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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第三章  王国の反撃
15/63

14. 女王、大いに怒る

※この第14話には、サーラなど主人公サイドは出て来ません。

 彼女たちの敵であるスタントール王国サイドの物語となります。

 最高級品の赤いカーペットが続く荘厳な装飾で彩られた建物の廊下を、3人の男が書類ケースを持って堂々と歩く。

 3人はそれぞれ陸海空軍の上級将校の正装を身に纏い、自らの職務に絶対の誇りと自信を持つ厳格な軍人の風格を自然と漂わせている。

 その表情は厳しく、これから挑む「戦い」の結果次第では、これまで築き上げたキャリアの全てを失う覚悟を決めていた。3人の将校の後ろには、それぞれ腹心の部下数名が伴い、さらにその後ろには漆黒の戦闘服姿の男女約30名が付き従っていた。

 黒衣の戦闘員たちは、昨年配備されたばかりの最新型短機関銃を手に持ち、いつでも発砲できる態勢を整えていた。このような建物内で、弾倉を装填し安全装置を外して銃火器を持ち歩くなど、本来なら言語道断である。

 しかし、その黒いヘルメットには矛を握る黄金の腕を意匠化したスタントール王家の紋章が輝いていた。それは、彼らが特別な存在……スタントール王国のシノーデル王朝にのみ忠誠を誓う王国軍最精鋭部隊であることを示していた。


 ここはノルトスタントール連合王国「本国」フェターナ広域州。

 「枯れること無き花の都」の異名を持つ「不落の王都」フェリス。

 人口1000万人を超える、この異世界で5本の指に入る超巨大都市メガロポリス

 彼らが先を急ぐ宮殿風の荘厳な建物は、他ならぬスタントール王国の国王宮殿……通称「カズキの天空要塞」である。王宮は、超高層ビル群の合間に存在する切り立った山の上に、圧倒的存在感を放ちながら聳え立っていた。豪華絢爛な外装と内装だが、高強度鉄筋と分厚い強化コンクリートで建造された宮殿は、大型爆撃機による1000キロ爆弾の直撃にも耐える程強靭な作りになっている。

 文字通りの要塞であった。

 通称にある「カズキ」とは、およそ1520年前、それまで幾つもの小国家に分裂していたこの「スタントール地方」をまとめ上げたスタントール王国の建国王、カズキ・シノーデル王のことだ。

 北に存在する野蛮なオークによる軍事侵攻を受けて戦時下にある現在、「天空要塞」はその異名の通り、何十もの対空機関砲や長距離対空ミサイルを王宮各所に配備し、火を吹く高射砲塔フラック・タワーと化していた。


 王国の一大資源産出地帯であるファーンデディア広域州の物流拠点、港湾都市セティアが褐色肌の原住民により占拠されてから3日後。

 3人の三軍上級将官は、ある部屋の前に辿り着いた。

 いにしえの宮廷魔術師が生み出したとも言われる伝説的な超高級生地を惜しみなく使用した厚手のシートに覆われた分厚い観音開きの扉。その先に、彼らが会わなければならない目的の人物がいる。

 3人の将軍は互いに顔を見合わせると、一度だけ頷き合い意を決して扉を開いた。


「失礼します。女王陛下。」


 扉の先は広い会議室になっていた。

 禿げ頭が痛々しい首相と、醜く肥え太った内相をはじめとする彼ら軍人が「敬うべき」文民政府の長たちに、上座の右端に最高裁判所の「女王監視官」が座り、戦時対策御前会議を開いていた。


 そして最上座には若い女性が、今しがた入室した3人の将軍以上に険しく不機嫌な顔をして窮屈そうに座っていた。ノルトスタントール王国現国家元首にしてシノーデル王朝の今上女王、カリーシア・シノーデルⅡ世。総人口約3億人を抱える超大国の頂点に君臨する美女である。


