36 祭り
祭りがやってきた。今日から三日間開催される。朝から町中が賑やかだけど、舞台は町の外に作られているから、そこの方がもっと賑やかなはずだ。
この宿にも客がいつもより多めに入っていて、レイレーンたちは忙しそうだった。
フェルス様たちは祭り関連で忙しく、メイド長もそれに付き添っているのでメイド教育はできず、昨日でシャーレの教育は終わっている。まだまだ教えたりないので、いつでもまた学びに来なさいとメイド長から言われたそうだ。
そんなシャーレは自分たちの洗濯ものをやっているときに、レイレーンがたくさんの洗濯をしているのを見て、手伝いを申し出て手伝っている。
シャーレとダイオンと一緒に祭りを見て回ろうと伝えていたから、見物の時間が減ることを申し訳なさそうにしていた。それくらいじゃ怒らないと俺たちが言うと、ペコペコと頭を下げて手伝いに戻っていった。レイレーンとの別れが迫っているから、手伝いといっても友達との時間は大切にしてほしい。
俺とダイオンは洗濯が終わるまでボードゲームで暇を潰している。
ダイオンもシャーレと同じく教官を終えていて、祭りを自由に見物できる。参加予定のチャリオット競技は明日予選で、予選に勝てば明後日に本選出場だ。
今日の競技は、明日本選がある小さな競技の予選と自由参加の競技がすでに行われていると聞いている。
賭け事も盛んなようで、賭け金の小さな町主催の馬券売り場には人が多く詰めかけるらしい。賭ける金額が高い非合法なところもあるそうだけど、そういったところは辺境伯様の私兵が常に探していて厳しく取り締まっているようだ。毎年捕まる人がいるそうだけど、毎年非合法の賭け事を主催する人がいなくならないとも聞いた。
「お、そろそろ終わりそうだな」
ちらりと窓の外を見てダイオンが言う。つられて外を見ると、洗ったものを干しているシャーレたちが見えた。それに臨時で雇った魔法使いが温風を当てて乾燥を早めている。
レイレーンはシャーレに礼を言い、シャーレは部屋に戻るため小走りで庭から屋内へと入っていった。
「お待たせしました!」
「走らなくてもよかったんだよ?」
「主様をお待たせしたのですから少しでも急がないと」
さあ行きましょうと言うシャーレを休ませるため、少し待ってもらう。ちょうどゲームが終わりかけなので、それが良い言い訳となった。
十分弱で俺の負けで終わり、三人で部屋を出る。シャーレは今日もメイド服だ。
まずは町中の露店でも見てみようと広場に向かい、周辺の町や村から集まってきた珍品や掘り出し物を見ていく。
俺は二冊ほど本を買っている。ダイオンも教官をやって稼いだお金でほしいものを買っている。
「シャーレも気になるものがあったら言っていいから。高すぎるものじゃなければ買うよ」
「わかりました」
一時間ほど広場をうろついて、買ったものを一度宿に置いて、町の外に作られた競技会場に向かう。
競技用のコースがいくつもあるだけではなく、舞台も作られていて今も演劇が行われていたり、コンサートが開かれているところもある。どこからか現在行われている競技に声援を送る声も聞こえてくる。
人が多くはぐれないようシャーレとは手を繋いでいる。
「すっごい賑やかです」
うるさいほど活気のある会場をシャーレが目を丸くして見ている。
俺は少しだけ頭痛を感じていた。人が多く、様々な感情が渦巻いていて縁の能力が過剰反応してるっぽい。宿で休んでいなければならないほどでもない。
「祭りは村でもあったけど、ここまで賑やかじゃなかった」
「大きな町だからね。ちなみに王都の祭りはこれを超える賑やかさを見せるよ」
ダイオンが言い、シャーレは首を傾げた。
「これを超える? 想像できません」
俺は日本で有名な祭りに行ったことがあるから、なんとなく想像がつく。あれと同じくらいだとすると人が相当に多いのだろうなぁ。
