ロゼの失態
無理矢理な表現やR15?場面が少しあります。
ガルドエルムには年に2回大きな祭りが開かれる。
今年もその時期がやってきた。
「エルグレドはその日何かするの?」
それは庶民達の為の祭りである。
人々の日々の労働に王が感謝し労わる祭りでもあった。
その為城から色々な支援がされた。
「俺は騎士長になってからは参加はしていない。
竜騎士が参加すると皆緊張するからな」
(それは貴方だからなのでは?)
2人はそんな他愛ない話をしながら謁見室へ向かっていた。
バルドからお呼びがかかったのだ。
(さて、どうしようかしら。エルグレドも居るし聞きたいことは聞けなそうだけど・・・・)
バルドには問い詰めたい事が沢山ある。
だがロゼは本当の事をエルグレドに知らせるべきか迷っていた。そもそも、もしロゼが護衛の為にエルグレドに付いていると知ったらきっと彼は断る筈だ。
(多分私を危険から遠ざけようとする気がする)
そして側にいる理由が無くなってしまう。
ロゼは微かに胸の痛みを感じた。
(何か。騙してるみたいで嫌なのよね・・・・)
ロゼはそれがずっと気にかかっていた。
エルグレドにしてみれば確かに最初ロゼは疑わしい人物だったが接するうちに気安く話せるぐらいには打ち解けられる相手になった。そして今はちゃんと自分の婚約者として受け入れてくれている。
しかもすぐ婚姻出来ない相手なのに、だ。
ロゼもエルグレドと出会い変わった。
(いつの間にか此処が帰る場所になっている・・・)
冒険者はあまり決まった場所に住まいを持たない。
所在を特定されない為だ。
(いつまで一緒に居られるのかしら)
ずっと一緒に居られるといいのにと考えながらその思考は2人はいつか別れる事になると決定付けていた。
「そのドレス自分で見立てたのか?」
一応正式な婚約者としての謁見である。
ロゼも今日は正装姿でやってきた。
煌びやかではないが質素でもない品のいい動きやすいドレス姿である。
「いいえ。貴方の屋敷の侍女に囲まれて彼女達が・・・・まぁセンスはいいわよね、ただ・・・」
「ただ?」
「このドレス、武器が隠し持てないのが難点ね」
王に会うのにそんな物持たれてたまるかとロゼを軽く小突いた。
「まぁしかし油断はしないに越したことはない。なるべく俺から離れるな。そしてどんなに格下相手でも簡単について行くなよ。下衆な輩は手段を選ばない」
私も手段を選ばなくていいかしら?とロゼは笑った。
「大丈夫よ。いざとなったら魔術で相手を失神させるぐらいできるわよ」
ロゼが魔術のプロだとエルグレドも理解しているのでこれには不服ながらも頷いた。
そう。彼女は強かった。
その慢心がロゼを窮地に追い込むことになる。
「久しいなロゼ。会いたかったぞ」
バルドは豪華な専用の椅子に座り上から此方を見下ろしている。2人は頭を深く下げ挨拶をした。
「私も再びお会いできてとても嬉しいです。皇帝陛下」
皮肉も混ざる。
「それで、2人は上手くやっておるのか?どうも周りが騒がしい様だが?」
「私共は大変仲良くさせて頂いております。ですが、そうですね。やはり私が平民だという事実が受け入れ難いようです」
バルドは「ふむ」と蓄えた髭を撫でている。
「貴族の者が平民の者と婚姻してはならないという決まりはこの国には存在せぬ」
その言葉に2人は息を飲んだ。
「エルグレド。お前はロゼが相手では不服なのか?」
バルドに問われエルグレドは顔を上げた。
「かまわん。正直に答えよ、以後お前の意思は問わん」
つまり今エルグレドがロゼを拒否すればこの婚約は無かった事になる。ロゼは内心非常にあせった。
(何を言っているのこの人!勝手に始めて勝手に終わらせる気!?)