 御前会議と言っても名ばかりである。

 首相と内相は毎度のように責任の押し付け合いを行い、会議は一向に捗らない。

 それに女王が意見を述べようとすると、直ぐに裁判所からのお目付け役が邪魔をする。

 今回の会議でも、何ら具体的な対応策を打ち出せないまま、醜い政争と自身の保身を優先した不毛な議論が繰り広げられていた。

 入室した3人の陸海空軍の元総司令官たちの存在に、愚鈍な文民政府のお偉方はまだ気付いていなかった。


「何度でも言ってやるが、ここまで事態が悪化したのはダミヤン首相、アンタのせいだ。」

「黙りやがれ、ルペン!何を言おうが無駄だ!来年の党首選でお前の勝ちは絶対に無いんだ!諦めろ!」


 禿げ頭の首相と肥え太った豚が如き容姿の内相が罵り合う。

 それに気弱な国防大臣の中年小男が恐る恐る意見を述べる形で割り込む。


「な、なぁ、首相……それよりもそろそろ遷都を考えるべきじゃないか?

 もうオークの機甲軍団が、フェリスの手前100キロまで迫ってるんだぞ?

 南のホルスタ島か、ネクタス広域州の州都・ネクタスへの遷都準備に入らないと……」


 すると、たちまち怒り心頭のハゲ首相が罵声を放つ。


「何を言ってるガムラン!お前は国防大臣だろ?それはお前の仕事だ!」

「わ、私に責任を擦り付けるつもりか?それはあんまりだよ!!」


 惨めな小男が涙目になりながら抗議すると、豚男の内相が「名案」を思い付く。


「そうだ、首相。名案を思い付いた。アンタが辞任してケジメをつけろ。

 そうすれば遷都に国民も納得するだろう。」

「なんだと、ルペン!」


 斯様な不毛極まる議論が、時折怒声を伴って繰り広げられる。

 それに耐えかねた女王が発言しようとする。


「あの、遷都なんて絶対に……」

「女王、発言は認められません。文民統制の阻害は許されないんですよ?」


 すぐさま最高裁判所の「女王監視官」の不細工な男が気味の悪い笑顔を浮かべて発言を遮る。

 線の細い痩せた白人の男。その佇まいと纏う雰囲気は、麗しい女王に不気味な生理的嫌悪感を与え続けていた。


「女王陛下!!至急にてご報告申し上げたいことがございます!」


 中々存在を気付かれないことに業を煮やした元海軍総司令官ハインツ・デルバータ元帥は、大声で告げた。

 これにより、ようやく会議室内の関係者は突然侵入してきた者の存在に気が付いた。

 女王は3人に目を向ける。

 スタントール人の特徴である碧眼ではない。黒い瞳。髪も上品な光沢を放つ見事な黒髪だった。

 これが、シノーデル王家の人間が持つ最大の身体的特徴であることは、国民のみならず世界的にも良く知られていた。

 たちまち首相のダミヤンと内相のルペンが怒声を発する。


「なんだ、お前たちは!?出ていけ!!この憲法違反者共め!」

「まだ軍にいたのか貴様ら!?

 ……おい、ガムラン!罷免したんじゃなかったのか!?」


 内相のルペンが国防大臣のガムランを怒鳴る。

 ガムランはプルプルと全身を震わせながら弁明した。


「い、いや……制服組の反発が強くて、司令官を解任するのがやっとだった……」

「この大馬鹿野郎が!役立たずは股間にぶら下がってる一物だけにしとけ!!」


 ルペンの品の無い罵声が「御前会議室」に轟いた。

 しかし、屈強な3人の将軍は一切動じない。引き連れた部下や黒衣の兵士たちも無表情のままだ。


「報告とはなんだ?」

「女王!いけません!」


 カリーシア女王は痩せ男や無様を晒す政府連中の存在を無視して将軍たちに報告を促す。

 すると元空軍総司令官のロアン・ルクレール上級大将が書類ケースを開け、案件ごとにクリアケースに入れられて見易いよう纏められた書類一式を女王に手渡した。


「こちらの書類をご覧ください。」

「おい!出ていけ!……な、なんだ……」


 ルペンが立ち上がってルクレールを怒鳴りつける。すると、黒衣の兵士がすぐ傍まで近づき無言の圧力をかけてきた。肥え太った中年男は、その得体のしれない兵士の圧力に言葉を失った。


