0170 はじめての冒険者ギルド
「私・・・イクゾー君みたいな優しいお兄ちゃんがほしかったの」
え、欲しいのはお婿さんじゃなくてお兄ちゃんなの?
うーん、まだ12歳でお姉さんたちとの家庭環境が複雑そうだったから、実際はそんなところなのかもしれないなぁ。
どうやらレイラちゃんに必要なのはヨゴレの婿じゃなくキレイな兄みたいだ。
俺のガラじゃないがせめてこのひと月だけは良い兄を演じてあげよう。
「僕で良かったらお兄ちゃんになってあげるよ」
「本当に?」
「もちろんさ、僕もレイラちゃんみたいな綺麗なお姉さん、いや、可愛い妹が欲しかったんだ」
「嬉しい!ありがとうお兄ちゃん!」
レイラちゃんの抱き着き&頬ずり攻撃が威力を増してくる。
しかし、俺のほうはもう欲情があまり湧いてこなかった。
まさかの兄妹願望に毒気を抜かれて賢者モードに入ってしまったのだ。
ま、こういうの悪くないよな。
コツコツコツコツ
ハッ、誰か来る!!
この体勢は不味い。
エマさんに見られたら誤解される。
お兄ちゃんだからなんて言い訳が通用する訳がない。むしろ危ない。
「レイラちゃん、テーブルの下にあるそれって何かなぁ?」
かなり強引に無理くり話題を振ったが素直なレイラちゃんは乗ってくれた。
俺から体を離してテーブルの下にある籠を覗き込む。
「これのことぉ? これはただの新聞だよ」
新聞!
そんなものがあるのかっ。
この世界の情報が欲しい俺には願ったり叶ったりじゃないかよ。
どうにかして読まないと。
ガチャ
リビング正面のドアが開いた。
入ってきたのは本当にエマさんだ!
ふぅ、ギリギリ助かったわぁ。
「アレー様、おはようございます。レイラもおはよう」
「おはようございます!」と元気なレイラちゃん。
「おはようございます。エマさん」
あぁ、今日もまた一段とお美しい。
ベージュ色を素地にしたノースリーブの上衣とフレアミニスカート、足には膝上高くまで黒のストッキングが。
つまり、絶対領域が存在する!
それでいて上品な人妻のような雰囲気。本当に素敵ですよエマさん。
「アレー様がこんなに早起きとは存じませんでしたわ。今お茶をお淹れしますね。それとも冷たいミルクがよろしいですか?」
うん、是非この世界のミルクを飲んでみたい。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えてミルクを頂けますか」
「はい、かしこまりました。レイラも飲みますか?」
レイラちゃんは大きく頷いて礼を言う。
しかし昨夜のイチャコラが効いているのだろうか、エマさんは上機嫌でニコニコしながらキッチンのほうへ向かっていった。よーし今日もイチャコラするぞー。
おっと、魔乳天使エマさんが好き過ぎて大事なことを忘れていた。
「レイラちゃん、その新聞を見せてくれないかな?」
「いいよー」
レイラちゃんはテーブルの下から籠を引っ張り出して、中に積まれていた新聞をいくつか取り出し渡してくれた。
大きさは地球のタブロイド判といったところか。
タブロイド紙同様に二つ折りになっていて枚数は一枚だけだ。
写真はまだないみたいだが挿絵は付いている。
「レイラちゃん、僕はまだこの国の文字が読めないんだよ。何か面白そうなニュースがあったら読んでみてくれる?」
「うん、分かった。じゃあちょっと貸して」
俺から受け取った新聞にざっと目を通していたレイラちゃんがウフフと笑った。
「どうしたの?」
「郵便配達のおじさんが、ある家には怖くてもう配達にいけないって」
「幽霊でも出たのかい?」まさか殺人か?
「ドアの郵便受けに手を入れて投函しようとしたら猫ちゃんに引っ掻かれるからだって!」
アハハハハと楽しそうに笑うレイラちゃん。
とんでもないチキン配達人もいたもんだ。
しかし、そんなものがニュースになるとは平和な国みたいだな。
「うわぁ、気持ち悪ーい」
「今度は何かな?」
今度こそエログロ殺人か幽霊騒動でも起こったか?
「男の人が干してあった女の人のパンツをたくさん盗んだの」
下着ドロかーい!
この世界にもいるらしいな。下着フェチが。
まったくどんな異世界でも男はみんな一緒か。
「でもどうして男の人が女の人の下着を盗むの?」
「えっ! 分からないの?」
「うん、分かんない。教えてイクゾー君」
くっ、これは何と答えるのが正解なんだ?