エルグレドにとってバルドの命令は絶対である。
どんなに納得出来ない事であってもバルドが是といったら是なのだ。
だからエルグレドは最初不審ながらもロゼを受け入れた。
バルドの命令だから撤回出来ない。
しかし今バルドはエルグレドに婚約を破棄することを許すと言ったのだ。エルグレドはじっとバルドを見つめやがてゆっくり口を開いた。
「私がこれから先、もし誰かを娶るとしたら彼女意外はあり得ません」
ロゼはそれを聞いて自分の身体が小さく震えている事に気づいた。目眩で身体がグラつきそうだ、動悸が凄い。息も何だかんだ苦しくなってきた。
この展開はロゼにも予想出来なかったのだ。
何故?とロゼはエルグレドを見上げる。そんなロゼを見てエルグレドは一瞬苦しそうな顔をしたように見えた。
「宰相聞いたか?」
「はい。確かに」
隣に控えていた男性が粛々と頭をバルドに下げた。
「本来なら春の儀式で済ませるのだがロゼを指名した手前私も責任を感じていた。よって今エルグレドの言葉を誓いの言葉として2人を国の誓約に結ぶ。・・・・・ロゼ」
呼ばれ何とか顔を上げる。
「この者はお前にとって至宝の宝となるであろう。頼んだぞ」
バルドは微笑んで椅子から立ち上がった。
未だ床に膝を付いている2人の側まで降りてくる。
驚いて動けない2人の肩に手を置き何事か唱えると2人の身体が輝き出した。
「「!?」」
すると宰相が持っていた器から勢いよく光が飛び出し一直線に2人の元へ飛び込んできた。
強く閉じた眼を開くと身体の輝きは無くなっていた。
その代わり2人の片方の手の甲には白い龍らしき形の痣が出来ていた。
「それは婚約の儀を終えた証であり。2人が正式に婚約を迎えたという印である。よって今より何者であっても2人を引き裂くことは許されない」
それはまるで逃げ場を塞がれた鼠のような心境だった。
****
「ロゼ!」
謁見室から出た後ロゼは堪らなくなって走り出してしまった。どこへ行くと言うのだろう。どこにも逃げ場なんてないのに。
後ろからエルグレドが追ってくる気配がする。
しかし今はエルグレドと顔を合わせたくなかった。今酷い顔をしているだろうと分かっていたからだ。
いつからバルドは気づいていたのだろう。
「ロゼ!」
廊下の角を曲がり暫く行った先の扉を開け中に入る。
とにかく今は1人になりたい。言い訳は後で考えよう。
そう思い部屋の中を振り返るとそこには人が立っていた。
「!!」
ロゼはしまった!と呪文を構築しようとした。
しかし・・・
「この部屋では魔術は使えないぜ?ロゼ」
そのセリフと共にロゼの口元に布が押さえ付けられた。
何かの薬品の匂いがした瞬間の身体から力が抜けた。
「ハハハッ!マジで上手くいきやがった!さぁロゼ・・・俺と一緒に行こう俺があの男からお前を救ってやるよ!」
男に担がれ連れて行かれそうになる。
ロゼは霞む眼で素早く出来る限り状況を確認する。
(此処は宮廷内最奥の一室の筈。なぜこの男がここに・・・)
その男は数日前。ロゼに絡んできた兵卒である。
貴族でもないたかが兵卒風情が陛下がいるこんな場所まで簡単に入ってこれるはずが無いのだ。
(しかもあらかじめここに罠を仕掛けている。最初から私を捉えるつもりで!)
