第二話
湊太は次の席替えに胸を弾ませていた。今日はその席替えがついに発表される。
湊太は次々に貼られていくネームプレートに自分の名前を探す。見つけた瞬間、湊太は固まった。隣はあの新條葵だった。
新條葵は顔も体型も残念なぐらい不細工だ。それで人々に忌み嫌われているが、いつも隣には斎藤美夜が居る。なぜだか分からないが、その仲の良さは確かにすごいらしい。
湊太は葵と机を少し離した。彼女は少し寂しそうな顔をした。自分の地位を嫌でも知っている彼女なら湊太には文句を言えないだろう。
次の日。家庭科でなますかぼちゃを茹でることになった。茹で終えてなますかぼちゃを解す時、彼女が羨ましそうに見ていた。「やる?」と湊太が聞くと、葵は「うん」と言って駆け寄り、「アツッ!」と言いながら笑顔で解していた。
そんな笑顔に胸が高鳴った。これは一体何だろう。彼女の笑顔を見ると、胸が痛くなるのは……。
葵は国語の語句を調べる時、いつも彼女が先に調べてノートに書き終わってから湊太にノートを見せてくれる。意外に優しいとこあるじゃん。
「葵」
湊太はなぜかその名前を口にしていた。隣の席の彼女が驚いた表情で振り返る。
「今度さ、一緒に遊ぼうよ。なんかリクエストある?」
湊太がそう言うと、葵は明るい表情になった。意外と表情豊かだということを湊太は一つ覚えた。
「あっ!でも、夜はダメだよね?」
「何?言ってみてよ」
葵は少しだけ躊躇していたが、ついに口を開いた。
「星を見たいな。一人だけだと寂しいから……」
恥ずかしがって自分の頭を掻いて笑う彼女にまた胸が痛んだ。どうしてこんなにも胸が苦しくなるのだろうか。
「行こうよ!バレないようにさ」
湊太がそう言うと、葵は「そうだね!」と言って、満面な笑みを見せた。また湊太の胸が高鳴る。
今夜に星を見に行くことにした。二人はたくさん話して笑い合った。
移動教室の時、葵と美夜が仲良く歩いているのを見つけ、湊太が話し掛けようとした時だった。
「うわー、また居たよ、最悪。ブスに見られるなんて気持ち悪くて嫌なんだけど」
先輩達がそんな話をしていた時、葵は下を向いて切なそうな顔をしていた。それで、湊太は嫌でも分かってしまった。
葵はあの先輩が好きだっていうことを。
あんなにカッコいい先輩なら惚れてしまうだろう。しかも、白軍団長で、葵と同じ軍だったはず。だから、葵はあの先輩が好きなんだろう。
何で、こんなに胸が苦しいんだろう。あの人を想うその横顔はあまりにも切なかった。俺はあの人を越えられないのだろうか。俺は君の特別になれないのか?
そして、夜になった。俺はこっそり抜け出して、待ち合わせ場所である川原へ向かう。町はとても暗かった。
川原に着くと、葵は川の前に座っていた。その後ろ姿はとても小さく見えた。
「葵」
その名前を呼ぶと、君は振り向いて笑った。その笑顔は星が降るようで、とても綺麗だった。
「ごめんね。付き合わせちゃって」
「いいよ。俺も星が好きだからさ」
二人で野原に寝転がって星を見る。その星はとても綺麗だった。葵の横顔も。
「ねぇ、なんて呼んだらいいの?」
「俺?」と聞くと、「うん」と彼女は答えた。
「普通に湊太でいいよ。くん付けだとなんか変だしさ」
「じゃあ……湊太、よろしくね!」
星光に照らされた君の笑顔はとても美しく見えた。葵は「湊太」って呼んで、夜空を眺めた。
「これがあれで、この星が……」と指差して笑う君を見ていて、胸が苦しくなった。
「ねぇ、葵。先輩に酷いこと言われてるよな」
「あっ……」
彼女はとても暗い顔をした。あんな仕打ちされたら辛いよな。
「だから、俺が一緒に居るよ。それなら、アイツ彼氏居たんかって終わらせられる。どう?」
君と一緒に居るには、こんなズルい方法しかないんだ。好きになってもらいたいから、優しくしてしまうんだ。
「良いかもしれないけど、湊太は大丈夫?私なんか隣に居て、良いことないよ」
葵はとにかく自分が嫌いだ。だから、俺が隣に居ることに心配している。新たな噂が広がってしまうことに恐れている。
「俺は大丈夫。俺は葵と居たいだけだから」
「えっ……」
これは心に響いてなさそうだ。他人に初めて言われたから戸惑って固まってるだけかもしれない。男にだから、驚くのも当たり前だ。
「ありがとう」
彼女は目に涙を浮かべながら笑った。そんな笑顔に俺は改めて好きだと感じた。
「葵!」
「おはよう、湊太」
通学路で葵を見掛けて俺は駆け寄った。そんな俺に葵は苦笑いをした。
「ねぇねぇ、葵。オススメのアニメがあるんだよ」
「えっ、何々?」
葵と他愛ない話をしていると、後ろから笑い声がした。振り向こうとも振り向けない。隣の彼女は顔を蒼白させていた。坂本先輩が後ろに居るというのがなんとなく分かってしまう。
「葵」
「えっ?」
俺は葵の手を掴んで走り出した。玄関まで辿り着くと、葵は息を荒くして苦しそうだった。
「ごめん、葵。でも、逃げた方が良いと思って……」
「うん……ありがとう……」
息を切らしながら言ってくれた言葉に俺は胸が高鳴った。玄関を見ると、息を切らした先輩達が居た。お前らの方がストーカーかよ。
「先輩達の方がストーカーに見えるな」
「……うん」
俺達は教室に入って席に座った。隣の席だからラッキーだ。
「何の本読んでるの?」
「この恋愛小説だよ」
「厚いなぁ」
お互いに顔を見合わせて笑った。そんな瞬間が幸せだった。




