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STAR・BLAZES  作者: 水無月 明
第1章,星の精鋭達
10/21

星人(ほしびと)

◎今回登場する敵:

☆剣帝会

★首領、剣帝

★四刃将、魁面圭吾

★小刀衆(戦闘員)

 山道の中継地点には大きく切り開かれた更地があり、そこには畑とわらぶき屋根の建物が並ぶ農村があった。

 普段ならば男達は野良仕事に精を出し、子供達は寺子屋で勉学に励み、女達はそんな夫や子供達の為に家事を勤しんでいるのだが、今やこの日下部村には『平穏』の二文字は消え失せていた。

 突如現れたテロ組織『剣帝会』により村はたちまち制圧され、戦う術の無い村人達は彼らの言いなりになる以外無かった。

 刀や槍で武装した剣帝会の男達は我が物顔で村中を徘徊し、畑中の作物をまるで獣のように食い荒らしていた。

 そしてこの村の1番大きな屋敷から怒鳴り声が響いた。

「この虚け者ッ!!」

 男は目の前で跪く3人の覆面の男の内の1人を白い足袋を履いた足で蹴り飛ばした。

 年は30半ばだろう、オールバックで大きく開いた額に肩まである長い髪に野太い眉毛、背中に覆面の男達と同じ羽織りを羽織った剣帝会の幹部の1人『魁面圭吾』は鋭い目を余計に吊り上げ、さらに眉間に皺を寄せながら部下達に言った。

「貴様等はそれでも剣帝会の小刀衆か!? 侵入者は捕まえろと言ったはず、それを滝壺に落とすとは何たる失態だ!」

「お、恐れながら魁面様、星人の通信装置は手に入れました。それに報告では毒の矢を喰らったとの事ですし、生きている心配は……」

「戯け! それが問題だと言うのだ! 連絡が取れなくなれば星人供が攻めて来ると言うのが分からんのかっ!?」

 魁面は忌々しそうに顔を顰めながら舌打ちをして背を向けた。

 覆面の剣帝会の小刀衆は倒れた仲間を抱き起こすと再び魁面に向かって頭を垂れた。

 魁面は右手で顎を摩りながら忌々しそうに眉間に皺を寄せて考えた。

(想像してたよりも気づくのが早かったな、まだ『アレ』も見付かっていないと言うのに……)

「……魁面」

 すると部屋中に重くて苦しい威圧感の込められた男の声が響いた。

 それは隣の部屋からだった。

 襖で閉じられているので姿こそ見えないが声を聞いた者達は途端にガタガタと震えだした。

 その場にいる者達全てが正座をして襖の方に深く頭を下げる…… すると襖の向こうにいる男が話しかけてきた。

「どうやら星人達の方が一枚上手だったようだな、五日も連絡が取れなければおかしいと思うのは当然の事ではないのか?」

 男が尋ねると魁面は両手を挙げながら慌てふためいて言い返した。

「ごご、ご安心ください『剣帝』、星人が1人できたと言う事は偵察でございます、それに突入したとしてもこちらには人質がございます、村人達が我が手中にある限り無闇に手は出せないはずです」

「だと良いがな」

 剣帝……

 そう呼ばれた男は呆れた感じでため息を零すと魁面は胸を撫で下ろしたかのように深く息を吐いた。

 そして額から流れる冷や汗を右手の甲で拭うと薄ら笑いを浮かべながら言った。

「全てはこの四刃将の1人、魁面圭吾にお任せください! 早速星人の死体を探してまいりますゆえ…… おい、お前達行くぞ!」

「「「ぎょ、御意!」」」

 魁面は部下達を引き連れると急ぎ足で部屋を出て行った。

 

