その1
ある夏の日、水助は森の中へ向かう山道を急ぎ足で走っています。これから、森を流れる小さな川へ向かうところです。
「これから川へ行って、母ちゃんのためにお魚を取ってみせるぞ!」
水助は、お母さんといっしょに食べるおかずをさがそうと意気ごんでいます。小さい川には、たくさんの魚が泳いでいることを水助は知っています。
その場所へ行こうとする水助ですが、とちゅうで急におしっこがしたくなりました。
「お、おしっこがもれそう……」
はらがけの下をおさえながら、水助はおしっこをする場所をさがしています。どうやら、スイカをいっぱい食べすぎたのがいけなかったようです。
そんな時、水助はお母さんから言われたことを思い出しました。
「森のおくのほうには、大きくておそろしいクマがいるから行ったらダメだよ」
おしっこのことばかりに気を取られているうちに、水助は森に入ってかなり足を進んでいます。水助は、ずっとガマンしていたおしっこをしようと大きな木のそばへきました。
すると、後ろのほうから大きなかげが水助にせまってきています。これに気づいた水助がふりむいたその時のことです。
「う、うわあああああああああっ!」
水助の前にあらわれたのは、自分よりもかなり大きなクマのすがたです。そのすがたを見て、水助は後ずさりしようとします。
しかし、クマのおそろしさにとちゅうでしりもちを思わずついてしまいました。何とかしてにげようとする水助ですが、目の前に近づくクマの顔に身動きすることができません。
「も、もうダメだ……」
その一言を言ったとたん、大きなクマは意外な言葉を口にしました。
「そんなにこわがらなくても……。あたしは決して人をおそったりしないのに……」
「えっ?」
水助がおどろくのも無理ありません。これだけ大きいクマにおそわれたら、命を落としてもおかしくありません。
「ぼうやをこわがらせて本当にごめんね」
「う、うん……」
ホッと一息をついた水助ですが、体を起こそうとするとはらがけの下がぬれていることに気づきました。水助がすぐに立ち上がると、足元におしっこの水たまりがあることに気づきました。
「もしかして、おもらししちゃったの?」
「だって、こわかったんだもん……。おしっこが急にガマンできなくて……」
水助は顔を赤らめながら、大きなクマの前でおもらししたことを小声で言いました。力ないその声は、自らの大失敗を口にしたくない水助の気持ちをそのまま表しています。
この様子に、大きなクマは気の弱い水助をはげまそうと言葉をかけました。
「そんなことぐらいで気にしていたらダメ! おもらししたって、あたしは全然気にしないんだもの」
大きなクマのやさしさを感じた水助ですが、相変わらずはらがけの下をおさえてばかりでうつむいたままです。水助にとって、おもらしの大失敗をしたことへのはずかしさがどうしても先に出てしまいます。
「しょうがないね。近くの小川へ行っていっしょに水の中へ入ろうね」
「いっしょにきてくれるの! うわ~い!」
大喜びの水助は、大きなクマとすっかり打ちとけるようになりました。そんなところへやってきたのは、水助よりも体が小さい子グマです。
「母ちゃん、ぼくもいっしょに川へ行きたいよ」
「人間のぼうやもいることだし、いっしょに行くとするかな」
こうして、水助はお母さんグマや子グマとともに森の小川がある場所へ歩いていくことにしました。




