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縁をもらって東へ西へ  作者: 赤雪トナ
57/224

57 影の主

 時間が流れ、夕暮れになり少しずつ砂浜から人が減っていく。

 俺たちも引き上げようと寝ているシャーレを起こした。膝枕を途中で交代したのだ。

 屋敷に戻るとすぐに夕食に呼ばれる。


「全員集まりましたね。いただきましょう」


 屋敷の主ということでフーイン様からトウプル様が乾杯の音頭を任されて、簡単に歓迎の挨拶をしたあと食事の開始を告げる。

 この町周辺で採れたものを使った夕食ということで、魚と貝がメインで並ぶ。シンプルな塩焼き、フライ、つみれ汁に近いもの、貝の酒蒸しやバター焼きやキノコと貝のパスタといった料理だった。

 川そばに住んでいたシャーレにとっては口に合う料理ばかりのようで表情が綻んでいる。

 食事が進む中、トウプル様はフーイン様や隣にいる騎士たちに話しかけていた。庶民の俺たちをはぶるというわけではなく、むしろ気遣って話しかけてこない感じだった。俺たちを見る目は穏やかで、食事を楽しむ邪魔をしないというふうに見える。シャーレやレンソといった加護持ちではない者を見る目も変わらなかったし、特別良い感じはしないけど悪い感じは皆無なんで、あながち間違った考えではないと思う。

 食後俺たちは屋敷を出て、のんびりと歩いていた。

 夕食のときに、トウプル様が雑談の一つとして夜の散歩もいいものだと話していた。魔法の明かりや松明があちこちにあり、巡回もあるので浜や大通りならば安全に出歩けるそうだ。

 夜風に吹かれながらの散歩も乙なものだろうと三人で浜を歩く。ちゃぷちゃぷと水音が聞こえて来て、浜にあるいくつもの明かりが水に反射している。ときに夜の湖や海は恐怖を感じさせるけど、ここは人の姿や明かりのおかげで落ち着いた風景に見えた。

 フーイン様が浜に座り、のんびりとしている姿を見かける。とてもリラックスしている様子だったので、邪魔しないように声をかけずに離れようとして、遠くからなにかが水面を跳ねる音が聞こえてきた。思わず俺も二人も振り返る。フーイン様も音のした方向を見ていた。


「遠くで、なにかでかいものが跳ねる音したよね?」

「はい。あの音は魚が近くで跳ねた音ではないと思います」

「かなりの大きさのものだな。あれがトウプル様が言っていた大きな影が跳ねた音なのか」


 俺たちに気づいたフーイン様が近づいてくる。


「三人とも見たか?」

「ちょうど背を向けていたので音しか。フーイン様は影かなにか見ましたか?」

「ああ、小魚などではない大きさのなにかが遠くで跳ねていた。なにかがいるというのは確実だ」


 なんなんだろうね。一番ありえるのは、最近湖に住み始めた魔物だろう。残党が放り込んだ危ない魔物とかじゃないといいけど。

 少し湖を見ていたけどなにもなく、首を傾げつつ屋敷に戻る。


 翌朝、起きて朝食まで少しあったから、体力づくりを兼ねて三人でジョギングに出る。

 朝のジョギングは気持ちが良いだろうと浜へと移動すると、似たような考えらしい人たちがすでに走っていた。

 涼しい浜辺をざっざっざと砂を踏み走っていると、シェーゾンが磯の方から現地の子供たちと戻ってくるのが見えた。早起きして散歩に出ていたんだろうか。楽しげな表情で、保養地を満喫しているようでなによりだ。

 シェーゾンは子供たちと別れて屋敷へと戻っていく。俺たちもそろそろ戻ろうかと速度を落とし歩いて屋敷に戻る。

 朝食後、少しのんびりして浜に出る。今日もゴザを借り、そこにタオルを置いて水着を借りに行く。

 トランクスタイプのものを借りてささっと着替え、シャーレを待つ。ダイオンも同じくトランクスタイプを借りて、一人湖に向かっていった。


「お待たせしました主様」


 声のした方向を見るとほんのりと肌を赤くした恥ずかしそうなシャーレがいた。大きく肌を露出する着なれないものなので恥ずかしいのか。

 上下黒のビキニで、下はフリルが超ミニのスカートにようになっていて、上も大きくフリルがついている。髪型は変えていてポニーテールだ。

 じっと見ているとさらに恥ずかしそうに身をよじった。


「いいね、可愛い可愛い。髪型もいつもと違って新鮮だ」

「あうぅ」


 両手を頬にあてて照れるシャーレの背を押して水の方へ歩く。

 水着は自分で選んだのか聞いてみると、レンソやトーローさんが選んでくれたらしい。

 水に入るまでにシャーレが泳げないことも聞けた。かなづちではなく、病気で泳ぐ機会がなかったから泳ぎ方を知らないということだった。水を怖がる様子もないから手伝えばすぐに泳げるようになるだろう。


