89 レンシア帰還
聞きたいことはだいたい聞けたかな。あ、別件だけど聞いてみたいことを思いついた。今後についての話が終わったら聞こう。レンシアがいつまでに指輪を準備したらいいか、指輪のサイズなどを聞いて、もう質問がでないようなので思いついたことを聞く。
「今回の件にまったく関係ないことを聞いてもいい?」
いいぞと石像が答えてくれたので、遠慮なく聞こう。
「こっちの男ダイオンって言うんだけど、地の精霊に呪われててあなたならその呪いは解けますかね」
ダイオンが驚きと少しの喜びの表情でこちらを見てくる。ダイオンなら地の大精霊がいると知ったときからこの考えは浮かんでたんじゃないかな。でもまずは事件の解決を優先して、これまで気にした素振りを見せなかった可能性がある。
「その男が同胞に呪われていることはすぐにわかった。古い呪いということもだ。本人が精霊に悪さしていないのならどうにかしてやりたいが無理だ。加護なら解くことはできたのだがな」
ダイオンの呪いは魂に染み込んでいて、呪いを与えた本人でも完全除去は難しいらしい。
その返答にダイオンは落ち込んだ様子を見せる。だが続けられた言葉に希望を持つことになる。
「我は解くことはできないが、近々解くための鍵の一つは手に入るだろうさ」
「鍵とは?」
ダイオンは期待を持って問う。
石像は「彼だ」と俺を見て言った……また俺?
「此度の件が終われば、我と妻の加護を得るだろう。その状態で解呪ができる者と協力すれば解放される」
地の大精霊の加護だけじゃなくて、火の大精霊の加護もということは、四属性がそろうと特別ななにかがあるんだろうか?
石像の断言にダイオンは隠しきれない笑みを浮かべた。
「リョウジに同行したのは間違いではなかったのだな」
ダイオンは事件の解決に気合が入った様子だ。
今回の石像との対面は終りになって、石像は祠に帰っていく。石像が元の位置に戻ったのを見て、レンシアは鍵を閉めた。
「えーといろいろと驚きの情報がありましたが、まずは安全に山を下りるとしましょう」
俺やシャーレは特に驚かなかったんだけど、レンシアの心情なんだろう。今も俺を気にするように見てきている。下山中に不注意で転ばないといいけど。
ダイオンとイリーナは驚きよりも喜びの方が大きいだろう。コードルたちもレンシアほどではないけど驚いた感じかな。
行きと同じ並びで、下山を始める。レンシアが大丈夫か気になったけど、さすがに転びたくないのか、しっかりと歩くことに集中していた。
夕方になる前に下山を終えて、宿に帰ることができた。
俺たちはまだ元気だけど、レンシアは少し疲れた様子で夕食までひと眠りすると部屋に帰っていった。
夕食後、会議室に集まる。
「いろいろと進展がありましたが、今なによりも聞きたいのは大精霊の加護を三つ所持するってどういうことですか!?」
「三つ?」
四つの間違いじゃないか? 不思議に思ったのは俺以外の皆もらしい。
「水の大精霊の加護を持っているのでしょう? そこに地と火の加護が加わって三つじゃないですか」
「あ、そっか」
風の大精霊の加護を持っていることをレンシアは知らないんだったな。
俺たちが納得した顔になったのを見て、レンシアは不思議そうにこちらを見てくる。だがなにかに気づいた顔になった。
「そういえば山頂で風の魔法を使ってましたよね? もしかして風の大精霊からも加護をもらって?」
「そうだね。もらってるね」
レンシアは信じられないといった表情で俺を見る。
思わず素で返答してしまった。いろいろと秘密があって、加護くらいはばれてもいいかって気持ちになってしまってる。気を付けないと。
「精霊たちから加護をもらうことすら難しいのに、大精霊たちから四属性の加護をもらった人なんて聞いたことありませんよ」
昔いた霊人ならもらってそうなんだけどね。
「いろいろと運や事情が重なったんだよ」
「どれだけの偶然や奇跡が重なればそうなるのか予想もできないんですけど。なんで旅人なんてやってるんですか。どこかの城に勤めててもおかしくないのに」
「城勤めよりも旅人の方が好きだからかな」
そうですかとレンシアは納得してなさそうな表情で頷いた。
「とりあえずこの話はここまでとして、鍛冶場の件については明日町長に報告して、その後領都に帰ることにします。護衛をコードルさんたちにお願いしたい」
請け負ったとコードルたちが頷く。
「俺たちは?」
「全員で帰る必要はありませんよ? ですので留守番ですね」
「たしかにそうだね。だとすると時間が空くな。鍛錬と路銀稼ぎでもしてようか」
それがいいとシャーレたちが頷く。
