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 43階層へとやって来た薫たち。

 眼前には、41階層と同じように深い森が広がっている。


「この階層には、エルフがいるぞ。春人、テイムするか? テイムするなら、焼き払うのを待ってやるけど、どうする?」

「俺がテイムするのはハイエルフだっ。んー、でも練習は大事だよな。だから、1体やってみるぜ」

「早めにしろよ。あいつら、もう弓で狙ってるから」

「マジか!? どこから狙ってんの、俺には分かんねえけど」

「5km先の木の上部からだよ」

「サンキュ。あー、用心の上位スキルってねえのかな? レベルMAXで範囲が3kmって狭いわ」


 愚痴をこぼしながら、春人は従魔と一緒に進んでいく。


「確かに春人の言う通りだな。ダンジョンが広いのは構わないが、モンスターの射程距離まで用心でカバーできないのは、ちょっと辛いな。タンサクンと視覚リンクとか出来れば問題ないんだが」

「レベル50になればあるから、普通にレベルを上げた方が良いと思うよ。あそこで交換してたとしてもランクが足りないから、最低でも20年寿命が縮むことになったろうし。それとは別のスキルを見てたみたいだけど、どうして交換しなかったの?」

「そこはあれだ。最初のスキルオーブは、自分たちで出した物を使いたいからだ」

「もしかして、母さんも父さんと同じ考えとか」

「うふふ、そうよ。可笑しいかしら? それとも心配?」

「いや、皆にも優秀な従魔たちがいるからね。心配はしてないよ」


 このような会話をしている間も、魔力で構成された矢が雨のように降り注いでいる。春人は、従魔の後方から鞭で矢を叩き落して移動しているものの、その距離はまだ500mほどしか進めていない。春人の従魔たちも魔法やスキルやアーツで攻撃をしているようだが、相手に届く前に迎撃され無効化されている。


「時間が掛かりそうだなあ。がんばれよ春人。無理な時は無理ってちゃんと言えよー」


 薫の激励に、春人は手をひらひらさせた後、無言で進んでいく。


「父さん母さん、一緒に行ってやらないの?」

「父さんはエルフをテイムする気はないからな。格上を相手に立ち回るのも、春人の良い経験になるだろう」

「春人には沢山の従魔がいるんですもの。相手との戦力差をきちんと把握するには、丁度良い相手じゃないかしら」

「ふーん。でも、厳しいかなあ。奥からどんどんやって来てるから、春人の従魔たちでもあと5分くらいしか耐えられそうもないよ」


 薫の地図には、森の奥深くから援軍であろう赤い点のモンスターが続々と押し寄せているのが映る。クローズアップすれば、エルフ以外にも人馬型モンスターのケンタウロスが混じっている。人の形をした部分は美形であるが、馬の胴体から生えているようにしか見えない。

