最終話 銀河の夜明け、そして永遠の溺愛
小鳥のさえずりと、柔らかな日差しが私を覚醒させた。
まどろみの中で身じろぎすると、背後から温かい腕に抱き締められていることに気づく。
「……おはよう、私の聖女」
耳元で、甘く低い声が響いた。
振り返ると、そこには以前よりも血色が良く、憑き物が落ちたように晴れやかな表情のゼノン様がいた。
彼は愛おしそうに私の髪を指で梳き、頬に口付ける。
「ゼノン様……お体の具合は?」
私は慌てて布団をめくり、彼の胸元を確認した。
昨夜まで彼の心臓を蝕んでいた、あの禍々しい銀色の結晶。
それは跡形もなく消え去り、そこには鍛え上げられた健康的な肌だけがあった。
「……ない。本当に、消えているわ」
「ああ。体も軽い。まるで生まれ変わったようだ」
ゼノン様は私の手を取り、自身の胸――心臓の上へと導いた。
トクン、トクンと、力強く脈打つ鼓動が伝わってくる。
それは死へのカウントダウンではなく、生を謳歌するリズムだった。
「君が救ってくれたんだ。私の命も、心も、全て」
「私は……ただ、あなたと共に生きたかっただけです」
「シエラ」
ゼノン様が私を強く抱き寄せる。
肌の温もりが心地よくて、私は彼の胸に顔を埋めた。
「愛している。……もう二度と、この腕から離さない」
「はい。私も……愛しています」
二人の唇が重なる。
昨夜のような切迫したものではなく、互いの存在を慈しむような、とろけるように甘い口付け。
幸福感で胸がいっぱいになり、私はふにゃりと笑みをこぼした。
「……今日は、このまま一日中ベッドにいたいな」
「だ、ダメですよ! 皆様が心配されていますし、陛下へのご報告も……」
「兄上なら、きっと察してくれているさ。『弟の初夜を邪魔するほど野暮ではない』とな」
ゼノン様は悪戯っぽく笑い、私の首筋に顔を埋めた。
その時だった。
コンコンコン。
「閣下、シエラ様。そろそろ起きないと、日が暮れますよ」
扉の向こうから、呆れたようなアルヴィス様の声が聞こえてきた。
「……チッ」
ゼノン様が本気で舌打ちをした。
あの冷徹大公が、こんなに子供っぽい反応をするなんて。
私は思わず吹き出してしまった。
◇
それから数日後。
王宮の謁見の間にて、伯爵家への最終的な裁きが言い渡された。
伯爵夫人は王族殺害未遂(大公への呪詛放置および暗殺教唆)の罪で、北方の極寒の地にある修道院へ永久幽閉。
伯爵は監督責任と公金横領の罪で爵位剥奪、全財産没収の上、国外追放。
シエラを虐げてきた家門は、歴史からその名を消した。
そして――。
「アストレ大公妃シエラ。その功績を称え、ここに『星の聖女』の称号を授ける」
玉座のレグルス陛下が高らかに宣言すると、広間に集まった貴族たちから割れんばかりの拍手が湧き起こった。
私の隣には、誇らしげに微笑むゼノン様と、立派な魔導師のローブ(子供用)を纏った弟のレオがいる。
「お姉ちゃん、すごい! 本物の聖女様だ!」
「ふふ、ありがとうレオ。……でも、私はただの薬師で、ゼノン様の妻よ」
私が照れくさそうに言うと、ゼノン様が私の腰を抱き寄せた。
公衆の面前だというのに、隠そうともしない独占欲。
「ああ、その通りだ。彼女は国を救った聖女だが、何よりもまず、私の最愛の妻だ。……誰にも渡すつもりはない」
キャーッ、と貴族の令嬢たちが頬を染め、アルヴィス様が天を仰ぐ。
私は顔から火が出るほど恥ずかしかったけれど、それ以上に幸せだった。
◇
大公邸のバルコニー。
かつて、ゼノン様が一人で死の恐怖に耐えていたその場所で、今は二人並んで夜空を見上げている。
「綺麗な星ですね」
「ああ。……だが、私にとっては君の方が眩しい」
「もう、ゼノン様ったら」
彼が私の手に口付ける。
その薬指には、大公印と同じ黄金で作られた指輪が輝いていた。
かつては「囮」として逃げ回り、死を覚悟した夜もあった。
けれど今は、この腕の中に確かな温もりがある。
「シエラ。これからもずっと、私の傍で笑っていてくれ」
「はい。約束します、あなたを一生、癒やし続けます」
月明かりの下、私たちは誓いのキスを交わした。
銀河の夜明けと共に始まった、私たちの「永遠の溺愛」の物語は、ここからが本番なのだから。
(Fin)
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