エピソード109:どう足掻いても、本物にはなれない
「遅え、遅えぞ! そんなんじゃ、永久に俺には勝てないぜ!」
「ぐっ! こっちはハンデを背負っているんだぞ!」
目の痛みは大分軽減された。とは言え、完全とまではいかないので奴と戦いを繰り広げている内に傷が広まる。
ただ、ショウはお構いなしに襲ってくるのでこちらの言い分がまるで通らない。
本当にとんでもなくイカれた自己中野郎だと声を大にして主張したい。
「そらそら! もうちょっと踏ん張ってくれないと、本気出す前に死んじまうぞ!」
ショウの狂気が前回よりも増している。もはや、これは手の付けようがない。
剣の筋に置いて恐れとか迷いとかが一切ない。それ故に僕に対しての殺意はバリバリだ。
「ふざけんな!」
剣を振り下ろすスピードはかなり凄まじい。正直、付いていくのがやっとで追い付くには苦労を強いられる。
一体何を持ってして彼は僕を殺すのか? 例え、希に気に入られようとする為だと言ってもこれはあんまり過ぎないか?
と言うか、完全に当て擦りでしかないような気がする。幾ら僕を殺した所で希の視線がショウに向くとは到底思えない。
だというのに……諦めが悪いショウは僕への執着心が人一倍強い。
正直、こうまでこられるとヘトヘトになってしまう。本当に勘弁してくれ……っていう願いは彼には永久に届く事はないんだろうなあ。
体力が明らかに低下している状況をチャンスと捉えて奇襲するショウのやり方は実に姑息だが、お見事であった。
これなら多少は手加減しても僕を倒す機会は巡ってくる。戦闘狂の彼がこの作戦を考案したかどうかは聞いてみないと分からないけどね。
「なんだあ? そんなボロボロだと、あの世でポックリと行きそうだな! まっ、それもこれもぜーんぶ俺がタイミングを図って襲ったお陰かもしれねえな! あーあ、さすがはショウだ! 自分の秀才ぶりに恐れを抱くぜ!」
自分をべた褒めとは……何とも痛々しい男だ。顔が僕とよく似ているせいで余計に切なくなってくるのは気のせいだと思いたい。
「おっと話がずれまちったな!」
話を戻してから、剣に魔力を注ぎ込んでいるショウ。あの莫大な魔力を纏った剣で一撃必殺を当てるつもりなのか?
まとも直撃を受ければ怪我だけでは済まされなさそうであるのが危機感を煽ってくる。
くそっ。ま、まずい! あいつ完全に勝ち誇ったような表情で僕を見下しているぞ!
ここはちょっとした時間稼ぎに転じる!
「それで勝った所で君の人生は何一つ変わったりはしない!」
「ああん?」
「希は前に君を駒としての扱いでしかないと言っていた。そんな君が幾ら僕の首を取って自慢した所で状況は絶対的に覆りはしない!」
だから潔く諦めろ! そう口に出そうとした途端、彼の表情はみるみる内に険しくなる。
しまった……今の油に火を注いでしまったか。
「うらあぁぁぁ! ざけんじゃねえぇぇ!」
怒らせるだけでこれか。一言一言細心の注意を払わないといけないのは厄介際回りない。
……もう手遅れになってるけど。
「俺はお前をぶっ殺して、惚れさせてやるんだ! 何を言われようとも!!」
彼は希に対して愛がある。但し、それは一生叶わずに儚く終わる物だとしても。
僕を殺して本物となる事で歪んだ愛を実現しようと目論んでいる。
恐ろしいスピードですれ違う白の剣と蒼の剣。互いに牽制し合うようにして攻防を繰り広げ、今かと今かとチャンスを狙う。
ショウの剣は僕が持っていた蒼剣が進化する前の物によく似ている。
それは武器として余りにも頼りなく、非常にか細い形状を宿している。
「お前の力はとんでもなくチートだが、俺の剣はノゾミから与えられた神聖な剣。そんな俺だからこそ、ようやく対等に向き合えるのさ!」
対照的に白い剣は僕の所有する綺麗な蒼ではなく、刀身の箇所に怪しげな紫のラインを描いた気味の悪い剣として完成されている。
希から武器として与えられた得物を大切にしながらも、彼は狂人として戦闘を楽しむ。
僕を殺そうとする剣筋。戦いに愉悦しながら、アクロバティックな動きで苦しめてくれる。
どうやってねじ伏せれば良いんだ? 先読みの力をもう一度使えば、また耐えられない痛みが走る。
そうなると、大きな隙を与えかねない。下手をすれば死にそうになるんで、もう何があっても使えない。
くそっ、あれこれと考えを巡らせても打開策が見当たらない。こうなったら……
「神宮希はあくまでも君を駒の存在として扱っていない。それなのに、自分に自惚れている哀れな君を……僕が代わりとして制裁を下そう!」
「はっ! 本物だからって、偉そうな口で叩いてんじゃねえぞ!」
僕の言葉に逆上するショウ。あの刀身からさっきよりも恐ろしい出力を放っている。
静かな時が流れる戦場。周辺には複数の遺体と命が危ういエレイナ将軍が倒れているにも関わらず、ここにはまるで二人だけの空間が広がっていた。
ショウは今日こそは勝たんとする為に己の全てを賭けて挑んでいる。
僕としても敵ではあるが、その気持ちとやらには応えねばならない。
何十回も会った覚えはないけど……やっぱり見た目が僕にそっくりだから余計に放ってはおけないんだ。
しかし、それとは裏腹に体力の低下が著しい。何もかもさっきの激闘で先を考えずに消費しすぎたのが原因なんだろうけど、こうなればこっちも覚悟の上でやってやろうじゃないか!
