↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第3章 学生魔導隊合同演習

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
66/66

第3章:第15話『纏魔の装vs魔装顕現体』

 魔力によって生物等を模した像を作り出し、それを自在に使役する魔導、魔装顕現体(まそうけんげんたい)。近衛(このえ)秀作(しゅうさく)が使役する二体の顕現体、白童(はくどう)と黒童(こくどう)。和風の鎧に身を包んだ、鎧武者に似た姿をした純白と漆黒の巨躯。一見すると鈍重にも見えるが、背面からジェット噴射のように魔力を放出し、高速で移動していた。


「前から思ってたけど、なんかロボットみたいよね、これ」


 白童(はくどう)に担がれている吉原(よしわら)紗代(さよ)が、同じく黒童(こくどう)に担がれた秀作に声をかけた。


「そこから着想を得たところもある」


「そうだったんだ! 確かに昔からロボット好きだもんね」


 幼馴染である紗代と秀作。紗代は昔の事を思い返しながら微笑む。魔導士の家系に生まれ、幼い頃から魔導士としての英才教育を施されて来た秀作だが、人並みにそういう物も好きだった。実は今でもロボットアニメを愛好している。魔導の鍛錬に追われる日々の中で、家で気軽に楽しめるささやかな息抜きだったと、以前秀作から聞いた事がある。


「男は皆、ロボットが好きだ」


「ふふ、そうでした。それにしても、神楽(かぐら)君はぴったりついて来てるね」


 誠奈人(まなと)は魔力で作り出した刀に風の魔導を纏わせ、突風を後方に噴出し、高速で移動している。秀作たちの少し後方に位置しており、一定の距離を保っていた。


「これはお互いに魔力の消費が激しいが…それでも止めた途端に引き離される。ゴールまで根比べだな」


 程なくして、周囲に聳え立っていた瓦礫やコンクリート壁といった遮蔽物がなくなり、開けた場所に出た。前方には50メートル程先に三木(みき)、高杉(たかすぎ)の両隊長の姿が見える。二人の足元には、赤い小さな旗が立っていた。これを先に取ったチームが勝者となる。


「ゴールが見えたぞ。神楽が仕掛けてくるやもしれん」


「了解。ケリをつけよう! 」


 二人が話し終えた瞬間、二、三メートル程離れていた両者の間を、一陣の風が吹き抜けた。そして、莉央奈を背負った誠奈人が一瞬にして二人の前に出る。空中で振り返った誠奈人の双眸が秀作と紗代の姿を捉える。その顔にはニヤリと勝気な笑みを浮かべていた。


「纏風刀(てんふうとう)―翠嵐刃(すいらんじん)! 」


 誠奈人が吹き荒れる風を纏った直刀を振り抜くと、解き放たれた風が空を裂き、かまいたちとなって秀作と紗代に襲い掛かった。二人を抱えている白童(はくどう)と黒童(こくどう)は身を挺して防御する。一方の誠奈人達は後方に放ったその攻撃の反動で、更に前方へ飛んだ。一瞬の隙をついた速攻で一気に勝負をかける…誠奈人の作戦どおりだった。ここまでは。


「―黒陰大砲(こくいんたいほう)」


 風の刃を防ぎ切った秀作はすぐさま反撃に転じた。黒一色の鎧武者のような姿をした黒童(こくどう)。その顔にあたる部分が、口を開くように裂けた。黒童(こくどう)の巨躯を構成する魔力が開口部に収束していき、一気に解き放たれる。一筋の閃光が走り、誠奈人にぶつかろうとした瞬間、ぼんやりと発行する透明な壁が現れて秀作の攻撃を阻んだ。壁は一瞬で粉々に砕けたが、黒童の砲撃を僅かに逸らして、誠奈人達を守った。


「いいぞ、莉央奈っ! 」


 何が起きたか真っ先に気付いた誠奈人が、歓喜の声を上げる。結界魔導の派生技、魔力障壁。莉央奈が律華(りっか)から教わった、守るための魔導。誠奈人に抱えられた莉央奈がとっさに障壁を形成し、誠奈人を守っていた。


「不完全ながら今のを防ぐか…評価を改めよう。実(みのり)莉央奈(りおな)」


 秀作は素直に賞賛したが、その表情に焦りは無い。


「だが、体勢を崩せれば十分」


 秀作は黒童(こくどう)の肩を蹴って前方に跳び、誠奈人の頭上に覆い被さるような体勢になった。右手を伸ばし、掌に魔力を集中させて、魔力弾を放とうとした瞬間…その掌に誠奈人の手が押し当てられた。パン! と拍手のような音がした次の瞬間には、誠奈人の手にも魔力が収束し、淡い光を放っていた。


