表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/35

待つ者と迎えに行く者

「場所ならおおよそ見当が付いている」


ロゼとファイが再開した次の日それはまた意外な人物から言われた。


「お前達が探している魔人かは分からんが正気をなくした魔人を探す神器を俺は持っている」


何だそれ。聞いたことも無い名前に三人はサナを凝視した。


「俺は各国この世界を周り古来から伝わる神器を集めている。危険な物も多いから管理すると言うのが正しいかもしれんが」


「そういや、そんなこと言ってたっけか?」


ファイは呑気に干した魚をくわえている。

真面目に話を聞く気は無いらしい。


「お前は俺が説明してもすぐ忘れるからな。お前にはもう説明はしない」


すっかりファイの扱いに慣れているサナを見てロゼは驚いた。


「誰かは特定できないが、正常でない魔人を探すのなど簡単だろ?そもそも魔人はイントレンスにしかいない」


サナは小さな手鏡を取り出した。

皆でそれを覗き込む。

その鏡には人の姿が映らなかった。鏡の中は靄がかかり先が見えない。


「鏡が反応しているな・・・普段なら普通の鏡と変わりない」


「近いって事か?どうやって位置を知るんだ?」


「このままではダメだな。神器も使うのに対価がいる」


三人が話しているとファイはおもむろに立ち上がりテーブルに置いてある果物ナイフを手に取り鏡の前に手をかざした。


「待て!」


サナが止めるのを聞かず、ファイは自分の腕をナイフで切りつけた。そこから血が流れ落ちる。


「ファイ!!」


「あわてんな。黙ってみてろよ」


鏡に落ちた血は、そのまま中に吸い込まれていく。

そしてその後直ぐに中から光が飛び出してきた。


「きゃっ!」


慌てて避けると、それは真っ直ぐに外に向かって伸びている。


「・・・・ファイ」


サナが非難めいた声を出す。

ファイは平然と傷口を押さえて止血した。


「まどろっこしいんだよ。外行くぞ」


外に出ながらルシフェルが回復魔法をかけている間もサナはファイを睨んでいた。


「この方向・・・・・」


勘違いでなければ、それはロゼが来た方角を示していた。

ガルドエルムだ。


「こりゃあ灯台下暗しかぁ?」


ロゼは途端にゾッとした。まさか今までずっと近くに居たのか?一体いつから?


「手間が省けて丁度いいな。私達は魔人を殺す。ロゼは婚約者を連れ去らう」


ファイの言葉にルシフェルは開いた口が塞がらない。


「ま、まて!何でそうなるんだ?連れ去らうって乱暴な」


初耳の話に慌ててロゼを伺うとロゼは難しい顔で黙り込んだ。


「お前まだ何も言ってないだろ?」


ロゼは親愛なる自分の従姉妹をじっと見た。

彼女は幼い頃からロゼを知っている。誰よりもロゼ自身よりも。


「だったらちゃんと振られてこいよ。まぁ本当にお前の事振ったら、私がそいつぶっ飛ばしてやる」


一体どっちなんだと思いながら、ああそうか!と納得した。これはロゼの気持ちの問題なのだ。


「そうね、ファイに言われるまで気がつかなかった」


彼を一目見て好きになった。

でも自分とは立場の違う彼をすぐ諦めた。

なのに諦めきれなくてバルドに頼まれた事を言い訳に彼の側に居続けた。

彼に近づきたくて、でも彼にのめり込むのが怖かった。

自分は平気だといつも強がっていた。

彼はそんなロゼに気がついていたのだろう。

すり寄ってくるのに踏み込まれると逃げ出すロゼに彼は困惑したに違いない。

でもきっと二人は似ていたのだ。


「私。まだ何も伝えてなかったわ」


彼に拒絶され。ハッキリと別れを告げられる事がこんなにも辛い。


「行かないと。彼に伝えに」


ロゼの答えにファイは満足気な笑顔を 返した。






****








もうずっと身体が重い。


自分はどうしてしまったのだろう。


「もうすぐ貴方の望むものがやって来ます」


何処からか女の声が聞こえる。


聞いたことがある気がするが思い出せない。


「貴方の望みもその時叶いますわ」


自分の望み?それは何だった?


頭の中で柔らかく赤い髪が横切っていった。


(そうだ。彼女だ)