 書類を受け取り中身を確認する女王。


「だから、勝手なことをするな!」


 それを取り上げようと椅子から立ち上がる「女王監視官」の男。

 しかし、元陸軍総司令官のクルス・エスデナント元帥が男の両肩を背後からがっしり掴み、無理矢理座らせる。痩せた男は元帥の強力な握力に全く抵抗できず、椅子に固定させられた。


「まぁ、黙って座ってろ。な、裁判官殿?」


 エスデナントが含みのある笑みを醜男に見せる。

 監視官の男の額に玉のような汗が吹き出る。書類がどんな内容の物かわからないが、若い女王に味方して「親政」を決断させた三軍の元司令官が持ってきた代物だ。きっと、ロクでもないものに違いない。


 自分や「人民共和国」にとって。


 女王の顔がみるみる変わる。

 激烈な怒りの表情。21歳の美女は、心火燃えるが如き憤激を隠すことなく顔に出し始めた。


「……デルバータ、エスデナント、それにルクレール!」

「はっ!!女王陛下!!」


 女王の威厳漂う声に、3人の将軍は弾かれた様に姿勢を正し直立する。 


「たった今から貴様らにそれぞれ三軍総司令への復帰を命ずる。」

「はっ!!謹んで拝命いたします!!陛下!」


 女王に向かって、将軍たちは見事な敬礼を見せた。

 これに文民政府の無能な大臣連中は酷く狼狽する。

 一体、この3人の将軍は何の書類を持ってきたのか。それに女王のあんな激しい怒りの表情は初めて見た。大戦勃発直後、この女王は、王国憲法の条文を盾にしてこの3人の将軍の支持を得、政府を蔑ろにする「親政」を行おうとした。


 まさか、それを再開する気なのでは。


 彼らのその危惧は、直ぐに現実のものとなる。


「へ、陛下。もしよろしければ、このダミヤンにもその書類を見せていただけないでしょうか?」

「黙れ。」


 禿げ頭の首相が、それまでの態度を一変させて若い小娘の女王にへりくだって書類を所望した。

 しかし女王はそれを一蹴した上で、内相の豚男に怒りの問いを投げつけた。


「ルペン……貴様、何故黙っていた?」

「はぁ?何のことでしょう?」


 ルペンはさも「小娘がどの口を利く」と言わんばかりの尊大な態度を示しつつ、クエスチョンマークを頭に浮かべた。

 次の瞬間、美しい顔に壮絶な怒りを浮かべた女王の怒声が飛ぶ。


「とぼけるな!ファーンデディアの原住民テロリストのことだ!

 なんだこの民間人の夥しい死傷者の数は!!」

「え?ファーンデディア?テロリストとは?」


 ルペンは、とぼけてなどいなかった。

 想像を絶する自身の無能に気付いていなかっただけである。

 南部ファーンデディア各地の武装警察が内務省に逐一上げていた「ダニーク人武装組織」に関する報告書を、ルペンは「ファーンデディアの事柄は特に重要ではない」と勝手に決めつけて放置し、そのまま忘れていたのだ。