「返す! 」


「く…舐めるなよ! 」


 誠奈人の狙いに気付いた秀作は思わず顔をひきつらせたが、ここで攻撃をやめては一方的にやられるだけだと分かっていた。誠奈人と秀作は押し当てられた掌から、互いに魔力弾を発射した。密着した状態から放たれた互いの魔力が押し合い、閃光と共に強い衝撃を発生させた。その余波を受けて、その場にいた四人全員が吹き飛ばされる。秀作と紗代は受け身を取り、すぐさま立ち上がる。誠奈人は莉央奈が吹き飛ばされないようにがっしりと抱えたまま、背中から地面に落ちた。腕の中に抱えた莉央奈はしっかりと守り切った。


「だ、大丈夫? 誠奈人くん! 」


「なんともない。そっちこそ怪我は無いか」


「うん、大丈夫。ありがとう」


 お互いの無事を確認し、誠奈人と莉央奈も立ち上がった。目的の旗まではまだ少し距離がある。


「このまま競争でも良いけど、決着つけた方が良さそうだ」


「そのようだな」


 誠奈人と秀作は目線を交錯させながら、互いの意志を確認する。ここからは競争ではなく、勝った方が先へ進む、シンプルな戦い。


「男の子は熱いわねぇ。りおちゃん、私達は仲良くしてよっか? 」


「う、で、でも…わたしも頑張らないといけません! 」


「あらあら、頑張り屋さん。それじゃあお姉さんもそれに応えないとね」


 紗代は優しく微笑んだ後、真剣な表情になった。


「さっきみたいに、頼んだぞ莉央奈」


「うん! 頼んでくれてありがとう、誠奈人くん」


 自ずと誠奈人と秀作が前衛、莉央奈と紗代が後衛の形となる。誠奈人はいつもどおり、魔力で生成した直刀を構えて臨戦体勢に入った。一方、秀作は消耗した黒童(こくどう)を魔力に還元して体内に回収した。残る白童(はくどう)を前面に立たせる。


(ここに来るまでに結構な魔力を消費した。二体を維持しての戦闘は魔力切れを極端に早める…白童(はくどう)と俺自身で戦うのがいいだろう。そして、魔力を消耗しているのは神楽(かぐら)も同じだ)


「行くぞ! 」


 秀作が先陣を切り、白童(はくどう)をけしかけた。魔力を噴射して地面を滑るように移動し、その拳を振るう。誠奈人は刀を横に薙ぎ払い、白童(はくどう)の拳を正面から弾き飛ばした。更に袈裟斬り、胴、切り上げ、と連続で斬撃を放つ。誠奈人よりも一回り大きい白童(はくどう)だが、耐え切れずに体が傾いた。誠奈人は追撃を狙ったが、向かって左側の視界の外から秀作の回し蹴りが飛んで来た。ガードが間に合わず、誠奈人の左脇腹に秀作の右足が突き刺さった。誠奈人は横に体勢を崩し、白童(はくどう)がお返しとばかりに手刀で誠奈人を追撃する。誠奈人は瞬時に体勢を立て直し、刀で白童の手刀を防いだ。その隙に秀作は魔力弾を放っており、誠奈人の頬を掠めた。誠奈人が瞬時に体勢を立て直さなければ、直撃していた位置だった。


(本体と顕現体による波状攻撃…シンプルだが強い)


 秀作と白童(はくどう)の攻撃は更に続く。誠奈人は白童(はくどう)の鋭い手刀を刀で受け止めながら、合間に飛んで来る秀作の魔力弾と打撃を避ける。


「よく耐える…だが、いつまで保つかな」


 秀作は攻撃のスピードを上げる。白童(はくどう)もその巨躯に見合わぬ身軽さで格闘を仕掛けてくる。手刀に加え、指を伸ばした鋭い貫手(ぬきて)で誠奈人を攻め立てていく。魔力の鎧で固めたその突きは真剣と見紛うような鋭さで、誠奈人の刀と交錯した際に金属音に似た鋭い音を発した。一進一退の攻防が暫く続いた後、不意に誠奈人の動きが止まった。誠奈人自身驚いた表情をしており、それが意図した物ではない事が伝わってくる。


(右腕が動かない…しまった! )


 自身の動きを止めるものの正体にすぐに気付いたが、その時には既に白童(はくどう)の貫手が誠奈人に襲い掛かろうとしていた。その鋭い指先が誠奈人の目前まで迫ったところで、その攻撃は再び透明な壁に阻まれた。莉央奈の魔導障壁は、白童(はくどう)の攻撃をしっかりと受け止めていた。誠奈人は思わず笑みが溢れ、自由な左腕で、自身の左腕付近に魔力弾を放った。