いつの間にかこんなにも愛しく思うようになった女性。

自分だけの婚約者。


いや。本当は一目で眼を奪われた。

初めての感覚で分からなかっただけだ。

バルドに紹介された時。自分は確かに動揺していた。

彼女が自分を怖がらないのが嬉しかった。

距離を置かず普通に気さくに話しかけてくる彼女が。

彼女の側にいる時だけは自分はただの一人の男だった。

だから無意識に望む様になった。

どうかこのまま彼女を自分の手元に残したい。

彼女の目的が達成されて自分と夫婦になってくれたらと。

だが彼女の周りには彼女を愛する者が沢山いた。

執事や使用人達でさえ彼女を大事に思っている。

そして彼女を欲する者も。

きっと彼女にとって自分はそんな中の一人に過ぎない。

それがこんなにも辛い。

自分が唯一でないことが。


「きっと永遠に貴方の手元に残りますわ」


永遠に。

そう。あの温もりを永遠に自分だけの物にしたい。

もう何処にも行かないように、彼女を自分の鎖で繋いで誰の目にも見えない場所で自分だけを見つめて欲しい。


暗く深いまどろみの中でエルグレドは彼女の名前をつぶやいた。その眼には何も映っていなかった。


「大丈夫。貴方の願いを叶えて差し上げます。だからどうか私の願いも叶えて下さいませ」


女はエルグレドを背後から抱きしめた。

彼はそれには反応せずただロゼが自分の下へ落ちて来るのを待っていた。





****



「ロゼ!!」


ガルドエルム王都までたどり着いたロゼはそこで待っていたミイルとラウルと合流した。


「ごめんなさい。二人共心配かけたみたいで」


二人の表情を見て謝りつつ、この後の事どう説明しようか迷っているといきなり兵士達に囲まれた。


「ロゼ様ですね?お手数ですが私どもと御同行頂きたい」


「おいおい大歓迎だな?早速こんなに沢山のお出迎えとは愛されてるなぁ?ロゼ!」


ファイが楽しそうに自分が担いでる剣に手をかける。

仲間達もジリジリと後退している。


「それは誰の指示?貴方達竜騎士じゃないけど陛下のご指示なのかしら?」


「いいえ。陛下ではございません」


おかしいさっきから兵士達の様子が変だ。


「私どもはバードル家の方に指示されここに来ました。貴方を宮廷にお連れするように・・・」


その声は酷く動揺していた。

皆その間に目で合図を送っている。


「バードル家?何故?陛下はまたお倒れに?」


その答えを兵士は未だに信じられないように吐き出した。


「陛下はお亡くなりになられました」


予想を大幅に上回った言葉を聞いてロゼは頭の中が真っ白になった。


「アストラ様が貴方がこの町にきたら捕らえよとおおせになられました。ロゼ様・・・・・」


兵士は悲しみの表情をしている。彼は分かっている。アストラが自分の利の為ロゼを拘束しようとしていることに。そしてそれが正しくない事だということに。


「じゃあ私は自分の用事を済ませに宮廷に行くわ。私の婚約者に会いに」


兵士は激しく首を振った。


「貴方達も全力で追いかけて来るといい。でも私は簡単には捕まらないわよ?」


彼らがこのままロゼを逃せばその罰が彼らに降りかかる。


「ダメです!エルグレド様はもう以前の彼ではないのです!」


ロゼはそっと自分の唇に人差し指を当てた。

これ以上余計なことを言わないように。


ロゼが短剣を引き抜き兵士の間を駆け出した。

その後をミイルとラウル。そしてルシフェルが追って来る。


その走る背後姿を見送りながら兵士達は皆願っていた。


(どうかご無事で!)


その更に背後でファイは違う方向を睨んでいた。


ロゼは宮廷の門番が驚いているのも構わず中に飛び込んだ。数人の兵士が慌ててロゼを捕らえようとして動きを止める。


「あれ?ロゼ様久しぶりっすね!」


それはエルグレドの部下だった。

ロゼは内心舌打ちする。竜騎士相手となると少々骨が折れる


「じゃあ皆さん途中まで俺が連行しますね!さぁ行きましょう!」


しかし彼は流れるように四人を宮廷の奥まで連れて行き、目で後を追うことは許さないと兵士を黙らせた。


「・・・こんな事して大丈夫なの?」


「大丈夫も何も今、宮廷内の指揮権の取り合いで大混乱。

それどころじゃないですって」


「なんなんだ?さっきから一体どうなっている?」


ルシフェルは訳がわからず混乱している。


「陛下が突然亡くなり、次の王になる予定のアストラはリュカ様殺害の罪で監禁中です。自体を収めようと皆必死です。しかも団長は・・・・」


そこが一番聞きたい。エルグレドはどうなったのだ。


「あの日意識を失い、次に起きた時には抜け殻の様になってしまったのです」


まさか!と思った。

いくらバルドが亡くなったとはいえ、そんな状態になるなど・・・。


「これは・・・ただの俺の思い込みであって欲しいのですが・・・恐らく団長は何者かに操られているかもです」


彼の下へ走りながらロゼは視界が歪むのが分かった。

何故自分は彼から不用意に離れたりしたのか。

あの時ベルグレドの所へ行くなどと言わなければもしかしたらこんな事にはならなかったのかもしれないのに。



「ここから先は俺では入れません。誰も近づく事を許されていないので・・・」


そこはいつか来たパーティーホールだった。

ロゼは案内してくれた彼を見た。


「ロゼ様」


彼は確かいつも騎士団内のムードメーカーだった。空気が沈むと真っ先にふざけたことを言って皆を笑わせていた。

その彼はもう笑っていない。


「申し訳ありません」


ああ。

ロゼは思う

エルグレドは確かに愛されている

彼の部下や城の人達

ベルグレドやエレナ

屋敷の使用人達

そしてずっと彼を守ってきたバルド

だけど私は彼等からエルグレドを奪いに行く

もし彼が正気を戻さなくてもそのまま彼を攫っていく。



「私はこの国の宝を奪う。だから、そんな顔しないでいいのよ?」


そう言って微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