見て回るだけでもそれなりに楽しく、並ぶ屋台で美味しそうだと思ったものを買い、三人で食べながら歩く。
シャーレが小さく溜息を吐く。
「疲れた?」
「ちょっと人の多さに圧倒されて」
「どこか座るところがあったらそこで休もうか」
周囲を見ているとダイオンが俺の肩を叩く。
「あそこなんかよさそうだ」
ダイオンが指差したのは、演劇の区画だ。そろそろ始まるようでまだ席が空いていると呼び込んでいる。
座れるならそこでいいかと三人分のお金を払って、野外舞台の椅子に座る。
すぐに演目の説明が行われる。
『今回の演目は最新の伝説と名高い四英雄の魔獣撃退となります』
「これも定番だね。祭りだと必ずどこかの劇団がやる」
四英雄ってぇと……あったあった。管理者からもらった知識に該当するものがあった。
俺たちと違って、大精霊の手助けなく完全な魔獣を人のみで撃退したようだ。倒すことはできなかったそうだけど、追い払うだけでもすごいことにはかわりない。そりゃ伝説とか言われるだろうな。
それがあったのはだいたい三十年前。戦いがあったのは大陸南部のラムヌ国。豊富で質の良い鉱脈を抱えるそこは物作りが盛んで、四英雄と呼ばれる彼らも傭兵稼業のため質の良い武具を求めて、ラムヌのとある都市を訪れていたようだ。
その都市の近くの山で鶏型の魔獣が誕生し、都市のある方向へ移動を開始した。
魔獣は鳴き声だけで木々を大きく揺らし、木の葉はすべて落ちた。嘴や蹴爪は容易く鉄を切り裂き、移動しただけで木や岩は粉々になったようだ。
都市の長は住民へとただちに逃げるよう指示を出したが、魔獣の発生が都市近くで避難の時間が足りなかった。
そこで傭兵に時間稼ぎの緊急依頼を出した。死にに行けという言っているようなものだが、死んだとしても親族に報酬を届けると確約したことで依頼を受ける者がいた。四英雄はお金に困ってはいなかったが、その都市は仲間の一人の故郷で逃げずに立ち向かうことを選んだのだ。
そして時間稼ぎが始まり、五十人を超える傭兵のほとんどが死に、怪我を負いながらも最後まで戦い生き残った四名が四英雄として名を広めた。
舞台では簡略化された撃退までの流れが演じられている。
被害が報告される場面を見て思う。俺たちが相手したのが不完全な魔獣でよかったと。大精霊の手助けもあってよかった。これを見て魔獣に挑もうという気は起きない。
あのときの傭兵たちが即座に逃げをうったのは、小さい頃からこういった演劇を見ていたことも関係しているんだろうな。
「あのときたいして怪我無く終えられて本当によかった」
終わった演劇に拍手を送りながら、俺の言うあのときがいつなのか理解したシャーレとダイオンが頷く。
怖がったシャーレが当たり前で、不完全体とはいえ挑めたダイオンがすごいよな。俺は深く理解していなかったから、挑めた部分もあったんだと理解させられた。
「こう、なんというか少し精神的に疲れる演劇だったし、ぱーっとなにも考えずに楽しめるものを探そう」
同意してくる二人と一緒に会場を歩き、飲み物を買ってゆったりとしたコンサートを聞いてのんびりする。
その後は調子が戻り、競技を見物したり、食べ歩いたりと楽しんで祭り初日は終わった。
翌日、シャーレに起こされてダイオンも加えて朝食をとる。
今日は一人で行動だ。シャーレはレイレーンと祭り見物だし、ダイオンはこのあと予選のため会場入り。俺はフェルス様から見物席への招待状をもらっているから、少し会場を回ってそこに行くつもりだ。コーダーに新しい本を借りに行ったとき、一緒に見物するか誘ったが断わられた。競馬などには興味はないらしい。祭り自体は少しは楽しむようだ。掘り出し物の本や素材を探すついでにと言っていた。
朝食後、シャーレと部屋に戻り、着替えたシャーレを褒める。二度目だけど何度見ても可愛いものは可愛いのだ。
