第1章:第12話『莉央奈と第一学生魔導隊』
「それでは、先日の魔導士による民間人襲撃事件について、第一学生魔導隊の会議を始める。」
会議室内に三木の声が響く。
「まずは自己紹介から始めるか。そちらにいるのが今回の被害者であり保護対象魔導士の実莉央奈さんだ」
「実莉央奈ですっ。よろしくお願いします! 」
紹介されて、咄嗟に立ち上がり一礼する莉央奈。席に座っている一同も合わせて一礼する。
「では、実さんに隊員を紹介しようか。卯月君から順番に頼む。」
一人の女性が席を立つ。鎖骨の辺りまで伸びた緩くウェーブのかかったミディアムヘアに丸い眼鏡をかけている。白いブラウスに黒のパンツスーツを着たビジネススタイルだが、どこか柔らかく朗らかな印象を受ける。
「はい。副隊長の卯月司です。見てのとおり、制服を着ている他の皆は学生なんだけど、三木隊長と私は成人の協会員です。何かあれば、なんでもお姉さんに言ってくださいね。よろしくお願いします」
続いて横にいた男子生徒が立ち上がる。背は高く痩せ型で、マッシュヘアに黒いフレームの付いたスクエア型眼鏡をかけている。
「僕は常盤聡太といいます。学園の高等部三年生です。実さんの一つ年上ってことになるかな。よろしくね」
次に、聡太とは正反対の印象の男子生徒が立ち上がった。身長は高くも低くも無いが、筋肉が付いてガッシリとした体型で、よく鍛えている事がわかる。短髪にキリッとした表情で体育会系な印象を受ける。
「学園高等部一年の一条大治です! よろしくお願いします! 」
最後の一人は、小柄な女子生徒だった。肩に付かない程度のストレートなボブヘア。童顔だが端正な顔立ち。
「中等部三年の水野美心ですっ。みーこって呼んでくださいね! 」
まるでアイドルのように顔の横にピースサインを構え、笑顔でポーズを決める。莉央奈も同じようにして返すと、美心は「わー、ありがとうございます」と、拍手しながら喜んだ。三木が咳払いをして話を進める。
「私と誠奈人、律華の事はすでに知っているだろうから割愛させてもらう。ここにいるのが、日本魔導協会第一学生魔導隊の隊員だ。実さんの周りで起こっている事件は我々の管轄になっている」
「えと、改めまして…皆さん、色々とありがとうございます。ご迷惑をおかけしてます」
莉央奈は立ち上がってぺこりとお辞儀をする。それに対し、卯月が微笑みながら返す。
「ご迷惑なんて事はありませんよ。実さんの方こそ、記憶喪失な上に知らない男に襲われていたのですから、怖かったでしょう。無理をしてはいませんか? 」
「あ、はい。大変だと思ってはいますけど、前向きにいかなきゃなって。記憶がないからこそ能天気なのかも知れません。誠奈人くんや律華ちゃんがいつも一緒にいてくれてるのも、ほんとに助かってます」
穏やかな雰囲気を纏う卯月から優しい言葉をかけられて、頬が緩む莉央奈だった。
「あれ、誠奈人先輩と律華先輩はもう仲良しなんですか? ずるい! 」
美心がむくれながら声をあげると、誠奈人が関心の無さそうな顔で応える。
「何がずるいかよくわからないが」
「こんなにカワイイ女の子とお近付きになれるなんて! しかも魔導士さんなんですよね? 突然ですが莉央奈先輩、アイドルに興味はありませんか!?」
「あ、あいどる? どういうこと? 」
「すまない。こいつ気に入った相手には距離の縮め方が極端だから」
「何を隠そう、みーこは魔導士兼アイドルでして。ぜひ、莉央奈先輩も一緒にやりませんか? 」
「すごーい。アイドルだなんて」
「プロというわけではなくて、個人で活動してるの。動画配信とか、SNSとか。想像してるのとは違うと思うわ」
「え、あ、そなんだ」
「律華先輩! 痛いところを突かないで! 」
「勧誘するなら、事実はちゃんと伝えないとだめでしょう」
「うぐぐ…先輩、まだ怒ってますか? 」
「なにを? 」
食い気味に美心に返事をする律華。誠奈人が言っていた律華をおばさん扱いした後輩とは美心の事だったのだと、莉央奈は瞬時に理解した。
「ぴぅ……なんでもありませぇん」
頭を抱えて縮こまる美心。助け舟を出す者はいなかった。
「敵はやっぱり組織で行動してるんすよね? その後何か情報はないんですか」
大治が三木の方を向き、真面目な話に戻す。
「あぁ。昨日までの情報は共有したとおりだが、その後大きな動きはない。敵は完全に行方をくらませた。なので当面は守りに回ることになる。引き続き調査隊が現場周辺での調査を続けてくれる手筈になっている。実さんの護衛は基本的に誠奈人と律華に任せる。聡太・大治・美心も適宜協力してもらうが、他の任務への対応をメインに任せる」
各員から了解、と返事が成される。
