第四十話 不思議の魔術師アリス 前編
翌々日。
俺がベルリナちゃんと一緒に講義を受けた後、昼食を食べていると、イロハちゃんから着信があった。
毎度のことながら、辿々しく通信端末を操作し、通話を繋ぐと、耳に入ったのは吉報だった。
「プラティエよ。アリスから返信があった。今晩にも、会いたいそうじゃ。とりあえず待ち合わせは……女子寮前で良いか」
「オッケーです!いやったぁぁぁぁ!」
「やれやれ、やかましいのう。……とにかく、そういうことじゃからの、講義が終わったら、女子寮の前に来い。アリスは繁華街で待っておるからの」
「はーい!」
俺は端末の電源を切り、食べかけの親子丼を再び口へ運び始める。
「プラティエ?誰からの通信だったんだー?イロハか?」
「うん。今日、ちょっとお出かけの予定があってさ」
「まさか……デートか!?」
「そんなんじゃないよ。でも、嬉しい用事」
「そうなのか!良かったなー!」
「うん、本当に!」
ワクワクが止まらない。
逸る気持ちを抑えつつ、俺は午後の講義を済ませ、女子寮前へ向かう。
そこには、もはや見慣れた可愛らしい少女、イロハちゃんの姿があった。
「やっと来たか。ほれ、行くぞ。プラティエ」
「はーい!」
「分かりやすい奴じゃのう」
「あ、バレちゃいます?」
「露骨に元気じゃからな」
「いやー、隠し切れてませんか」
「全然じゃ。……アリスは美人じゃからな、好きになるなよ」
「その辺は大丈夫です、俺はイロハちゃん一筋なので」
「嬉しいがフリにしか聞こえん」
「そんなことないですって」
「本当かのーう」
数十分後、会員制バーにて。
「可愛い~!!!」
フリはすぐに回収されたのであった。
「やれやれじゃ」
「まぁ!その子がプラティエちゃん?」
「うむ、妾の弟子じゃ。此奴は少女に目が無くてのう……其方の情報を目にするや否や、この調子でのう」
「あら、そうなのね!初めまして!アリスの名前はアリス・スコット!クルぴーと同じ、最高位魔術師よ!」
クルピアちゃんをクルぴー呼びとは。
仲が良い少女達、尊い。
「初めまして!俺、プラティエ・ノルンって言います!お会いできて嬉しいです!」
「よろしくねっ、プラティエちゃん!」
隣には「変身」を解除したクルピアちゃん。
向かいにはゆるふわロングの金髪に碧眼の美少女。
……ここは天国ですか?
「ところで、アリスよ。其方が人前に姿を現す方だとはいえ、こうも普通に出てくるものかのう?」
「あ、バレちゃったかしら?」
「そりゃあそうじゃろう。何があるんじゃろう?」
「うん。ちょっと最近、事件があって」
「事件、ですか」
「うん、事件。一応、アリスと一部の魔術師には、『オーガマスク案件』っていう名前で知られてるよ。こうして会うついでに、二人には、事件解決に協力してもらいたくて!それを伝えるのにちょうど良かったから来たの!」
アリスちゃん曰く、近頃、鬼の仮面を装着した連中が王都を徘徊しているらしい。
負傷者も出ており、奴らの目的は不明。
高度な魔術を使う者の姿も確認されており、このまま放っておくとロクなことにならないだろうとのことである。
そして、せいぜいがクルピアちゃんの弟子でしかない俺なんかに会ってくれたのは、この事件の存在あってこそだろう。
ありがたいんだか、上手く使われた気がするんだか。
しかし、それを差し引いても今日は非常に嬉しい気分である。
「とにかく、その事件について調べて、出来そうなことがあればやる、それで良いか」
「うん、ありがとう!クルぴーがいれば百人力だよー!プラティエちゃんも、よろしくねっ!」
「分かりました!ところでアリスちゃん」
「なぁに?」
「アリスちゃんって強化魔術の使い手なんですよね」
「ええ、そうよ!それが、どうかしたの?」
「お手合わせ願えませんか」
「アリスと?良いけど……挑戦的 、だねぇ」
「強い魔術師と戦うと、刺激も多いですから」
「ほう、アリスとやり合うか。まあ良い。では、場所を変えるかのう」
クルピアちゃんは俺とアリスちゃんを連れて、バーの隠し扉を開いた。
「わあー!ここが開くところ見るの、久しぶりかもしれないわ!」
「どこに繋がってるんですか、この扉」
「ふっふっふ。ここはかつて、地下闘技場として賑わっていた場所でのう。警察の取り締まりがあってから、表向きには封鎖されたんじゃが……最高位魔術師は、こういう時に融通が利くものなのじゃよ」
案内されるがままに、俺達はクルピアちゃんの後をついていく。
階段を降りていき、暗闇の中から現れるのは、かつて王都が開発される前の戦場跡だった。
「うわあ、事故物件みたいな雰囲気ですね」
「戦場跡じゃからな。流石に最高位魔術師を、そう簡単に学院の闘技場で戦わせる訳にもいくまい」
「プラティエちゃんも、ここで良いよね?」
「分かりました。じゃあ、始めましょうか」
行く先々の魔術師に戦いを挑んでいるような気もするが、前世で、そして現世でも少年漫画を愛読している俺にとって、強そうな魔術師と戦いたいと思ってしまうのは性なのかもしれない。
我ながらいつまで経っても男の子だなと、俺は腕輪を構えながら、そんなことを思っていたのであった。




