表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
88/224

88 原因判明

 止まった馬車から降りると、目の前に馬車が二台入るくらいの幅の洞窟があった。高さは馬車が入るには足りない。緩い下り坂になっているようで、入口からだと補強された道くらいしか見えず、鍛冶場はもっと先なんだろう。

 入口に入ってすぐに生えている雑草が、入口側へと揺れているところを見ると、空気の出入りはあるようだ


「鍛冶場への案内も私がいたします。少しお待ちください」


 御者が入口近くにある小さな馬小屋に馬を入れて、カンテラに火を入れる。


「この先で火は使って大丈夫ですか? 大丈夫なら魔法で明かりを確保しようと思うんですけど」


 そう聞くと大丈夫だと返ってきたので、シャーレに頼む。

 頷いたシャーレは俺たちの頭上にいくつかの火の玉を浮かばせた。

 御者の先導で坂を下っていく。少しして坂道は終り、先に進むとまた坂道がある。そしてまた坂道が終り、進んで坂道を下って広い空間に出た。天井は五メートルを少し超えるくらいか、広さは明かりが届かないからわからないな。外は寒かったけど、ここはほんのりと温かい。


「ここが鍛冶場となっています。今は使われていないのため暗いですが、稼働中はそこかしこに明かりが灯されて、外よりも少し暗い程度ですね」


 シャーレが火の玉を天井辺りまで動かす。それで照らされる範囲が広がったけど、まだ全容は見えない。

 こちらへと御者が言い、それについて行く。ついて行った先には横長の穴があった。御者は覗きこんでみてくれと言い、俺たちは落ちないように注意しつつ底を見る。


「わずかに明るいのがわかると思います。あれがマグマです」


 たしかに底の方が少しだけ色づいて見えるな。


「一ヶ月前まではもっと上の方までマグマが上がってきていたんです。こうして覗きこめば火傷するくらいの熱も感じられました。ですが急にマグマが遥か下へと引っ込んでしまい。炉として使えなくなったのです」

「予兆とかあったのか?」


 シバニアの問いに御者は首を横に振った。


「地震とか魔物が減るとか、そういったなんでもいいから普段とは違うことも?」

「はい。私たちの知るかぎりでは普段通りです」


 いきなりマグマが減ったのか。地震が起きていたら、そのせいで横穴が発生して、そちらに流れ込んだとかありそうなんだけど。

 ダイオンがここでなにか感じるかと聞いてくる。


「……これといって特別なものはないかな。精霊の気配がわずかに感じられるけど、それは事前にわかっていたこと。ここでは情報入手は無理だろうね」

「じゃあ明日祠だな。以前山を登った奴にちゃんと話を聞かないとな」


 短時間でここでの用事は終り、皆で鍛冶場を出る。

 山を下りて、町の入口で馬車を降りて、宿に戻る。

 しばらくすると御者から帰還が伝えられたのか、役人が山を登った護衛を連れてやってきた。全員で彼から話を聞いていく。山頂までのコースは目印がたくさんあるので、濃い霧でもでないとそれることはないそうだ。登りは四時間と少し、下りは三時間と少し。雪がない時期や山歩きに慣れた人ならもっと短くなる。注意すべきは滑ることと魔物で、落石は起きたことがない。

 そういった話を聞いたあと、この時期の山登りに必要な装備が手に入る店に向かう。

 靴に装着するスパイクを全員分購入する。トレッキングポールも必要だろうと思ったけど、それは役所で借りられるということだった。

 スパイクのほかに必要な物を買って宿に帰る。


 昼前に山頂に着けるようにするため少し早めに起きて、山登りの装備を整える。シャーレもメイド服ではなく、動きやすいズボンだ。故郷にいたときの山登りの経験から、さすがにメイド服で登ろうとはしなかった。

 朝食をすませて、登山コース入口まで馬車で送ってもらう。

 山を登るのは俺たちだけで、町の人間は誰もついてこない。住民が知らないうちになにかやらかして大精霊たちが怒った可能性も考えていて、刺激しないようにという配慮だそうだ。

 コースと示す目印はすぐにみつかった。二メートルを超す石の柱が等間隔で山肌に突き立てられていた。


「出発だ」


 先頭を行くシバニアが言い、それに俺たちはついて行く。最後尾にはダイオンがいて、警戒することになっている。

 雪で滑ることに気をつければ、山登りのコースとしては険しいものではないようで、順調に進むことができている。出てくる魔物もイリーナが手早く対処するおかげで、足を止める時間も少ない。おかげで予定通りの昼前に山頂に到着することができた。

