13 王太子
ついに父の元へと、次回の出荷見合わせについて王太子のイグナーツから連絡が入ったらしい。
説明と話し合いの場が設けられることになり、ヘルガはそれについて、当事者の騎士ベールマーの同席を望んでいることを父に伝えてもらった。
そうすればきっと彼らはベールマーに先に何があったのかを尋ねることになるだろうし、その際に、ベールマーの行動は明らかになる。
話はとてもスムーズに進むだろう。
しっかりと準備をして、王城へと向かうと応接室へと通されて、王太子イグナーツ、騎士団長ハイムゼート、そしてベールマーがそろっている。
イグナーツ王太子は相変わらず利発そうな雰囲気を醸し出していて、王族らしい銀髪をさらりと揺らしてヘルガを見る。
ハイムゼート騎士団長からも視線が集まり、堀が深く、長年の仕事によって鋭くなったギラリとしている眼光もヘルガに注がれる。
二人がそろっている空気には緊張感があって、それだけでこの場に父がいれば縮み上がってしまうだろうと思った。
そんな中でも、オリヴァーも負けず劣らず、剣呑とした表情でベールマーを注視していた。
「本日はお招きいただきありがとうございます。イグナーツ王太子殿下。父、エヴァーツ伯爵は多忙につき、跡取りであるわたくしヘルガが事情説明のため参りました」
「聞いているよ。そこに掛けて、面倒な前置きなどいらないだろう。ともかく今回の件は早急に解決するようにと国王陛下からも言葉をもらっている」
イグナーツは、そんな場合でもないと言うことで前置きを省いてヘルガを見て話を続ける。
「こんなことで疎魔の盾の在庫を減らすわけにはいかないからね。まず、第一に私たちはよく尽くしているエヴァーツ伯爵家に対して悪い感情など一つも持っていない」
彼の言うとおり、放っておくと在庫は減る。
疎魔の盾に使われている魔法石は人工で作られる魔法のこもった魔石と違って効力が切れるのが早い。
王家が問題解決に素早く動いたのにはそういう理由もあるのだ。
「今回その事実が揺るがされる事柄が起こったとエヴァーツ伯爵家は感じているようだけれど、こちら側としてはまったくそのような意図などないんだ。ハイムゼート騎士団長、説明を」
「はい」
早口で、さっさと話を進めようとするイグナーツは早速、騎士団長へと話を振る。
しかしヘルガは「待ってください」と言葉を挟む。
「……なにかな、エヴァーツ伯爵令嬢」
イグナーツは話の進行を遮られて、少しこわばった表情になる。
しかし気にせずに、むしろイグナーツの機嫌が悪くなるだろうとわかっていながらあえてゆっくりと話をした。
なぜなら、このベールマーの起こした問題は、そんなふうにさっさと片付けなければならない面倒なすれ違いではないのだ。
そんな態度で流されてしまっては困る。こうして王都へとやってきて根回しもした。
それは手間のかかることだったし、適当で良いと思われていてはヘルガの用意した策だって効力が半減する。
「言葉を遮ってしまい申し訳ありません。しかし、どういった事情であるかは、そちらの騎士ベールマーから伺いたいと思っています。当事者として彼の口からどういうことなのかお伺いしたいのです」
「それにどんな意味があるというのかな」
「……意味、ですか」
「ああ、私は効率の悪いことは嫌いなんでね」
ベールマーの口から話を聞きたい。
ただそれだけのことにもイグナーツは反対する。それから目をそらして、肘掛けに頬杖を突いた。
その言葉は、未だにくだらない問題だと捉えて居る故の彼の本音なのか、もしくはヘルガ――いや、エヴァーツ伯爵家に対する敵意の表れなのか。
イグナーツの態度から、ヘルガは後者の可能性が高いと受け取った。
そしてそれにはさすがのヘルガも面食らってしまう。面倒なことだとは思われると想定していたが、そこまでだとは思っていなかった。
少しの沈黙が生まれる。
そこにすかさずオリヴァーが口を挟んだ。
「お言葉ですが、イグナーツ王太子殿下。我々は、ヘルガの元婚約者のことについて、騎士団も納得の上で不貞行為の処罰をされたと伺っていました。しかし今回、実際に俺たちが関わりを持つ騎士からそれを糾弾され、看過できない態度をとられました。そのようなことがまた起こらないとも言えないのでは?」
「……」
「今度こそ本人にきちんと確認し、反省をしているのか、これからどのように振る舞うつもりかという話をしたいと望むのはこちらの当然の権利ではないかと俺は思います」
「……良いだろう。許可しよう。存分に疑念を晴らしてほしい」
「ありがとうございます。王太子殿下」
とっさのオリヴァーの機転にヘルガは妙に熱い気持ちになった。
この作戦を準備をしている最中、少しばかりどちらが仕事をするかで揉めたりもしたが、やっぱり幼なじみだ、ヘルガのことをよくわかってくれている。
さすがオリヴァー、と褒め称えて両手をつないで幼い頃のようにぐるぐる回りたくなったが、今はそんなことをしている場合ではない。
せっかく、はじめからそう主張しようとしていたかのようにオリヴァーがつなげてくれたのだ。
早速待ち望んだこの瞬間にきっちり方をつけようじゃないか。
そう考えてヘルガはベールマーに視線を向けたのだった。




