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決闘

エルグレドはバルドにそれを問われた時、思わず思考が停止した。


「かまわん。正直に答えよ、以後お前の意思は問わん」


それはエルグレドがロゼと婚約を解消できる最初で最後のチャンスだった。

もしファイズ家の益を考えるのであれば正直ロゼは婚約者として相応しくなかった。

そしてロゼも貴族との婚姻自体望んでいなかった。

当初2人が望んだチャンスがすぐそこに出されたのだ。

だが同時にそれはロゼとの別れを意味していた。

バルドは撤回は許さないと言ったのだ。

エルグレドは隣を見ることが出来ずバルドをじっと見つめた。そこには全てを見通した己の主人の穏やかな笑みがあった。エルグレドは衝動のままそれを口にした。


「私がこれから先、もし誰かを娶るとしたら彼女意外はあり得ません」


エルグレドの返答にロゼが激しく動揺したことにエルグレドはすぐに気がついた。

恐らくロゼの求める答えではなかったのだ。

エルグレドは見たくないと思いながらもロゼの方へ視線を移した。

てっきり怒っているだろうと思った彼女は全く別の表情をしていた。その表情は問うような又は困惑と不安が入り混じったような表情をしていた。それを見た時エルグレドは正直落胆した。

だがエルグレドにはもうロゼの希望を叶えてやる事は出来なかった。そして儀式が行われ終わった後もロゼはエルグレドを見ようとはしなかった。



謁見室を出た瞬間ロゼが突然走り出した。エルグレドは驚きのあまりその手を掴み損ねてしまった。


「ロゼ!」


彼女は逃げる術をなくし失望してしまったのだろうかと追いかけながら自問する。

何故婚約を解消したいと言わなかったのか。彼女の事を考えるならそれで全て解決したのに。


「ロゼ!」


少し前を走っているロゼを捕まえることを躊躇した。

本気を出せばすぐ捕まえられるが後ろめたさで迷いが生じた。ロゼが廊下を曲がり見えなくなる。

しかしその先は行き止まりだ。エルグレドは走る歩を弱め

どう説明しようか悩んだ。そして答えが出ないまま角を曲がりその足を止めた。

曲がったその先はただの行き止まりだ。


「ロゼ?」


そこに居るはずのロゼの姿はなかった。


思わず辺りを見回すがここは完全に行き止まりで部屋も窓さえない。しかし今ロゼは確かに目の前でこの角を曲がった。ここから引き返すなら元来た道を引き返すしかない。


「どういう事だ?」


嫌な予感がした。

壁や床を調べてみるが異常はない。しかし何処かにロゼは居るはずだ。ざわざわとエルグレドの心は騒ぎ出した。

早く見つけねばと思わず鞘に収められた剣を抜く。


(魔術の類か・・・ここを破壊して・・・)