「無茶はしないでくださいね。あなたがいなくなるとすべて意味がなくなるんですから」
「トラブルに巻き込まれなければ大丈夫。危ない場所に近寄る気もないし」
狩りに出るのに危ない場所に近寄らないとは矛盾してませんかねとレンシアが言うけど、ダイオンとイリーナがいれば大抵の狩場は問題なくなるし。
何時に出発とかどれくらいで帰ってくるかとかを話してレンシアは解散を告げる。それにダイオンが待ったをかけた。
「聞きたいことと頼みたいことがある」
「はい、なんでしょう」
「聞きたいことは、リョウジのことを領主に報告するのだろうってことだ」
「しますね。ここであったことの報告が私の仕事ですから」
「だとすると召し抱えるという話が出るかもしれない。それをリョウジは断るってことを先に伝えておくよ。アッツェンでも王から誘われて断っている」
レンシアが俺を見て、そうなのかと聞いてきたんで、頷きを返す。
「いろいろと事情があって、今の生活をしてるんだよ。いつかどこかで腰を落ち着けるかもしれないけど、それでもあちこちに行くのは止めないだろうし。なによりまだ旅を続けたい」
この大陸の国をすべて回ったら、次はスフェルノ大陸の六ヶ国にも行ってみたいしね。
「わかりました。報告の際にはそれもきちんと伝えておきます。次に頼みたいこととは?」
「俺が呪われているのは聞いたな? 解呪できる人を紹介してほしいんだ」
「それなら私の友人ができますから、ひとまずその人を紹介するということでどうでしょう。私とあなた方が最初に会った場所に近い村に住んでいます」
「ありがとう。頼む」
話し合いはこれで終りとなって、それぞれの部屋に戻る。
◇
登山の翌日、レンシアは朝食後に町長を訪ねる。
執務室をノックして返事を聞いて中に入る。ファッボの挨拶に、レンシアもおはようございますと返して報告を始める。
「良い報告ができます。山頂で地の大精霊と会話ができました」
「会えたのか!?」
「はい。水の精霊の加護持ちが訪ねてくるのを待っていたようです」
大精霊の加護というとまた別の騒ぎになりそうなので、そこは伏せた。
「我らリアー種の資質は火と土だ。我らが行ったところで会えなくて当然だったのだな」
「ええ、そうですね。リョウジさんが水の精霊の加護を持っていて、それに気づいた地の大精霊様が石像に宿り、事情を話してくれました」
昨日地の大精霊から聞いたことをレンシアは話していく。
夫婦喧嘩みたいなものという感想を町長も持ったようで、頭痛を耐えるようにこめかみに手を当てる。
「事情はわかったし、解決策もわかった。この町にその鉱石があればよかったのだが、輸入していなくてな。個人で手に入れた者はいそうだから、探せばでてくるかもしれないが確実ではない」
「ですので確実にある領都に報告がてら戻ります。急ぐつもりではありますが、戻ってくるのに早くて七日はかかるでしょう」
「その間に、こちらで装飾品職人など手配しておく」
それに関しては町長が言いださなければ、レンシアから頼むつもりだった。
「はい、お願いします」
「リョウジ殿たちも戻るのかな?」
「いえ、彼らはこの町で待ってもらいます。狩場に行ったりして過ごすと言っていましたよ」
「できるなら町にいてほしいが」
「あまり束縛するのもどうかと。あちこちに行くのが好きなようなので、閉じ込めると反感を買いかねません」
亮二も事情があるならアッツェン王都のときのように留まることも了承するが、それを知らない二人は狩りを止めないことに決めた。
町長はあとで危ない狩場を亮二たちに伝えて近づかないよう頼むつもりだ。
レンシアはファッボから町が所有する馬車を借りられる書類をもらって役所を出る。その足で馬車が置かれているところに行き、書類を見せて急ぎの点検を頼むと宿に戻る。そしてコードルたちと午前中のうちに急ぎで旅支度を整えて、正午にはバセルテルを出発した。
町から借りた馬車は普通の箱馬車で、亮二たちの馬車のように衝撃吸収の絨毯はなく、揺れでレンシアが酔って疲れた状態で領都に到着する。
馬車のまま領都に入り、城まで移動して、馬房近くに停める。コードルたちに馬車を頼み、レンシアは報告書を手に馬車から降りる。
「では行ってきます」
「大丈夫?」
酔いからくる疲れをにじませるレンシアに、フロスが心配そうに声をかけた。
「さっさと報告をすませて、今日は早く休みます」
「それがいいわ。その様子を見て、領主様も無茶はさせないでしょうし」
「馬車の旅を甘くみてました」
「今回は急ぎ気味だったからね。通常ペースで進めば酔いも小さかったと思うわ。バセルテルに戻るときは酔い止めの薬をもらっておきなさいな」
「はい。そうします」