レイラちゃんだっていつ被害者になるか分からないんだから本当のことを教えてあげるべきだろう。
しかし、そんな男のドス黒い欲望を知ったらピュアなレイラちゃんがどうなってしまうのか・・・
「ただただ、欲しかったんだと思うよ」
決して嘘じゃない。
俺に言えることは、今はこれが精一杯。
「フーン、そういう男の人もいるんだぁ。イクゾー君は?」
「は?」
「イクゾー君も女の人の下着がほしいの?」ズバーン!
キレッキレの剛速球!
どうすんのこれ? どうやって打ち返したらいいの?
「私の下着だったらどれでも好きなの持っていっていいよ?」
天使かよ!
あのイカサマ天使なんかよりレイラちゃんのほうが遥かに尊いよ!
ここは断ることはできないな。
いや、エロい意味じゃなくて、ここで断ったらレイラちゃんが傷つく。
俺にとって自分の下着は価値が無いんだと思って悲しむだろう。
実際、ちょっと不安げな顔で俺の返事を待っている。
だから仕方ないんだ。不本意だが下着ゲットするしかないんだっ。ムフ
「ありがとう。今度レイラちゃんの部屋に貰いに行くね」
「うん、待ってる!」
花が咲いたような笑顔で喜んでいるレイラちゃんが眩し過ぎるわ。
本当にこんな良い子が嫁候補なのに嫁にできないなんて。
エマさん一択とはいえ、心が苦しいわ。
「お待たせ致しました」ガチャ
俺の愛情メーターを計ったようにエマさん再登場。
大丈夫ですよ。
レイラちゃんへの好感度が少し上がりましたけどエマさんのはずっとMAXですから。
「あら、新聞を読んでいたのですか?」
テーブルに3人分のミルクを置いて俺の左隣に座ったエマさんが訊いてきた。
「はい、僕はまだ文字が読めないので勉強がてらレイラちゃんに読んでもらってました」
「それでしたら書斎に入門用の教本がございますわ。レイラ、取って来て差し上げて」
「は~い、じゃあちょっと行ってきますね」
素直なレイラちゃんは口の周りに白いおひげを付けて2階に上がって行った。
それを見届けたエマさんが俺の左腕を抱き締めながら寄り添ってくる。
うほっ、早速こんな朝っぱらからイチャコラ・タイムですか!
もちろん望むところですよ、エマさん。
「下着が欲しいなら欲しいと言って下されば良かったのに」ハァ~
な、なんですとー!?
聞いてたんですか・・・
もしかしてドアのところで聞き耳を立ててらっしゃたんですか?
初めて俺はエマさんのことを「怖い」と思ってしまった。
これが行き遅れ年増女の情念ってやつなのか・・・ゴクリ
「イクゾー君はレイラちゃんと仲良しですものね。仕方ありませんわ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
こ、これはイカン。
すぐに大魔神エマ様を鎮めなくては!
「欲しいです!エマさんの下着が凄く欲しいです!」
「別に無理に貰っていただかなくても良いのですわ。ご迷惑でしょうから」
「本当です!今穿いてるのを脱いで直ぐに下さい!」
「えっ、何を仰るんですか・・・そんな破廉恥なこと・・・」
「早く!レイラちゃんが戻ってきちゃいますから早く脱いで!早くぅぅぅ!」
「持ってきましたよー」
レイラちゃんが階段を下りて教本を掲げながらソファーに戻って来た。
「あれ? エマさん顔が赤いですよ。熱があるんじゃないですか?」
「だ、大丈夫ですわ。ワタクシ、朝食の準備がありますのでこれで失礼しますね」
そそくさとキッチンへ向かうエマさんの足取りがちょっと変だった。
30分後、俺たちは皆ダイニングのテーブルに座っていた。ヴィンヴィン以外は。
「遅いですね。私が呼んできましょうか?」
ガチャ
レイラちゃんが腰を上げようとしたその時に、ヴィンヴィン登場。
「おはよう、ヴィー。ですが、アレー様をお待たせするのは良くありませんわ」
「私のせいじゃないわ。なぜか昨日はよく眠れなかったのよ」チラ
ドキドキドッキン!
やっぱり夜這いに気付いてたんだな。分かっちゃいたが恐ろしい。
でも本当にどうして昨夜の内に俺を殺さなかったんだ?
