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【連載版】婚約者の女友達に「こいつのことよろしくね?」をされましたがそんな男いりません。  作者: ぽんぽこ狸


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34 参戦



「ハイムゼート公爵家から食事会の誘いがきた」


 父は夕食の場でそう口にした。ヘルガはパンをちぎりながら、少し考える。


「ついにですか」

「そうだね」

「……」


 ともに食事をとっていたオリヴァーもその言葉に父の方を向き、静かに考え込むように視線を戻す。


 ハイムゼート公爵家からの誘いというのは当然、派閥に引き込みたいとい

う狙いからの行動だろう。


 ヘルガたちが生まれる前の飢饉から続く、王族とハイムゼート公爵家の争い。


 イーリスが言ったとおり、彼らにとって疎魔の盾を持つエヴァーツ伯爵家がキーマンとなることは説明するまでもない。


 協力を得た方が勝利するとまでは言わないが、確実に均衡は崩れるだろう。


 そしてベティーナの事でも常に狙われていることは明らかだ。


 ただ、その狙いに対する行動の取り方もまた顕著なものと言える。


 王家は、お抱えのザイツィンガー商会を使って姑息かつ強引な手段で疎魔の盾の情報を狙っている。


 ハイムゼート公爵家は真っ向から食事会の誘いときた。


 もちろん後者の方がずっと印象としてはマシであり、ベティーナの件もトカゲの尻尾切りのように、フィルツ子爵家のすべて独断だと証言し切り捨てた。


 その王家の狡猾さと、強引さには忌避感しかない。


 だからといって、簡単に敵対しているハイムゼート公爵家と手を取るかと言われると、リスクを考えると難しい判断だと言える。


 今まで中立を保ってきたのは、万が一属していた派閥が負けたときの被害も考えていたが、争いの中で出るかもしれない被害を考えてのことだった。


 簡単な覚悟ではその争いに身を投じることはできない。


 しかし、王家の牙はもうヘルガたちのすぐそこまで迫っている。動くべき時がやってきたのだ。


「私は、王家とハイムゼート公爵家の派閥争いに遠巻きながら巻き込まれて、それでも参戦するよりも堪えていた方が悲しみは少なくて済むと思っていた、でも今は違う」


 父はもう少し動揺すると思っていたが、覚悟していたのかすぐに自分の考えを口にした。


 そう思えるだけ彼の心が安定したのか、それともベティーナの件というきっかけがあったからか、どちらかはわからないけれどヘルガも良いタイミングだと思っている。


「ええ。同意見です」

「ありがとう、ヘルガ、それにオリヴァー君、君たちが居てくれて本当に心強いよ」

「……はい」

「小さな、シュネーという家族も増えたことだし、心して挑もう」


 この場にはいないシュネーのことも父の背中を押す材料になっていたらしい。


 それは嬉しい誤算だった。


 そして多くの出来事の起点となっている十年前の出来事。


 それはヘルガの心にも深く刻まれている出来事だ。





 当時、七歳のヘルガは、子供らしい子供だった。


 引っ込み思案で、臆病で、大体オリヴァーと一緒に居ることが多く勉強はあまり好きではない。


 当時の使用人たちには多くの迷惑をかけていたように思う。


 ヒールの低い靴を履いて、腰で結ぶだけのひらひらとしたドレスを着ていて、ミルクティー色のふわりとした髪を一つに結んで気を許した相手にはよく笑う。


 そんな普通の子供だった。


 とある日の午後、父フランクとハーロルト・ラドフォード侯爵はいつものように苦しげな顔つきで話をしていた。


「わしは、決断をするべき時だと思うがな。フランク。ザイツィンガー商会が関連しているきな臭い事件が多い。今のところ我々の被害はないにしても、このままではじり貧だ」

「理解はしてるよ……わかってはいる」

「ならば」

「しかし……ハーロルト、もし私がしくじったら? 行動を起こして何か取り返しのつかないことになったら? ……ヘルガには私しか居ない」

「……」

「この子を育てていけるのも、守っていけるのも私だけ……本音を言うなら日々の執務だけでも重いんだよ」


 彼らは仲が悪いというわけではない。


 会うと大体、父が責められているような構図になるので、ヘルガはラドフォード侯爵のことが苦手だったが、悪い人とは思っていなかった。


 なんせラドフォード公爵は、オリヴァーの父親で、ヘルガにはそれなりに優しく頭をなでてくれることもある。


「……フランク。ならば意地を張らずに後妻をめとることを考えたらどうだ」

「ヘルガの母も、私の妻もあの人一人だけ……が、良いんだ。わがままを言っていることはわかっている、ごめん」

「気弱なくせに、そんなところだけは頑固だな、変わらず」

「ごめん」

「謝罪がほしい訳ではない」


 父とラドフォード侯爵の話はいつも長かった。


 大体堂々巡りで、退屈で長ったらしくて、でも切羽詰まった何やら嫌な雰囲気だけは伝わってきて、そんな雰囲気は国全体に蔓延したものだったように思う。


 しかし幼いヘルガにはそれ以上のことなどわからない。


 つないでいる手をぐいっと引かれて、ヘルガは隣を見た。


「ヘルガ何味だった?」

 

 ふと見るとオリヴァーが片方の頬を膨らませてヘルガに問いかけた。


 少し静かにしているように、と言われ二人ともキャンディーをもらっていたのでそのキャンディーで頬が膨らんでいるのである。


 オリヴァーから見たヘルガもきっとほっぺがぽこりと膨らんでいる。


「イチゴ味?」

「はっ、なんで俺に聞くんだ」

「だって、甘くてちょっと酸っぱい」

「大体果物ってそんな味らろ」

「ふふっ、オリヴァー変なしゃれりかた」

「ヘルガもじゃん」


 二人とも口の中の大きなキャンディーをもてあまして言葉はおぼつかない、転がしながら父たちに怒られないように小さな声で言葉を交わす。


「話、終わんないな」

「ですね」

「暇ぁ」

「ひまぁ」


 オリヴァーは退屈に任せてヘルガの手を引っ張って、ぐいっと体重をかけてくる。


 年も同じで、生まれた時期も近いのに、オリヴァーの方がなぜだかヘルガよりも早熟で体格が大きかったのでヘルガは重たく感じる。


 しかし負けじとぐいと体を寄せて彼のまねをする。


 足をパタパタと揺らしながら彼のまねをして言ってみて、それが意味もなく面白い。


 オリヴァーと一緒なら怒られるのも怖くない気がして、子供らしく「いひひ」と笑って、口を押さえた。


「なに、笑ってんの」

「なんでもないの、です」

「内緒にすんな」


 そうして時間を過ごしているとたいていの場合、話は父たちの想定よりも長くなる。


 キャンディーも舐め終わり、少し遊んでおいでと部屋の外に出されるのだった。




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