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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第三章  王国の反撃
18/63

17. ターニングポイント その1

※この第17話にはサーラなど主人公サイドは出て来ません。

 人民共和国サイドの物語となりますが、お付き合いいただければ幸いです。

 ノルトスタントールの西側に存在する巨大な大陸、中央レヴェリガイア大陸。

 その南部一帯の広大な大地に、ロングニル王国連合はある。

 豊かな恵みをもたらす肥沃な大平原や灼熱の砂漠、峻厳な山岳地帯と万年雪の降り積もる高原地帯、大小無数の湖や池が点在する美しき湖沼地帯とそこから流れる大河……その広大な国土は変化に富み、非常に多種多様な種族が暮らしている。

 人口約8億の内、約40%を人間が、残り60%を亜人・獣人・魔獣が占めている。

 本来、この異世界諸国において「人口」とは、文字通りその国や都市の「人間」の数を表すものであり、通常、亜人や獣人、ましてや魔獣などはその数に含まれない。

 しかし、この国は特別である。およそ1550年前に成立したロングニル王国は、建国王が唱える理念の元、人語を解し意思疎通が出来る存在は全て「法の下の平等」と「絶対的信仰の自由」を享受し、現在に至るもそれは変わっていない。

 人間から蔑まれるゴブリンやオークだろうと、聖職者から弾圧される立場にある死霊術を崇拝する邪教徒だろうと彼の王国では等しく「国民」である。

 

 そんなロングニルも、戦火の只中にある。

 同国北部に存在する強大な人民主義国家・アーガン人民共和国とその周辺の衛星諸国による大規模「無停止攻撃」は、開戦から約5ヶ月が経過した今、既に「自由と平等の国」の広大な国土の30%を失陥せしめていた。

 だが、一部の亜人たちは、戦争とは無関係に昔ながらの平穏な生活を送っていた。

 自身が「ロングニル国民」という自覚すらない彼らには、大戦そのものが他人事であった。


 その時までは。


 太陽が遠く山脈の向こう側から昇って来る。

 人民共和国製の大型オフロードトラックの一団が、鬱蒼とした針葉樹林が生い茂る峻厳な山道を、旭日がもたらす木漏れ日を受けつつ進んでいた。

 その上空には卵のように丸い形状が特徴的な同じく人民共和国製の兵員輸送ヘリも10数機続く。

 ヘリには、胴体両脇のスタブウィングに対地無誘導ロケット弾を32発積んだロケットポッドが搭載されている。

 トラックやヘリには、重武装の人民共和国内務人民委員所属の「特別行動部隊」の戦闘員が搭乗していた。しかし、兵士の半数は「他国」の軍服を着込んでいる。人民共和国の同盟国・エルエナル民主統合共和国軍の軍服である。兵士たちは全員フルフェイスの専用ガスマスクを身に着け、得も言われぬ不気味さを醸し出していた。

 そんな彼らを指揮するのは、兵士たち以上に不気味で冷徹な人民軍上級政治将校の軍服を纏う美女。

 名をカレン・アクラコンという。

 彼女が搭乗するのは、完全武装の兵士10名を輸送可能な「強襲」ヘリ。

 二つの丸が並んだ円形のタンデムコックピットに、全体的に丸みを帯びた肉厚なボディ。

 胴体両脇のスタブウィングに強力な対戦車ミサイルと対空ミサイルランチャー及び対地制圧用無誘導ロケットポッドを装備した、人民軍兵士たちから「空飛ぶ人食いワニ」の愛称で知られる重武装ヘリである。ロングニル軍からは「雌アカシカ(ハインド)」のコードで呼ばれ、最優先破壊目標に指定されている。

 カレンは、その凶悪な外見をしたヘリ胴体中央にある兵員室備え付けの折り畳み椅子に座り、頭に専用ヘッドホンを付けてインカムから配下部隊に指示を出す。


「まもなく目的地だ。同志諸君、準備しろ。」

『了解。同志アクラコン。』

 

 彼らの目的地とは、深い森の奥に存在するハイエルフの国、アレフィー自治領。

 機械文明との接触を嫌った古代エルフ一族の文化を尊重し、一切の行政不介入と全面的な保護が定められたロングニルと近隣同盟王国との国境地帯に位置する自治国家。国際的な条約まで締結されてエルフ文化の保護に向けた枠組みが設けられた一種の「聖域」である。

 だが、今現在、この地域一帯はアーガン人民軍の完全な支配下にあり、彼女たちの行動を掣肘するものは一切存在しなかった。


「お姉様、シクラにはまだわかりません。何故、貴重な燃料と銃弾を浪費してまで、辺境の果てのような場所で惰眠を貪るエルフ如きを始末しなければならないのですか?」


 きめ細かい美しい黒髪を三つ編みにした若い女が、対面に座るカレンに話しかける。

 カレンと同じく、まるで閉じているかのように細い目をした冷たい印象を纏う美女。

 名はシクラ・アクラコン。

 カレンの3つ年下の妹である。彼女もまた人民共和国内務人民委員工作部隊の一人で、姉の実質的な副官を務めている。

 カレンは、この世で二番目に愛する人間の問いに笑顔で答える。


「シクラ。己が望みを達成するためには、時に回り道することも重要です。言うなれば、今回のエルフ掃討は、人民共和国を真の強盛大国とする為の重要な回り道。これがどんな結果をもたらすか、いずれわかります。」

