十七 大樹の根元での異変
……確実におかしい。断言できる。
この森……ヴァシルトの森で迷うことがね。
私は森の中を自分の庭のように何度も歩き回っているんだ。こうして迷うことなんてありえない。
「誰の仕業だ……? こんなところに私とイスヴァを連れてきて何がしたい」
森の入口を目指して走っていたはずの私がたどり着いたのはこの森の中で最も大きいとされる樹木、ツヴァの大樹の根元の前だ。名前からわかるようにこの大樹は森の主であるツヴァイドが管理しているもの。確か、奴の寝床としても使用されていた気がするな。
人々は「神聖な木だ」などといって、日頃から神のように扱っているが、私はどうしてもそう思えない。確実にあいつ……ツヴァイドのことを知っているからだな。私はなんであんな奴と出会ってしまったのか。そして、なんであんな奴が森の主なのか。未だに理解に苦しんでいるよ。ヤバい。
「取り敢えず、引き返そう」
そう言って私は引き返そうとするのだが……
「……何っ!?」
結界が張られているようだ。見えないが、何度も結界の魔法を使ってきた私にはわかる。まあ、結界であっても魔法結界かはわからないがね。魔道具結界の可能性もある。
「ツヴァイドは私が結界で閉じこめている。だから、あいつじゃない。多分、あいつが殺してほしいと言っていたアルッディとかいう輩の仕業だろう。腹立たしいよ」
出られないなら、仕方ない。取り敢えず、棺桶の中のイスヴァのことを見よう。何か変化がある可能性もある。
私は棺桶を背負い直して、大樹の根元に近寄っていく。大樹を背もたれにするためだ。少し疲れたしな。
そうして大樹に近寄ったところで私はそこにあるものを見て、思わず驚いてしまっていた。
「は?」
穴があるのだ。ポツン、と。
私は気になってそこに少し入ってみる。小さい穴なので、私だけだ。棺桶は後ろに置いてきた。
「……これは、洞窟……もしかして、ヤシフェンの洞窟か?」
ツヴァの大樹のどこかにたまに現れると言われている洞窟……ヤシフェンの洞窟……実際に入ったことはないが、結構昔にツヴァイドから聞いたことがある。というか、聞かされたことがある。
あいつは、入口のところに光る苔がこちらを歓迎するように群生していると言っていた。ここも生えてるよ。
その時は雑に流していたが、本当にそんな洞窟があったとはね。驚きに震えてしまうよ。
あ、実際には震えていないよ?
「……ふぅ……多分私をここに連れて来たものは私にここに入ることを期待しているんだろうが……生憎、私にこの洞窟に入る気など全くない。イスヴァを置いて行けるわけないからな」
そう言って私は口端を歪めて嘲笑った。私をここに連れてきた愚か者に対して与えるものなど嘲笑で十分だろう。
「ここが洞窟なら魔物が出てくる可能性はある、よね」
そう思った私は棺桶を背負って大樹の裏側へ回る。そこならゆっくり見れると判断した。
裏側についた私は「よいしょっ」としゃがんで棺桶をゆっくりと地面に落とした。中に人がいるのだから慎重にやらないとね。
「では、開けるか」
何故か妙なドキドキ感が私を襲ってきている。棺桶を開けるだけでここまでドキドキする者はそういないだろうな。
でもさ、これで開けた時にもしも生きていたらちょっと怖くないかい? そう思うと、私以外もドキドキするんじゃないかな。
そう思いながらもゆっくりと棺桶を開けて……
「……はっ!?」
もう何度目かわからない驚愕。
驚愕自体はこれまでの人生……いや、人間じゃないようなものだから人外生なのかな。まあ、それはどうでもいい。
……とにかく、今まで生きた中でもこれほど短時間で私が何度も驚くことなんてそうそうなかった。いや、もちろんゼロではないが、最後はきっと……何年も前まで遡らないといけない。
その驚きはなんだったか。忘れたいことだったから、必死に忘れようとしたような気がするな。
……まあ、いい。それより、今に目の前で何があったのか……そこに対して触れるべきだろう。
「……イスヴァ、どこに行ったんだい?」
棺桶の中はもぬけの殻。心停止状態で棺桶の中に入っていたイスヴァ・ルツシュは、いつの間にかどこかに消えていたようだ。
茫然自失……
……だが、体は動いていた。私の体はイスヴァのことを『探せ!』と『見つけろ!』と言うかのように動いていた。
そうして、十分が経つが……行ける範囲のどこを探しても、彼の姿を私が見つけることはできなかった。
何が起きているのかわからず、絶望した私は地面に膝をついた。思考に関してはとっくにまともに機能していなかったが、これは体ももう機能しなさそうだ。そんな気がするよ。ヤバいね……
棺桶の中を見つめて、私は数秒間肉体が停止……
それから、五秒が経過したあたりで……私の意識は途切れ、無様にも気絶してしまうのだった。
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