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双鏡の君へー姿を変える幼馴染との恋と、残したい記憶ー  作者: ゆら。


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第四十七話 崩れる前に


いつも通り騒がしい教室の中で、

敦と琴葉は並んでノートを覗き込んでいた。


敦「ほら、ここの計算、桁ずれてるって」


琴葉「あっほんとだ……ありが——」


言葉が途切れた。


琴葉の手が、無意識に敦の袖をつまんで軽く引いていた。


……懐くみたいに。


ふと、空気が冷えた気がした。


敦「……え?」


琴葉「あっ、ごめ……じゃなくて……ちがう……」


琴葉の表情が固まる。


自分でも、今の言い方に気づく。


それで一段ショックが深くなる。


その瞬間、琴葉の指先が弾かれたように離れ、

かすかに震えた。


琴葉「……今の、違う……」


敦「いや別にそんな意識しなくても——」


琴葉「違うんだよ敦!」


教室の雑音がふっと遠ざかる。


鋭い声に、近くの友達が一瞬だけこちらを見た。


クラスメイト「……え?ケンカ?」 


琴葉は視線を逃がすように席を立つ。


脚が少しもつれたのを、敦は見逃さなかった。


敦も立つ。


廊下の窓にたどり着いた琴葉は、

外に向いたまま無意識に唇をつまみ、

声を落とす。

  

琴葉「……境目が」


琴葉「なくなってったら」


琴葉「俺が……“いなくなる”……」


声がかすかに震え、肩も揺れていた。


敦は迷わず、その隣に立つ。


琴葉の視線の高さに合わせるように、少しだけ身をかがめる。


敦「……聴こえてるよ。全部」


琴葉は唇を噛む。


ふるえは止まらない。


敦「崩れそうなら、言えよ。

 ひとりで耐えるな」


その声は揺れていない。


ただ真っすぐで、確かだった。


琴葉「……今の俺……どこまで俺か……分かんねぇ」


敦は静かに琴葉の肩に手を置く。


敦「琴葉」


琴葉がかろうじて顔を向けた。


目の奥の不安が、隠しきれていない。


敦「境目とかどうでもいい」


敦「お前はお前だろ」


琴葉「……ん」


琴葉が深く息を吸う。


敦「消えねぇよ」


震える肩の力が、ゆっくり抜けていく。


琴葉「……敦……」


敦「ズレたら俺が気づく」


敦「だから」


敦「一人で抱え込むな」


琴葉はほんの一瞬、

寄りかかるように敦の肩に体重を預けた。


琴葉「……ありがと……」


その声に、もう“壊れそうな震え”はなかった。


ーーー

クラスメイトE「⋯喧嘩⋯じゃなかった?」

クラスメイトF「声が小さくて聞こえねぇ…」

クラスメトG「あ、肩に手を乗せた!」

クラスメイトH「むしろ逆じゃない?」

クラスメイトI「鈴原くん自然すぎ」

クラスメイトJ「見ないふり案件だな、これ」


敦「聞こえてんだけど???」


クラスメイトがピュッと散らばる。


琴葉は「何があった?」と言う顔をしている。


ーーー


昼休みが終わり、午後の授業が始まった。


琴葉は、

『もう仲直りしてます』

みたいな空気をまとって、机に座る。


誰も、特に気にしていない。

──たぶん。


だが、琴葉の胸の奥には

不安がわずかに残っていた。


窓の外へ視線を逃がしながら、

そっと指を組み直す。


ゆっくり深呼吸、黒板の方へ向き直ると──


敦が手を差し出していた。


敦は一瞬だけ、

琴葉の手元を見る。


さっき、袖をつまんでいた指。


敦「琴葉。手」


琴葉「ん?」


琴葉はその手を取っていた。


琴葉(あ……また、自然に……)


琴葉(……変わってないな、俺)

 

琴葉(……やっぱり……敦がいると……)


呼吸が、少しだけ楽になる。


敦は、琴葉の動きや肩の力の入り方を、さりげなく観察している。


言葉は一切ない。


敦と目が合う。


敦「……震えてんぞ。」


琴葉は目を見開く。


自分ですら気づいていなかった微細な震えを、敦は当然のように拾ってくる。


琴葉は大丈夫と言うように笑ってみせると、敦の目元が僅かに和らいだ。


心の中の揺れはまだあるけれど、 さっきより少しだけ強く、自然体でいられる気がした。


琴葉(……もしまた揺れても)


琴葉(その時は、手、伸ばせばいい)



ここまで読んでいただきありがとうございます。


一人では難しいこともあります。

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