「きゃっ! 痛いじゃない、もう」


 衝突音と共に、紗代が急に姿を現した。


「隠密魔導…魔力で光を屈折させて姿を隠す…だったかな。近衛(このえ)先輩の方に手一杯で、我ながら迂闊でした」


「うふふ。りおちゃんに感謝しないとね。シュウちゃん達に気を取られてる隙を狙ったつもりだったんだけど、よく見てたわね。えらいぞっ」


「えへへ、ありがとうございます」


 莉央奈ははにかみながら後頭部をぽりぽりと掻く。


「莉央奈、助かった。お前はとっくに、信頼できる仲間だよ」


 誠奈人の言葉に莉央奈は顔を赤くしながら、満面の笑みを浮かべる。自分の力が誠奈人の助けになれている事が嬉しかった。誠奈人は秀作と紗代への警戒を怠らない為に前を向きながら喋ったが、面と向かって言うのが照れ臭かったからでもある。


「あ、神楽君もちょっと赤くなってる。りおちゃん! ちょっと照れ臭いみたいよ! 可愛いね! 」


 紗代に見透かされ、鳩が豆鉄砲を食らったように驚く誠奈人。目を見開き、一瞬呻き声が漏れた。


「え、そうなの! 誠奈人くん! こっち向いて! 」


「向かない! 戦闘中だっ! 」


「そんなぁ。紗代さん、後でどんな顔だったか教えてくださいねっ! 」


「もっちろん! まかせなさーい」


「くっ…! 」


 誠奈人は頬を赤く染めながら、苦虫を噛み潰したような表情になる。やり場の無い憤りは眼前の秀作に向けられようとしていた。


「…なんだその目は。まぁ、いつでもかかってこい。この空気を誤魔化すためにもな」


 誠奈人に情けを掛ける秀作。誠奈人にとっては渡りに船だった。その厚意を有難く受け取り、誠奈人は少し息を整えてから白童(はくどう)へ向かって斬り込んだ。


「纏炎刀(てんえんとう)! 」


 誠奈人の刀が、魔力によって炎に包まれる。先刻よりも威力の増した斬撃が、白童(はくどう)の防御を打ち崩す。秀作は誠奈人が白童(はくどう)に攻撃している隙に接近した。隙を突いたつもりでいたが、誠奈人の眼光は秀作に向けられている。そして、その左手にはいつの間にか、もう一振りの刀が。


「二刀流!? 」


 秀作は咄嗟に防御体勢に入る。


「纏炎双刀(てんえんそうとう)―火焔双波(かえんそうは)ッ!! 」


 誠奈人の両手にそれぞれ構えた二振りの刀が大きく燃え上がり、力任せに振り下ろされた。炎が大きく燃え上がり、秀作のはるか後方まで突き抜けた。コンクリートの床に黒い軌跡を残して。その一撃をもろに受けた秀作と白童(はくどう)は、大きく吹き飛ばされる。その後、炎は延焼はせずにすぐ鎮火した。


「くっ…」


 秀作はすぐに自身で治癒魔導を発動し、回復を図った。その横で、白童(はくどう)は体を維持してはいるものの、その体躯にはヒビが入り、所々崩れかけている。


「俺は、まだやれるぞ」


 治癒魔導をかけながら、ふらふらと秀作は立ち上がる。


「そうこなくちゃ」


 誠奈人は嬉しそうに笑みを浮かべ、二刀を構える。


「そこまでだ」


 しかし、今まで戦いの行末を離れた所で見守っていた三木(みき)が水を差した。


「えっ、どういう…? 」


 誠奈人は状況が飲み込めないまま、三木の方を見る。


「目標をまる焦げにしてどうする。馬鹿者め」


 三木に言われて、誠奈人はハッとした。先ほど自分が攻撃を放った方向に目をやると、黒焦げになった何かが落ちているのが見える。見る影もないが、先に触れたチームが勝者とされていた、目標物の旗であろう。


「安物のおもちゃのような代物だったからな。ひどい有様だ。しかしこれでは勝敗のつけようがない。差し詰め引き分けといったところか…今回は旗だったら良かったものの、実戦で保護対象に同じ真似をしたら、ただではすまんぞ」


「あー…誠奈人くん、天然を発揮しちゃったね」


「ドジっ子って言ってもいいかもしれないわね」


 梨央奈と紗代が、再び誠奈人への口撃(こうげき)を始めた。


「くっっっ、そぉー……」


 誠奈人は大きく肩を落とした。自分が悪いという事実は覆しようがなく、ただただ途方に暮れていた。呆気ない形で、勝負の幕は降りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。