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エピソード95:他人事で済ませたいのなら、そうしています。でも僕には断固出来ません

 手が動かない。目も開かない。よって、景色も捉えられない。僕は今の今まで彼と死闘を繰り広げていたであろうに。

 どこに連れていかれているんだ? 暗闇の底。何も写らない闇の床の感触を僅かながら足で確かめつつ、進んでみる。

 駄目だ……どうにも見えない。もはや何をしようとも、僕は。


 この道なき道を抜け出せないのか?


 自信は段々と消え失せ、時間が経つに連れて壊れていく身体。さっきまで、あれだけピンピン動けていたのに関わらず動かないのは。

 

「現実世界の僕とリンクしているからなのか……っ!?」


 急に身体がピクッとしているのは、いつ以来か。僕と数回知り合い、何度か異世界について事ある事に知りたがる櫻井であった。

 彼は僕が起きるや否やすかさずスマホを開いて、右上の部分に人指し指を座す。

 それで見えてしまうのが……僕があれから異世界で過ごしてきた2週間はもう現実世界では3週間も過ごしていたという信じられないハプニングであった。


    《異世界》→→→→→《現実世界》


「ようやく起きたか。毎日滞在しておいて良かったよ」


「櫻井さん?」


「言語については異常はないようだね」


 あぁ、どうにかまた……この場所に戻ってこられたか。今はいつ頃なんだろう?

 異世界では2週間程過ごしていた筈。あっちに行くとスマホの時間とか日時はどうにも止まるから、大体頭で覚えているようにしている。

 

「あれは1日過ぎた辺りで回収しているから心配しなくて良いよ」


 櫻井が発言するあれって? と思ったら、指で例の形を示したのですぐさま理解した。

 

 ウインクは明らかに余計だけどね。


 なるほど……それでアルカディアの件が解決してから自然となくなったんだ。


「話は後にしよう。それよりも、今は検査を念頭にしたまえ」


 櫻井は至って真剣な顔付きで廊下で巡回も兼ねた看護師を呼びつけて、医者と一緒に検査を取り計らう。

 後からごちゃごちゃと散々言われたけど、医者から奇跡的な身体だと言われてしまった。


 まさかまさかの2週間から異世界に戻っての3週間の経過である。

 日付は4月16日。かれこれ一ヶ月近くも学校に通えていないのはある意味で異常だ……それと医者は脳に腫瘍が一切見られないという症状に驚きを隠せていないらしく、僕の病気については全くの謎。

 ただ筋肉については更に低下しており、3週間前と同様にまともに歩ける状態にはならない。


 これにはさすがの両親も心配を通り越している様子だったので、検査が一通り終えた後にとにかく僕は出来る限りの説明を試みた。

 前々から警察の立場に立つ須藤や僕に快く協力する心理カウンセラー兼オカルト研究家の櫻井が両親に話を通しているようだけど……こんな大事を招いたのなら、もういっそ自分の口から言った方が気分も楽になる。


「異世界? って、あの……あれか?」


 いつも気楽にしている父さんでさえ、完全に困り果てている。やっぱり、僕の口から言ってみた所で納得出来るような話でもないのだろう。


 しかし、それでも説明を続ける。

 

 もうかれこれ一ヶ月前から異世界と現実世界の両方を行き来する力をある日、勝手に宿したと。


 これまで僕の身に起きた様々な出来事については結構省略しておいた。

 そこは両親からしてみれば、重要でもないと判断したからだ。そんな情報より、もっともっと大切な話がある。

 

 これがどんな反応を示すのか?


「僕がこっちで眠っている間、異世界で冒険をしている内にとんでもない事実に直面したんだ。それは……」


「どうしたの?」


 はぁ、いざ言おうとしたら口が止まってしまう。やっぱり何だかんだ言って、あの子が犯人だっていう事実を受け止められないんだな。

 でも意を決して前に進む。これはもう自分だけの問題ではないのだ。


「神宮希。彼女こそが異世界という舞台を作り上げた張本人で……今もこうしている間に僕達の地球を飲み込もうとしているって言った所でとても信じられないと思うけど」


「希ちゃんが?」


「まぁ……それは本当なの?」


「彼の口から犯人として神宮希が出るのは想定内ではありますが、真実がまさか……この世界で死去した女の子が犯人だったとは。いやはや完全にオカルト過ぎて、正直戸惑いを隠しきれませんね」


 誰もが頷かなかった。戸惑いしかない病室で数分の沈黙が空気を重たくしていく。

 そうした中で空気を少し変えるつもりか一口咳払いをする櫻井。

 異世界を作り上げ、散々迷惑を撒き散らす神宮希。こうして肉体がボロボロになりつつも、どうにか戻ってこられて一時的に安堵する僕に櫻井は頭を悩ませつつ打ち明ける。


「ようやく3週間ぶりに帰って来られた翔大君には言いづらいんだけど……どうしても言わないといけないんだ。ちょっと、覚悟は良いかな?」


「えっ? 何かあったんですか?」

 

「異常現象が起きている。この日本……いや世界中がパニックなる位には地球上で大問題が発生している」 

 

 現実世界で大問題? アザー・ワールドでは神宮希が世界その物を混沌とさせていたけど。それと同様の事件が発生しているのかな?

