第三十四話 警告
翌朝。
俺達は体育館に集められ、パルグレフ魔術学院へ帰るバスを待つことになった。
しかし、出発予定時刻から三十分経っても、一時間経っても、バスが到着したという報せは無く、俺達は体育館で孤立してしまっていた。
「……アタシ達、帰れるのかなー?」
「とりあえず今は立ち往生って感じっぽいけど……不安だね」
「事故にでも巻き込まれていなければ良いのですがねぇ」
「もう、魔箒使える人は自力で帰った方が早いんじゃないかと思えてきたよ」
「フン、本当じゃな。学校さえ許せば、箒で飛んで帰ってしまうんじゃがのう。学生が一人消えたら、学校にも学生を預かる責任というものがあろうからのう。我慢してやる」
腕を組んで「ふん」と鼻から息を出す仕草、そんなところも可愛いイロハちゃん。
そんなクルピアちゃんをずっと見ていたいところではあるが、一向にバスがやってこないのは心配である。
こうしている間にも、王都では吸血鬼が息を潜めて生きているのだ。
あの脅威を知っている身としては、不安で仕方ない。
「明日の晩にでも、捜索に出たいのですがね……このままでは計画が……」
バルディオはショットガンで床をコンコンと鳴らしている。
眉間にシワが寄っている。
かなり苛立っているようだ。
昨晩、吸血鬼についてバルディオに端末を操ってもらって少し調べてみた。
この世界でも吸血鬼は日光に弱いらしく、日中はほとんど動かないらしい。
つまり、今はまだ犠牲者が出るおそれは無いということである。
しかし、日中に外へ出てこないということは、こちらから探しに行く必要があるということであり、そして水路にでも入り込もうものなら、不意打ちを食らう可能性があるということだ。
故に襲うならば、夜。
狩りに出たタイミングで、先手を取る。
それが最も有効な方法であると俺達は考えた。
コレディッカ先生には放課後、そしてクルピアちゃんには深夜、自分の部屋で伝える予定だが、この様子では、着いた頃にはもう深夜……なんてことになってしまいかねない。
そうなれば、コレディッカ先生かクルピアちゃんのどちらかにしか作戦を伝えられないだろう。
コレディッカ先生の元にバルディオ一人で行かせようとすると怪しまれかねないからだ。
そうなってしまうと、作戦会議が、つまりは作戦開始が一日先へ伸びてしまいかねない。
何とか早急に帰る術は無いだろうか。
「……!?伏せろ!」
突然、ベルリナちゃんが物思いに耽る俺の頭を地面に押し倒してくる。
「へぶっ!な、なに……」
「【防御】!」
そして、イロハちゃんが防御魔術を発動する。
次の瞬間。
駐車場の方から、「ドォォォォォン!」と、爆発音が鳴り響いた。
「な、何だ!?」
「非常事態、ですね……」
バルディオがショットガンを構える。
「何だ、何が起こったんだあ」
「キャー!」
「皆、静粛にィィィィ!先生達が様子を見てきますゥ!」
騒つく体育館に、コレディッカ先生の声が響く。
流石の魔術教授、非常時の対応も万全である。
「皆さんは落ち着いて、待っていていくださいね~」
シャルラ先生も続けて、非常用扉から外へ出ようとした。
しかし、事態は想定よりも早く動いているようであり。
「キシャアーッ!」
コウモリ型の魔物が、ガラス窓を割って室内へ入ってきてしまっていた。
「皆さんンン!戦闘体勢ですよォォォ!止むを得ません、皆で打ち倒しますよォォォ!来なさい、【ヘビーゴーレム】!」
コレディッカ先生が瞬時にゴーレムを召喚し、片っ端からコウモリを殴りつけ始める。
「イロハちゃん、アレは!?」
「『マーダーバッド』じゃ!吸血鬼の眷属じゃな……奴らは日光に弱くないからのう、昼間でもこうして活動できるのじゃが……まさか、彼奴が仕掛けたのか……!?」
「何でこんなところに!」
「バスで王都を出る妾達を追ってきたんじゃろう!バスのどこかに潜んでいたのかのう……!このタイミングを狙ったのは、妾達への警告か……!」
「あーもう!王都に帰ったらボコボコにしてやるからな!最高位魔術師様が!」
「そ、そうじゃ!喰らえ!【雷】!」
「何だかわかんねーけど!とりあえずコイツらをブッ潰せば良いんだな!【妖怪変化・戦狐】!」
「装填。聖なる光に貫かれなさい。【ヘブンズアロー・タイフーン】」
「炎よ、不死鳥の姿を以て敵を葬り去れ!【火の鳥】!」
俺達は群がる数百のコウモリを魔術で次々に殺していく。
他の学生達も、カレー作りの際に使った魔術で次々にコウモリ達を殺していった。
そんな中、シャルラ先生は一人、杖を使わずにナイフだけで鮮やかにコウモリを斬り裂いている。
「あら~!コウモリさん達~、こっちですよ~!」
壁から壁へと飛び回る恐ろしいまでの身体能力と、それを遺憾なく発揮する剣捌きは、もはや神技の次元であった。
数は多いが、一体一体が強くないのが幸いであり、大半はイロハちゃんとシャルラ先生、そしてコレディッカ先生が、あっという間にマーダーバッドの群れを片付けてしまい、事態は収束した。
しかし俺達は、それらの死骸を踏みつけながら、爆発四散したバスを眺めるしかなくなってしまったのであった。




