2.
そこはどこまでも薄暗く、そして静けさに支配された部屋だった。
むろんランプ一つ置いてはおらず、窓も一つたりと開けられていない。
従ってそんな空間の中、一人小さな卓を前にして椅子に座していたその人影は、まるで亡霊の如く朧に映っていたはずで。
「……」
そう、沈黙と、そして何より強く研ぎ澄まされた念を、供として。
ひたすら、卓上に置かれた物体をじっと見つめながら。
まるで何かが起きるのを、ずっとそこで待ち構えていたかのように。
――息遣いすら、まったく洩らすことなく。
暗鬱と。
寂寥と。
すなわち、それは余りにも暗がりに染まり切った状態。
全き、闇との一体化。
もちろん誰一人として、その世界侵すこと適わない。
まさしくこの者だけの、絶対的不可侵領域……。
「!」
だが、そうしたどこまでも昏く張り詰めた空気が流れていたゆえに、だろう。
「来た……」
はたして次の瞬間、その眼前の物体――透明な水晶玉に突如蛍の光にも似た仄かな輝きが灯り出すと、たちまちそれにぼんやり照らされたまだ幼い少女の顔は、
「やはり」
時機が来たとばかりに冷たく、かつ忌々しげにそんな一言、零していたのだった。
「予知した通り、侵入者か」
しかも、纏わりつくような暗がりの中、さらに黒いその瞳を奇妙なまでに瞬かせて。
決して、狙った獲物は逃さない、と。
……たとえそれが、どんな恐るべき相手であっても。
「ふん、命知らずな」
何より、彼の不届き者はこの自らの領域で必ず戦わなければならないのだから。
余りにも不幸なことに。
もちろんどこへも逃げる場所など、ないまま。
つまりはそこにあるのが、永遠に途切れぬ、果てしない悪夢だけであった以上――。
あれは一体、何者なのか。
どの国からやって来た者たちなのか。
そして何よりも、あの方とは何か関係があるのか。
いずれにせよ、水晶玉見つめながらそんな問いがふと脳裡へ浮かんだ中。
余りにも胸苦しい。
(――まあいい、全員ことごとく片づければいいだけのこと)
同時に心の中では、そんな強がりめいた独白が冷ややかに洩れてさえいる。
すなわちこれまでも、侵入者相手にはずっとそうしてきたように。
累々たる屍の山、この館の中に高く積み上げて。
自分の世界を、そして愛をどうあっても守るため。
その度に、恐怖に満ちた叫び、飽きるほど耳へしつつ。
地獄の光景にも似た。
むろん本物の地獄があるのかは、自分には知るよしもなかったが。
「ム……」
そうして警戒心に満ち満ちた監視は終わることなく続き、そしてそんな主に応えるように水晶玉が変わらず一つだけ輝きを見せていた、その時、
その中の映像、この館へ向かってくる六人の不審者を、油断なくじっと凝視しながら。
「フフ、そんな大勢で……。さあ、死にたいなら来るがいい」
その暗がり纏った少女は水晶のそれに負けぬくらいの、ただし実に妖しい輝き、その瞳にふと灯すと、
「ここはお前たちの、墓場なのだから」
……最後に不気味なまでに冷たい笑み、その口許へうっすらと零していたのである。




