13.
「いいか、右ロッドがそのまま右腕、左ロッドが左腕!」
「う、うん!」
「そして下のペダルは、右が前進、左が制止だ!」
そうしてついに開始された、昼間の荒野における決闘。それはまさに緊急かつ事細かなレクチャー付きの、大事な第一戦というやつだった。
「グオオウ!」
むろんコクピット内には、先程からずっと獣の耳をつんざくような雄叫びが響き渡っている。どうやら外の音を、分厚い壁(装甲)を隔ててもそのままキャッチできる何らかの精巧な仕組みがあるらしい。よってモニターの画と合わせることによってまさに臨場感抜群、自分が生身でベヒーモスと対峙しているとさえ思うこと可能なのだった。
「と、とにかく攻撃しないと!」
ゆえにかえって、その迫力でアリソンを慌てさせたくらい。こんな巨獣とまともに正面から戦っている、と。
つまりはそれ程までに、現状は信じ難いまでの緊迫感に包まれたものだったのであり。
「慌てるな! まずは防御に徹して、そして相手の隙を狙うんだ!」
「え、でも――」
「君が初心者だということを忘れるな! 今はアウゴエイデスを上手く動かすことに専念しろ!」
――従っていくらリロイが口を酸っぱくそう忠告してきても、今の少女にはなかなかおいそれと従うこと、叶わなかったのは必定。
「わ、分かっているけど!」
何より、そうしている間も獣が次々と嚙みつかんとしつこく攻撃掛けてきた以上。
そうして結局、その口からは惑乱した声しか出すこと適わず。
「グガア!」
「!」
しかも牙を剥いて大口開けた相手のこと、しかと目にしてしまえばなおさら。まさしくその巨体ごと、再びまともにぶつかって来ようとする。
「キャアアア!」
それゆえその途轍もない威圧感に少女は思わず絹を裂くような悲鳴、響かせてしまったものの。――同時に左右にある操縦桿、とにかくやたらめったら無茶苦茶に動かしながら。
「おい、落ち着けって!」
そう、リロイが慌てて制止してきても、まるで耳にすら届かず。
ただひたすら、恐怖心に導かれるまま。
しかもその声聞きつけでもしたか、モニターの中ベヒーモスの様相は途端甚だしく危険なものへと化して。
すなわち傍から見てもそれと分かる取り乱し方示し始めた巨人見て、ついに小手先ではない第二の、さらに渾身の一撃見舞おうと決断したらしく、
ぐぐっと、その全身の力、一挙に漲らせ……。
戦闘にこそまことふさわしい、いつしか嵐の如き荒々しき空気が辺りを完全に包んでいた中。
まさしく血の雨が降るとばかりに。
今にも爆発しそうな雰囲気、そこへと大いに籠め。
「グオオオ!」
そして焦眉の的たるベヒーモスは刹那雷鳴の如き怒号、発するや、
「来る?!」
少女がハッと気づいたのとほぼ同時に、
むろん一息に勝負着けんがため、次の瞬間情け容赦もなく腕振り回し続ける巨人へ向かって猛突進、掛けていたのであり――。
「!」
ゆえにそんな彼は猛スピードで懐に接近、今まさしく敵の胸元へ喰らいつかんとしたその刹那、――だが突如として頭に想像を絶するレベルの衝撃、覚えると、
「ギャアアア!」
次には凄まじき絶叫、周囲へ解き放っていたのだった。
◇
次の瞬間――。
「ギャアアア!」
アウゴエイデスの完璧な右ストレートがベヒーモスの頭に直撃するとともに、もの凄い絶叫が放たれていた。
一度目の突撃がまるで相手に効かなかったことに業を煮やした獣による、再度、しかし今度はさらなる力こめて放った攻撃がついに当たるかと思われた、しかしその寸前のことである。
「うおお、凄え!」
すなわち、地上から見ていたガルフですら途端驚愕の叫び上げたほどの、ただ振り回していた中の一発という偶然の賜物とはいえ、実に素晴らしいカウンター。恐らく相手には、それゆえ避ける術などまるでなかったはずの。
つまりは直後一瞬にして、その巨体は哀れ大地へ崩れ落ちていったわけであり。
何ら、なす術なく。
一気に失神状態へと陥って。
そうしてしばし、もうもうと巨獣の立てた砂埃が周囲に充満していき――。
「……確かに動きはてんででたらめだったが、しかしあの拳だけは正確だったな」
「うん。……これぞビギナーズラック、てやつ?」
「何でもいい、勝ったんだから!」
次第に傾いてきた、陽光の下。
……アリソン・クーデリウスの新たな門出を、天から祝福しているかのような。
「アリソン、やったな……」
「やっぱり、アリソンさんは選ばれた人だったんですね」
むろんかくてその光景は黒衣の青年と自動人形のティコまでをも含め、皆に一斉に喜びの声、上げさせていたのだ。
「アウゴエイデスの力も、昔と全然変わらないようだし」
「ああ。巨人戦役の時のままだ」
何よりファムとガルフが感慨深げに言ったように、美しく輝く巨人の勇姿、改めて見てしまったとすれば。それはまさしく、太古の人々が崇めた神々の、その完全なる一柱のようで。
どこまでも燦然と。
「やっぱ強えな」
日光、浴びつつ。
一斉に、活気溢れた空気漂わせるに充分だったほど。
つまりはそれくらい、アリソンの成し遂げたのは途轍もない偉業以外の何物でもなく。
「……昔と変わらない、か。だが」
従ってその時ロランがふと零したいかにも懸念ありげな呟きも、今は風に吹かれてすぐ儚く消え去っていき。
いかにも前途洋々と。
「よし、これでソーサリスとも……!」
「戦うこと、できるか」
――結局代わりにどこまでも勝利の予感で満ちた声が、一行の口からは次々放たれていくのみなのだった。