思考は出来るが身体に力が入らない。恐らく痺れ薬か何かだろう。ロゼは自分の愚かな行動を恥じた。
(なんて事・・・まさかこんな奴に捕まるなんて・・・人にはあんな偉そうな事言っておいて。なんて馬鹿なの)
この部屋は正真正銘魔力が使えなくなっている。
もしかしたらこの男とは関係なくそういう部屋なのかも知れない。
「今すぐ・・・離し、なさい。ゲスが・・・」
ロゼが何とか声を絞り出すと男は楽しそうにロゼをソファーに放り投げた。その衝撃で背中を強く打ちロゼは呻き声を上げた。
「強がって可愛いもんだなぁ?何だ?貴族の戯れで無理矢理婚約者にされて可哀相にと思っていたが、もしかして勘違いでもしたのか?」
この男の様子だと、どうやらロゼの力目当ての誘拐ではなさそうだ。それに少し安心して浅く呼吸していると男に胸ぐらを掴まれた。
「貴族の婚約者になって自分も貴族様になれた気でいたのか?それは大きな勘違いだぜ?」
男の目はいやらしくロゼの胸元を見続けている。やがて乱暴に掴んでいた胸元を力任せに引き裂いた。
その勢いのままソファーに押しつけられ乱暴にスカートを撒くしあげられる。
「ロゼ。一目見た時からお前を俺の物にしたいと思っていた・・・あの時から、ずっとずっとお前を見ていた」
はぁはぁと荒い息を吐き、男の顔が近づいてくる。
「大丈夫、お前は元は平民なんだ、このまま俺の物になって俺と一緒になればいい。あんな名ばかりの貴族と結婚するよりその方が幸せになれる」
「誰が・・・・あん、たなんか、と。へ、どがでる」
ロゼは力一杯手を突っ張り抵抗するがそれをあざ笑うかの様に男の唇がロゼの首筋に当てられた。
一気に鳥肌が立つ。
「大丈夫、もしあの男がそれでもお前を手放さなければ俺が殺してやるよ」
その言葉にロゼの身体はカッと熱くなった。
身体からあの感覚が溢れそうになりロゼは思い切り歯をくいしばった。
そしてその勢いで右手で男の顔を引っ掻いた。
「いっ!!このアマァ!?」
突然の痛みに男は激情しロゼを思い切り引っ叩いた。
ロゼの身体が衝撃でソファーからずり落ちる。
男はハッとしロゼを引っ張り上げようと手を伸ばして失敗した。
「誰が誰を殺すだと?」
ロゼが顔を上げるとロゼとその男ダンゲの間には剣が突き刺ささっていた。
ロゼは力の入らない身体をずらすと真横まで歩いて来た声の主を何とか見上げる。
「な、何故。ここは他の者には見えない筈では・・・」
その言葉でロゼはこの部屋のからくりを理解した。
「ここは元々私が作らせた部屋なのですよ。誰から聞いたか知りませんが・・・まさかこんな事を実践するとは」
その背後から聞こえた声にもロゼは馴染みがあった。
「ファイズ。この男は私が捕らえ尋問する。いいね?」
そう言われたエルグレドは凍てつくような眼つきでダンゲを見つめ感情のない声で返答した。
「かまいません」
後ろではリュカが困った様に笑っている。
恐らく異変にいち早く気づいてエルグレドを連れてきてくれたのだ。
外から兵士が入ってくる気配がしてエルグレドは自分が羽織っているマントをロゼに被せるとそのまま抱き上げた。
「では、私は一度下がらせていただきます。また後程」
無表情のままリュカに一礼するとエルグレドは兵士と入れ違いに出て行く。
リュカはその様子を黙って見送った。
****
あれから数時間後ロゼはエルグレドの屋敷のベットに横たわっていた。
痺れ薬はあの後数分したら解け、その後着替えや手当をしてもらった。
侍女達はまるで自分が同じ目にあったかの様に痛ましそうに涙を浮かべながらロゼが打ち付けた箇所の手当をしてくれた。何も無かったから大丈夫だと言ってもそれで怒り出す始末だった。
「何も無かったなどと!こんなにも傷をつけられて・・・お可哀相に・・・」
あれー?ここエルグレドの屋敷だよね?と思わず戯けたくなったが空気を読んで止めておいた。本気で怒るか泣き出しそうだ。
「あの・・・・・エルグレドは?」
恐る恐る聞いてみると侍女は少し困った顔をしながらも答えてくれた。
「先程帰宅されましたが。ロゼ様とは今日はお会いにならないそうです」
当然だとロゼも思う。あれだけ釘を刺され注意されていたのにあの醜態。しかもバードル家の手を煩わした。
ロゼは思わず深く項垂れた。
せめてあの時逃げ出さなければ良かった。
あそこで我慢していればあんな罠にかかることもなかった筈だ。ロゼはただすごく恥ずかしかったのだ。