「ひんやりですね」

「だね。昼頃にはもっと気温が上がるだろうし、その時間帯は気持ちいいんだろうね」


 シャーレの腰までの位置の深さまで歩いてきて、そこで止まる。


「とりあえず、最初は潜ってみようか。水を怖がる様子がないから大丈夫だろうけど一応基本からね」


 小学校でやったことを思い出して二人で潜ってみる。

 水精霊の加護のおかげか、水中の様子が日本にいたときよりもわかる。息を止めたシャーレがこっちを見ていて、それに手を振ると振り返してくる。それだけなのに楽しそうなのは水遊びという初めての行為ができたからだろうか。

 一分弱水中にいて、シャーレの様子からなにも問題ないとわかり上がる。


「問題ないね。じゃあ泳ぎ方だ。シャーレの物覚えの良さならさくっとクロールも平泳ぎも背泳ぎも覚えそうだけど、急いでいるわけじゃないからのんびりやろう」

「はい」


 不満などなさそうなので、両手を差し出す。


「というわけでシャーレの両手を持って、バタ足からだ」


 ばしゃばしゃと音を立てて、足を動かすシャーレ。

 バタ足の次は平泳ぎの足の動かし方を教えて、物覚えの良さを発揮して一時間もせずに三種の泳ぎ方を覚えた。

 足のつかないところに行っても怖がる様子もなく、二人でゆっくりと泳ぎ、少し疲れたら上がって休むといった感じで遊んでいた。

 昼食になり、ダイオンと合流して着替えて町の食堂に向かう。

 食後、腹ごなしに散歩し、浜に戻ってまた水着になる。

 また水の中で過ごすかなと思っていたところ、騎士と兵がビーチフラッグをやっていたので、ダイオンと一緒に参加し汗を流す。

 シャーレの応援を受けて頑張ったものの、常日頃鍛えている彼らには負けることが多かった。

 運動で火照った体を水で冷やし、小腹が空いたら近くの屋台で食べものを買って、ひたすら遊んですごした。

 俺たちにとってもいい休暇だったけど、騎士たちにも良い休暇だったようですっきりとした顔で過ごしていた。


 翌朝、今日もジョギングから帰ってきて食堂に入る。

 少ししてレンソも入ってきたが、その表情が不安そうなものだった。


「あの皆さん、シェーゾンを見ませんでしたか? 起きたらベッドにいなくて、トイレかなと思ったけどいつまでも帰ってこないんです」


 皆は顔を見合わせて、見たか見ていないと聞こえてくる。それにレンソは不安さを増した。

 俺たちも見てはない。あ、でも昨日と同じように朝から散歩に行ったのかもしれないな。友達と遊ぶことに夢中になって時間を忘れるって俺も覚えがある。


「昨日この町の子供たちと朝から会っていたのを見たよ。今日もそうで、戻ってくるのが遅くなっているのかもしれない」

「本当ですか?」

「シャーレとダイオンも見てるから」


 二人も頷いたことで、レンソはほっと安堵の溜息を吐く。


「なにも言わずに出ていったことを叱らないと」

「まだ寝ている君を起こすのを躊躇ったんじゃないかな」


 フーイン様が言う。


「そうかもしれませんけど」

「次からは伝言をしっかり残すように言い含めておくといい」

「そうします」


 シェーゾンを除いた全員が集まって、朝食が始まる。結局シェーゾンは朝食が終わっても戻ってこず、かわりに慌てた様子の警備がトウプル様を探して食堂に駆け込んできた。


「トウプル様! 急ぎお知らせしたいことがっ」

「どうしたんだ。慌ただしい」

「湖に通常よりも大きなナルマルムを調査隊が発見。おおよそ五メートルを超すと思われるそれを排除に動こうとしたところ、近くにいた子供たちをさらって逃亡しました!」

「は!? 最近報告のあった大きな影はそれか! 子供たちに怪我などはないのか!?」

「髭でからめとり連れ去っただけで怪我を負わせてはいませんでした」


 もしかしてさらわれた子供の中にシェーゾンがいる?