「わかりました。お姉様の策謀が如何なる結果を生むか、シクラは楽しみです。」


 シクラも笑顔を姉に返す。

 姉の望みのことは、シクラも良く知っていた。

 ザイツォン・ベタシゲン将軍を人民共和国の指導者に据え、祖国アーガンを偉大なる国にすること。

 ロングニルやスタントールさえ凌駕する超大国にし、世界の覇権を牛耳る。

 それが姉の望み。そして、シクラの望みはそんな愛する姉の望みが叶うこと。

 故に、姉の邪魔をする者は誰であれ容赦しない。姉がダムに沈めろと命令すれば、自分の両親だろうと沈めてきた。そこに、一切の疑問や躊躇も無い。

 

 やがて部隊は森林地帯の最奥へと到着した。

 「敵対民族」の町とそこで暮らす「敵」の存在を、ヘリ部隊の赤外線サーモが捉える。


『同志アクラコン。特別行動部隊、配置につきました。』


 トラックの武装兵団も町を包囲するように展開を完了している。

 カレンはインカムを口に近づけ、命令した。


「知識の浅そうな若いエルフ数匹を残して他は全て始末しろ。ヘリ部隊、攻撃開始。地上の特別行動部隊はヘリによる先制攻撃後、町から逃げ出したエルフの掃討を始めろ。一匹も逃すな。」

『了解。同志アクラコン。ベタシゲン将軍に栄光を。』


 凶悪な面構えをした人民共和国の空飛ぶ工業芸術品と、それを取り巻くように飛ぶ兵員輸送ヘリが機首を下げて攻撃態勢を取る。

 

 直後、無数のロケットが放たれた。

 ロケットは平和に暮らすハイエルフの町に相次いで着弾。

 突然の攻撃に、エルフたちは大混乱に陥り、瞬く間にその半数以上が死傷した。

 ヘリ部隊は更に町に近づき、「人食いワニ」は機首の30mm連装機関砲の咆哮を、逃げ惑うエルフたちに浴びせる。咆哮の一斉射で、瞬時に10人のハイエルフの男女が肉塊と化した。


 劫火に襲われるエルフの町の直上でホバリングする「ワニ」と「卵」の群れ。

 その胴体からロープが下界へ垂らされると、重武装の兵士たちがそれを伝って次々と降下した。

 「ワニ」からも数名の兵士が降下し、最後にシクラも続く。


「それでは行って参ります。お姉様。」

「シクラ。遊んでらっしゃい。」


 笑顔で妹の出陣を見送るカレン。

 直後、シクラはロープを使わずにそのままヘリから飛び降りた。

 優にビル3階分程の高さがあるにもかかわらず、シクラは空中で一回転すると見事に着地した。

 左右の腰ホルスターから人民共和国製マシンピストルを取り出すと、両の手で銃を構える。

 二丁持ちだ。

 家々から焼け出されたエルフたちは、突如空から降りてきた謎のガスマスク軍団と二丁拳銃使いの若い女に驚愕する。

 

「そいつとそいつとそいつ。それ以外は殺せ。」


 シクラは右手に持つマシンピストルの銃口を3人の若いエルフの男女に向け、兵士にイヤホン型無線機を通じて指示を出した。


「了解しました。同志アクラコン野戦指揮官。」


 直後、重武装のガスマスク兵団は一斉に銃撃を開始。

 エルフたちに物を言わせる暇すら与えず、一方的に殺戮した。

 シクラも、二丁持ちのマシンピストルで極めて正確にエルフたちを射殺していく。

 辛くも逃げ出したエルフたちも、町を取り囲むように展開したトラック部隊の兵士たちによる阻止銃撃を受け、その全てが殺害された。

 およそ4000人のエルフが、機械や電気を知らず昔ながらの様式で平和に暮らしていたアレフィー自治領は、斯くしてたった3人を残し全滅した。


 殺戮の日の太陽が、遥か森の奥に沈んでいこうとしていた。

 謎の兵士たちから暴行を受け、身柄を拘束される若いエルフの男女。

 全てが一瞬だった。

 何もかも訳が分からないまま、突然家族や親類、仲間たちが殺戮された。

 若い彼らはまだ知らなかった。

 外界の人間たちのこと、そして彼らが扱う極めて強力な兵器のことを。

 閉ざされた環境下で平穏に生きてきた彼らに、突然現れた謎の兵団は、途轍もない恐怖以外の何者でもなかった。


「な、なんなの?あなたたちは?……なんでこんなことをするの?」


 顔に痛々しいアザが出来たハイエルフの少女……と言っても優に100歳を超える……は、拘束され地面に転がる自分たちを見下す不気味な明るい茶色の軍服を着た女に問うた。


「我々はアーガン人民軍及びエルエナル南方派遣軍だ。貴様らエルフは、我らが「環状大陸共同体構想」の邪魔にしかならない。故に殺した。だが、残念ながら弾が尽きてしまった。我らは一時的に補給に戻る。お前たちも明日には殺す。それまでそこで転がっていろ。」


