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エピソード97:待っていてくれ。今、君の元に向かうから

 日本全体とはいかなくとも、今神宮県で犯罪がとんでもない数で増大の一歩を辿っているらしい。

 僕がどうにか身体を起こした後は櫻井にあれやこれやとミゾノグウジン教宗主アルカディアを倒してからの内情を説明。

 

 あの異世界の正式名称がアザー・ワールドであると判明し、尚且つその世界を丸ごと作り上げた首謀者は現実世界で車に轢かれて死んだ神宮希である事も。


 両親に言っても信じられるような内容ではないけど、こうなってしまった以上隠し事はなしにしたい。


「へぇ~、そこまで増加しているのかい?」


 父さんと母さんには希を止める為、どう止めようが絶対に行くと無理矢理説得してみせた。

 もう自分だけの問題から世界の問題に変わり、世界中か唐突に出現した緑の惑星に関して軍隊の配備がなされている。


 このまま放置しておけば、最後は希の思うがままに地球は飲み込まれかねない。

 僕が異世界に行かない限り、あっちの流れは進まないから到底は大丈夫だと思うけど万が一に備えて可及的速やかに行きたい所存だ。

 

 だが、異世界の疲れがこっちに流れているのか……正直かなり参っている。

 と言う訳で今は箸休めとして身体を少しだけ寝かせている。


「分かった。警察を辞めている身としては応援しか出来ないが……精々無理をしないでくれよ」


 電話の相手は多分須藤? 話し方がやけにフランクぽいようにみえる。

 きっと、僕が起きた事を報告しているのだろう。今やあの人は警察として再び現場に復帰したって櫻井から聞かされたし。

 

「翔大君が異世界で体験した事実を君のパソコンにメールを貼り付けて置くから。忘れずにチェックしておいてくれ……それじゃあ」


 会話が途切れた。櫻井は必要な内容を話し、余計な会話は避けた。

 なるべく現場に復帰した須藤の抱えた仕事を邪魔したくはなかったからだろう。

 妙な所で気を回すようだ。いつも、そんな感じなら良い人そうに見えるのになあ。


「さーて、両親もどうにか帰ったようだし。私も気を付けて帰るとしよう」


 一般人の外出禁止令は出ていないが、現段階では必要な外出以外は極力控えるようにとニュース番組で警告している。

 にも関わらず、外に出ようとするのは櫻井にとってここに留まる理由はなくなったからに違いない。

 

 異世界と現実世界。それらの間を縫う謎はバッチリと解明されたからだ。

 彼の役目はここで終了。短い期間ではあったけどアルカディアを撃破出来た一番の貢献者であり、最終的に犯人も突き止めた功績は何物にも変えがたい。

 

「ご協力ありがとうございました。櫻井さんのアドバイスのお陰で来れた事に改めて感謝します」


「ふっ、止してくれよ。私なんて趣味で手を貸していただけに過ぎないんだ。おまけに私と君が初めて出会った第一印象なんて最悪だからね……あれはさすがにやり過ぎたと後悔している位なんだ」


 あの事か。確かに櫻井は過去に囚われすぎている僕に気が付いたのか、随分と追い詰める質問をしてくれたけど。

 まぁ、反省しているなら良いか……謝るタイミングがちょっと遅いような気がするのは気のせいだと思いたい。


「希が招いた一件……止めてみせます。彼女を失って以来僕はこの世界の時間の流れがとても緩やかに感じていました。けれど、何に変えても僕神無月翔大はここに誕生しました。一人の大事な人がこの世に居なくとも、両親や親友そして様々な生き方を歩むその他の人を彼女の願望で消させる訳にはいかない。だからこそ、力を使っても阻止してやります!」


「自分を大事にしたまえ。あんまり気張っても精神に食い殺されかねない」


「そ、それは……」


「まぁ、事が無事に済んで退院も出来たらお祝いとして行きつけの店でご馳走してあげよう! という事で君には帰りを待っている人が居るからそれをお忘れなく!」


 そんな簡単に上手くいくのやら。僕の返事を待たずにさっさと背中を向けて、病室から去っていく櫻井。

 この病室ですべき役目はない。やるとしても身体を休めるしかなさそうだ。

 けれど、呑気に休んでいられる程気持ちは楽ではない。


『総理! 自衛隊が現在緑の奇妙な惑星の出没に対し、PAC-3にて迎撃をなさるとの情報が入りましたが、具体的にどれくらいのは配備でしょうか!?』


『迎撃が仮に成功した場合、日本全体に影響はあるのですか!?』


『あの惑星についての最新情報は掴んでいるのでしょうか?』


 あれやこれやとある情報番組を暇潰しに眺めていたら、報道陣がここぞとばかりに議事堂に入ってきた総理に詰め寄って質問を浴びせている。

 僕を含んだ国民全体の代表者である総理も一気に浴びせてくる質問には内心嫌がっているようで、この上なく逃げの体勢に入っていた。


『私は忙しい! 質問事項は現場が落ち着いてからにしてください!』


 報道陣が寄って集ってくるのを予め予想していたのか事前にガードマンを雇って、守られながらどこかへと歩き去る総理。

 僕の個人的なトラブル現実世界と異世界の行き来はいつしか日本を巻き込んだ壮大な事件へと生まれ変わってしまった。


 希、君の仕出かした事は謝って済むような問題じゃなくなっているよ。

 君の身勝手さがこのような最悪を招いている。一体なんで、こうまでして地球を潰して異世界を築き上げたいんだ?