「さて、ここからは別件になる。なので、申し訳ないが実さんには一旦退室してもらわないといけないんだ」
「あ、そうですよね」
「では、私が一緒に行きます。一人にする訳にはいきませんから。行きましょ、実さん」
卯月が立ち上がり、莉央奈に目配せをすると、二人で会議室の外に出た。
「遠くにいくのもよくないから、廊下で悪いけどここで待っていましょう。そんなに時間はかからないと思うから」
会議室を出てすぐの所に、壁沿いに小さめのソファが置いてあったため、二人で横並びに座った。
「実さん、最近何か思い出したことはある? 」
「いえ、まだ何も。これは覚えてるんだなって、気づくことはありますけど」
「そう…焦る必要はないからね」
「ありがとうございます。協会にはここ以外にもたくさん部隊があるんですか? 」
「ええ。私達のような、魔導を使って闘う人員の部隊を魔導隊と言います。学生魔導隊はその名の通り学生を中心に構成された部隊ね。学生と付かない通常の魔導隊もいるの。そっちの方が数はずっと多い。さっき話題に上がった調査隊というのは、犯人の捜索をしたり、聞き込みをしたり、その名の通り調査を担当してるの。魔力の無い人や、魔力はあるけどあまり強力じゃない人が主に所属してるわね」
「魔導士以外にも、大勢の人がいるんですね」
「魔導士はあまり数が多くないからね。彼らの協力が不可欠なの。他にも事務や経理、電話対応をしてくれる人とか。いつも助かってる」
「なんとなく感じてはいるんですけど、魔導士と仲良くしてくれる人ばかりではないんですか? 」
「そうね…それは感情的なところが大きいので、難しい問題よ。人々の間には、容姿・性別・人種・経済的格差…色々なもので壁ができてしまうもの。そして私達には魔力の有無という産まれながらの絶対的な違いがある。これはその気になれば人を傷つけることもできる力だから、怖がるのもわかる。だけど私達も望んでこうなったわけではなくて、魔力と縁のない生活を送りたいと願っている人もいるの。こんな力なんていらないってね」
「はい…。自分に無い物だから、怖いんでしょうか? 人を傷つけるだけなら、殴ったり蹴ったりするのだって同じです」
「いい疑問ね、実さん。自分とは違う…そこが一番大きいと思う。違う事がなぜいけないのか? それを言語化するのは難しいし、頭で正しく理解した上で壁を作ってる人は少ないかもしれない。人間という生き物は昔から集団で生きてきたから、輪を保つために異質な存在を排斥しようという意思が働くのかも。なんて、専門家じゃないから詳しくはないけどね」
「わたしたちが人間である以上、仕方のないことなんでしょうか」
「仕方のないことだったとしても、少しずつでも壁を取り除くことはできるはず。協会はそのためにあるのだから。魔力を持っているという事実はどうしようとないけれど、魔力がある以外は、何も変わらない。それを一人でも多くの人に分かってもらえれば、私は嬉しいな」
「卯月さんもですけど、魔導士の人たちはかっこいいです。誠奈人くんも律華ちゃんも、私と同い年なのにすごくしっかりしてて。色んなことを考えながら、立ち向かいながら生きてるんだなって」
「ふふ、ありがとう。会議が終わるまでもう少し、お話しましょう」
「はい! 」
それから二人はざっくばらんに話した。莉央奈の周りで今まで起きたことや、協会のこと、魔導士のこと。程なくして会議室の扉が開き、美心が二人を呼びに来た。
「なんだか楽しそうですねお二人とも」
「うふふ。実さんと楽しくお話してたの」
「むむ…またしても先を越されました。終わったので二人を呼んでくるようにと隊長が」
三人が会議室に戻ると、残った面々は席を立ち、帰る支度をしているところだった。卯月が三木に尋ねる。
「今日はこれで解散ということで、よろしいですか」
「ああ。私は上に報告に行ってくるので、まだしばらく席を外す」
「わかりました。私は先に戻っています」
「ではでは、学生の皆さんには…みーこから提案がありますよ」
美心が手を挙げて皆に声をかける。一同がそちらを向くと、美心は高らかに宣言した。
「莉央奈先輩の歓迎会をやりましょう! 」
「えっ、わたし歓迎してもらえるの? 」
「はい。莉央奈先輩とみーこ達は一心同体。もう仲間のようなものですから。これは歓迎会をしなければ無作法というもの」
「実は事前にみーこから話があって、皆了承済なの。だから莉央奈さえ良ければ、ぜひ歓迎させてほしいのだけど」
「わたしはもちろん! 嬉しい! 」
「良かったですっ。場所はもう食堂を抑えてあります! 和子さんにも相談済ですよ。そして肝心のお食事ですが…」
「ごくり」
美心の勢いに押され、唾を飲む莉央奈。
「みんな大好きたこ焼きパーティーですっ! 」