エルグレドが到底冷静ではない判断を下した時思いもよらない人物に声をかけられた。


「まさか城を破壊するつもりなのですか?君は」


「リュカ様?」


そこには普段あまり接点の無い人物が息を切らして立っていた。リュカ・バードル。バードル家の三男だ。


「詳しい話は後で。ここに隠し部屋があります」


リュカはそう言うと指輪が沢山付けられた左手を壁にかざした。


「先に忠告しておきますが何を見ても今は相手を殺さないで下さい。それがお話をする条件です」


エルグレドはリュカの様子に一刻を争うのだと頷いた。そしてその声はリュカが魔術を解いた瞬間に降ってきた。


「大丈夫、お前は元は平民なんだ、このまま俺の物になって俺と一緒になればいい。あんな名ばかりの貴族と結婚するよりその方が幸せになれる」


エルグレドは気配を消し現れた扉を開いた。


「だれが・・・・あん、たなんか、と。へ、どがでる」


ロゼの苦しそうな声が聞こえてドッとエルグレドの心臓の鼓動が早まった。

次の瞬間エルグレドの眼に飛び込んで来たのはあられもない姿で男に押し倒されているロゼの姿だった。


「大丈夫、もしあの男がそれでもお前を手放さなければ俺が殺してやるよ」


ロゼは次の瞬間、男の顔を引っ掻き男に殴られ身体を傾けた。男の手がロゼに伸ばされたのを認めてエルグレドは我慢の限界を迎えた。

素早く腰の剣を引き抜き、それをダンゲとロゼの間に投げつけた。剣はぎりぎりダンゲの身体には当たらず、けたたましい音を立ててソファーの背に突き刺さった。


「誰が誰を殺すだと?」


今すぐにでも、この男を切り刻みたかったが酷い姿で倒れているロゼに眼をやりエルグレドはなんとか自分を律した。

こんな姿のロゼを誰にも見せたくはない。

マントを掛け抱き上げるとロゼは申し訳無さそうな顔をした。それにエルグレドはさらに苛立ちを募らせた。



宮廷に戻るとゼイルが足早にエルグレドに駆け寄ってきた。彼は最近リュカ付きになった。


「ファイズ団長こちらです」


余計な事は言わずエルグレドを案内する。ゼイルは普段チャラチャラしているようでいて実はかなり優秀な騎士である。本人には決して言わないが。


「入ります」


ゼイルは数回ノックしてそのまま返事を待たずに扉を開ける。その様子にエルグレドは内心驚いた。


「ロゼはどうですか?」


「数カ所怪我を、どれも大した怪我ではなさそうです」


普通の女性なら立ち上がるのも困難なはずだ。

だがロゼは動く事は出来そうだった。


「すみません・・・・私があの時見逃さなければこんな事には」


ゼイルは悔しそうに顔を歪めた。

エルグレドは首を振る。決定的な証拠も無いのに罰することは出来ない。リュカは様子を見て口を開いた。


「あの部屋は本来なら私が身を隠す為に作った物なのですが、誰かに見つけられて利用されたらしいですね」


「ダンゲに見つけられたのでは?」


リュカは笑って否定した。


「あの男に私を凌ぐ魔力はないですよ。ロゼに見つける事が出来たのは彼女が装飾技師だからです」


初耳のゼイルは首を傾げる。エルグレドは黙って耳を傾けている。


「あの部屋は私の創作部屋です。実はこの事は秘匿事項なのですが、私も装飾技師なのです」


エルグレドはロゼが彼の部屋を頻繁に出入りしている理由を納得した。


「ただ、あの部屋は魔力の干渉を防ぐ為、魔力は使えません。それが今回まんまと利用されたようですね」


この罠を仕掛けた者は全て理解した上でそれらを利用している。ダンゲが思いついたとは考えられない。


「私以外の者があの部屋に入るには"鍵"がいります。しかし不思議な事にダンゲは鍵を使っていないのです」


リュカは手元にある書類をエルグレドに差し出した。

エルグレドは黙って受け取る。


「ダンゲへの尋問内容です。今この場では見ない方がいい・・・・」


ゼイルはその2人の様子に不快極まりないという顔をした。

ダンゲは、ロゼは自分と通じており自分こそ婚約者に相応しいと、あろう事か陛下に乞い願ったと言うのだ。


「ならば陛下の命を待つだけです」


エルグレドの返答にゼイルが納得出来ないと声を上げる。


「奴の勝手を許すのですか!?」


ゼイルの額には普段見られない青筋が立っている。

しかしリュカは「ゼイル」と優しく彼を諌める。


「陛下からは先程言伝を頼まれています。もちろん貴方に」


エルグレドは感情を見せないままリュカを見る。

リュカはやれやれと呆れた顔でその伝言を伝えた。


「決闘を許す。勝者には望む褒美を与える」


エルグレドはそのリュカの言葉に了承の礼を返した。



****





そこはいつもの訓練所だったが今日は不穏な空気が流れていた。いつもはいない貴族達や兵士達が広場を囲むように立っている。そして何よりそこにはこの国の皇帝陛下がいた。


「これより国の掟に則りこの者達の決闘を行う」


噂は瞬く間に広がった。ロゼがダンゲの手に落ちたと。


「ダンゲ。そなたはロゼと真に愛し合っていると申したな?しかしロゼは国が認めたエルグレド・ファイズの婚約者である。よって決闘しエルグレドを倒す事ができたらロゼをそなたの婚約者として認めよう」


