第51話 作戦会議?
それから数日後、俺達三人と姫川さんは、ファーストフード店に集まっていた。
どうやら姫川さんに会いたかったらしい逆巻が『作戦会議をします!』と呼び出したのだ。
ほんとにこいつ、私利私欲のために俺達を巻き込みやがって。
「ねぇねぇ、それで、これからどーするの?」
サングラスの奥で目をキラキラと光らせながら姫川さんが言う。
そんな姫川さんを、逆巻はにこにこしながら見つめていた。
「いや、これからって言われても、今のところ、特にすることは……」
「え~なんで? だってあたし達、この街の人々を守る正義のヒーローなんでしょ?」
いや、そんなこと一言も言ってねえよ、と思ったが……そういや逆巻のやつが余計なこと言ってたんだ。
こいつ、余計なことしやがって。
「んあ? なんや空木?」
「逆巻たいちょー。呑気にハンバーガーにかぶりついてないで、俺達に任務を与えてくださ~い」
「隊長? もしかして、逆巻くんがリーダーなの!?」
姫川さんが逆巻の手をぎゅっと握る。逆巻が石のように固まった。
「逆巻くん……いいえ、逆巻隊長っ!」
「あ……あえ……?」
「逆巻隊長っ! あたし何したらいい!? 市民の平和を守るためっ! 世のため人のためっ!」
「そそっ、それは……あのぉ~……」
逆巻の顔がどんどん赤くなっていく。頭の上にやかんを置けば茶でも沸かせそうだ。
友達が高熱でぶっ倒れる所は見たくないので、さすがに助け舟を出すことにした。
「ごめん姫川さん。俺達別に市民を守るヒーロー的な活動はしてないんだ」
「へ? そうなの?」
姫川さんの手がぱっと離れる。
「うん。勘違いさせてごめん。ただこないだのこと──中高生連続殺人の件といい、エデンの連中は手段を選ばないだろうから、俺達能力者以外が被害に合う可能性は高いし、それは防ぎたいっていうか……姫川さんの能力を実際見せてもらった身としては、正直協力関係を結びたい。でも、無理強いはしたくないっていうか」
「いいよっ!」
威勢の良い返事に顔を見る。姫川さんはまっすぐこちらを見ていた。
「ずっと思ってたの、あたしの力、誰かのために使いたいって。空木くんを守るために使えるなら、本望だよっ!」
「姫川さん……」
「あ、そうだ。あたしの能力さ。実は応用が効いちゃったりするんだ~」
姫川さんの視線が俺の手に注がれる。首を傾げていると、手をそっと握られた。
「へあっ!?」
女子に手を握られるという滅多に無い出来事に声を上げると、姫川さんは俺の手の甲をじっと見つめて言った。
「空木くん。こないだここ怪我したでしょ?」
そういや、特訓の時に擦り傷ができてたな。
要に治してもらうほどじゃないから、言わなかったやつだ。
「ああ、確かにそうっすけど……」
姫川さんは傷をじっと見つめ、そして顔を近付けた。
「え……え?」
どんどん顔が近づき、やがて桜色の艷やかな唇が、俺の手の甲に迫ってきていた。
え、なんだこれ、もしかして──キスされる!?
ドキドキしながら動けずにその様子を見つめていると──。
「ぱくっ」
手の甲に触れる寸前、唇が動いた。
そして姫川さんの顔が離れ、手も離れていく。
自分の手の甲を見て、俺は驚く。
あったはずの傷が、綺麗さっぱりなくなっていた。
「え……これ」
「食べたの」
「え?」
顔を上げると、姫川さんはあの時みたいにもぐもぐと咀嚼し、何かを飲み込んだ。
「あたしの食べる力ね。ほんとになんでも食べられるんだ。こないだの鉄骨みたいなおっきい物も、身体にできた傷も、病気も、なんだって食べられる。でもね──」
「くぱっ」
姫川さんが口を開く。
「空木くん、手の甲見て」
言われた通りに手の甲を見る。すると消えたはずの傷が元通りになっていた。
「あたしの能力、容量に限界があるんだ。時間が経てば、ある程度は消化できるんだけどね。消化できてない内に新しいものを食べたかったら、吐き出さなきゃいけないの。そしたらこの傷みたいに、元通りになる」
「……なるほど」
要が俺の手の甲に触れながら呟く。要の手が離れると、傷は再び綺麗さっぱりなくなっていた。
「かなり有用な力だ。攻撃だけじゃなく、治癒にまで応用が効くなんて」
「でしょ?」
「すごい……すごいやんひよりちゃん! まるでスーパーヒーローや!」
「てへへ、褒められちったっ」
姫川さんが照れ笑いを浮かべて頭をかく。
確かにすごい。
こないだの廃工場で食べる能力の威力は実際見たけど。
まさか、傷や病気まで──。
ふと隣から視線を感じる。見ると、要が鋭い目で俺をじっと見ていた。
「な、なんだよ」
「……別に」
要はぶっきらぼうに言って視線をそらす。
こいつ、なんで拗ねてんだ?
「……あれ?」
ふと姫川さんのトレーを見る。
放課後で腹ペコの俺達は全員セットを頼んでいるのに、姫川さんのトレーには、アイスコーヒーだけだった。
「姫川さん。なんか食わないんすか?」
「あっ……あたし、ダイエット中なのっ。いちおーモデルだからさ。太っちゃダメだし」
恥ずかしがるように笑って、お腹をさする。
いや、十分スタイルいいと思うだけどな。むしろ……痩せ過ぎじゃね?
なんてことを思ったが、写真写りなんかが関係あるかもだし、あえて何も言わなかった。
「それに、あたしの能力ってさ、『食べたい』って気持ちが強ければ強いほど、強くなるみたいなの。だからね。こないだ空木くん達に仲間に誘われてから、食べるの我慢してるんだ」
「そうとは知らず、こんな場所連れてきちゃってすんません……」
「あっいいのいいのっ! 人が食べてるの見るのは大好きだから! 美味しそうに食べてるの見てると、とっても幸せな気持ちになるの。だから、遠慮せず食べて食べてっ!」
ガタン。
逆巻が突然立ち上がり、そして歩いていってしまった。
「どうしたんだ、あいつ?」
「……さあ」
逆巻は少ししてトレーを手に戻ってきた。その上には、ハンバーガーの山ができていた。
少なく見積もって10個以上ある。
「はっ!? おまっ……どうしたんだよそれ!?」
「いや~めちゃくちゃ腹減っとったからなぁ。追加注文や」
ドカッと席に座り直し、逆巻はバクバクと食べ始めた。
「うっまこれうっま! やっぱマグドのハンバーガーは最高やなっ!!」
逆巻は両手に持ったハンバーガーにぱくついている。
それを見た姫川さんは目を丸くした後、くすりと笑った。
本作は【火・木・土】更新予定です。
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