三十七 彼女を『敬愛』しているから
昨日は投稿を休んでしまってすみませんでした。
ストックはまだあるので明日は投稿します。
蔦に包み込まれるツヴァイドに僕は芸術作品みを感じました。少し見ていたかったのですが、引っ込められてしまいます。
着地の仕方も割と綺麗で……出会ったばかりの怠惰な印象は少し薄れかかっていますね。薄れかかっているだけですが。
「本気で殺すよ。一応、『試験』だから、お前も本気でやってくれよ。じゃないと、イライラする」
ツヴァイドは右手と左手、あと左足に岩を纏わせていましたが、全身に岩を纏わせることにしたようです。
土人形の破片やそこら辺の砂などが全てツヴァイドの体に吸い寄せられ、岩の鎧へと形を変えていきます。
「それを最初からしなかったのは、集中力が今までより必要で蔦などを出すことができなくなるからですか?」
僕はメイド服が隠れるのが嫌なので、両足だけに黒の魔力を纏わせると、そう尋ねました。
「……」
これは図星ですね。少し、表情に出ていますよ。
僕はツヴァイドに合わせるように駆け出して、虚空に浮かんでいた箒を左手に取ります。浮かべて使うのもいいですが、その時に減ってしまう魔力がもったいないので、手が空いている時はなるべく持つことにしようかと思ったんですよね。
「……どうしましょう」
何となく、今のツヴァイドの岩の鎧に名前をつけたいと思ったんですよね。『岩石纏鎧』……
……いや、普通に『岩鎧』でいいですかね。これから倒して、もう二度と遭わないであろう相手の鎧について、考える必要なんてないですよね。それより、戦いに集中しないと。
……失礼ですよね。本気で戦っている相手に対して。それに、これは一応『試験』なわけですし。
「……おっ」
拳を僕は避けていきます。速度が上がっているのは見たらわかります。高速で飛び回る蚊や蝿でも殺せるのでは?
僕は拳を放ちまくって疲れたと思しき一瞬の隙を狙って、思いっ切り右足で蹴り飛ばしました。連続蹴りです。
さすがに全壊。ツヴァイドは先程の僕のように膝をつきました。まあ、僕と違って両膝ですが。
そんなツヴァイドに僕は箒を突きつけます。これで動けません。
「最も硬い岩石を使用した鎧でこれか。化け物だな。なんでお前みたいな奴が《終焉皇》なんかと一緒にいるんだ? 主人のように扱っているんだ? 疑問でならないな」
『なんか』などと言われると、さすがに反応せざるを得ませんね。激怒して殴りかかったりはしませんけれど。
「僕が一緒にいたいと思った理由とご主人様のように扱いたいと思った理由は……そうですね」
彼女が危なっかしいから……そう答えようと思いましたが、やめました。それは本当のことではありません。
いや、確かに危なっかしくもあるんですけどね? それが一緒にいたかった理由というわけでもありませんし、ご主人様のように扱いたいと思った理由というわけでもないんです。
少し……間をあけて……頭に浮かんだことを率直に口にします。
「彼女が……好きだから」
「はっ? あんなおばさんをか?」
いや、おばさんじゃないでしょう。まだまだ若々しくて綺麗でしょうに。二十代くらいの見た目をして……
……と思いましたが、クロノ様は人間ではないんですもんね。もしかして、見た目は若くても実年齢は……いえ、そんな失礼なことを考えてはいけませんね。失礼すぎますよね。
顔を振った後に再びツヴァイドは口を開きます。
「好きって恋愛的な意味か?」
「違いますよ。『敬愛』ですね、これは」
恋愛的な意味にも捉えられますよね。言葉不足でした。
「『敬愛』ね……あいつにか。オラにはわからないな」
「まあ、わかっていただけなくて構いません」
「あ、なら……」
「?」
「なら……」ってなんですか。まだ何か聞きたいことがあったんですか。結構聞きたいことありますね、あなた。
首を傾げて待っていると……
「お前はなんでメイドをやっているんだ?」
その質問はまあ……予想してましたよ。あっと驚くようなとんでもないことを聞かれると思っていたので、拍子抜けですね。
ま、助かるんですけども。
「誰かに奉仕することの喜びを、シュバーイン様という僕の最も大切な第一のご主人様が教えてくれたからです」
クロノ様も今はご主人様と見ています。でも、だからといってシュバーイン様への敬愛の心は微塵も変わっていません。
彼女がいたから、僕はメイドになりました。そのことは絶対に揺らぎません。決して偽ることもないでしょう。
「メイドなんて……他人の指図で動くろくでなしだろ」
ろくでなし……はは……そんなふうに思われてるんですか。
僕はそこで首を振りました。
「違いますよ」
「何が違うんだ?」
「ご主人様は他人ではありません」
硬直。まあ、そうでしょう。これも予想通り。