まさか今から皆の前で俺を糾弾して吊るすつもりなのか・・・
だが、青肌の女魔導士は自分の席に大人しく座って特に何も語らない。
くぅ、ヴィンヴィンの思惑が全く分からん。
いや待てよ、もしかして、許してくれてるってことはないかな・・・
昨日の俺の舌テクで墜ちてしまったとか。実は既にデレてる!?
激甘なポジティブシンキングなのは百も承知だが確認の必要はある。
ちょっと探りを入れてみるか。
「おはよう、ヴィンヴィン」
<ヴィンヴィン>のところに愛情のスパイスを振って言ってみた。笑顔付きで。
「だから呼ぶときは、さんを付けなさいって言ったでしょこのエロ助!!!」
ヒャーーーッ!
暗黒の瞳の中で炎が燃えてたわ。殺意が光ってたわ。
「もう本当に申し訳ありませんでした! ヴィンヴィンさん」
「分かれば良いのよ、分かれば、ね」ニヤリ
そう言って彼女はクククと邪悪そうに笑っている。
「ヴィー! いい加減にしませんとワタクシも怒りますわよ」
「はいはい降参降参。それよりも早く食べましょ」
「エマさん、ヴィーはお婿様とじゃれてるだけなのデス」
「そうだったんだー。じゃあ心配いらないね」
「悪ふざけにも限度がありますわ」プンプン
「エマさん、僕は気にしてませんから」
そう言いながらズボンの右ポケットから少し布地を出してエマさんにだけ見せる。
効果てきめん!
エマさんは頬を染めながら小さく「もぉ」と言って機嫌を直してくれた。
「皆さんの今日の予定はどうなっているのですか?」
「はい、お婿殿を迎えて契約の条件が整いましたので、本日は冒険者ギルドへ行き本契約を結んだあと仕事の詳細を詰める予定ですわ」
「皆さん全員で行かれるのでしょうか?」
「はい、そうなります。少しの間アレー様にはお寂しい思いをさせてしまいますが、お昼には一度ワタクシが戻って食事のお世話をさせて頂きますわ」
二人っきりでランチか!
それは願ってもないことだけど、ぶっちゃけ自分を抑えられる自信がない。
そんな状況になったら絶対に襲ってしまう。
だって、溜まってるんだよ。
15歳思春期少年の性欲はもの凄いものがあるんだよ。
昨日一日吐き出さなかっただけでえらいことになってるんだよ。
凍死しそうだったから忘れてただけなんだよ。
という訳で、残念だけどエマさんとのラブラブランチは泣きながら撤退だ。
「僕も一緒に冒険者ギルドへ連れて行ってもらえませんか?」
「それは構いませんけど、退屈されてしまいそうですわ」
「いえ、異国人の僕には何もかもが新鮮で楽しいですから」
「そうですわね。それではワタクシどもとご一緒ください」
「はい、僕の我儘をおきき入れ下さってありがとうございます」
「ギルドなんかへ喜んで行きたがる人の気がしれないわ」
「誰かさんはお婿様と一緒にいられて嬉しいのデス」
「私も嬉しい!」
そんなこんなで俺は皆と一緒に冒険者ギルドへ行くことになったのであった。
朝食後、皆は外出のための着替えと支度をしに部屋へ戻った。
その必要がなかった俺は一人リビングで待機中だ。
しかし、ギルドに行くのって結構ワクワクするもんだな。
一体どんなところなのか。
やはり酒場みたいになってて木製のジョッキでエールを飲みながら同じ冒険者たちとワイワイやってるのが定番だよな。
そこで武勇伝を語ってたりとか吟遊詩人が歌ってたりとかするんだろうなぁ。
さらに、危険な香りのする女冒険者が誘惑してくるところまでがギルドだよ。
ふふふ、楽しみだなぁ。
「昨夜は大変なことをしてくれたわね」
バックンバックン。心臓が跳ね上がった。
その声と内容は言わずと知れたヴィンヴィンさんですよね。
振り向くと紫色のローブを全身にまとったツンドラ魔導師が立っていた。
「そ、それは一体何のことを仰ってるのでしょうか?」
「ハァーン、アンタまさかあれだけのことをしておいて白を切るつもりなのかしら?」
「それは心外ですね。僕が何をしたのか具体的に教えて下さい」
「深夜に夜這いに来て私の全身を舐め回していったわ」
「背中と脇だけだ!」
「アッサリと吐いたわね。チョロすぎるわ」
お前にだけは言われたくない。
だが今回は俺の負けか・・・いやまだだ!
「しかし、それを証明するものは何もないのでは?」
「15センチ」ズバッ
ど、どうしてそれを!?
