており、所々が氷河のように切り立っていた。
「防寒用装備と、一応酸素ボンベを準備しろ、そこまで山頂に近づくことは無いが、念のためだ。」
隊長から指示が飛ぶ。士郎たちの所属する部隊は第十番小隊、おもに過酷な状況下で行われる任務を受け持っているので。そういった予備知識を徹底して叩き込まれた士郎達はすぐに準備を終えた。
「よし、では行くぞ。」
第十番小隊は、隊長の号令と共に進行を開始した。
その頃、禍々しい姿をした怪物はこれまでにない気配を感じ取っていた。
それが自分を脅かすモノであるとも、近寄らないほうが無難であることも怪物は本能的に理解していた。しかし、怪物は舌をチロチロと出して、シューッと息をならしながら。
じっと待ち構えた、招かれざる客人がこの地へやってくることを、体を動かすたびに、鱗と鱗が擦れあい、不快な音を鳴らし、その眼は妖しい光を放っていた。
その頃、禍々しい姿をした怪物はこれまでにない気配を感じ取っていた。
それが自分を脅かすモノであるとも、近寄らないほうが無難であることも怪物は本能的に理解していた。しかし、怪物は舌をチロチロと出して、シューッと息をならしながら。
じっと待ち構えた、招かれざる客人がこの地へやってくることを、体を動かすたびに、鱗と鱗が擦れあい、不快な音を鳴らし、その眼は妖しい光を放っていた。
高感度索敵センサー、エリアが作り出した未確認生物「sin」を探知するレーダーである。
形状は、携帯端末のような形状である。
未確認生物「sin」は、それぞれが微量の粒子をはなっている。
この粒子の存在を感知するのが索敵センサーだ。
この粒子の特性は、「sin」が活発に活動をすればするほど周囲に撒き散らされること。
さらに、この粒子は人体には影響が無いと言われているが粒子が放たれた場所付近で電波障害が起こり、電子機器の不具合が生じる。これは、索敵センサーも例外ではないのだが、電子機器が完璧に使えなくなるほど近づいた時点でもうすでに「sin」と戦闘が可能な状況になっている確率が高い。
その索敵センサーが、敵の居場所を完璧に捉えていた。
小隊のメンバーに緊張が走る。
小気味よい電子音が不吉な予感を感じさせたが、誰一人逃げるものは居なかった。
そして、直後不快な、金属が擦れるような音が小隊のメンバー達の耳に響いた。
警戒が高まり、全員が武器を手にとり全方位を庇うように動きながら来るべき敵からの襲撃に備えた。
「いたぞ!あそこだ。」
兵士の一人が叫んだ。一斉に兵士の一人が指差したほうへと射撃を放った。
ある弾丸は、目標の傍の雪に覆われた岩場に当たり、ある弾丸は目標にあたったがほぼ効果がなかった。弾丸は目標の硬い鱗に覆われた皮膚に当たり弾き返されたのだ。
「やはり、ヨルムンガンドか!」
誰かが叫んだ。
白い鱗に覆われた長い胴体、妖しい光を放つ両眼、見まごう事なき蛇の姿。
まちがいなく、それはヨルムンガンドだった。
ヨルムンガンドは、銃弾を避けることもせず、蛇腹を引きずりながら地面を蛇行して近づいてきた。
しばらく、ヨルムンガンドは銃弾を受けながら、自分に向かってくる生物を観察するようにしばらくじっとしていた。自分に向かってくる存在が珍しいとでも言うように。
そして、ヨルムンガンドは急に鎌首を持ち上げ、その鎌首を槌のように振り下ろした。
ヨルムンガンドの牙が地面にあたって、雪の下に埋もれていた岩を砕いた、否、切り裂いた、という方が正しい。運良く、兵士達には当たらなかった。
第十番小隊のメンバーは騒然とした。が、攻撃をを止めるわけにはいかない。
「グレネードランチャーだ、打ち方用意。」
隊長が指示し、二人の隊員が前に進み出てグレネードランチャーを構えた。
グレネードランチャーは、巨大な銃の先に、これまた巨大な弾丸を付けられたような兵器で。弾丸にロケット推進を導入しており、時にロケットランチャーとも言われる。
弾が大きいだけあって威力も高い。
そんな弾丸が二発、ヨルムンガンドの体に二発、もろに当たった。
手榴弾と同等の威力を誇る擲弾、それが轟音と共に破裂した。
火薬によって煙が立ち昇り、兵士達の視界をふさいだ。
「よし、やったか?」
誰かが、複数人が歓喜の声を上げる。
しかし、木っ端微塵になっていたはずの大蛇の姿は、変らずそこに存在していた。
戦慄が走る。
恐怖を振り切るように兵士達は先に剣の切っ先がついたライフルを乱射した。
大蛇はゆっくりと蛇行し、次の攻撃の構えを取った白い蛇腹が見え、鎌首が高く高く、持ち上げられた。
その瞬間、士郎は叫んだ。
「今です!蛇腹を狙ってください。」
士郎の叫びに応じて、兵士達の銃口が大蛇の丸見えになった蛇腹へ集中する。
大蛇の動きが一旦停止した。そして、大蛇の体が、左右に大きく揺れる。
更に無数の銃声は続く、この銃声は敵の動きが止まるまで鳴り止むことは無い。
大蛇は最後にシューッと舌を鳴らし、空を仰ぐかのように身をくねらせて倒れた。
大蛇の眼は硬く閉ざされ、ピクリとも動かない。
「やった、今度こそ。」
誰かがつぶやき、兵士達は肩を叩きあい、喜び合った。兵士達の勝利を疑うものはそこには居なかった。
だが、兵士達が喜び合っている最中、大蛇の眼はキッと見開かれた。
兵士達はそれに気付かない、いち早く士郎が気付き声を上げた。
鮮血が舞い、さっきまで他の兵士と奮闘を称え合っていた一人の体が引き裂かれた。
絶叫がこだまし、デナリ山の峰にむなしく響いた。




