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15話 ぼく、ばらもん

「じゃあスミは連れ行っていいすけ」


「は?」


 親父がしれっと玉から人に戻って、お袋と茶を啜っていた。なんかいつもより仲が良さそうになっていて、気恥ずかしく思っていたところにロードサービスが到着し、代用車でもって今度こそ帰路に着くという段になって、玄関に荷物がまとまったとき、おてつけさんが俺に言い放った言葉だ。


(連れて帰るの?スミさん連れて帰るの?どこに?スミさん俺んち来るの?俺んち住むってこと?え、ほんとに?困るよ?)


「し、失礼、おてつけさん、ちょっとそれはどういう……」


 親父が問いかける。


(そうそう、どういうことなの?)


「縁が結ばれてしもうたすけ、そういうことだの」


 全く説明になっていない。更に続けざまに、


「スミは強い弱いというか、そもそも不安定での、儂もずっと考えっておった」


 と言った。不安定というところだけすごく分かる。だって今のスミさん見てよ、メトロノームみたいに触れちゃってるよ。で、チッチッチッチッチ、って音まで付けてるのかと思ったらね、どっちどっちどっちどっちって延々と言ってるの、鳥肌立っちゃったよ。


 立ち話のようになっていたところにスミさんは蠕動しながら近寄ってきていた、もう本当に怖い。不規則に掠れた息の音をさせているし、髪の毛の隙間から見えてる目も怖い。


(スミさん具合悪いんじゃないの?顔色悪いし、ねえ過呼吸みたいになってるよ?危ないし、それに怖いし、やめた方がいいんじゃないの?)


 言葉にならない言葉を反芻しながらも、俺はスミさんを意識している。こんなスミさんを意識しないわけがないのだが、スミさんを見ていると心臓の音が早くなる。目が離せない。このドキドキはなんなのだ。吊り橋効果?もしかして恋っていう……


(言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない言わない……)


 それにしてもおっぱいでか、と気を取られていると頭におてつけさんの手が掛けられている。


「決まりじゃ決まりじゃ、あーこん子は奥手でいかんわ、ま―――あッ」


 ブチッ


「イテッ!!」


 髪の毛を何本かいや結構な本数毟られる。突っ込みにしては外道過ぎるだろ!


「え、ちょ、なんすか……なんなんすか!」


 俺のリアクションを無視しておてつけさんはその髪の毛に息を吹きかける。無音に白い火花に似たものが生じ始める。淡い光を散らしつつ髪はうねうねとしながら膨張しながら、どことなくヘビ花火を思い出していると、やがて一つの形を成していることが分かる。

 やがてそこには、小さくて白いマリモのような形状ものが浮いていた。あろうことかゴマのような目が二つと、尻タブのような口のようなものが見受けられる。


「ボクばらもん!ヨロシクもん!」


 それは言葉を発した。

 驚きのあまり吐き気を催す。この不可思議な物体の登場に俺は強烈なストレスを感じ、俺のストレス値はもう見たことがないくらいになって、やり場のない怒りは割れそうなほど頭を軋ませる。頭をカチ割ってしまいたい。


(どの面下げて、どの面下げて、どの面下げて、これそういう物語じゃねえから……)


 俺はこの瞬間何故かどら〇もんに対して猛烈な憎しみを抱いていた。あとポ〇モンとか山口多聞とか雷門とか「もん」の付くあらゆるものこの憎しみの感情を抱き、呪詛にまみれていた。。


「こん子もやるから、坊やの片割れ、分身みたいなもんだすけ、坊やのことをよう教えてくれる、なんでも聞きなせ」


「わーかわいいわねー、どことなく小っちゃいころのゆうちゃん似てるかも」


「よ、良かったな祐志郎」


「祐志郎っていうもんね?ヨロシクもん!」


 ふわふわと寄ってきて毛玉が語りかけてくる。


(……聞いた)


「元気がないもんね?ヨロシクもん!」


「うああああああああああああ、さっき聞いたああああああああああああああああああ!!」


 俺は力一杯その毛玉を殴りつけた。ほとんど錯乱していた。もうやだ、もうやだ!


タムタムタムタムタムタムタムタムタムっ


 毛玉は恐ろしく軽いスーパーボールのように床や天井、壁を乱反射してスミさんの頭に直撃した。サフっと軽い音がした。


「……ヒク、ヒック……う、う…………」


 スミさんは静々と泣き始める。


「ゆ、祐志郎、スミさんに謝りなさい……」


 親父も戸惑いを隠せそうにないながらも場の収拾を求めるようにそう口にした。

 俺は謝ったさ。謝ればいいんだろう。どうせ俺が全部悪いんだ。


 代用車は親父の車より少し小さく、狭くなった後部座席座る俺の隣にはスミさんが座った。

 親父が「すみませんがシートベルトをつけて貰えますか」とスミさんにいうと、シートベルトの存在を知らずに硬直していたので、俺が投げやり気味に手を回してシートベルトをつけてやると、


「あ……ありあり、あり…………」


 と言って頭を抱えて動かなくなった。


「ねえ、ばらもんはしーとべると?しなくていいもんか?」


(殺してやる殺してやる殺してやる……)


 俺は精神を繋ぎ止めるためにも、この白い毛玉を呪わざるを得なかった。


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