あの夜エルグレドに言った事はすべて真実だ。
しかしひとつだけ言わなかった事がある。
それはロゼにとって認め難い出来事で言葉にするには躊躇われるものだったのだ。
2年前初めてエルグレドをこの目で見た瞬間ロゼは彼から目が離せなくなった。
まだこの町に来たばかりの頃だ。ロゼはエルグレドの事を何ひとつ知らなかった。だがその瞬間抱いた感情にロゼは困惑した。
(彼が欲しい)
それはあまりにも勝手でわがままな感情だった。
だからロゼはそれを無かった事にした。
卒業するまで一度たりとも関わりを持たずそのままこの町を去るつもりでいたのに・・・。ロゼはバルドの頼みを断れなかった。彼が死ぬことなど到底認められなかった。
そしてエルグレドと知り合えるという誘惑にも負けた。
何故突然こんな感情が芽生えたのかロゼには説明できなかった。ただ確かに確実に今言えることは。
エルグレドを見た瞬間ロゼは恋に落ちた。
****
コンコンとエルグレドの部屋がノックされる。
一拍置いてから扉がゆっくりと開いた。
「・・・・今日は会わないと言った筈だが?」
表情の無い顔で言われてこんなやりとりも久しぶりだわとロゼは場違いに笑ってしまった。
「話があるなら部屋に入れ」
この前は入れるのを躊躇していたが今回はすんなりと通される。少し緊張しているロゼはそれに気が付かなかった。
「今日はごめんなさい」
許されないとは思うが言っておきたかった。これからロゼの所為で起こるであろう厄介ごとをエルグレドは片付けなくてはならないのだ。
「それは何について謝っている?」
尋ねられ一瞬困惑した。そしてすぐ頭を切り替える。
「ダンゲのことよあの男に油断して・・・・」
ロゼが先程の事を話そうとした瞬間。エルグレドはロゼの方へスタスタと足早に近づいて来た。思わず後ろに後退りしてしまい背後の壁に背が当たる。しかしエルグレドは構わずロゼの前まで来ると力任せに右手の拳で壁の上を叩きつけた。
「あの男の名を呼ぶな!!!」
ミシリッと壁が崩れる音がする。ロゼは驚いて大きな瞳を更に見開いた。
「走って逃げ出す程俺との婚約が嫌だったのなら何故俺に近づいて来た!」
違う!!と否定しようとしたが上手く声にならなかった。
エルグレドの瞳がまるで自分を軽蔑しているように思えて。
「エルグレド・・・」
「そんな眼で俺を見るな!」
その拒絶の言葉にロゼは急に恐ろしくなった。
エルグレドはそんなロゼを見ていられないと言うように目を伏せた。ロゼはまたブルブルと震えていた。エルグレドが失望を感じ始めた時、ロゼの口からその言葉は本人も無意識のうち紡ぎ出された。
「嫌いにならないで・・・・」
エルグレドが大きく眼を見開く。
それは小さな子供が呟くようなそんな響きを漂わせていた。エルグレドはしばらくそのまま固まっていたがおもむろにロゼの腕を掴んで部屋の奥まで進んでいく。
ロゼはされるがまま奥にあるベッドに押し倒された。
静かな部屋にエルグレドの声だけが響いている。
「あの男にどこまでされた?」
ロゼはその言葉に「何も」と呟いたがその瞬間エルグレドの手のひらがロゼの太ももを撫でた。
ロゼは驚いてびくりっと身体を強張らせた。それに構わずもう片方の手でゆっくりと頬から首すじの辺りまで撫で下ろした。途端にロゼの顔が赤くなる。エルグレドは全部分かっているのだ。ロゼがされた事すべてを。
「無警戒で男の部屋に入って来たんだ。覚悟はしてきたんだろう?」
そう問われ今までのやり取り全てをやっと理解した。
エルグレドの整った顔がゆっくりと降りてくる。
ロゼは覚悟を決め眼を閉じる。エルグレドの唇はロゼの額に触れそのまま瞼や頬、そして唇に重ねられた。
それはとても熱いのに触れ方は酷く優しくて気持ち良く、ロゼは思わずウットリしそうな自分を律した。
唇が離れ今度は首筋に当てられるとそのままエルグレドが動かなくなった。ドキドキと速い心音がロゼの耳を打つ。
何も言えずそのまま固まっているとしばらくしてエルグレドが髪をかき上げながら身を起こした。盛大に溜息をついて。その仕草が物凄く色っぽい。
「今日はこれくらいで許してやる」
そう言われロゼはポカンと彼を見返した。
「だがこの件は俺がカタをつける。お前は手を出すな」
まだ惚けて身体をゆっくり起こしているロゼの顎を優しく持ち上げた。
「返事は?」
そう問われ「はい」と素直に返事を返すとエルグレドはやっと表情を和らげロゼを軽い力で抱きしめた。