 火口の奥から今もわずかに噴煙が上がっていて、その煙を吸わないように風を操作する。

 祠は火口の近くに立っていて、雪と噴煙で汚れている。

 祠の大きさは十畳くらいか、両開きの入口は錠でしっかりと閉じられている。その鍵はレンシアが借りている。

 そこを開ける前にまずは休憩をかねて昼食にして、そのあとに周辺調査してみようということになる。

 昼食後、祠からあまり離れないようにしてそれぞれが周囲を探る。


「精霊の気配が強くなったかな。特に祠の中から感じられる」


 俺がわかるのはそれくらいだ。シャーレたちには祠や火口が荒らされたかどうかを見てもらう。

 二十分ほどかけて調査が行われてわかったのは、人が来た形跡はあっても荒らされた形跡はないというものだ。人の形跡は神職たちのものだろうし、ここを荒されたから怒ったとかではなさそうだ。


「では鍵を開けます」


 ごつい錠に鍵を差し込んで、扉を開ける。

 祠の中はシンプルだった。二体の石像が台座に置かれていた。男女の像だ。男の方が地の大精霊を、女の方が火の大精霊を模していると町長は言っていた。


「男の像から精霊の気配があるよ」


 俺がそう言うと気配は強くなって、像が小刻みに震え出した。そして台座から降りて口が動く。


「水の大精霊の気配がたしかにある。よかった、これでなんとかなるかもしれぬ」


 求められていたのは水の大精霊から加護をもらった人か?

 そう考えているとレンシアが石像に話しかける。


「地の大精霊様でしょうか?」

「ああ、そのとおりだ」

「お初にお目にかかります。こうして姿を見せていただいた理由と鍛冶場の異変についてなにか知らないかお尋ねしたいのですが、よろしいでしょうか」

「それに答えるためこうして姿を見せた。ここはせまい、外に出よう」


 俺たちが外に出て、石像もゴッゴッと重い足音を響かせ祠から出る。

 石像はシャーレが敷いていた撥水シートに移動し座り、俺たちにも座ることを勧めてくる。

 皆が座ったところで石像は話を始める。


「こうして姿を見せたのは、そこの彼に頼みたいことがあったからだ。そしてそれは鍛冶場の異変を解決することにも繋がる」

「リョウジさんを水の大精霊の加護持ちとおっしゃっていましたが」

「ああ、その通りだ」

「大精霊の加護を持っている人がいるなんて」


 心底驚いた様子でこちらを見てくるレンシアだが、ほかの人たちが平常なのを見て首を傾げる。


「もしかして皆さん知っていたんですか?」

「仲間には言ってあるし、コードルたちは一緒に仕事したときばれた」

「知っているなら驚きませんよね」

「それで頼みとはどういったものなんでしょう? 無茶なものなら断りますよ」

「頼みとは、お前の力を町の鍛冶屋に貸して作ってもらいたいものがあるということだ。熱にとても強い指輪を作ってもらいたい」


 なぜ指輪なのかと俺たち全員が疑問を顔に出した。


「恥ずかしいことだが、鍛冶場の異変もそれが原因なのだよ」

「問題ないのでしたら、なにがあったのか教えていただけますか」


 レンシアの頼みに石像は頷いた。


「我と火の精霊が夫婦というのは聞いているか?」


 聞いた覚えはないな。皆も同じなようで首を横に振っている。


「昔我らは出会って互いに好意を持ち、住みやすい場所に居を構えた。それがこの山だ。そのせいかただの山が火山へと変わり、時が流れて人が住み着いて鍛冶を行うようになった」


 へー、そんな歴史がなぁ。


「人間たちは山を荒すこともなかったから放置して、たまに生活する様を眺めて、気まぐれで助けることもあった。そのうちに彼らは我らを祀る祠を作った。まあ町の歴史は今回の件には関わりはないが。今から一ヶ月ほど前のことだ。そのときも人間の生活を見ていた。そこには結婚を前にした男女がいてな。贈り物をしていた。それを見て、妻に言葉を贈ることはあっても、物を贈ったことはないなと考え、その男女と同じように指輪を贈ることにしたのだ」

「なるほど。そこで指輪が出てくるのですね」

「できた指輪を我は早速妻に贈った。我からの気持ちだと言葉を添えて。妻はきょとんとしたが、プレゼントを贈るという習慣は知っていたからすぐに嬉しそうに受け取った。そこで問題が起きてしまった。贈った指輪が妻の熱で融解してしまった」


