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エピソード108:自分勝手な奴は人生では損をします

 もはや傀儡と成り果ててしまった兵士をあしらえるのは非常に些細な問題でしかない。

 本来備わっていた力を押し込め理性をもなくした者が幾ら束になって来ようが、僕の相手にならない。


 一方で一回だけ剣を交えた経験のあるエレイナ将軍に関してだけは結構な手こずりを強いられていた。

 あの振り下ろす力は女性とは思えぬ力強さ。そして一回一回の動作がとてつもなく速い。


 どう考えても、男性なら持ち上げるのにも苦労しそうなサイズである。

 女性だったら、持ち上げるなんて夢のまた夢でしかない。なのにエレイナ将軍は特に何も考えず、自由自在に振り回せている。

 それが非常に恐ろしいというか何というか。


「凄まじい威力だ。少し、手を緩めてたら腕ごと持っていかれそうになるな」


 当人は感心しているようだけど、率直に告げてしまえば僕の方が辛い状況に立たされている。

 エレイナ将軍の所有する剣は豪快なサイズにして、一撃地面に直撃しただけで地面に亀裂が入りかねない程の威力を兼ね備えた悪魔の大剣。

 あれに見事に喰らわないようにしないと、これから先の道が危うくなる。

 希をこの目で見るまでには……どうにかこうにか粘らないと!


「とは言え、手加減は一切してくれないようで」


「これは私とお前が抱く未来への戦い。早々力を抜いてやれはしないさ」


 確かに、僕の目標が世界を潰して地球を救うのなら逆の立場に立たされたエレイナ将軍であるなら。

 地球を潰す代わりに異世界の存続を志すに違いない。それが希からの支配を受け入れる事になろうが彼女としてはそちらに傾いているのであろう


「なら……前の屈辱のリベンジをさせて頂きます!」


 構えた真・蒼剣がとてつもない光を晒す。僕に対する想いを込めた魂の剣。

 正常な判断で動くエレイナ将軍とは別にして理性が欠如している兵士は多勢無勢にで一気に声を上げて襲い掛かってきた。

 目はただれていて、視線はどこに向いているのか分からず。それでいて人間の倍以上の速度で迫る恐怖の形相。


 ほぼ瞬間的に二つの剣へと分解させた双剣で追い払える範囲を一気に片付ける。

 遠くに剣を思いっきり振り回したお陰で遠方に飛ばされた兵士一同。

 大抵の者は呻き声を上げながら死んでいく。気が付くと、辺りには僕とエレイナ将軍以外の人達は床に倒れていた。


 回りの人達は相当弱くなっている。これも操られている反動なのだろうか?

 理性がある時の方がもう少し粘っていた。これでは弱体化も良い所だ。


「ミゾノグウジンはショウタ・カンナヅキの壁として、私に対して前線に出向けとの命令が下った。もっとも殆どの国が支配下に置かれ、理性を生かされている私に拒否権は与えられていないがな」


 逆らえばどうなるかなんて当人の方が知っているんだ。きっと、彼女は僕に関わりを持つように仕向けた登場人物だけは理性を奪わないように仕向けたに違いない。

 さっきまで感情も理性も知性もなく暴れまわっているのは、あくまでも舞台のエキストラでしかないと言いたいのだろう。


「僕と一緒に共同戦線を組みましょう! ミゾノグウジンと手を組んだって何も良い事はありません!」


「私は私のすべき事を全力を持って注ぐつもりだ。ここでおめおめと引き下がるつもりはない!」


 意外と頭が固いようだ。ならば、徹底的に実力で分からせるしかないか。


 この奥には予想であるけど希が待っている。何となくでしかないが、そんな気がしてならない。


「お互い、けじめをつけようじゃないか!」


 刀身が轟音を撒き散らす共に炎が昂っている。エレイナ将軍が本気で僕を殺すつもりでいる。

 そちらがそう来るのなら!


「この……頑固者がぁぁぁ!」


 地面を蹴り、一気に加速する。互いが交互にすれ違った後に振り下ろす剣撃。

 けたましい音を鳴り散らし、止まる事すら致命傷となりかねない速度で僕らは戦う。

 

 彼女の戦う意味はこのアザー・ワールドを存続させ、ミゾノグウジンの支配下に置かれてもなお生きる。

 きっと、それは希に生かされた人生という名の設定であれど過去から現在を含めて想い出を壊したくないのだろう。

 もっとも僕が目的を成し遂げれば……否応なしに世界は間違いなく破壊される。

 だからこそ、エレイナ将軍は僕の行いを許すつもりは毛頭ないのだろう。


「私の速さに付いてこれるとは!?」


「さすがにそこまでの計算は出来ていなかったようですね」


 あれから僕も、結構な修羅場をくぐり抜けてきたんだ。そりゃあ、嫌でも身体が勝手に成長して当然。

 現実世界だと身体が貧弱過ぎて、耐久走の時ビリから数えた方が早いなってクラスメイトから笑われたという屈辱的な経験を味わっているけど……今はとなってはそれは関係がないのさ!

 異世界で現実世界を取り戻そうと奮起するショウタ・カンナヅキならね!


「ならば……せめて苦しまないよう一思いにしてやる」


 それが貴方の僕に対する唯一の情けか。やはりまだまだ、情が消え失せていないんだ。

 

 エレイナ将軍は未だに修羅になりきってはいない。恐らく、心の奥底では自分も知らない不安に押し潰されそうになっているんだ。

 さっきから、剣の狙いが若干定まっていない。これは何か多少なりとも迷いがあるんじゃないのか?


