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学生魔導士は街を駆ける ー現代社会における魔導の在り方ー  作者: 小仲はたる
第2章 アイドル魔導士、がんばる

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第2章:第10話『パトロール魔導士』

 誠奈人(まなと)たち第一学生魔導隊の面々は、通り魔事件があった商店街の最寄駅で電車を降りた。事前の示し合わせどおりに制服から私服に着替えてある。


「結構人が多いな」


「もっと閑散とした所かと思ってたよ」


 誠奈人と莉央奈(りおな)は多くの人で賑わう駅周辺を見渡していた。今は事件があった時と同じ、平日の夕方。当時もこのような状態だったと推察された。


「現場はもっと商店街の隅の方みたいです。とりあえず、近くまで歩いて行ってみましょう」


 被害を受けた後輩からある程度話を聞いたらしく、美心(みこ)は他の面々よりは事件について詳しく知っていた。


「今何かしているかはわからないけど、警察の捜査の邪魔をしないように気を付けましょう。目立つ行動も避けて」


 注意が必要な事を、律華(りっか)が改めて口にする。自分達は被害者の先輩というだけでなく、魔導協会の魔導隊に所属しているという立場を気に掛けていなければならない。駅を出てから真っ直ぐに歩くと、程なくして商店街の入り口に辿り着いた。年季の入ったアーチが誠奈人達を迎える。商店街の様子は今のところ特に変わったところはない。通りの左右に並ぶ店舗も、どれもいつもどおりに営業している。誠奈人達は悪目立ちしないように気を付けながら、辺りに目線を巡らせる。


「普通…って感じだね」


「私達と違って近しい人が襲われたわけではないでしょうからね。意外とこんなものよ」


 莉央奈と律華が言うとおり、雰囲気や人通りにもおかしな点はなく、まるで事件などなかったかのようだ。


「平和にこしたことはないさ。しかし、さすがに子供は全然いないな。世間も無関心てわけじゃないってことだ」


 すれ違う人々を振り返りながら誠奈人が二人に言葉を返す。制服を着た学生や親子連れの姿は非常に少ない。しばらく歩いていると、大治(だいち)が何かを見つけて声を上げた。


「あれ、あそこにいるのって、みこファンの人達じゃないか」


「みこファン? 」


「みーこファンクラブの事っすよ。非公式のファンクラブだけど初期から応援してる精鋭達です」


 聞き慣れない言葉に思わず疑問を発した莉央奈だったが、すぐに大治が補足説明を入れた。


「おぉー。さすがアイドルだね。公式ファンクラブはないの? 」


「できることなら作りたいんですけど、個人勢にそこまでの余裕はないのです。だから、みんなにとりあえずお任せしちゃってます」


 一人で活動しているが故に、手の及ばないところがあるのは美心の悩みでもあった。


「どーする? 声かけてみるか? 向こう側からは声かけにくいだろうし」


「そうですね、せっかくだし…おーい、みこファンのみんなっ」


 美心が駆け寄りながらみこファンの集団に声をかける。目立たないように声は抑えめにした。


「ややっ! そちらにおわすは、我らが崇める大天使・みーこちゃんでは! 」


「そのとーり。皆のみーこちゃんだよっ。今日も元気そうですねぇ、てんぷれ氏」


「オフにファンへお声掛けいただけるとは…感謝感謝」


「みーこは地域密着型のアイドルでもあるので。大手さんにはできない芸当でしょ? ナム氏」


「今日もかわいい…ふひひ、同じ女子とは思えない、ね」


「ありがとう! そのリップ良い感じの発色ですね。どこのやつか今度教えてね、えみみ氏」


「生みーこちゃんの生声掛け…テンションぶち上がりますねぇ! 」


「喜んでもらえて嬉しいです。テンションぶち上げてきましょーね、ジェントル氏」


 全員の顔と特徴をきちんと押さえている美心。ファンサービスを振る舞う姿はきちんと一端のアイドルであった。それを見ていた莉央奈は「おぉー」と感心しながら、ぺちぺちと小さく拍手をしていた。


「そちらの皆様は、部隊の方々ですな? 」


「そですよ。新しい仲間が加わりました」


「新しい子…かわいいね。すてき」


「あ、どうも。(みのり)莉央奈(りおな)と申します」


 莉央奈がぺこりとお辞儀すると、みこファンの四人も丁寧に頭を下げて挨拶した。


「相変わらず礼儀正しい人達っすね」


「これはこれは大治氏。ジム以外で会うのは久しぶりですな」


「てんぷれ氏、まだジム通い続けてるんですか? すごーいっ」


「ふふ。実はここにいる全員が継続中ですぞ。大治氏の指導のもと、日々肉体を磨いております」


(確かに、この人達なんだか体格が良い…筋肉? )