 でも、常時楽観的な櫻井が何故か切羽詰まっているような顔を浮かべている。

 段々と不安になってきた。凄くどうしようも程に。


「詳しくはこれを見て欲しい。あぁ、両親さんもご一緒に」


 渡された物は予め切り抜かれあ新聞らしき物。何かのトピックの見出しか。

 櫻井から手に渡った記事。そこに記載されたタイトルは「地球滅亡の危機か!?」とデカデカと目立っている。


 余りの衝撃に一瞬目が点になりそうだったけど、何とか堪えて内容を熟読。

 こ、これは!? 僕が3週間寝ている間に事態がとんでもない方向に向かい始めているじゃないか。

 

「固まっているようで悪いけど、端的に説明したら事件発生は君が寝ていた3週間の内の1週間前。空にいつも浮かぶ太陽とは別に緑色の惑星がとてつもない距離で留まっている。無論、それを放置すれば……最悪隕石が降ってきたかの如く地球は滅亡しかねない。だからこそ事は異常で、万が一に備え日本の軍隊までもが迎撃体制を整えている」


 戦争行為に一切参加しない自衛隊ですら迎撃体制として戦闘車両を配置している!?


 話のスケールがとんでもない方へ向かい始めてるじゃないか!


 最初は自分だけの問題だと思っていたのに、いつの間にか全世界レベルの問題に。

 独りで抱えてる事件じゃなくなってきてしまっているという。


「信じられません。ま、まさか自分の知らない間にこんな」


「無理もないと思うよ。この現象が発生した頃から世界中で大パニックが発生。その上、どういう因果関係が働いたかは警察も総力を上げて調査しているようだけど犯罪が異常なまでに増加の一歩を辿っていて不用意な外出は出来ない。どうも……君と私が思う以上に世間はパニックを引き起こしているようだ」


「おいおい! さっきから黙って聞いてるが、つまりは俺の息子が騒動を招いた原因だって言いたいのか!」


 父さんは憤りを堂々と露にした。この櫻井に敬語を使うつもりは更々ないらしい。

 反対に櫻井は悪びれていない様子で特に怯えてもいない。この人は幾ら怒ろうとも何をしようとも特段冷静に保つ。

 それが父さんの怒りを余計に買わせているようで。櫻井に対し、毛嫌いしているようだった。

 

「申し訳ありませんが……これが私の伝える事実でしてね。彼が異世界という特殊な世界で真犯人である神宮希にコンタクトを図ったであろう瞬間から物事は発生したんです。事は私が計り知れない程に、スケールが大きくなってしまっている」


 櫻井はリモコンを手に取り、唐突にテレビの電源を付け始める。

 僕らに何を見せるつもりなのだろう? その疑問は彼の口から説明される。 


「何、勝手にテレビを付けてんだ?」


「ちょっと見て貰いたいニュースがありましてね。今の時間帯でしたら恐らく愛用している情報番組が取り上げてくれているのではないかと……」


 櫻井がチャンネルを合わせる間、その多くは見る限りではニュースだった。

 病室に置かれている時計を確認すると大体15時。時間的にはドラマとかバラエティが豊富な筈だけど、その多くが情報番組で内容はやっぱりあれを取り上げているようだ。


 合わせたチャンネルも例の如く、内容は突然空に浮かぶ謎の緑の惑星。


 事件発生日時は一週間前となっている。その頃に緑の惑星が太陽とは別に浮かび上がり、しかもある特定の都市では軒並み犯罪率が上がっているとか。

 逮捕された多くの犯罪者は欲望に従ったなどと終始意味不明な供述をしており、それらの件を踏まえて司会者と専門家が真剣に話し合いをしている。


『では、乾先生は1週間前に起きた緑の惑星の接近と犯罪率の増加には何らかの因果関係があると踏まえていると?』


『えぇ……具体的な関係については研究が必要でしょうけど、まずはその結論で進めても何らおかしくはないと考えます』


『いやいや! 仮にそうだったとしても繋げるには余りにも無理がありすぎる。その結論には無理矢理ちぐはぐにしてやっただけにしか思えません!』


『では、否定するからにはそれなりの意見はお持ちなんですよね? 草加先生?』


『勿論です』


 見る分には進行がグダグダしている。こんなつまらない議論をしあうなら、まず状況の打開の方を優先しないといけないのに。

 専門家達は言葉巧みに使おうとも、話の内容が余りにも稚拙でついていけない。

 

 露骨に嫌そうな顔を浮かべてみると櫻井は申し訳なく思ったのか別のチャンネルに切り替えた。

 そこの情報番組では政府が今回の事態に対する対応がニュースキャスターに読み上げられている。


「万が一に備え、ミサイル装備の車両を何台か配置したようだね。これじゃあ……核ミサイルの打ち上げの時とほぼ同じだ」


 接近してきたら、それで迎撃するつもりなのか。いよいよ日本も手段を選んではいられないという訳か。

 タイムリミットはいつまで? 希があちらの世界で計画が本格的に叶う前に阻止しないと手遅れになってしまう。


「もう一度異世界に行って、希を止めます!」


「翔大!?」


 父さんは本気で僕を心配している。まさか、また変な事を仕出かすのではないかと。

 勿論、それはあながち間違いではない。僕はもしかしたら死を賭けた大冒険をするからだ。

 

「父さん、母さん。僕は……行かないと。何がともあれ、こうなってしまった原因は自分にある。希の犯した間違いは食い止めないといけない」


 だから、命がどうなったとしても行く。彼女を止めなければ僕達の地球は崩壊。


 今度は現実世界の運命を賭けた総決戦。待っていてくれ、君の間違いは僕が必ず正して見せるから!


「貴方、翔大がここまで強く言うのです。今は信じましょう」


「ううむ。しかし、母さんは」


「父 さ ん?」


 不思議だ。笑っているのに、どうしてこうも覇気を感じるのだろう。

 納得がいかない父さんも母さんにたじろいでしまっている。


「はい、分かりました」


「ごめん……父さん。こういう危ない事はこれっきりにするから」


 とうとう起きた現実世界の危険な兆候。解決するには異世界へ行って事件の裏を引き起こした彼女の暴走を食い止める他ない。

 それが、異世界と現実世界を行き来する僕だけの。


 正真正銘、最後のミッションだ。

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