 そう答えると、女は兵士たちを連れ、何処かへと去って行った。

 

 チャンスだ。逃げるなら今しかない。

 

 3人のエルフたちは、何とか拘束を解こうともがく。

 すると若い男のエルフが、後ろ手に両手を縛っていたロープを解くことに成功した。


「大丈夫か?二人とも?とにかく逃げよう!奴らが戻ってくる前に!」

「で、でも、どこに逃げたらいいの?」


 エルフの少女が心配そうに言う。

 すると、もう一人の女のエルフが何かを思い出した。


「長老から聞いたことがある。もし何かあれば、「ロングニル」を頼れって。彼らなら、きっと私たちを守ってくれるはずだって。」

「俺も聞いたぞ。「ロングニル」はとても良い所なんだって。会ったことは無いけど、里を出て行った俺の200歳年の離れた姉が、「ロングニル」で「あなうんさー」とかいう仕事をしてるらしいんだ!」

「な、ならそこに行こう。あの「あーがん」とか「えるえなる」とか言う怖い連中が戻ってくる前に。」

「急ぎましょう!秘密の抜け道を知ってるわ!」


 エルフたちは駆け出した。

 この想像を絶する恐怖から逃れる為に、同胞たちの亡骸も焼け落ちた故郷もそのままにして、とにかく走った。


 そんな彼らを、遠方から赤外線スコープで監視する兵士たち。

 他ならぬ彼らを殺戮した人民主義者の兵団は、わざと「撃ち漏らした」エルフが、逃げていく様を見ていた。

 彼らが町から十分に離れたのを見計らい、カレンが何処かと通信を始める。


「こちらキングピン。ヴァルチャー1-4へ空爆要請。現在、敵レジスタンス拠点を監視中。座標エコー1・1・2・4ブラボーチャーリー。」

『ラジャー。ヴァルチャー1-4。座標を確認。爆弾投下(bombs away)!爆弾投下(bombs away)!』


 直後、エルエナル共和国空軍所属のジェット戦闘爆撃機が夜の闇を裂いて飛来し、レジスタンス拠点とされたアレフィー自治領の残骸へと非常に強力な燃料気化爆弾を投下した。

 空気を焦がさんばかりの大爆発が、エルフたちの古き町を完膚なきまでに焼き尽くす。

 森と共生するように木材と土で出来た彼らの里は、この世界に存在した痕跡すら残さず消滅した。


 3人の若いエルフたちは、おぞましいその光景をまなこに焼き付ける。


「あぁ……なんてこと!いったい何なの!?」

「わ、わからない。とにかく、走れ!「ロングニル」まで!」


 更なる名状しがたき恐怖が3人を襲う。

 何日もがむしゃらに走り続けた彼らは、やがて深い森を抜けて大きな幹線道路へと辿り着く。

 そこに、一台の軍用装甲車がたまたま通りかかった。

 ロングニル軍所属の偵察部隊の車両だった。最前線に近い付近一帯の偵察任務中だった兵士たちは、森から這い出てきたボロボロな姿の3人のエルフを見つけると、すぐさま彼らを救出した。

 そして知ることになる。彼ら3人が体験した恐怖の事実を。


 

 ハイエルフたちを襲った悲劇が、世界を駆け巡るのに、時間はかからなかった。


……


 ロングニル保護国アレフィー自治領、アーガン・エルエナル共和国連合軍により全滅。

 「民族虐殺」の疑いあり。


……


 これまで、この異世界で「民族虐殺ジェノサイド」という事象が表面化したことは無かった。

 ましてや、国際的な保護条約で守られている筈の平和に暮らすエルフたちが一方的に殺戮されたのだ。

 故に、これは途轍もない衝撃を世界各国に与えた。


 これまで中立を貫いていたロングニルやスタントールの周辺諸国、あるいは大戦とは無縁だった東方大陸や南極大陸などの諸外国も、この大事件に相次いで非難声明を出し、共和国陣営への風当たりは急速に悪化していく。


 大戦の趨勢は、この所謂いわゆる「アレフィーの大罪」以降、徐々に王国陣営優位に傾いていった。



 そして、その変わりゆく世界情勢を、暗い笑みを浮かべて眺めるアーガン女がいた。

 その女、カレン・アクラコンは人民共和国首都にある自身の執務室で、諸外国主要メディアが発行した新聞を眺めながら、自分の思い通りに進む世界の馬鹿者共に愉悦を感じていた。



 もう少し。

 あともう少しで、老害共を排除し、あのお方にこの国を献上できる。



 何もかも凍てつかせるかのような冷たいオーラが、不気味なアーガン人民主義者の女から発せられていた。

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