「他人の指図で動いているんじゃなくて、ご主人様の指図で動くのがメイドです。ご主人様は他人じゃないんです。誰の指図でも受け入れるのがメイドってわけじゃないんですよ」
なんちゃって。こういうツヴァイドの姿が見たいから、こんなことを言ってみた感じです。
「……変わんないだろ。結局は指図じゃないか」
「そうですね。指図ですね」
「肯定するんかい」
「まあ、その通りだと思うので。僕はあなたを論破するつもりなんてないんですよ。メイドになってもらいたいとも思いません」
「……」
「僕はあなたに何にも強要したりしませんよ。あなたの『メイドは誰の指図にも従う者』という考えを正したかったから首を振って喋っただけ。それ以上でもそれ以下でもないんです」
「……はっ」
ツヴァイドは僕の言葉に対し、一瞬顔を伏せたかと思うと……こちらを見てギリギリ聞こえるほどの声で呟きました。
「……まあ、いい」
ツヴァイドはそう言うと、戦意を完全に喪失したようで腕を枕のように頭の後ろに持っていき、地面に寝転がりました。汚いですよ。土人形の破片とか砂とかたくさん散っているんですから。
そういうの気にしない方なんですね。やはり、怠惰な印象が再び戻ってきてしまいましたよ。
はは、少し笑った後……僕は箒を下げました。ここから、さすがに攻撃してくることはないでしょう。わかります。
「待て、イスヴァ」
「何でしょう?」
「オラにお前のとっておきの魔法を見舞え。それで殺せ」
「は?」
よくわからないので、意図を尋ねようと思います。
「何故?」
「お前、忘れてるだろ。これは『試験』だ。お前はオラを完全に殺さないと合格にならないんだぞ」
いや……
「そ、そうでしたっけ? 瀕死まで追い込めばと仰っていたような気がするのですが……」
まあ、僕は瀕死にまでは追い込んでいませんけど……勝負は着いたようなものなので、もう終わりかと思っていました。
「何でもいい! とにかく、オラにやれ! オラはそれを望んでいる。もう、別に生きる意思なんてないんだからな」
……?
魔道具にはもう興味はないんですよね。ああ、いや、外に出たいとは思っているんですけどね。
戦意も殺意もない相手を殺害することには抵抗がありますが、それが本人の望みらしいので、やるとしますか。
「お前の……固有魔法でやれよ?」
固有魔法……そうきましたか。
あれってそんな簡単じゃないと聞くんですよね。僕は称号のおかげで色々なことができるようになりましたが、さすがに固有魔法を一から創ることなんてすぐにはできないと思います。
クロノ様の能力を見た後だったので僕も何かしら格好いい魔法を使えたら、と考えてましたが……
思いつくのは大したことのない魔法、もしくは実現不可能そうな魔法……なので、どうしましょう……
「……わかりました」
物は試しです。やってみたら、案外いけるってことは何にでもあるでしょう。
箒を右手に持った僕は全身に意識を集中させていきます。
「あっ……」
クラっときました。当然ですね。全身の血を手に集めているんですから。
貧血って奴ですよ。これ、危うく死んだりしませんかね。
「はぁ……はぁ……ぜぇー」
ユーングさんが言っていましたが、僕は血液を魔力に変換することが可能なんです。この血液から変換した魔力を事前に穂先に生成した『黒球』と合成させ、増大させるつもりでいますよ。
「血液から変換された魔力は普通とは違うようですね……」
じゃあ、『強黒球』とは呼べないでしょうし……『黒冥球【壱】』とでもしておきましょうかね。
【壱】というのは単にクロノ様の真似。今後、もっと強いものを使えるようになるかもしれませんし、つけてみました。
「では」
「ありがとう。あと、『試験』合格ね」
「最期の言葉がそれでいいんですか?」
僕だったら嫌なので、割と真面目に聞きましたが、当人は別にそれでいいのか特に何も言うことはありませんでした。
『黒冥球【壱】』は満足そうなツヴァイドを包み込むと、彼の体と共に消滅していきます。
それで満足できるんですね……
僕は彼の最期を見届けると、マジロが本当にいないのか再確認した後、持ち物全てを完全に魔眼に仕舞い……洞窟の外に……
……って。
「出口とか聞くの忘れてましたー!!!」
漆黒の空間に僕の虚しい叫びがこだましました。肝心なことを忘れてしまうとは、何たる間抜け……
僕は肩を落とすと、目的地も決めず自身の感覚に従ってトボトボと歩いていきます。
これから、僕の疲労は更に高まっていくのでしょう。
そんなふうに後のことを想像して、軽く憂鬱になりつつも……僕はただただ歩き続けていきます。
その後、僕は魔道具があり、出口もある真の最深部にたどり着くまでに合計十回のため息を吐くことになりました。
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次回、最終回です!(序章の……)