 一方襖の向こう側、恐らくは客間だろう…… 六畳一間の広さに、締め切った障子の窓、隅には箪笥と折りたたんだ布団だけの部屋の中央に1人の男が座布団の上に正座

をしていた。

 その左の傍らには緑茶の淹れられた茶托の上に乗った湯呑が置かれているのだが、蓋を閉じたままで一向に口をつけようとはせず、ただひたすら刀の手入れをしていた。

 右手で刀身に打ち粉を塗し、それが終わると懐紙で拭う…… すると鏡の様な光沢を放つ刀身に顔全てとは行かないが、まるで獣さえも怯えて逃げ出すような凄まじい眼光が輝いていた。

「必ず見つけ出す、この地に眠る『あの力』を……」

そう言いながら目の前に置かれていた黒い鞘を手に取ると刀を静かに仕舞った。


 夢を見ていた。

 燃え盛る町、悲鳴を上げながら逃げ惑う人々、その彼等を襲う異形の者達……

 それはまさに地獄と言う言葉に相応しい光景だった。


 自分がいるのはどこかの王室だろうか? 白い石を積み重ねて作られただけの部屋の中に玉座があった。自分はその玉座の前で1人の老婆に抱き抱えられていた。

さらにその前には2人の男が対峙していた。

1人は白い着物の上から白いマントを羽織った光沢を持つ杖を持った中年の男で、もう1人は着ている物こそ同じだが異形の者達を引き連れた1人の若い男だった。

 顔は分からないが何かを話しているのは分かる、邪悪な笑みを浮かべる若い男の全身からどす黒い瘴気のような物が噴出すとその中に血の色に似た不気味に輝く2つの目が現れた。

 中年の男が老婆に命じると老婆は自分を連れて逃げ出した。

 自分は手を伸ばすがどうにも出来ない……若い男が手を振り下ろすと異形の者達は中年の男向かって行った。

 しかし中年の男が振り上げた杖から光が溢れると辺りを包み込んだ。


 そこで夢は終わった。


「うっ……」

 アイファは小さいうめき声を上げながら目を覚ました。

 まず最初に自分の目に映ったのは岩の天井だった。

 意識を取り戻したばかりで全身に力が入らず、まして思考のままならない頭を回転させながら周囲の状況を把握しようとする。

(ここは……)

 天井がほのかに明るいので焚き火が焚かれているのだろう、案の定パチパチと弾ける音が聞こえた。

 その方向を見て見ると、そこでは大きめな石を積み上げて造った即席の釜戸に置かれた鍋で調理をしている2人の少年少女の姿があった。

 2人とも神職の人間だろう、少女の方は年は自分より少し年上で、背丈はリリーナと同じくらい…… 黒くて艶のある腰まである長い髪を先端部分で縛り上げた巫女装束、少年の方は自分より年下の神官の少年だった。 

