0430 ギルド改革その1 滞納野郎に天誅
「キタキタキタキヤシター! 婿殿!バンバン討伐依頼が来てやすぜー!」
教会で洗礼を受けギルドで冒険者登録した翌日、3月9日の水曜日の朝。
始業時間早々からギルドには駆け込んで来る依頼者が殺到した。
不思議なことにその依頼内容は全て同じ。
『建物に侵入した魔獣ソウスカンクの討伐』だ。
依頼者はその建物の借主、または管理人だった。
「計画通り」ニタァ
昨日の深夜にローラが引き連れていった精鋭の魔獣たちが攻撃を開始したのだ。
その魔獣こそソウスカンク。
見た目はまるでリスのようにキュートだ。
しかし、その身にはとんでもない最終兵器が仕込まれている。
お尻から悶絶必至の悪臭をぶちまけて嗅覚のある生物全てに地獄を見せる・・・
まさに、最臭兵器。
そのリーサルウェポンが今朝、この町の至る所で一斉に解き放たれた。
ただ、何故かその場所は特定人物が所有する物件ばかりだったという。
「ギルマス、この次はどう動くか分かってるな?」
「へい、使えない六等冒険者たちを現地に行かせやす」
「そうだ。ただし、着手金は一切受けとっちゃダメだぞ」
「分かってやす。婿殿がシナリオ修正した大事な所ですからね」
そういうことだ。
当初のローラ案のまま、ギルドが正式に依頼を受けてしまったら、ただでさえ最低の依頼成功率がさらに急激に落ち込むことになる。それでは不味いのだ。
ここを弱小から強豪ギルドに変革しなくてはならんのでな。
「被害住人のための代替物件はちゃんと準備できてるって話だったよな?」
「抜かりありやせん」
滞納野郎に営業妨害されてた他の不動産屋を上手く抱き込めたようだな。
この点も俺が修正した部分だ。ローラが考えた作戦では流れ弾を受ける被害住人のことは全く考慮されてなかった。せめてこのぐらいはな・・・
「現地に行った冒険者にその物件情報を持たせたか?」
「もちろんでさー」
うむ、これで被害住人も支援できて泣かされてた不動産屋たちも救われる。
「ラムンGJ」
「なんか照れやすぜ。でも、ありがとうございやす」
照れることはない。今のところ本当に良い仕事してくれてる。
もちろん、お前もだ。何日もソウスカンクを特訓した甲斐があったな。
「ローラGJ」
「朝飯前なのデス」
「おおぅ、頼もしいぞ。さすが森の妖精だな」
「いえ、本当にまだ朝飯前なのデス。肉はどこでスカ?」
くっ、ちょっと見直してやったら途端にこれだ。
だがまだコイツには大事な仕事がある。餌付けしておかねば。
「ギルマス、すまんが誰かに頼んで朝肉定食を出前してもらってくれ」
「承知しやした。そのまま3階の冒険者窓口で引き続き指揮をとりやす。何かありやしたらまたここへ報告にきやすぜ」
「ああ、頼んだぞ。今日がギルド改革の初日だからな。気張って行こう」
「へい。じゃあアタシはこれで」スタコラサッサ
今日はいつになくラムンの顔が真剣だったな。
奴なりに思うところがあるんだろう。
「エマとティアの動きはどうだ?」
「お婿様の計画通り、朝からアトレバテスのデパートに向かったのデス」
「よしっ、この騒動にエマを巻き込む訳にはいかないからな」
もっと上の地位に就けるために魔乳司祭には綺麗な体でいてもらわんと。
「ヴィンヴィンとレイラちゃんはピーナと一緒に金庫番のリハだよな?」
「そっちもギルドの予定通りですネ」
うむ、リハを中止してソウスカンク討伐に行かれたら困るところだったが、この騒動から距離を置くようピーナに画策させてるから大丈夫のようだ。
ふぅ、あとは昼まで様子見ってところか。
今ごろ、ド外道の滞納野郎は頭を抱えている筈だが、どんな気分かな? ククク
「ボス! パン窯通りの共同住宅の住人が悲鳴を上げながら逃げてます!」
「ヤドカリの貧乏人どもはほっとけ!」
「ボス! 五番街の靴屋が悪臭騒ぎになってます!」
「テメーらの足がクセーんだと突っぱねとけ!」
「ボス! 弟さんの肉屋が店の中でやられました!」
「役立たずが! 自分の贅肉を切って売れと伝えとけ!」
「ボス! 新築したばかりの宿屋が黄色い瘴気で包まれてます!」
「バカヤロー! まだ元すら取れてねーんだぞ!」
「ボス! 某市長の貴族に貸した愛人宅が奴らに乗っ取られました!」
「チクショー! あの貴族と切れたら後ろ盾が消えちまうだろがぁ・・・」
「ボス! 稼ぎ頭の娼館が異臭騒ぎでサツの手入れを受けてます!」
「ふざけんなぁぁぁ、あそこだけはマジでヤバイんだって・・・」
「ボス! 討伐依頼を出したギルドから派遣された冒険者はみんなお手上げで直ぐに帰っちまいました!」
パリーン!