力なく頷いてレンシアは城へと入っていく。
コードルたちはこの後このまま城の客室に泊まることになっている。レンシアが書類を作って渡してあるのだ。
今の時間ならば領主は執務室か謁見の間のどちらかにいるだろうと、レンシアは執務室に向かう。謁見の間に行っても来客を相手にしていて会えないからだ。
「警備がいないということはこっちにはいないか」
ここで待たせてもらおうと廊下の壁に寄りかかり、そのままうとうととして廊下に座り込んで眠る。
そうして三十分ほどで見回りの警備兵に起こされた。
「レンシア様。起きてください」
「え、あ、寝てた?」
肩を揺らされながら声をかけられ、目を覚ましたレンシアは立ち上がる。
「はい。ぐっすりと」
「疲れてたしなぁ。中途半端に寝たから怠いわ。領主様はまだ謁見の間かしら」
「ええ、もうすぐこちらに戻ってくるとは思いますよ」
「じゃあこのままここで待つことにするわ。起こしてくれてありがとうね」
「いえ、春が近づいてきているとはいえ、まだまだ廊下は冷えますから気を付けてください」
警備兵は去っていき、十五分ほどで領主が部下たちを伴い執務室に戻ってきた。
「レンシアか、帰ってきたんだな」
「はい。こちらに用事ができて」
「ほう、用事か。中で聞こう」
執務室に入り、全員が椅子に座る。
領主に促されてレンシアは現時点でわかっていることを話していく。解呪ができる者を探していることも忘れずに伝える。レンシアの友人が駄目だった場合に備えて、領主の方でも手配してもらいたいのだ。
「なるほど。そういった理由だったか。しかし夫婦喧嘩……疲れた感じだしうっかり間違った報告していないか?」
「していません。コードル殿たちも一緒に聞いていますから呼んできましょうか?」
少しだけレンシアの目を見た領主は、嘘など吐いていないと判断し、軽く謝った。
「なんとかなりそうでよかった。東から輸入している鉱石はもちろん持っていっていい。すぐに手配して、明日にでも馬車に積み込んでおく」
「ありがとうございます」
「それにしても大精霊の加護を受けた者か」
「既に言ったように誘っても断られますよ」
「わかっているさ。非常に惜しいとは思うが、重要な町の問題を解決してもらった恩を仇で返す気はない。ほかのところに取られるのも癪だから、要請を跳ねのけられるように手紙をリョウジ殿に渡しておこうか。ラムヌ内を旅するときには役立つだろうさ」
「そこは領主様のご自由になさってください。伝えることは伝えたので、退室してもよろしいでしょうか?」
「ああ、疲れているようだからな。ゆっくり休むように。なんだったら医者の手配をしようか」
レンシアは立ち上がり、首を横に振る。
「いえ必要ありません。一晩眠れば回復するでしょうから」
若さが羨ましいなと領主はこぼす。
「では失礼します」
レンシアが出て行ったドアを見て、領主は質のいいクッションの手配もしておこうと考える。多少は馬車の揺れがましになるだろうという気遣いだ。
「しかし大精霊でも夫婦喧嘩をするのだな」
領主は近くに座る秘書の男を見て言う。
「そうですね。初耳ですが、意志ある存在ですからそのようなこともあるのでしょう」
「夫婦円満の秘訣の本でも贈れば機嫌をとれるだろうか」
「馬鹿にしていると受け取られかねないのでおやめください」
「冗談だ、冗談。今後は夫婦として崇めるようにしていった方がいいのだろうか」
「これまで通りで問題ないのでは? 今回問題が起きたのは、我々のせいではなかったのですから。今後も山を荒すような真似をしなければ、これまで通りに鍛冶を主力としてやっていけるはずです」
領主は秘書の言葉に頷いて、レンシアのための書類作りを始める。さらさらと書き上げたものを秘書に渡し、秘書は書類を確認してから渡すべき部署へと持っていく。
秘書が出て行ったあとに、領主は自分以外の領主にあてた手紙を書き始める。今回のことについて説明したものだ。こうでもしないと彼らはチクチクと責めてくる。特に火山を共有する中央領地の領主は鍛冶場が止まったのはバセルテルの人間がやらかしたせいだと決めつけてくることは想像に難くない。そしてバセルテルを向こうへ移すよう要求してくるのだ。
一通目を書きながら、バセルテル住民のやらかしでなくてよかったと領主は安堵の溜息を吐く。
感想と誤字指摘ありがとうございます
今年の更新は今日で最後となります
30日、31日 1月1日、2日まで更新をストップさせていたきます
少し書き溜めしてストックを作っておきたい
三ヶ月弱の間、読んでいただきありがとうございます
来年もよろしくお願いします
それでは良いお年を