 すると少女の方が目を覚ましたアイファに気づくと目を細めながら言って来た。

「あ、良かった。目が覚めたのね」

「貴女は…… あぐっ!」

 アイファは起き上がろうと両手に力を入れるが全身に力が入らなかった。

 それどころか逆に激痛が走って顔を顰めた。

 少女は慌ててアイファの側に近寄ると膝を曲げて座り込んだ。

「寝てなきゃ駄目よ、貴女怪我してるんだから」

「……怪我?」

「覚えてない? 貴女、この先にある滝から落ちたんでしょう?」

「……あっ」

 アイファは思い出した。

 自分が襲われた事、そして謎の男達に毒の矢を喰らった事をだ。未だ右手がズキズキと痛む……

 すると少女は自分の胸に手を当てながら言って来た。

「ゴメンなさい、自己紹介がまだだったわね、私は御堂沙耶、日下部村で巫女をしておりました。こっちは弟の進一です」

「日下部村? お姉さん達、日下部村の人なの?」

「え、ええ…… まぁ」

 アイファが尋ねると沙耶は頷いた。

「アタシはアイファ、銀星系連合軍スターブレイズ隊の隊員で、連絡が取れなくなった日下部村を調べに来たの」

「……そう、でしたか」

 アイファの説明に沙耶は気まずそうに顔を顰めて目を反らした。

 ただ事ではない事は分かった。アイファはさらに事情を聞いてみる事にした。

「どうしたの? 何かあったの?」

 そう言いながら今度は進一の方を見る。

すると進一は両肩をビクつかせて沙耶の陰に隠れてしまった。

 そっと顔を出してアイファの覗き込むが、顔を強張らせた進一の目は人見知りや年上の人間を畏怖すると言った物ではない…… 明らかに警戒している人間の目だった。

 アイファは苦笑しながら尋ねた。

「あ、あの~~……」

 アイファが困っていると沙耶が進一を見て言った。

「進一、お姉さんに失礼でしょう、謝りなさい」

 すると進一は少し間を置くとアイファに向かって目を細めて言い返した。

「……だってその人、星人なんでしょ?」

「進一っ!」

「ホシ…… ビト?」

 アイファは何の事だか分からずに首を傾げた。

 すると沙耶も会話が噛み合わない事に刹那の間黙り込むが、やがて申し訳なさそうに顔を顰めながら説明した。

 かつて鎖国文化だったこのジパーダでは他星の文化を忌み嫌い、他の惑星の人間の事を皮肉も込めて『星人ほしびと』と呼んで蔑んでいた。

戦時中は誰しもが呼んでいたのだが、戦争が終わった今では差別用語としてジパーダでは禁止されていた。

だが鎖国の時期が長かった為に完全に統制する事が出来ず、過去のジパーダの歴史に囚われたごく僅かな人々が差別用語を口にする事も少なくなかった。

「御免なさい、弟がとんだ失言を……」

「ああ、気にしないで、アタシも知らなかったし…… それより教えて、日下部村で何かあったの?」

 アイファは尋ねた。

 それは日下部村の事だった。

 沙耶は日下部村の巫女、しかしここはどう見てもここは村では無く洞窟だ。

 様子を見るとほんの数日ではあるが生活の痕跡もある…… それに自分を襲ってきた者達の事も気がかりだ。

 日下部村はただの農村のはず、それがあんな戦いなれしている連中がいる事自体おかしい。

 すると沙耶が言って来た。

「村は…… 占領されてしまったの」

「占領?」

 アイファが眉間に皺を寄せると沙耶は頷いた。

 今から5日ほど前だった。沙耶は進一を連れて山に薬草を採りに行った。

 しかし半刻ほど経って村に戻ると先ほどの者達がやって来て村を占領してしまったのだった。

 村にいた軍の駐在と楯突いた数人の村人が殺害され、入り口も塞がれたと聞かされて外部との連絡がとれなくなった村人の内、大人達は山の方へ連れて行かれてしまったと言う。

 しかし自分達だけは何とか神主だった父によって村を脱出し、この洞窟に隠れ住んでいたのだった。

 この山道にはこう言った洞窟が無数に存在し、山菜や獣を採りに出かけた人々が一時しのぎの雨除けとして利用していた。

「でもその父も、私達を逃がす為にあの人達に……」

「……父さん」

 沙耶が唇をかみ締めると進一も顔を顰めて泣き出した。

「………」

 アイファの胸に怒りが込み上げて来た。

 実はアイファはシルバー・フォースに入隊してからまだ1年も経たず、スター・ブレイズに配属されたのもアレンより2ヶ月ほど前なのだが、その中で戦ったテロ・バンクはG・S・Bとメサイアの2つだけだった。

 それでも人々の生活を脅かし、無益な涙を流させるテロリスト達は許せなかった。

 一刻も早くこの事をアレン達に伝えなければならなかった。しかしライセンス・ギアが自分の手元に無かった。

 しかし打つ手が無かった。

 アイファはアレンやルイスの様に考えてから動くタイプの人間では無い、しかし森の中には敵が待ち構えているのは間違いない…… 土地勘の無いアイファが歩き回るのは危険だった。

 まして2人に案内してもらうなどさらに問題だ。民間人に協力を要請するのは間違いではないが、2人に危害が加わる事があるなどあってはならない事だ。

(ああ~~ん、隊ちょ~ならこんな時どうすんのよ~~っ?)