「僕の全力を注いで、呪いから解放してやる!」
応えよ、真・蒼剣! また僕の魔力を喰らってでも、ショウ・オメガから呪縛を解除してやるんだ!
その為に絶大なる力を貸してくれ! 強い想いで持ち手を握ると時が流れるにつれて刀身から神秘的な蒼が発光する。
想いに応えた真・蒼剣に感謝の念を述べながら、長い期間相棒と存在に近い真・蒼剣を存分に振るった後に狙いを定めた。
目標……ショウ・オメガ。彼の歪んだ闇を悉く切り払う!!
「呪いだと? はっ、笑えねえ冗談は止せ!」
憤りを露にしているショウの足並みは止まらない。寧ろ、足を早めつつある。
始めは徐々に近づいて様子見をするのかと思っていたが、突然何の脈絡もなく走り出してきた。
一気に距離を狭めて、僕を切り殺そうとするつもりか! そう来るのなら、こっちも君を切り殺す覚悟で挑む!
「これで! 今日こそ……ジ・エンドだ!」
お互い間合いに入ったと同時に振り裂く二本の刃。重なった瞬間に鼓膜が破れかねない轟音が鳴りて、一定の箇所に傷跡が刻まれる。
そうした最中互いに背中を向き合う僕とショウ。さっきまでの騒がしい戦場が再び静寂に包まれる中で……よく見ると、腹から血がドクドクと流れている。
見るに耐えない光景が今ここに。どうも、腹の中心に裂かれた傷があるようだ。
きっと、この箇所から傷が血となって流出したのだろう。
「がはぁ!」
ふっ、無傷で済むとは思っていなかったけど。これだと重傷じゃないか。
何で……こうも大事な決戦って所で下手を打っちゃうんだろうなあ。
「へへっ。なぁ、俺は俺になろうとしたのに計画がご破算になっちった。何もかも全部お前が抵抗した事で!」
健気な奴だ。倒れているせいで振り向けないのが残念であるけど、致命傷を負わせた筈なのに随分と元気じゃないか。
もしかして、この勝負。僕が負けを許したのかな?
「ショウタ・カンナヅキ。願わくば次があれば俺は……ノゾミと一生を添い遂げたかっ…………た」
武器が落ちた。カランコロンと程良い金属音を鳴らして、地面に倒れたであろうショウ。
この命の削り合いの中で僕はどうにかこうにか勝利を収めた。勝ったには勝ったけど傷跡を残して、生き残れた僕は腹から止まりそうにない血を手で無理矢理押さえ込めて満足そうに目を瞑っているショウを確認する。
「死んだか」
銀色のコートに似合わない色が身体の中心に広がっている上に僕の髪の色とは反対の色をした白には若干ではあるけど、血痕を残している。
身体が全く、さっきからピクリとも動こうとしない。以上の事を踏まえた結果。
脈を図ろうとしなくても、彼はもう……さすがに逝ったと思われる。
さて、ここで取り残されてしまった僕がすべき役目は一つだ。倒れているエレイナ将軍は何とか助けたい所ではあるけど……回復魔法を有していない僕では使い物にならない。
それ故に救助を要請しようとも世界が敵として回っているのならば手痛い目を味わうのは確実。
ならば僕の進むべき場所は……っ!?
「翔大」
耳に心地の良い声が聞こえる。一瞬幻かと錯覚しそうになったけど、この声は間違いなく彼女だ。
「どこだ! どこに隠れている!?」
「ふふっ、そんなに慌てなくても私は逃げないよ?」
聞こえた方角はあの奥とみた。さぁ、今すぐ動けと言いたいが意思とは反対に身体が思うように動いてくれない。
な、なんで! どうして、こんな肝心な時に身体が動かないんだ! 早く動いてくれよ!
「希の思惑に嵌まるつもりはない! 君の野望は今日で終わりにする!」
だから、心苦しいけど君の存在を消す! これ以上間違った方向性に向けさせない為に!
なのに……彼女はクスクスと笑う。何もおかしな発言はしていないと思われる状況で。
「随分と強気になっちゃって♪ あの攻めに弱い翔大にそんな反応が来るなんて頼もしいね♪ けれど、そんな状態で私を殺せるのかな?」
何事もやってみなくちゃ分からないだろう!! 口に出そうとしたら次の瞬間。
視界が若干ではあるが不意に途切れてしまった。
あれ、おかしいな? って思った頃には次に身体がぐらぐらと揺れている感覚があった。
僕の視界の先には間違いなく黒いドレスを優雅に着飾る魅力的な彼女が居る。
立場の都合上、敵だけど。それでも危うく吸い込まれそうな瞳を宿した外見全てが綺麗な希を前にして。
「やっぱり……言葉では強く出ても身体は正直だったみたいね」
あぁ、どうなってしまうんだ僕は? もう戦う気力が湧きそうにない。
こんな状況下で何を言っているんだって言われるかもしれないけど……ほんの少しだけ眠らせてくれ。
「お休み、翔大。貴方のその寝顔も浮かべる表情も全てが私の宝物よ」