「エルグレド。そなたはダンゲとの決闘を自ら受け入れた。よってそなたが負けた場合潔く騎士を辞めロゼをダンゲの婚約者にする。異論は?」


「ありません」


その言葉に広場には動揺が広がった。ダンゲはニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。


「では褒美は何が良い?」


「褒美は必要ありません。ただ一つお許し頂きたい事がございます」


「かまわぬ。申してみよ」


褒美の代わりに何を望むのか。見物人達は好奇心に負けそれを聞いてしまった。


「殺してもかまわないでしょうか?」


その声はとても落ち着いていた。

観衆は一瞬エルグレドが何を言っているのか分からなかった。


「手加減は出来ません。よろしいですか?」


エルグレドは頭を下げているのでどんな顔をしているか分からない。しかしその言葉に観衆は狼狽し、騎士団の面々は真顔になった。


「それがお前の求める望みか?」


「はい」


ダンゲの怒りが目に見えて伝わってくる。

馬鹿にされ屈辱で腹わたが煮えくりかえりそうだ。


「許す。勝敗は相手が敗北を宣言するかもしくは事切れるまでとする」


その言葉にエルグレドは深く深く頭を下げた。





ロゼはバルドの隣で2人の男を睨んでいた。

エルグレドはロゼに何もするなと言った。

だからロゼは必死で自分の足を地面に縫い付けた。


「わたしを恨んでいるか?」


バルドは静かにロゼに問う。

今ロゼはドレス姿の正装でバルドの横に立っている。

しかしその左頬や口元は薄っすらと青くなり口の端も怪我をしている。


「そうね。こんな屈辱始めてだわ」


周りはこの姿を見て正しく状況を理解した。

ロゼはすっかり傷物扱いだ。


「イントレンスの巫女は本当は何と言ったのです?」


ロゼはずっと聞きたかった事をこの状況で聞いてきた。

バルドはハッと笑い声を出す。


「本当に肝が座っているな」


バルドはそう言って真っ直ぐにエルグレドを見た。


「知っているか?どんな未来も見えれば必ず当たる予言を捻じ曲げられる方法がある事を」


ロゼは今恐らくとても重大な事を聞いている。平静を装いながら握りしめている手に力が入る。


「神の御子という者達が存在する。イントレンスの未来を変える事が出来るのだ」


やはりこの男は知っていたのか?そう思ったが次の言葉でそれは勘違いだと分かった。


「それを見つけエルグレドを助け出す。それが出来るのがロゼ。お前なのだ」


「・・・・・成る程、だから冒険者でいさせてくれたのですね」


それを聞いてやはりいつかエルグレドの命が脅かされる時が来るのだとロゼは再確認したのだった。



ダンゲは先程から煮えくりかえる思考を落ち着かせようとしていた。

自分が今持っている剣それは魔剣であった。


(俺が格下だと侮りやがって!絶対にここで殺す!そしてロゼと地位を手に入れてやる!)


この剣はかすり傷を付けただけで相手に致命傷になる程の毒を与えることができる。

そう。少しだけでいいのだ。


「では両者共に剣を抜け!始めよ!」


バーンと合図の銅鑼がなった。ダンゲは構えたがエルグレドは剣を持ったまま動かない。

ただダンゲをじっと見ている。


(っ馬鹿にしやがって!)


兵卒はあまり騎士団と行動する事がない。大きな変事や戦争でもない限り。だからダンゲはエルグレドの戦い方を見た事がない。


(こっちはかすり傷一つ付けてやれば終わるんだよ!)


ダンゲはエルグレドに斬りかかった。

エルグレドは剣も構えずそれをヒラリとよける。

ダンゲはニヤリと笑い剣を振り上げた。それと同時にダンゲの剣先が割れ意志を持った生き物のようにうねりエルグレドに向かって四方八方から遅いかかった。

観衆は叫び声を上げる。

魔剣だと気づいた者はエルグレドの身が引き裂かれるのを恐れて目を逸らした。

しかし次の瞬間物言わぬ速さでエルグレドの剣が全ての攻撃を弾きクルリと身体を回転させ最小限の動きで男の喉を切り裂いた。


(え?)


ダンゲはその余りの速さに今起こった出来事が理解出来なかった。そして自分の目線の下から次々と滴り落ちる血を見て悲鳴を上げそうになりそれにも失敗した。

声が出なかったのだ。

エルグレドは苦しみ後退りするダンゲに一歩一歩近づいていった。ダンゲはこの時自分の過ちに始めて気がついた。


「どうした?もう終わりか?」


声は静かに降ってきた。そこにはただ表情のない騎士の姿があった。その剣は容赦なく男の右手を切り落とした。

男は悶絶し地に転げ回った。激しい痛みの中でもうやめてくれと叫びたかったがそれすら許されなかった。

ダンゲは何故こうなったのかと涙を流しながら後悔していた。上手く行くはずだった。あと少しで切望した物が手に入ったのに!と。

助けてと目を向けた観衆の中に見覚えのある姿が見えた。


(たすけてくれ!)


そちらに手を伸ばす。


(言う通りにすれば上手く行くと言ったじゃないか。)


「ならば俺の前から消えろ。永遠に」


(エルグレドからロゼを奪えば。すべて手に入れられると。)


次の瞬間ダンゲの視界は上へあがりそのまま地面に落ちた。エルグレドは切り落とした男の首には見向きもせずに剣の血を振りはらい鞘に納めた。


キンッと金属音が、しんっとした広場に響く。

観衆はただ愕然とエルグレドを見ていた。

しばらくの沈黙の後エルグレドはバルドの方へ歩いていく。


「見事であった。改めてそなたをロゼの正式な婚約者だと認めよう」


「はっ!」


エルグレドは膝をつき深く頭を下げた。


すると視界にドレスの裾が入ってきた。

そのまま頭を下げているとエルグレドの左手をそのドレスの主がそっと自分の方へ持ち上げた。

顔を上げると、ロゼがその手を握ったままエルグレドに微笑み、その手の甲に口付けた。


「ありがとう。エルグレド」


その微笑みにエルグレドは眩しそうに眼を細め微笑み返していた。




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