 アイファは心の中で悶絶する。

 アレンならばどんな状態だろうと冷静な判断を出してくれる。

 現在体の自由が利かなくなったアイファに出来るのは頭を動かす事だったが、アイファ自身考えるのは苦手だった。

 それでも何とかしようと考えていると進一が右手を強く握りしめて小さな肩を震わせながら言って来た。

「あいつらなんか…… 龍神様に……」

「龍神…… 様?」

「し、進一っ!」

「あっ!」

 沙耶に言われて進一は慌てて口を紡いだ。

 アイファは眉を細めるが、沙耶は今のやり取りを紛らわすかのように言って来た。

「ああ、そう言えば貴女、毒を受けてるのよね? 今薬草を煎じてるから、それを飲めば直ぐに良くなるわよ」

「えっ? いや、このくらいなら少し待ってれば……」

「そうも行かないわ、少し待っててね」

 そう言うと沙耶は釜戸の方へ向かって行った。

 アイファにはいまいち話は分からなかったが、2人は何かを隠しているのだけは分かった。


 その頃、ルイスからの報告を受けたアレンとユウトはフェニックスへ帰還した。

 アイファを残して戻るのは心苦しかったが、この事件にテロリストにより起こされた物ならば最悪の事態は避けねばならなかった。

 日下部村はテロリストに占領されてると見て間違いない、ならば本格的にテロリスト用の策を練らねばならなかった。

 銀星系連合軍は人々を守る義務がある、なるべく被害を出さずに助け出さねばならなかった。

 しかしアレンがするべき事はそれだけではなかった。

「申し訳ありませんでした。自分の監督不行き届きでした」

「すいませんでした!」

 司令室にてアレンとユウトは頭を下げた。

 それは村人の安否が気がかりとは言えアイファを先行させてしまったからだ。

 地盤データを得てからでも遅くなかった。その軽率な行動に出てしまった自責の念がアレンの胸に突き刺さっていた。

 すると待機組みだった者達が言って来た。

「2人とも、自分を責めてはいけません」

「そうですわ、どうせあの小娘がダダを捏ねたからでしょう、自業自得ですわ!」

「いや、止める事は出来た。オレの責任だ」

「隊長だけの責任じゃねぇだろ、オレも同罪だよ」

 アレンは忌々しそうに顔を顰めるとユウトも肩を落とした。

 2人とも自分で自分が許せないのだろう、ルイスとリリーナの言葉も届かなかった。

 何も言っては来ないがジンやサリーも考えている事は同じ…… しかし今のアレンに何を言っても無駄だった。

 そんなやり取りの中、マーカーが割って入って来た。

「今は責任をどうこう言ってる場合じゃない、それよりこれからどうするかなんじゃないのか?」

「え、ええ、確かに」

 アレンは頷いた。

 するとマーカーは微笑しながら言って来た。

「それに連絡が取れなくなったとは言え殉職したとは限らない、何らかの理由で連絡が取れなくなったかもしれないだろう?」

「そうですね、すみません、取り乱して……」

「気にするなとは言わん、だが良くある事だ。それより会議を始めるぞ」

 マーカーが号令をかけるとアイファを除くスター・ブレイズ隊員達は自分の席に着いた。