 そこにもう僕の願望はない筈なんだ。誰も異世界を作ってくれって本気で頼んだ覚えはない。


「そのもとを辿れば僕が原因だった。今更言い訳なんておこがましい」


 異世界に直接行って、彼女の思惑を知れているのが僕だけなら阻止してやるのも僕の責務。

 そして当然、そこで手を差し伸べて……呪縛から解放してあげられるのも使命。


「助けにいかなくちゃ。全てが終わりを迎えてしまう前に」


 暴走した神宮希。彼女は計画を完遂する為に勢力を増強させた。

 今まで姿を消していた部下はタイミングを狙って、舞台に上がり更にはもっともっと僕達を追い詰める為に市民も躊躇なく巻き込んだ。

 あれだけ温厚だった市民は完全に理性が欠落したモンスターと成り果てた。


 モンスターの比じゃないくらいに。もしかしたら、彼女こそがコントロールの効かないモンスターを取り払ったのかもしれない。

 もう舞台に上げておく必要性は感じられないと判断したか。あのアザー・ワールドはやっぱり神宮希が作り上げた世界だと改めて認識させられてしまう。


「ま、まさか神宮県全体に蔓延る犯罪の増加って!?」


 彼女がアザー・ワールド内で何らかの手段にて放出した禍々しい波動。

 あれはあの世界にだけに充満していたと思っていたけど、もし仮にその波動がこちらに漏れているのだとしたら!

 犯罪が軒並み増加している理由に合致がいくのではないのだろうか?


 でも、こんな世迷い言が世間に納得を得られるとは到底思えない。

 何故なら彼等はリアリティで生きているから。剣や魔法なんて幾ら探せど見つからない情報社会。

 そこに慣らされている世間が抽象な理由で信じてくれる筈がない。

 ファンタジーを好む読者だって、容認しない。彼等にもそれくらいの分別があって世の中を生き抜いている。


「犯罪の取り締まりは須藤さんがやってくれている。櫻井さんは行き詰まった異世界の謎の解決に力を貸してくれた。いや、それ以前に」


 僕のしょうもない話に聞き入ってくれた親友の明。ひょんな所で出会いを果たし、偶然にも異世界の一部の謎を発見する事に貢献してくれた希の父加藤晴彦。


 一人で悩みを抱えていたら、最終的に僕は彼女の駒として思うがままにストーリーを動かされていたのだろう。


 今日までずっとやってこられたのは実は僕だけの力じゃない。


 現実世界と異世界の移動。一度でも使用すれば、また激動の日々に入り浸る。

 この寝たきりの身体もキビキビと動けるだろう。しかし、それとは同時にこちらの世界に戻れば自分の身が今度こそ崩壊しかねない。

 地球を救う最良の方法は残念ながらこれだけだ。他の手段は見当たらない。


「僕はこの地球を見捨てない。どんな理由があったって、ここには沢山の人達が済んでいるんだ。見ず知らずの人だからってそう簡単に割り切れる物か」

 

 希の考えには従わない。遥か昔から存在していた世界が存在していなかった世界に飲み込まれる計画なんて断固反対だ。


 だから、少ない勢力であろうと君に立ち向かう! 

 

 絶望に飲み込まれようが僕は諦めない。異世界に移動する仕方は何となくだが既に掴めてきている。


「イメージするんだ」


 帰ってきたら、僕の身体はどうなっているのだろう? 異世界に入り浸れば入り浸る程に身体は朽ちてゆく。

 なるべくであれば希とは最短の決着でケリを付ける必要性がある。

 

 そうしなければぎりぎりで保たれている僕の身体は死を迎える可能性だって高い。

 異世界に行くとすれば慎重にしなければ。選択を謝れば、二度とコンティニューが出来ない道へと一直線だ。


「闇に取り込まれた世界。小戦力だとしても、僕は抗ってみせる」


 希からの最後の挑戦、是が非でも受けて立つ! 現実世界で起きた人類史上希にみない最悪のハプニング。

 どこにでも居る普通の黒髪の青年。ある日を境に現実世界と異世界へ、唐突に行き来を可能とする力を宿した僕は皆が知る由もなく地球を救う最大級のミッションに向かう。


「待っていてくれ。今……君の元へ向かうから」


 母さん、父さん。また懲りずに異世界へ行く僕を許してくれ。病室に籠って、じっと状況を観察してる位なら命の危険を晒してもそこに向かう必要があるんだ。

 

 きっと、神宮希はそこで僕を待っているから。彼女の犯した罪は僕の罪。

 責務は果たす……小さい頃から知り合って、色々な側面も知って好きになっていった神宮希をこの手で殺して。


 1回目は助けられず見殺しにして、2回目は僕の手で殺るのか。

 

 あぁ、何とも無情な。でもこれしか事態を打開出来る方法はない。

 犯罪を止めようとする警察にもいずれ限界が来る。そうなってしまう前に止めるんだ!

 

 神宮希! 君の求める未来を……永遠に望まない! 異世界の敵となった僕が閉ざしてみせる!

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