 リアルケンタウロスは、キモいと思った薫であった。

 そこへ武彦が話を振ってくる。


「やはり、レベル40と41の差はでかいな」

「そうだね。従魔は主のレベル以上にはなれないからね。レベル41になると、レベルアップ時のステータスが1.5倍になるからね。0.2の差はとても大きいよ」

「ところで薫。春人がハイエルフをテイムできたとして、従魔になったハイエルフはどうなると思うんだ?」

「分からないよ。春人はテイムできると思ってるみたいだけど、レベル差が9もあるからね。レベル維持か春人のレベルまで下がっちゃうんじゃないの?」

「無難な回答で面白味がないわね、薫は」


 美玖にディスられる薫であるが、反論はしない。母親に口で勝てるとは思っていないからだ。


「わあーっ、エルフって本当に綺麗ですね。生きた芸術品って感じがします」

「本当ね。会話できれば攻撃を止めたりしないかしらね」

「相手はモンスターだから無理なんじゃない。最初に攻撃してきたのも向こうからだし。でも、会話できるかどうか確かめるのは面白いかも。ちょっと1体捕まえてくるよ」


 薫はそう言い残すと、消えてしまった。


 しかし、すぐに元の位置に現れた。小脇にショートヘアーの美男子を抱えた格好で。

 薫は、エルフの魔法スキルを削除すると、魔法で拘束してから足元に転がした。


「驚いた。本当に捕まえて来たんだな、薫」

「あわわ、そんなに乱暴にしちゃ可哀相だよ薫くん」

「あらあら、敵意剥き出しの表情なのに、綺麗なものね。あなた、私たちの言葉が理解できてる?」


 ――グググッグガァーガ


 怒りに燃えるエルフの口から出たのは、薫たちの知る言語ではなかった。言語かどうか怪しいものであるが、この場で翻訳できる者は誰もいない。


「テイムすれば言葉が交わせるんだけど、僕はいらないし。春香さんいる?」


 薫に話を振られた春香は、両手を交差させて拒絶の言葉を口にする。


「いらないいらない。私には、ミケちゃんたちがいるから間に合ってます」

「2人はどう? テイムする?」

「父さんもいらないな。というか、これ以上従魔は飼えない」

「母さんもいらないわよ。春人が戻ってきたらテイムさせて上げましょう」

「あっ、こいつの魔法スキル消しちゃったけど、新しいのを捕まえてきた方が良いかな?」

「きっと大丈夫よ。春人の目的はハイエルフであって、エルフはテイム出来るか否かの確認でしょうからね」


 薫たちが捉えたエルフをどうするか話していると、雫が目を覚ました。そして、目にしたエルフに興味を持ったようだ。


「あ~、しらないひとがいる~。あなたはだあれ?」


 エルフは言語かどうか怪しい音を出し、雫へ唾を吐きかけた。流石はモンスター、赤子だろうと容赦しない。

 しかし、座敷童たちによって防がれ、唾が雫にかかることはなかった。だが、自分が拒絶されたことを理解した雫は、泣き出してしまった。


 これまで雫は、誰からも明確な悪意や害意を受けてこなかったのだから、当然だろう。主を悲しませたモンスターを放置するほど、座敷童たちは寛容ではなかったようで、雫を背負っている次郎以外から、同時に攻撃されたエルフは魔石に変えられてしまった。


 薫は、自分が捕えたエルフが魔石に変えられたことで、雫とその従魔である座敷童たちを叱った。他人の物を、承諾も得ずに壊したり傷つけてはだめだと。

 だが、雫はさらに大泣きをすることになった。赤子にマジで説教する高校生、事情を知らなければ危ない人物である。


 薫が雫を宥めていると、両親から説教を受ける羽目になった。

 そもそも、薫が雫を勝手に新人族へ変え従魔も選定したのだから、責任を持てと。さらに、エルフの所有云々と宣うのなら、唾を吐かせた薫が責任をとるべきだと。

 薫はちょっと納得いかなかったものの、大人しく説教を受けた。反論すれば、長くなるのは確定だからだ。



 雫が泣き疲れて眠り、両親からの説教も終わったころ、春人とその従魔たちが逃げ帰ってきた。


「やべーって。俺の従魔たちでも手に余るって、どれだけ数がいるんだよ。ほんとに50階層とか行けんのかよこれ」

「かなり粘ったじゃないか。それでどうだった、1体くらいは倒せたのか」

「ゼロだよっ! くそっ!」


 父親の質問にぶっきら棒に答えた春人。敵の数の多さもあって、有効な攻撃が出来る間合いまで到達できなかった事実に、怒りよりも口惜しさが勝り、荒っぽい態度になったことを反省する春人であった。


「けが人が出る前に撤退してきたんだ、偉いぞ春人。熱くなると、撤退の思考さえ失くす者もいるんだからな」

「そうよ春人。失敗を忘れないようにしなさい。忘れたりしたら、驕りからさらに酷い失敗を犯すことになるわよ。大切なものを失くさない様に、たくさん経験して学びない」

「私は色々と学んでいる最中だけど、春人君はまだ中学生なんだからこれからだよ。お互いにがんばろうよ、ね?」

「ちょっと、さっきの俺のと温度差が酷くない?」

「「薫は自業自得だ(よ)」」


 流石は夫婦、息が合っている。薫と両親の雰囲気に活力を取り戻した春人は、顔を上げると、皆にお願いする。


「親父、母ちゃん、兄貴、春香姉ちゃん、皆の力を貸して下さい」

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