 何しろ時間が無い一刻を争うからだ。

 テロリストの正体は分からないが、アイファとの連絡が取れなくなったと言う事は銀星系連合軍がテロリスト達に気づかれたと言う事になる。

 人質である村人達に更に手荒な真似はしないだろうが、最悪の事態は想定しておかなければならなかった。

 しかし急がば回れ、敵の正体や出方を想定するよりも占拠された日下部村の事から見つめ直す事にした。

 それはルイスから説明された。

「隊長達から送られてきたデータを調査した結果、日下部村は古い古墳の上に建てられた事が分かったの」

「古墳?」

「はい、これを見てください」

 ルイスは机の端末を動かすと映像を各隊員のモニターに映し出した。

 それはアレン達がいた場所を中心とした辺りの地中のデータだった。

「見ての通り、無数の空洞があるのが分かりました。地質学者を呼ばないと詳しい事は分かりませんが…… この空洞は天然に出来た物ではありませんでした」

「人工的に作られた物って訳か……」

「でもそれが古墳とどういう関係があるんだ?」

「実は……」

 ルイスは説明してきた。

 アレン達が戻ってくる前にルイスはこの辺一帯の歴史を調べた。

 すると1つの伝説が残されていたと言う。


 はるか昔、この辺りには古い文明があった。

 人々はその土地を守る『龍の神』の恩恵により平和に暮らしていた。

 しかし龍の神の力を狙った悪しき者達により文明は崩壊し、多くの人達が命を奪われた。

 それに怒り狂った龍の神は黒い涙を流しながら全てを焼き払い、悪しき者達を滅ぼした。

 だがそれと同時に龍の神も力尽きたのだが、息を引き取る寸前に『最後の力』を残したのだと言う。


 説明は終わりルイスは席に着くと司令室を沈黙が支配した。

 するとリリーナがため息を零しながら言って来た。

「何だかどこにでもあるような話しですわね」

「でも古墳があると言う事はただの伝説じゃなさそうよ」

 ルイスは言った。

 例え伝説や言い伝えがデマだったとしてもそれなりの理由と言う物が存在する。

 現に古墳があると言う事は実際の文明があり、人々がいたと言う証拠だ。

 ただ問題は今回のテロ騒動とどう関係があるかだった。

「もしかしてテロリストは、その龍の神が言ってた『最後の力』って奴を狙ってるんじゃないのか?」

「となるとロスト・テクノロジーか?」

「じゃあ『黒い涙』ってのは何だ?」

「そこまでは分からないが、そうとしか考えられないだろ…… だけどよく調べられたな、こんな数時間で」

「大変だったわ、運が良かったとしか言いようが無いわね」

 ルイスは言った。

 ルイスはオペレーター・チームに頼み込んで銀河ネットの掲示板や都市伝説のサイトを調べてもらったのだった。

 そしてルイス本人も日下部村が狙われたのは土地その物に問題があると思い、ジパーダ支部に頼み込んでこの辺り一帯の文献を調べてそれを纏め上げたのだった。

 ちなみにオペレーター・チームは現在指1本動かす事が出来ないくらい疲れ果てている…… 全てが終わったら菓子織りを持って謝罪しに行かなければならないとアレンは思った。