高価なワイングラスが壁に叩きつけられ砕けて散った。
手下たちから続々と報告される被害状況に、普段から慣れてない『我慢』の限界に達しブチギレしたのだ。
「ド畜生がっ、何で俺の物件ばかりがトラブってんだよ!?」
荒ぶる悪徳不動産屋の問いに答える者は誰もおらず、豪華な部屋には不可思議な疑問が葉巻の煙と共に宙に浮いたまま漂っていた。
昼過ぎにギルドから来たという二人の訪問者が現れるまで。
「こんにちは! 冒険者ギルドから来た者でーす」
俺たちは昼飯を食べてから、満を持してド外道の不動産王の家へ乗り込んだ。
てんやわんやで来客などに構ってられないという状態だったので、勝手に上がり込んでズンズンと奥へ進み、豪華だが台風被害にあったかのような一室でターゲットを発見した。どうやら相当参ってるようだな。計画通りだ。ククク
「あなたが、ウェラウニの不動産王アーク・ドイルさんですね?」
俺の言葉に焦点の合ってない目でボンヤリしていた男がやっと我に返った。
「なんだお前ら?」
「ギルドから火急の用件で来た冒険者です」
「テメーら逃げ帰ってんじゃねーよ! とっととあの魔獣を何とかしやがれ!」
「おやおやぁ、あなた何か勘違いされてますよ」
「あぁぁん?」
「僕たちが来たのは別件ですから」
「は? じゃあ何しに来やがったんだよ!?」
「もちろん、成功報酬の滞納料金を徴収しにきたんですよぉ」ニタァ
「ふざけんなぁぁああああ!!」
パリーン!
俺に向かって投げつけられたワイングラスが何故か空中で砕け散った。
見えなかったし気配すら感じなかったがローラの仕業だろう。
俺は内心、冷や汗をかきながら平静を装ってシナリオを続ける。
「明日の正午に滞納金を持ってショッキングドンキーへ来てください」
ガラス張りの高価なテーブルの上にうやうやしく請求書を乗せてやった。
「誰が行くか!」
さっきのワイングラスで俺たちが只者じゃないと察したアーク・ドイルは、少しひるみながらも簡潔に拒絶してきた。だがしかし・・・
「お前は絶対に来るよ」
「あぁぁん?」
急に口調と表情が変わった俺を警戒しながらアークはその意味を考える。
ふん、まだ自分の置かれてる立場が分かってないのか。今、教えてやるよ。
「だってそうしないと、この家も危ないんじゃないかぁ?」ニタァ
「ボス! 正面玄関に奴らが出ました!」
「ボス! 裏庭にソウスカンク出現!」
「ボス! 屋根の上でアイツらが逆立ちして臨戦態勢に入りました!」
手下たちがまた続々と悲報を告げては立ち去って行く。
「ぐぬぬぅ、貴様らの仕業かぁあああ・・・」
やっと気づいたか。おせーよ。
だがそこは否定も肯定もしてやらん。
俺がお前に与えてやるのは別の情報だ。
「あの魔獣を退治できるのは、この俺だけだ」ドン!
「カッコつけてんじゃねーよ! ただのマッチポンプじゃねーか!」
それがどうした。堂々と踏み倒すお前よりマシだろう。
「俺が退治してやった後、物件に残る悪臭の対策もあるんだぞ」
「あぁぁん?」
「それにはレベルの高い魔術師が必要だよなぁ」
「あっ・・・」
「ギルドはもう受けねーぞ。クソ迷惑な滞納野郎の依頼はな!」
「くっ・・・」
ド外道の不動産王は歯ぎしりしながらワナワナと体を震わせていた。
こいつは悪党だが経験値の高い商売人でもある。
だから最後には正しい答えを出すはずだ。
じゃあ、俺らはそろそろ引き上げるか。
「それでは、明日の正午に極肉食堂ショッキングドンキーでお待ちしてます」




