第10話・前回とは違う初夜を迎えますわ
レオンと「お知り合いから」という関係になってから、一か月。
二人の距離は驚くほど自然に縮まっていった。
レオンは誠実で、真面目で、そして不器用。
セシリアはそんな彼を、会うたびに少しずつ好きになっていった。
散歩をしたり、馬車で街を回ったり、庭園でお茶を飲んだり。
手をつなぐだけでレオンは真っ赤になり、セシリアはそんな彼を見て、くすりと笑う。
そして一か月後――レオンは正式にグランチェスター侯爵家を訪れ、アルバートに深々と頭を下げた。
「セシリア嬢を……妻として迎えたいのです」
その言葉に、アルバートは満面の笑みを浮かべた。
この男は、セシリアが自分で選んだ者。
それだけでも、断る理由などなかった。
「もちろんだとも。セシリアを幸せにしてくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
こうして二人は正式に婚約者となり、そのまま結婚へと進んだ。
セシリアが第三騎士団の副隊長であるレオンと結婚するという噂は、社交界をざわめかせた。
「えっ、また結婚式?」
「セシリア嬢、二回目よね? しかも、早くない?」
「今度はちゃんと結婚するんだよな? 式だけじゃないよな?」
「また前回みたいなことにならないわよね?」
そんな声が飛び交ったが、セシリアもレオンも気にしなかった。
どんな噂も気にならないほど、互いしか見えなくなっていたのだ。
この事実には、周りの誰もが驚いた。
今回の結婚式は簡易的な式にするつもりだったが、気づけば豪勢な式になっていた。
娘の幸せのためと、アルバートが張り切りすぎたのだ。
「お父様ったら、張り切りすぎですわ」
「いいじゃないか。娘の本当の結婚式なんだ。盛大に祝わせてくれ」
号泣しながら言った父アルバートの顔を、セシリアは一生忘れないだろうと思った。
ジゼルは当然のようにセシリアに付き従い、新居へもそのまま同行することになった。
新居は、レオンと付き合い始めたころから、彼との結婚を想定したアルバートが探してくれていた。
広すぎず、狭すぎず、庭もあり、日当たりも良い。
結婚するにあたりレオンはその家を見て、アルバートに何度も頭を下げていた。
そして――結婚式の夜。
初夜から始まったセシリアの物語は、再び初夜を迎える。
前回は放置されたことを思い出し苦笑すると、
「セシリア、どうしたんだい?」
と、少し心配そうなレオンに声をかけられた。
「あなたと結婚をして、こんなことを言っていいのかわかりませんけど、つい前回のことを、思い出してしまいましたの。前の初夜では放置されて……悲しいよりも腹が立ってしまって、すぐにお父様に連絡したなぁって……」
「そうだったね……というか、腹が立って、義父上に連絡したんだね。悲しくて泣いたりは、しなかったの?」
「泣いた、かしら?」
セシリアはいつぞやの夜のことを思い出そうとする。
だが、放置されて恥ずかしかったという記憶はあったが、悲しかったということはなかったと思う。
ただ放置されたことが恥ずかしくて、相手と相手の家に呆れて、それから腹が立って……こんな家に嫁ぎたくないと思った。
すぐにそう思ってしまったあたり、おそらく自分は、最初からあの結婚に乗り気ではなかったのだろうなと思う。
だけど、今は違う。
今隣にいるこの男は、自分が心から愛している男性だ。
「レオン様は……初夜にわたくしを放置したりしないですわよね?」
少し不安に思いながら、だけど悪戯っぽく見つめて、セシリアは言った。
レオンを試すつもりはなく、ただ安心したかったのだ。
「そんなの、当たり前だろう!」
レオンは少し呆れたように言うと、セシリアを抱き上げてベッドへと運ぶ。
そして優しくベッドに寝かされて、覆いかぶさってきたレオンがセシリアの瞳を覗き込み、言った。
「放置どころか、一晩中放すつもりはないよ」
「まぁ、それは大変ですわね」
わたくし大丈夫かしら、とセシリアが呟くと、どうだろうねとレオンが笑う。
「それに、ずっと我慢していたから、本当に覚悟しておくといい。なんせ、俺はずっとこの白い肌に触れたかったんだから」
そう言いながら、レオンはセシリアの腰のあたりに手を置き、それを太ももへと移動させた。
太ももの辺りを優しく撫でる彼を困惑した目で見つめると、
「あの日――初めて君と会った日、君はこの綺麗な白い足で、勇敢に戦っていた……。それはとても素敵で……その……俺はこの白い足が、忘れられなくて……」
「え? え?」
セシリアは記憶を探る。
レオンと会ったのは、レインズ男爵が雇った賊に襲われた日だ。
そしてレオンに助けられる直前、セシリアは賊を思い切り蹴り上げていた。
そして、賊をかわして逃げた先にいたレオン。
ちょっと待って、とセシリアは真っ赤になりながら、レオンを見上げる。
「もしかして……見ました?」
何を、とは言わずに聞いた。
レオンは少し照れながら、うん、と頷く。
「勇敢な、白い足を……」
そう言いながら、また太ももを撫でる。
彼の言う「白い足」がどのあたりなのかは、それが答えだった。
もしかすると、その奥までも見てしまったのかもしれない。
そして、セシリアは気づいてしまった。
レオンがしばらくの間、セシリアを見るたびに赤くなっていたのは、それを思い出してしまったからなのだと。
「そんなわけなので……初夜放置なんてありえない。一晩中、覚悟しておくといいよ」
そう言ってにやりと笑ったレオンが、顔を近づけてきて。
大変そうだけど、嬉しいかもしれない。
そんなことを思いながら、セシリアは目を閉じた――。