 説明が終わるとマーカーが言って来た。

「テロリストの目的はそれと見て間違いは無い…… 次に村人達を救出する手だが、これをどうすれば良いかだ」

 マーカーはルイスを見るとルイスは画面を切り替えた。

 すると今度は日下部村の上空地図が映し出された。

 そして崩れ落ちて通れなくなった村の入り口が赤く点滅した。

「村の入り口はここしかないわ、ここが塞がれたのもテロリストの仕業と見て間違いないわね」

「爆弾か魔法でも使って入り口を塞いだ。私達の邪魔が出来ない為に」

「いや、どうやら違うみたいなんだ。なぁ、ユウト」

 アレンはユウトを見た。

 するとユウトは顔を強張らせながら言った。

「ああ、あれは爆弾とか魔法とかの類じゃねぇ、崖を切断したんだ」

「切断?」

「ええ、ユウトが言うには崖その物を切断して入り口を塞いだと言うんです、現に何の反応がありませんでした」

 アレンは語った。

 爆弾などならば火薬や薬品の反応がある、魔法を使ったにしろどこかしらに痕跡が残る…… しかしユウトが語るには崖その物をまるで巨大な刃物で切断したと言うのだった。

 勿論普通では不可能だ。これは並みの剣士では出来ない、大地の構造によほど詳しく、よほどの腕が無ければできないと言う。

 その場にいる者達は誰しもがその報告を疑った。

「……まさか、そんな事信じられませんわ」

「ロボットか怪獣の仕業と言う可能性もある」

「いや、ユウトの考えが正しいだろう、何しろオレ達はサムライの事をよく知らないからな」

「第8支部は何て言ってるんですか? 司令」

「ああ、今回はオレ達だけでやって良いそうだ。第8支部もまだ事故処理が終わってないらしい」

 マーカーが説明すると隊員達は深くため息を零した。

 ホッとはしているが、それと同時に不満もあった。

 このジパーダ第8支部は前回のベルシエール第7支部の様に不正に手を染めてもいない、そう言った者達に協力するのは良いし手柄を譲るのも悪くは無い。

 しかし裏を返せば『失敗は全て自分達の責任』と言う事になり、人員も貸してくれないという事は『面倒なトラブルで自分達の評価が下げたくない』と言う事になる…… その為に『事故処理が終わってない』と言う大義名分を掲げて今回の事を委託したのだった。

つまりこの支部の者達もスター・ブレイズの事を一切信じていない事になる。

「無い事を嘆いても時間の無駄だ。それよりも今ある物で最大限の事をする事を考えよう」

「アレンの言うとおりだ。オレ達にはオレ達のやり方がある…… それをテロリストにも第8支部の連中にも見せてやれ」

「って言っても司令、相手は村人達を人質にしてるんですよ、状況も分からないのにどうやって……」

 ルイスは言った。

 唯一日下部村へ通じる道は瓦礫で塞がれている。

 村に行く道も敵が待ち構えている事は間違いない、アイファと連絡が取れなくなったのがその証拠だ。

 瓦礫を撤去しようにも手作業なら時間がかかるし、爆薬を使えばこちらの動きを知らせる事になる。

 なるべく敵に気づかれず、かつ迅速に村人達を解放しなければならない、時間が経てば経つほど村人の救出が危うくなる。

 いっそイーグルで飛んで行くという可能性もあるが、イーグルは2人しか搭乗できず、さらに着陸できる場所が無い、あったとしても気づかれてしまうだろう…… ましてパラシュートなど狙い撃ちにされるのがオチだ。