「小遣いに100デルを渡しておくよ」
銅板三枚と銅貨十枚を財布から出してシャーレに渡す。
「多くないですか?」
「昨日結局なにも買わなかったろう? だからその分も含めているよ」
日本円にするとだいたい六千円くらいで、祭りを楽しむための小遣いとしては多めかなと思うけど、楽しむためだけじゃなく小物とか日常生活に必要なものを買うこともあるかもと思うと、これくらいが妥当かなと思うのだ。
それを伝えると一応は納得してくれたようだった。
「必ず全額使えっていうわけでもないし、楽しんでおいで」
「はい。いってきます」
シャーレが部屋を出ていき、少ししてレイレーンのいってきますという大きな声が聞こえてきた。
俺もでようかな。招待状を忘れないように持って、財布もポケットに入れる。
会場をぶらついて屋台を見ていく。飲食物持ち込み大丈夫と聞いてたからそれらをいくつか買って、特設されたスタンド席への入口に向かう。
招待状を確認すると警備はスタンド席へと続く通路を通してくれる。
もらった席は上から二番目のランクという良いところだった。一番見晴らしの良い席には貴族っぽい人たちが座っていた。視線をそちらから競技場のほうへ移すと、低い位置の席に多く見物客が座っていて、平地にも多くの人がいた。対してこちらはゆったりとしたスペースで気楽に見物ができる。いやー招待状をもらえてよかったわ。
買ってきたものを少しずつつまみながら開始を待っていると、アナウンスが響く。
『メインイベントであるチャリオット競技の予選が間もなく開始いたします。関係者一同は急ぎお戻りください。見物客は押さず走らず安全に気を配り移動をお願いします』
アナウンスのあとに、目の前のコースに審判などが入ってくる。
コースはダートと呼ばれる土砂でできたコースだ。一周だいたい千五百メートルくらいだろう。チャリオット競技はきっちり一周で、もう一つのメインである競馬は二千メートルだとダイオンに聞いた。
チャリオットでは一試合で四チームが走り、競馬では八チームが走る。予選はどちらも八試合。今日は半分のチームが落ちるそうだ。
午前中にチャリオット競技、午後から競馬という流れだ。今日明日という連続したレースなので、魔法での疲労や体力の回復ができるとはいえ、体力の配分も計算に入れて走らせなければいけないようだ。
第一試合の四チームが入ってきて、客は声援を送る。
四チームがスタンド席の前で横並びになり、アナウンスがそれぞれのチームの解説をしていく。チーム名、参加履歴、御者の名前、馬の名前、車体を作った工房といったものを十分かけて紹介し、開始寸前だと告げ、静かにするように言ってくる。
会場が静まり、櫓に上がっていた審判がフラッグを持ち上げる。フラッグが掲げられて、すぐに下ろされた。
『各車スタートです! まず飛び出したのはグラックロックチーム! それを追うのはセファードチームにクランフトチーム! ファボリットチームは後方から様子見のようだ!』
テレビで聞いたことがある競馬実況のようなものが始まった。それらを聞きながら観客たちは声援を送る。
やがてコースを一周してきたチャリオットがスタンド席の前に戻ってくる。チャリオットはそれぞれがラストスパートをかけており、ゴールめがけて突っ込んでいく。歓声が彼らを包みながら順位が決まっていった。
うーん、正直観客ほどのめりこめないな。詳しく前歴がわかっていれば、対戦相手との関わりとか出場するまでのドラマとかわかって応援にも熱が入りそうなんだけど。もしくはお金を賭けてたらかな。
たしかレースに関しての資料が売られていたはずだから、あとで買ってみようと決めてのんびり見物し、ダイオンたちの出場を待つ。
誤字指摘ありがとうございます




