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 怒涛の進撃で49階層へと辿り着いた薫たち。残すは、あと2階層。だが、感慨に耽る暇などなかった。


 そこは、怒号や悲鳴が飛び交う戦場の真っ只中であった。なんと、エルフ同士で激しく相争っているのだ。


 よくよく見れば、片方はもう見慣れてしまった森の妖精エルフ。もう一方は、長く煌めくトウヘッドを振り乱しながら奮戦する真祖・エルフ。その周りには、1つの《《死体》》と、数多くの魔石が散乱している。魔石は、1個8万SPの価値がある物だ。


 エルフの方は100体を優に超えて圧倒的に数でまさっており、真祖・エルフの方はたったの2体しかいない。エルフも結局はモンスターなので、人間を見つければ襲い掛かってくるのだ。

 しかし、真祖・エルフは赤色ではなく緑色で表示されている。それが理由で、エルフ同士で争っている模様。


 薫は、不確定要素である真祖・エルフの2体をさっさと排除しようと思ったが、何を血迷ったのか、春人は薫を牽制する言葉を吐きながら飛び出していった。


「あの2人へ絶対に攻撃すんじゃねえぞ、兄貴」


 突然の闖入者に、一瞬動きを止めた2種族だったが、エルフたちは春人とその従魔にも魔力矢と魔法で攻撃を始めた。


 薫は春人へ静止の声を掛ける前に、守れと命じた。薫の意を受けたタマたちは、即座に行動を開始する。


 サクラは、春人に襲い掛かる魔力矢を神力開放で3つの顔と6本腕となり剣と槍を振るって叩き落し、魔法に対しては霊弾を放って打ち消しつつ、密集しているエルフたちを地獄の炎で生成された鎖で地面へと縫い付ける。


 タマは、招き猫で春人の運を上昇させて不幸な事故の確率を下げながら、テレパシーを使ってエルフたちを混乱させる。


 リリスは、タマによって混乱したエルフたちに幻影術で幻を見せて命中率を低下させ、下僕召喚で使い魔を4体喚び出し、春人とその従魔を守らせる。


 戦闘は、あっという間に終了した。相手が消耗している可能性もあったかも知れないが、例え万全であってもタマたちの敵ではない。鎖によって地面に縫い付けられたエルフたちは、HPを継続して削られており、その姿を次々に魔石へと変えていく。


 春人は、真祖・エルフの手前2mで立ち止まると、会話を始めた。警戒はされているようだが、お互い様である。春人は、新しく自分の従魔としたエルフのエリィも交えて、HPMP回復薬などを提供しながら、真祖・エルフと会話を続けている。


 薫たちは最初の位置からほとんど動いておらず、周囲に散乱している魔石を回収している。たった1個で8万SPも手に入るのである。回収しないなんて、そんな勿体ことをする者はこの場にはいない。何せ、無いと困るが有っても困らないものだから、当然の結果である。


 薫たちは、レベルアップの恩恵で聴力もすこぶる良くなっているので、密密ひそひそと話していなければ聞き取れるので、当然の如く春人たちの会話を聞いている。


 話を纏めると、真祖・エルフはこのダンジョンの同じ場所で3体同時に生まれたようだ。なぜか、自身の名前がアインス、ツヴァイ、ドライと認識できていたらしい。しかも、アインスがリーダーであることも3人の共通認識であったそうだ。


 彼らは、この階層でエルフたちに襲われながらも、時に逃げ隠れ、時に反撃を繰り返しながら、生活していたそうだ。といっても、たった2日ほどだという。本人たちにしてみれば、とても濃密な危険と焦燥の日々であったのだろう。


 しかし、逃走の日々も今日で終わりを迎えた。3人は、数の暴力でここまで追い込まれたそうで、るかられるか、互いに生き残りをかけた戦争になったのだという。


 その結果が、今は2人。真祖・エルフのツヴァイは、奮戦むなしく死んでしまい、2人の足元に転がる死体、つまり永遠の眠りについてしまっている。


 

 そこへ、タマたちが戻ってきた。薫は、1体1体の頭を撫でながら褒めて労ってあげた。タマたちは、頼んだことをきちんとやり遂げたので、ご褒美である従魔のおやつも渡した薫である。

 とても良好な主従関係にある薫たちであった。


 薫は両親と春香に念話を使用して、意見を聞くことにした。


(これって、イレギュラーだよね。3人はどう思う? エルフなのに実体を持っているモンスターでいいのかな?)

(父さんたちの時は、しゃべる木型のモンスターだったからな。ケースはちがうが、あのエルフは血が出ているだろう? 今までのモンスターは血が出る前に全て魔石化している。それに、お仲間とやらの死体も残っているしな)

(確かにそうね。モンスターは、今まで一貫して敵意を持っていたでしょ。でも、あのエルフたちは春人への攻撃を躊躇したのよね。話からすると、あのエルフたちはダンジョンで生まれたのは間違いなさそうだけど、モンスターと決めつけるのは早計よね)

(あちらのエルフさんは、こちらへの敵意や害意もないですし、何よりも日本語で話が出来ているので、不戦の意思が確認できれば、こちらから敵対する必要はないと思います)

(イレギュラーって、日本語を喋れるってところは共通してるよね)

(やっぱりダンジョンは面白くて最高だな)

(本当よねえ。交換屋も次いつ会えるか楽しみだし、ハイエルフよりも最上位っぽいエルフと意思疎通できそうだし。来てよかったわ)

(私も来てよかったです。雫もとても楽しんでいますから)

(あっ、そうよ。春人が持っている手加減スキルみたいなのを雫ちゃんって覚えられないのかしら? 交換屋でもっと詳しく調べていれば良かったわね)

(くっ。何たる不覚。美玖の言う通り、今度交換屋を見つけたら、問い質すことにしよう)

(あ~、あの時は寝てたもんね。その考えには僕も大賛成。雫に叩かれるとかなり痛いから、僕と従魔以外が普段着で接したら、命の危険があるからね)

(ごめんなさい、薫くん。雫には叩かないように言って聞かせるから)

(叩かれたのは僕にも原因があったから、気にしないで。宝箱から手加減系のスキルオーブが出たら、雫に使ってもらう事にするよ)

(今薫は、スキルオーブをいくつ持ってるんだ?)

(44個あるよ。帰ったら見せるから、欲しいのがあれば使って良いよ)

(そんなに貯まっているなんて、相当宝箱を開けたのね)


 薫たちの話題がエルフから逸れていると、春人たちと一緒に2人のエルフもこちらへとやって来た。ドライがツヴァイの死体を抱えて。

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