 アレンの個人型ナイトは最後の手だ。制限時間と言うデメリットが存在する、仮に制限時間が無かったとしても村人全てを助けるなど不可能だ。

「打つ手無しか……」

 マーカーは舌打ちをすると沈黙が走った。

 何とかして全員助けたい、それはここにいる全ての者達の願いだった。

 だが戦闘になる以上被害を出さないなど不可能だった。

 誰しもが多少の犠牲を諦めようとしたその時だった。

「ん? これは……」

 アレンは自分のデスクの画面に映る日下部村一帯の地中データを拡大した。

「どうした。アレン?」

「上手く行くかどうか分かりませんけど、1つだけありますよ…… 村人を傷つけずに助け出す方法がね」

「本当か?」

「ええ、ただ時間があまりない…… サリー、状況が変わった。今すぐ『アレ』を直してくれないか?」

「隊長、『アレ』って……」

 ルイスは顔を顰めて首をかしげた。

 いや、ルイスだけではない、あの場にいなかった者達は不思議そうに眉を細めたり近くの者達と顔を合わせたりした。

 アレンの感は正しかった。

 世の中に無駄な物は存在しない、いずれ役に立つ時が来ると…… 今がその時だった。

 するとサリーは立ち上がりながら答えた。

「了解、今すぐ取り掛かる」


 それから『アレ』の作業が始まった。

 業務時間を終えた作業員達にも手を貸して貰い『アレ』の整備を総出で行った。

 格納庫内は昼間と代わらないほど騒音が響いた。

 本来なら必要な機材が揃えばサリー1人でも可能なのだが、折角片付けてしまった機材を引っ張り出すのと、整備に僅かでも時間を短縮させる為だった。

 するとアレンはサリーに尋ねた。

「サリー、あとどれくらいで出来る?」

「分からない、回路の交換と修理は1時間くらいで終わるけど、端末の状態が思ったより悪い…… ハッキリいって3~4時間はかかる」

 アレンの問いにつなぎに着替えて軍手を嵌めた手にスパナを握り締めながら整備をするサリーは説明する。

 ただ動かして使うだけなら簡単な整備と修理だけで済むのだが、今回の作戦には正確無比なナビゲート能力が必要だった。

 その為に一度オーバーホール(大掛かりに分解して直す事)をし、元々搭載されていた最新型のナビと連結させて必要なデータをアップロードしなければならなかった。

 アレンがライセンス・ギアの時計を見ると時刻は夜半を過ぎていた。

 ここから村までどれだけ飛ばしても4時間はかかってしまう。

 アレンが立てた作戦は昼だろうと夜だろうと関係ないが、動くなら夜の方が良かった。

 テロリストも人間である以上睡眠はとらなければならない、まして視界が悪い夜は奇襲がかけやすい、戦いに身を置く者ならば知っていて当然の事だ。

 だが今のジパーダの季節を考えると完全に日が昇ってしまう、なるべく明け方前には村にたどり着きたかった。

 アレンの脳裏にアイファの顔が浮かんだ。

(無事でいてくれ、アイファ)

 そう思いながら右手を握り締めた。


 それから時が流れた。

 東の空から日が昇り、夜の闇に閉ざされた世界を照らした。

 新たな1日の始まりだった。

 沙耶は小さな水桶を両手に持ちながら洞窟の外に出ると数メートル先にある川から水を汲むと洞窟内に戻ろうとした。

 すると洞窟からアイファが出てきた。

「アイファさん、もう良いんですか?」

「うん、薬が効いたみたい…… すごく苦かったけど」

「そ、そうですね」

 アイファが答えると沙耶は苦笑して言い返した。

 何しろアイファの辞書には『良薬口に苦し』と言う単語は存在しなかった。

 普段から甘い物しか口にせず、薬もシロップか何かに混ぜて飲んでいた。

 先日それを知らずに薬を飲んだアイファは盛大に噴出してしまったのだった。

「やっぱ鼻つまんで飲んで正解だったよ」

「でもすごい回復力ですね、さすが異星の方は違いますね」

「え? ああ、まぁね……」

「どうかしました?」

「あ、いや、別に…… 何でも無いよ」

 アイファは両手を振って目を反らした。

 すると沙耶は何の事だか分からず首をかしげた。

 だが人には何かしらの事情がある、聞いてはいけない事もあるんだと察して話題を変えた。

「ああ、早速朝餉にしましょう、準備しますから待っててください」

「うん、分かっ…… ッ!」

 アイファの背筋に悪寒が走り、顔が強張った。

 自分達の方に危険な気配が迫っている、しかもそれは直ぐ側まで来ていた。

「アイファさん?」

「進一君を起こして、多分奴らが来る!」

「ええっ? どうしてそんな事が?」

「良いから早く!」

「は、はい!」

 沙耶は水桶を放り投げると慌てながら洞窟の中へ向かった。

 アイファは気配のしてくる方向を見ると顔を顰めた。

 自分はアレンじゃない、ましてルイスやジン達とも違う、しかしやるべき事は分かっている…… いや、初めから決まっていた。

 考えるのが苦手でも自分1人でも目の前にある命の為に戦う事だった。

(絶対に守る)

 アイファは心の中でそう誓った。

10話目です。

お楽しみいただければ幸いです。

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