 同じことを考えた者はほかにもいたようで、警備にシェーゾンのことを尋ねると、酷似した風貌の子供がさらわれたと返ってくる。

 呆然としたレンソをトーローさんが支えて、フーイン様が表情を引き締めて騎士に討伐隊の結成を指示する。

 いっきに慌ただしくなった食堂で、俺たちも手伝おうと武装するため部屋に戻る。シャイマンも情報を得てくると空を飛んでいった。

 武装して屋敷を出ると、同じく武装したフーイン様が屋敷の前に仁王立ちしていた。


「お前たちも手伝ってくれるのか、ありがとう」

「ここまで一緒だった仲間の危機ですから。ところでナルマルムってどういった魔物なんですか?」

「知らなかったか。そいつはナマズの魔物でな」


 まだ騎士と兵がそろっていないため、詳しく説明をしてくれる。

 ナルマルムは雑食の魔物で、普段は湖底や川底といった水中で過ごし、漁師でもないと見かけることのない魔物だそうだ。

 捕獲されたときは大きく暴れる魔物だが、積極的に人を襲うものでもなく、漁師の中には捕まえたとき被害をなくすためさっさと逃がす人もいるんだとか。

 大きく育ったものでも一メートルを超すくらいで、警備の報告にあった五メートルを超すものなど記録に残っていないらしい。

 今回子供をさらったのは、通常よりも大きくなったことで凶暴性を得たせいかもしれないとフーイン様は推測していた。


「そこまで変異したものなど人の手が入っていてもおかしくはない。また残党の仕業の可能性があるな」

「ほんと迷惑な連中ですね」

「まったくだ」


 騎士と兵が集まり、フーイン様の前に整列する。

 フーイン様は休暇中に働かせることを詫びて彼らに子供たちの救出と残党の痕跡が周辺にないか探すよう指示を出した。

 騎士たちはすぐに二手に分かれて動き出す。

 フーイン様は痕跡探しに参加し、俺たちは子供救出へと向かう。

 騎士たちの動きは目立ち、客からなにごとかと注目を浴びている。それらに警備が説明していた。

 警備の先導に従い、俺たちは浜から磯の方へと馬車で移動する。ナルマルムは町とは反対側へ逃げたようで、調査隊が今も追っているようだ。

 二十分ほどで、もともと調査隊がナルマルムを見つけたところに到着する。そこは大きく岩が隆起していて、町からは死角になっている。

 その場に残り応援を待っていた警備によると、調査隊がここにいたナルマルムを見つけたのは、子供の話し声が聞こえて気になったかららしい。危ないことをしていないか、一応目撃証言が得られないかと考えて近づいて、通常サイズを超えるナルマルムを発見し武器を構えると、件のナルマルムは子供たちを髭でからめとって移動したということらしい。

 ナルマルムの移動速度は大きさゆえか遅めであり、陸地を走るなら追いかけ続けることが可能だそうだ。

 話を聞いて、俺たちは急いで先を行く警備を追う。

 そして追い始めて二時間ほどが経過する。さすがにそれだけ走ると体力が切れる者もいるようで、途中先に行っていた警備を拾うこともあった。

 だが追い続けた警備の努力は身を結び、ナルマルムが小島に身を隠したことを突き止めることに成功していた。

 

「あの小島です。ちょっとした洞穴になっていて見えにくいですが、再び動き出せばわかります」

「子供たちはどうなったかわかるか?」

「いえ、子供たちの姿も見えません」


 いまだ捕らえられているということか。洞穴だとシャイマンさんのように飛べる人でも様子はわからないだろうし厄介な。


「持ってきたカヌーを出して接近してみるか?」

「魔物を刺激しないだろうか? 子供たちに被害がでるのは避けたいのだが」


 カヌーの移動音を水流を操作して消せないだろうか? それなら気づかれる確率は下がるはず。でも水の魔法が使われたこと自体に気づかれると音を消しても意味はないかな。

 皆でどう動けばいいか話し合う。子供たちの無事を第一にしているため、魔物を刺激するような思い切った行動がとれず、良い考えはでない。

 一時間ほどあーだこーだと言っていたけど、魔物側の動きもなかった。

 最悪子供たちはナルマルムの腹の中で、今は消化のためゆったりとしているかもしれない。

 皆もそれは想像したようで、カヌーで向かうという方向で話がまとまっていく。

 それでいこうといよいよ動き出そうとしたとき、周辺に「あのっ」と大きな声が響く。シェーゾンの声だ。

感想と誤字指摘ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
[一言] ナルマルムに相当な知性がないと子どもたちは無事ではないでしょうね。 ヌッシー様だったり?
[一言] ふむ? リョウジの勘が働かなかったし、大丈夫かな。 巨大ナルマルム「ヌルヌルヌル!ぼくわるいナマズじゃないよ!」 なんちゃって(=´∀`)
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