なぜ俺の勃起したチン長をこの女が知ってるんだっ。
あり得ない。そんなことある筈がない。
きっと、こいつが魔法か何かで調べたんだ・・・
「あれだけグイグイ押し当てられたら鈍いミノタウロスでも分かるわよ」
えー、また俺やっちゃいましたぁ?
いや待て、そんな記憶は一切ない!
「僕はそんなことはしなかった筈ですよ」
「アンタが寝てる時にやってたのよ! 一晩中!」
「う、嘘だっ」と確信をもって言い切れない自分が情けない。
「お陰でこっちは寝不足もいいところよ」
「・・・だが、僕のチン長を知っていたところで何になるのかな?」
「アレを押し付けられたエマも知ってるわよね」
「あっ!」
「エマにアレの長さや太さや熱さを教えてあげたら面白いことになりそうだわ」
「ぐぬぬぬぬぬぅぅぅ」
これだったのかぁ。ヴィンヴィンの思惑は。
俺の弱みを握ったまま良いように操るつもりだったんだ!
だから、俺を殺しもせず、誰にも言わずにもいたんだな。小悪魔め。
「さあ、自分の立場が分かったら今後は言動を改めることね」
「・・・御意」
仕方ない。今は堪えるしかない。
きっと何か対抗策があるはずだ。
早くそれを見つけなくては。
「また二人でじゃれてますネ。すっかり仲良しさんなのデス」
また気配を感じさせずにローラがリビングに出現した。
行き先は職場なのに着ているのはボンデージ風の黒のミニスカタイトドレス。
なんかイロイロはみ出ていた。
突っ込んだら負けだと思う。
「お待たせしましたー」「お待たせ致しました」
レイラちゃんとエマさんもやってきた。
アレ?
レイラちゃんは戦闘服じゃないんだね。
普通にレザーアーマー着てるよ。ミニスカの。
エマさんは昨日と同じ黒の修道服姿だ。ミニスカの。
なんかこの国ってミニスカが流行ってるのかな?
正面玄関から外へ出ると、エマさんがスチームカーを回してきて全員が乗り込み町へと向かう。
俺は助手席に乗ろうとしたけどヴィンヴィンに止められた。
アンタが隣にいたらエマが興奮して事故起こすからダメだそうな。
一理あったので俺もエマさんも渋々承知した。
5分もしない内に町へ到着し魔獣返しの水路にかかる跳ね橋を渡った。
そのまま町の中央通りを徐行で2分ほど走り、一際高い建物の敷地へ入った。
煉瓦造りのモダンな建物だった。
これが冒険者ギルド・・・?
エマさんを先頭に俺たちは正面入り口から中へ入っていく。
そこにはまるでハローワークのような光景が広がっていた。
横に長く広がるカウンター。その奥で対応する職員。
依頼の内容が簡単に書かれた紙がズラッと掲示されているボード。
そして仕事を求めてやって来ているたくさんの非冒険者。
「さ、酒場はどこにあるんだ・・・?」
「アンタって本当に馬鹿ね。ここが冒険者ギルドだって分かってる? 皆が真剣に仕事を探しに来る場所に酒場なんてあるわけないでしょ!」
いや、だって、ギルドって言えば酒場だよ?
それがお約束ってもんだろ。俺は悪くないぞ。
だが言われてみればその通りだよな。
仕事の斡旋所で酒なんて出しちゃダメだわ。
「アレー様、ワタクシたちは受付で登録を済ませないといけませんので、しばらく向こうの待合室で休んでいて下さいませ」
「了解しました。それではまた後で」
室内の角にパーティションで仕切れたスペースがあり、いくつかのテーブルと椅子が置いてあった。
そこまで歩いて行くと先客が一人いた。
見覚えのある男だ。
パッとしない中年だ。
ここウェラウニの町長だ。
俺を女冒険者の家へ婿入りさせた張本人だ。
そう、たしか名前はラムンといったな。
しかし、町長がなんで冒険者ギルドなんかに来てるんだ?
ふふふ、もしかしてクビになって職探しに来たとか。
いや、冗談抜きであるかもしれん。
むしろこれまで町長をやってたのが不思議なぐらい冴えない男だからな。
まぁ、とりあえずお礼がてら挨拶をしておくか。
「ここで何をしてるんだ、ラムン」
ビクッとした中年男はこちらに顔を向けると恐怖に身を震わせながら言った。
「げぇ、婿殿! あたしを恨んで化けて出てきやしたかっ!?」




