挑発
事態は無事収拾した。後から来た増援によって、(実質イグナが一人で片付けたが。)
ガラスの破片などが散乱している病院の中で、士郎はひどい体の痛みに再び苛まれていた。
ただでさえ、体中の筋肉が断裂していたのに、無理な稼働を再び体に強いたからだ。
と、医者がもの凄く怒っていた。
「私はセイファ、改めてよろしく、一応、隊長を務めている。」
セイファがゴホンと咳払いをして、まず、簡単な自己紹介を終えた。
二回目の自己紹介だったので手短にしたのだった。
続いて、東洋人と思われる風貌の男が進み出た。
普通の軍服を着こなし、ピッシリときめた髪形は几帳面と言うよりどこかお坊ちゃまをイメージさせるものがあった。身長は、全員の中では割と小柄なほうだった。
「サクヤだ。よろしく、僕も君と同じ日本人だ。
僕は君の入隊を歓迎するよ。」
サクヤはツヤツヤとした笑顔で士郎と握手を交わそうとした。
が、鎖で縛り付けられている士郎の様子を見て思いとどまったようだ。
「テイルズだ、よろしく。」
無愛想な声で、もう一人が挨拶した。
テイルズは白人で、赤い髪に青い瞳、さらには顔の半分に燃えるような火のタトゥーが施されていた。
その目は鋭く、士郎を射るように睨み付けている。
「おいおい、テイルズ、一言で終わり?もっと何か無いのかよ、好きな食べ物とかさ。」
「そんな事はどうでもいいだろ、ビクター。」
身長180センチほどで、イグナよりは少し小さい、灰色の眼をしており、割と筋肉質な男が無愛想なまでに無口に自己紹介を終えたテイルズをたしなめた。
「よろしく、ビクターだ。ビックと呼んでくれ。」
ビクターもまた簡単に自己紹介をし、士郎も返答を返した。
「おれはノア、よろしくニャ~。」
ビクターの自己紹介が済むとすぐに、けったいな語尾の男の声が聞こえた。
「にゃ~?」
思わず士郎はその語尾をリピートしてしまった。
「ああ、気にしないでくれよ俺改造細胞を埋め込まれたときからこの語尾から抜けられなくなっちったんだニャ~。」
声の主は、頭に巻いたバンダナが特徴的で、茶髪にピアス、無造作に着こなされた軍服、(具体的には首の辺りのボタンをはずして、袖をまくっている。)そんな人物だった。
「ええと、イグナとサラはもう紹介がすんでるから、僕が最後だね。
僕はロト、僕より年下が入るなんて嬉しいな、僕のことはロト様って呼ぶといいよ。」
この中では最年少と思われる少年が前に進み出て言った。
身長は大体士郎と同じ位、白人の少年で、赤い頬が特徴的だ。
だが、それよりも印象深いのは、何といってもその自信に満ち溢れた眼だった。
「おい、士郎は16歳だぞ?おまえ14。」
イグナは自信満々で構えていたロトに突っ込んだ。
「うそ?そうか、東洋人はこっちの人種に比べて発育が遅いんだっけ、
でも、実力的には僕の方が上なんだから当然僕のことは尊敬すべきだよね?」
「そういうのやめたほうがいいと思うわ、ロト。それに、13才よ私、私のこともそうやって見てたの?」
「な、な、な、サラ、違うんだよ?別に今の冗談だから。
そんな、君を見下すなんてそんな分けないじゃないか。」
元々赤い頬をさらに赤くしながらロトは弁解した。
そんなロトをサラはジトッとした眼で見ている。
(ご覧の通り、ロト君はサラにお熱なんだよ。)
(なるほど。)
サクヤが小声で士郎に囁き士郎もそれに答えた。そして、サクヤは付け加える、イグナには内緒だよ、と。
こうしてみると、軍の関係者とは思えない立ち居振る舞いばかりで、アクの強いメンバーばかりだ。
と、士郎は思った。
そんな中、セイファが二度目の咳払いをした。すると、今まで思い思いに雑談を交わしていたメンバーが全員静まり返った。
「よし、本題に入ろう、私は神谷士郎の第一小隊への入隊の件でここに来た。
そこで、全員に自己紹介をしてもらい、我が隊の雰囲気を大体分かってもらったと思う。
そして、我が小隊のメンバーにも、神谷士郎の能力が分かってもらえたと思う。
私は神谷士郎が私たちの任務を受けるに相応しいと判断した。
異論のあるものはいるか?」
セイファは病室を見回した。すると、テイルズが手を上げた。
「隊長、俺は彼がそのレベルに達しているとは思えません、確かに彼の能力は、かなりのものだとは思いましたが、それはあくまで一般兵としてであり、俺達改造兵のそれよりはずっと劣っています。」
「彼が、ヨルムンガンドをほぼ単独で倒したとしてもか?」
「ヨルムンガンドを?まさか。」
テイルズはセイファの言葉を受け止め、信じられない、という表情をした。
「本当だ、私も直接見たわけではないがね。」
「っ、そうだとしても、彼はその戦いでこの重傷を負ったんでしょう?
戦いの度にこれでは使い物にはなりません、第一彼は改造兵ではない、第一小隊は改造兵だけで構成された戦闘集団です!それ以外が入っていいわけがない。」
「私たちも怪我はたまにはするさ、その度に戦えないのでは意味が無いから我々全員を解雇するのか?それに、第一小隊は改造兵だけで構成される小隊ではない。第一線で戦うことの出来る兵隊を集めた小隊だ。彼が改造兵であろうとなかろうと、能力が高ければ採用されて当たり前だ。」
セイファの言葉に、テイルズはしばし黙り込んだ、周りも固唾をのんで見守っている。
が、一番緊張していたのは士郎だ。なんだか知らないうちに話がどんどん進んでいっている気がする。
別に士郎は第一小隊に入りたいわけではない、もちろん、イグナのいる第一小隊は士郎にとってみれば魅力的だ。
それでも、第一線で戦うことになれば死亡確率は高まることになるだろう。
士郎が契約したのは一年間の兵役だ。あと十ヶ月ほどの期間があるわけだが、それを第一線で過ごすというのは士郎としては恐ろしかった。
そう思っている士郎をおいて、テイルズはさらにヒートアップしていた。
一般兵ごときが、とか、改造兵としての誇りは、差別的なワードが含まれている言葉を発している。
「一般兵など、入隊させても犬死させるだけです!」
ついに、大声でテイルズはさけんだ。
―犬死って言葉が、何となく僕の心に刺さった。
マックスさんや、他の人の事を言われているみたいで、僕は無性に腹がたった。
次の瞬間には僕はこう言っていた。
「テイルズさん、僕と勝負しませんか?」