「貴方の苦しみは僕が解放します。イクモ団長の代わりとして」


「何故、お前があいつの名前を?」


「アルカディアが待ち受けていた決戦で随分と仲良くしていたみたいですし……さすがに僕でも知り合いだって分かっちゃいますよ」


 面識はあるけれど、そこまで沢山会話を交えた覚えがないイクモ団長。

 あの人はエレイナ将軍と同行する際、他人とは思えないような会話遣いをしていた。

 それにイクモ団長は記憶のある限りでは……確か初対面時にザットからスクラッシュ王国のお膝元を勤めていたという手練れだと聞かされていた。

 エレイナ将軍もスクラッシュ王国所属だから、知り合いっていう線が間違いなく濃厚だろう。


「イクモには新人の時から世話になっていた。戦法の手解きをして貰った上に何かと暇な時に連れ回されたりしていたのは今となっては思い出深い記憶として印象付けられている」


 その記憶はエレイナ将軍にとっては大変大切な思い出。でも、滅亡寸前の地球を救う為に記憶は完全に破壊しなければならない。

 だから……僕の行為は仮に成功を収めたとしても永遠の罪として心に刻まれ、何があろうと罪が抹消される事はない。

 行為に対する謝罪は告げない。僕は僕のすべき道として一つの障害を乗り越えさせて貰うだけだ。


「……お喋りが過ぎたな」


 大剣が荒ぶる。剣先から摂氏何度かも計り知れぬ灼熱の炎が溢れ出した。

 双剣状態から通常の剣へと切り替えて、改めて気合いを入れる。

 ここが一か八かの勝負時。多少のチートを使っても勝たせて頂きます。

 

「全身を燃え裂かせ! バーニング・オブ・エンド!!」


 意識を自然に目に注ぐ。ラグもなく先読みの能力を瞬発的に発動させる。

 すると、彼女は一直線ではなく複雑な動きで僕の足を止めさせてから一気に叩き込む算段でいるようだった。


 僕はその線に先回りをする感覚で真・蒼剣に一撃を込める。揺るがない信念を抱くエレイナ将軍に対して……とんでもなく理不尽な力で勝敗を決する非道。

 分厚い大剣は野球のホームランの如く、綺麗な線を描いて転がり落ちる。

 一瞬何が起こったのか分かっていない表情を浮かべていたが剣が既に手元になくなった時には足を膝に付かせた。

 

「私の動きを読んだのか?」


「まぁ……そんな所です」


「ずるい奴だ。それでは最初から勝てないではないか」


 正々堂々と挑んでも勝機は掴めない。だから、少しのズルを使用しても壁を突破するしかない。

 たとえ、その裏技に不満が出ようが問答無用なのである。


「そうでもありませんよ。最近この力は一度使用するだけでも--!?」


 うぐぐぅ! な、なんだ!? この目を直接太陽か何かで焼かれている感覚は!?

 とてもじゃないけど、まともに立っていられない!!


「おい、どうした!?」


「どうも切り札を使えば、デメリットが出るようです。ぐぁぁぁ!」


 ま、まずい! これでは奥に進めそうにない。こんな中盤で倒れる訳にはいかないのに!


「なーに、心配してんだよ。さてはお前、ノゾミの味方から外れたのか? ……だったら、やる事は一つしかねえよな!!」

 

 身を案じようとするエレイナ将軍。その最中で背後から聞き覚えのある声。

 目が酷く腫れていて、上手く視界が捉えられない。でも、こっちの方に身を乗り出している感触があった。

 いや、待ってくれ。そ、そんな……まさか?


「エレイナ将軍!!」


「……後の事はお前に全てを託す。こうなった以上は必ずお前のやり方で世界を救ってみせろ」


 貫いた白色の剣は遠隔操作でショウの手元に収まったと同時に腹から大量の血を溢れ出しながら倒れ込むエレイナ将軍。

 目の痛みが治まり出した頃に触れた手首にはまだ血が通っているけれど……早急に治療をしないと危険な状態だ。

 それなのに、なんでそうも笑っていられる!


「ははははっ! 自ら他人の身を守るとはな! 良かったな、お前!」


 こ、こいつ! 躊躇なく瀕死状態の僕を投げつけてきた剣で殺そうとしていたのか!

 でも……それは間一髪で救われた。エレイナ将軍が代わりに身を投げ出したお陰で。


「ショウ。お前のその薄汚いやり方……僕は絶対に許さない!」


「おいおい、これは未来の存亡を賭けた決戦なんだぜ? 敵に情けとか掛けている方が馬鹿を見るのに、一々敵の都合を考えなくちゃいけねえ道理があるのかよ?」


 こいつに言葉は通じない。あくまでも希の為にと動く狂人に話なんて出来る筈がない。

 嫌でも顔立ちが僕に似ているショウ。ここに来たのは壁としてではなく前回のリベンジといった所だろう。

 どこまでも自分勝手な奴でしかない!


「はぁ~、そこの用済み女を片付けたんだ。とにもかくにも、これで心置きなく前の続きが出来るぜ!」


 頭の中は僕との再戦しかないようだ。どこまでも性根が腐っている!!

 

「ショウ・オメガ。希に作り出された幻影は僕の手で葬り去ってやる!」


「良い度胸だ。その気合いに免じて、今日こそは完膚なきまでに潰してやるよ……希が求めるお前を殺して。本物になってやるんだぁぁぁぁ!」

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