 会話を聞きながら、ふとみこファン達の肉体を見ると、全員ががっしりと筋肉質な体格をしていた。女性であるえみみ氏だけは比較的細身だったが、それでも比較的スタイルの良い立ち姿だった。


「体もムッキリしてきて、頼りになりますっ。でも、無理はしないでくださいね」


「お心遣いに感謝感謝。肝に銘じます。しかし、大治氏の指導が的確なので…オーバーワークの無い程度にやれております…


「すごいな。大治、トレーナーやってたのか」


 初耳だった誠奈人が驚いたように大治を見る。


「まぁ、そんな大した事じゃないすよ。みこファンの皆が、みーこのファンは見てくれが悪いとか思われたくなくて、体を鍛えたいって言ってたものですからね。ちょっと協力させてもらったんす。本気で体を鍛えようとしてる人を見るとほっとけなくて」


「それで、ここまで仕上げるのはすごいわね。大治の手腕も、みこファンの皆さんの努力も」


 服の上からでもわかるトレーニングの成果に、律華も感嘆の声を上げる。


「みーこのために頑張ってくれて、嬉しいですっ。それに民度も高いし、みーこは恵まれています。いつもありがとうねっ」


「ファンたる者、推しの応援は紳士的である事が最重要事項ですから。我らみこファン、こらからもみーこちゃんを紳士的に推し続けます」


 その名の通り、ジェントル氏が右手を胸に当てて紳士的に宣言する。名が体を表すとはこういう事か、と莉央奈は思った。最も彼らが今名乗っているのはハンドルネーム。インターネット上で名乗る仮の名前なのだが。


「ところで、皆はどうしてここに? 」


 代表して大治がみこファン達に尋ねる。ここは学生魔導士への通り魔事件が発生した場所の近辺だ。偶然とは思えない。


「皆さんもご存知でしょうが、先日の学生魔導士に対する通り魔事件のニュースを見まして。我らがみーこちゃんの所にも、通り魔の魔の手が伸びないか心配になってしまったのですよ」


「そこで皆で話して、事件現場の近くを見回りしてみたり、学生魔導士さんが危ない目にあいそうだったら助けようって。ふひひ、大した事はできないけど、ね」


「そうだったんですか…みーこのために…? みんな、ありがとうっ」


「みーこちゃんにはいつもたくさんの笑顔をもらってます。…日頃の感謝感謝を我々も…何か形にと」


「それに、みーこちゃん以外の魔導士さん達の力にもなれればと思いましてねぇ。我らは全員魔力の無い人間ですが、皆様の味方です。紳士的に」


「いつもありがとうございます。魔導士を代表して、お礼を言わせてください」


 みこファン達の厚意に、聡太が頭を下げて感謝を述べる。


「そんな、お礼には及びませんぞ聡太氏。今後ともよろしくお願いいたしますぞ。ところで皆様はお揃いで、なぜここに? 」


「実は、みーこ達もみんなと同じ目的です。この事件は警察の管轄だから、目立った事はできないんだけどね。だから、みーこ達と会ったことはナイショにしてほしいなっ」


「ふむむ。そういう事でしたか。皆様も心を痛めてらっしゃると。心中、お察しいたしますぞ! そして、ナイショのお約束は勿論、お守りいたします」


「み、みーこちゃん。ふひひ、無理はしないでね」


「うん。皆がいてくれるから大丈夫。みこファンのみんなも、無茶しないでね。みーこは皆のことも心配だし、大切なんですから」


「承知。しからば、長居は申し訳ないですな。同志の皆様、みーこちゃんを前に名残惜しいですが、そろそろ我らは参りましょうか」


 おそらくリーダー格なのであろう、てんぷれ氏が声を掛けると、みこファン達は礼儀正しく挨拶をして去って行った。


「ちょっと特徴的な人達だけど、すごく良い人達だね」


 莉央奈が若干オブラートに包みながらも、事実を述べた。


「はい。ちょっと特徴的ですけど、みんなすっごく良い人なんです。みーこはみんなが応援してくれるから、頑張れてるところもあります。優しいファンに恵まれて嬉しいです」


「みーこちゃんが誠実に活動してるからだと思うな。やっぱりすごいよ」


「ふっふっふ。莉央奈先輩、もーーっと褒めてくださいっ! 」


「みーこちゃんはすごいっ。頑張り屋さんだっ。そしてかわいいねぇ。よしよしよし」


 要望に応えて莉央奈は美心を褒めちぎり、頭を優しく撫でる。甘やかされて美心はご満悦の様子。事件のせいで怒ったり泣いたり、負の感情の発露が多かったところだが、みこファンと莉央奈のおかげで笑顔を取り戻す事ができたようだ。


「やれやれ」


 誠奈人は苦笑いしながら振り向く。後ろにいた聡太、律華、大治も苦笑いしながら顔を見合わせる。皆、美心の様子に安堵していた。

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