 融けちゃったか。贈り物が自分のせいで壊れたとなるとショックだろうな、と思ったが違うらしい。


「妻に指輪を贈るときに、我からの気持ちだと言った。そして融解した指輪を見て、妻は気持ちが形をなくしたと考えた。つまり妻にはもうなにも想いがないと受け取られたのだ」


 そっちかー。奥さんは早とちりなんだな。もしくは熱に強い指輪を作らなかった地の大精霊のうっかりミス。


「妻はショックで気持ちを乱し、我の話を聞かずマグマの中に隠れてしまった。そのままだと大噴火もあり得たので、我が火の力を押さえている。そのため鍛冶場のマグマが奥底へと引っ込んだのだ。噴火を押さえているため、こうして媒介を使わなければ話もできぬ。こういう事情なのだ」


 なんとも言い難い表情をしたレンシアが口を開く。夫婦喧嘩みたいなものだけど、大精霊を責めるわけにもいかないとか考えてそうだ。


「じ、事情はわかりました。それで職人たちにどのような指輪を作ってもらいたいのですか。そしてその指輪を作れば鍛冶場の問題は解決するのでしょうか」

「水属性と相性のいい鉱石のありかを教えるので、それを使って火に耐性のある指輪を作ってくれ。どのように魔法を使うかは鍛冶屋の方が知っているだろう。出来上がった指輪を彼に妻のところに持って行ってもらう。融解しない指輪を贈られれば、長く共にあると伝わるだろう」

「あなたが持って行かないのですか?」

「我が行っても出て来てくれないからな。人間が向かった方が興味をひく」

「ちょっと待って。マグマの中に引きこもっているんだよね? どうやって持っていけば?」


 なんの対策もなくマグマにダイブしろとか言わないよね。


「鍛冶場の穴があるな? そこから地下の広い空間に入ることができる。そこはマグマであふれかえっているが、マグマは我の力が及ぶからある程度の保護ができる。あとはそちらが自力で防御してくれ」

「一応それっぽい魔法は使えるけど、そちらの保護はどれくらい? あと足場はある?」


 あの魔法の出番は砂漠だと思ってたのにな。


「砂漠の日中温度より高い程度までは、周囲の温度を落とすことができる。足場もきちんとある」

「それならまあなんとかなるか」


 でも念のため耐熱魔法の練習をしておこう。練習不足で熱い思いはしたくないし。

 

(いざとなったら私が空間魔法で熱を遮断するわ)


 ローズリットがそう言うならできるんだろう。安心できる材料が増えたな。

 しかしレンシアはそうではないようで不安な表情を隠さずにいる。


「マグマのある場所に人が行くなど不安でしかないのですが」

「彼に怪我など負わさないと神に誓おう。この誓いが破られたとき、我はその命を失う」


 そこまでするのかと俺たちが驚くと、石像が頷く。


「この件はそれくらい大事だという我の覚悟であり、我の命を懸けるならそちらも不安が晴れるだろう?」

「たしかに。それで水属性の鉱石のありかはどこ?」

「東の海岸に海冷洞と呼ばれる洞窟がある。そこで青みを帯びた鉱石が取れる。もともとは精霊鉱と呼ばれる鉱石だったが、長年水のそばにあり水属性を帯びたのだ」


 ああとレンシアが相槌を打つ。


「錬金術で水属性の道具を作りたいときに使われる鉱石ですね。聞いたことがあります。年々採掘量が減っていて今は値段が張りますが、領都にあったはずです。海岸に行くよりも領都の方が近いので、そちらに行きましょうか。報告もできますからちょうどいいです」


 また海に行く機会がなくなったな。前は辺境伯のときだっけ。海産物を食べられるのはいつのことやら。


「それならば一度その鉱石を見せに来てくれ。長く海から離れていると質が落ちている可能性がある。質の落ちた鉱石を使っては、熱に負けてしまう可能性がある」

「わかりました。質が落ちていたら、東で手に入れてこないと駄目でしょうか?」

「いや、我と彼で完全ではないとはいえ、質を戻すことができる」


 今回いろいろと俺の出番が多いな。火の大精霊に会いに行く以外はそれほど難しそうなものじゃないから別にいいけどさ。

感想と誤字指摘ありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いやいや、大精霊の夫婦喧嘩は 流石に予想付かない。 領主に説明して理解して貰えるか? 「冗談は美少女仮面騎士だけにしろ」とか 領主に真顔で怒られるか?どっちだ。
[一言] その指輪の贈り物思いっきりアウトというか勘違いを助長させるようにしか見えないです。 指輪が溶けて気持ちが形を無くしたとショックを受けたのですよね。そこに渡される新しい指輪が火属性の鉱石(土+…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