47 開戦
ヘルガとオリヴァーとフランクは、日課となったシュネーのエヴァーツ伯爵家への外出とともに出発した。
王城のエントランスで、ハイムゼート公爵、コルネリアと合流し、案内を受けて応接室へと向かう。
そもそも今回、呼び出しをしたのは王家の側からだった。
名目は国防を担う疎魔の盾を持つエヴァーツ伯爵家との交流を深めるためと言う名目であったものの、ハイムゼート公爵家への疎魔の盾の贈答もありエヴァーツ伯爵家がハイムゼート公爵家側についたことを察したのだろう。
その上で王家がどう出て、何を主張するのかそれは誰にも予測できず、道中も、待っている間も皆言葉少なだった。
それぞれ覚悟を決めている表情をしていたが、コルネリアだけは酷く不安そうに、ヘルガを見たり父を見たりとおびえた様子が見て取れた。
案内された場所は小規模な会議室のような場所であり、楽しく交流を深めるというよりも政治的な話し合いの場という方が正しいだろう。
そこへと国王であるバルトロメウスとイグナーツが入室してくる。
ヘルガたちは席を立ち深く礼をして彼らが席に着くのをじっと待つ。
ゆったりと座り、たっぷりと間を置いた後に「座りたまえ」とバルトロメウスがいい、それぞれ席に着く。
「よく参った。急な呼び出しであったが、我が国の二つの盾とも言える名家が速やかに参集したことを評価しよう」
「はっ、ありがたきお言葉ですな、国王陛下」
「ありがたきお言葉です」
ハイムゼート公爵と父は、背筋をびしりとだたして、バルトロメウスの言葉に応える。
二人の反応に彼は深く頷く。年の頃は父たちと同じ程度だろうか。深く刻まれたしわに、こちらを探るような鋭い視線はハイムゼート公爵とはまた違った重みがあった。
「……して、ハイムゼート公爵、エヴァーツ伯爵こうしてわしがお前たちを呼び出した理由については心当たりがあるのではないか?」
「その通り、白々しい態度はやめるべきだよ。私たちはお前たちが結託して企んでいることをすでに理解しているんだ」
バルトロメウスの言葉にイグナーツが続き、嘲るような笑みを浮かべて鼻で笑った。
もちろん、そういうことだろうとはこちらも理解していたので、ハイムゼート公爵は、浮かべていた好意的な表情を消してギロリと二人を睨みつけた。
「ほう。どうやらその通りのようだな。……ではっ、バルトロメウス国王陛下、並びにイグナーツ王太子殿下っ! 不祥ながらこのハイムゼート、貴殿らが行った数多の悪行を精算し、終わらせるためにこの場にはせ参じたのだ!」
「ハッ、悪行か」
「フッ……」
威圧感のあるハイムゼート公爵の声にも王族の二人はくだらないことのように笑みを浮かべて余裕の表情だった。
「ことの始まりは、二十年前飢饉の際、貴殿らは自らの派閥を優先し、国の共有物であった国庫の蓄えを私的に流用し貴族たちを陥れた!」
「……」
「……」
「それに反意を示したエレオノーラや、自派閥へと入らない貴族たちへのザイツィンカー商会を使った様々な策略の数々っ! 幾人の命がその不条理に呑まれ失われたか数える事もできぬ!」
ハイムゼート公爵の糾弾を受けている彼らは、とても冷たい目をしていてまるで響いていない。
「そんな歪んだ統治も今日この日をもって打ち切らせてもらうぞ! 我々はすでに国の半数を越える貴族の賛同を得ている、長年力を蓄え、新人騎士の育成に力を入れ結束を高めてきた!」
ハイムゼート公爵は王族がすでに詰んでいると言う証拠を示していく。
ハイムゼート公爵家の派閥の結束は固かったし、たしかに公爵派閥の騎士も多い。
しかし、騎士団としての正しさを保つために王族派閥の貴族を拒絶することもまたできなかった。
そうして騎士の数が多くなり、ハイムゼート公爵が派閥の活動に力を入れていたこともあり、多少のゆがみと秩序の乱れが存在していたが、それはヘルガたちの介在で取り払われた。
「そして、我々はついに疎魔の盾を持つエヴァーツ伯爵家と手を結び、戦力は潤沢、万全を期しているっ! 今までのような姑息な手段などもう通用しはしない! 真っ向からこの国を変える力があるのだっ! それを理解していないとは言わせぬぞ!」
「……」
「我々は正義の代弁者だっ、貴殿らの行いのひずみから生まれた正当なる意志だ! 力を持ち打ち砕く、その意志は何者にも変えられぬ」
言葉の端々から、ハイムゼート公爵が熱く、強い決意を持っていることを改めてヘルガは感じる。
これほどまでに強く堅く意志を持つほどに、王家の行いは非道なものだった。
けれども、当事者であり加害者であるはずのバルトロメウスもイグナーツもまるで退屈な観劇でもして居るみたいな顔をしていて、他人事だ。
彼らは今まできっと誰に糾弾されてもそのようにしか対応しなかったし、心も動かなかったのだろう。
本当に根っからの人たちである。
「はぁ、……話は理解した。ただ、下らぬことをつらつらと。まったく無駄だ」
「本当に、だからなんだとしか私は思わないんだけれどね? お前は私たちが下らん演説で改心して頭を垂れてすがりつくと思ってこんなことをしているのか?」
ハイムゼート公爵が二人に対して熱く思いを語った理由も、彼らは特に考えるつもりもなく無駄なものだと一蹴する。
ヘルガは決してそうは思わない、これは精算なのだ。ありとあらゆる過去の清算であり、事務的な交渉だけで片付けられる問題ではない。
彼らが罪を認めて謝罪をしてほしいと願うのは当然のことだ。無駄なんかではないだろう。
二人の反応にぐっとハイムゼート公爵は奥歯をかみしめる。
なんとも思っていないし、罪の意識すらないのだ彼らには。けれどもそれは飲み込むしかない。
「……そう突っぱねたとしても、貴殿らは、従うほかないのだ。わかっているはずだろうこの危機的な状況を」
「くどい。さっさと話を進めろ、これ以上くだらない愚痴を吐くな。そう脅したところで、現に今、我々を殺しもせずにお前らは今こうして卓につき言葉を交わす、望みがあるのだろう。聞いてやるうちにその口を動かせ!」
ハイムゼート公爵とバルトロメウスは火花が散りそうなぐらいににらみ合い、一触即発の空気だった。