 激怒した女王は豚男に粗野極まる言葉を叩き付ける。


「救いようの無いクソッタレの豚野郎が。」

「え?な、な、なんとおっしゃいました?女王陛下?」


 これには流石のルペンも強い動揺を隠せない。

 「小娘」の暴言に怒りを覚えるよりも、急速に存在感を増した「女王」への畏怖が勝り、哀れな豚男に恐怖の感情が芽生える。

 女王はさらに容赦ない言葉を続けた。


「能無しのデブを豚呼ばわりしただけだ。クソ豚。」

「え?な?えぇ?はぁ?じょ、女王、な、なな、なんで私を豚などと……」

「黙れ!!もう何もしゃべるな!!ケツの穴が!!」


 女王はフェターナ南部の高級木材で出来た会議机に握り拳を叩き付ける。

 激怒した女王の一撃は、本来ハンマーで叩いても傷一つ付かない筈の木製机に亀裂を生じさせた。

 その強烈な衝撃音に、文民政府の無能者たちと監視官の痩せ男はビクリと肩を震わせる。

 無能者と「売国奴」の顔に、それまで「小娘」と侮っていた女王に対する強い恐怖心が明確に露わになった。


「陛下、どうかご指示を。」


 海軍総司令に復帰したデルバータが、直立不動で女王に指示を乞う。

 女王は、小動物のように怯えて身体を小刻みに震わす政府要人一同に右から左へ流れるような鋭い眼光を送った後、命令した。


「今、わらわの前で震えて座っているクソッタレの無能者共を、この要塞の窓から放り捨てろ。」

「陛下。誠に恐れながら、ここは偉大なる建国王の天空要塞。地上まで100メートル以上の高さがございますが、命令通り実行してもよろしいでしょうか?」


 陸軍総司令のエスデナントが笑顔で女王に確認を求める。

 今の発言が、女王なりの皮肉を込めた言葉か、あるいは本当に「放り捨てて」いいものかを確認するためだ。

 女王はエスデナントを真っ直ぐ見つめると改めて命令した。


「言葉通り実行しろ。殺せ。」

「承知いたしました。直ちに!」


 エスデナントは、黒衣の兵士たちに目で合図を送る。

 兵士たちは、背後から文民政府要人たちの両脇を掴むと、椅子から引きずり倒して部屋の外へと連行した。


「や、やめろ!!命だけは!う、うわああぁぁーー!!」

「へ、へ、陛下!!どうかご慈悲をー!!ぎゃあぁーー!」

「離してくれ!!金ならある!どうか命だけは!!あ、あ、ああぁぁーー!!」

「いやだ!やめてくれ!陛下!へーかーぁっ!!」


 無能集団の無様な断末魔が天空要塞の一角に響き渡る。

 分厚い扉は閉められ、御前会議の室内に束の間の静寂が訪れる。

 その静寂の中、大汗をかいてガクガクと震える醜い痩せ男が一人。


「おい、監視官。」


 女王が醜男の顔面を覗き込むように顔を近づける。

 その顔は、常人であれば耐え切れない程の壮絶な憤怒の表情であり、惨めな小男に過ぎないこの監視官は、既に股間を盛大に濡らしていた。

 臭気が辺りに漂う。


「ひっ!は、はいっっ!!」

「この書類だが、最後の方に随分と愉快なことが書いてあるぞ?

 ……その前に一つ確認だが、お前はノルトスタントール連合王国の最高裁判事だよな?」

「は、は、はい。そそそ、そうでありますぅ……」


 目から涙を流し、鼻水も垂れてきた。

 なんと無様な男だろうか?


「判事になる時、誓ったはずだよな?

 王国の法と正義を守り、民に公正な裁きを下す者としての職責を果たす、と。

 そうだよな?」

「はははは、は、はい……」

「なら、ここに書いてある国家憲兵隊の報告書と写真はなんだ!!」


 女王はクリアケースに入った書類の一束を、男の目の前の机に叩き付けた。

 椅子から飛び上がらんばかりに男の身体はビクつく。

 そっと書類を確認する最高裁判事の男。そこには、自分と「人民共和国」との関係が、ほぼ完全につまびらかに記載されていた。

 人民主義者の国からやってきた工作員の美女と楽しそうに高級レストランで食事する自分の姿が鮮明に写し出された写真。自宅固定電話の通話記録とその内容。彼の国の関係者と交わした手紙の内容に、手帳の切れ端に書いたメモに至るまで。おまけに、自分が携わった裁判の一方の当事者から多額の現金を受け取っている写真とその時の恣意的な判決の内容など、これまで行ってきた不正の数々さえも白日の下に晒されていた。

 さらには、女王の「親政」に違憲判断を下した最高裁判事全員に関して、同じように敵対国関係者との接触の様子、裁判での不正も明らかにされていた。


 もはや、全く言い逃れは出来ない。

 

 女王は瞬き一つせずに大きな黒い瞳を、ドラゴンを前にした野兎のように身体を震わす醜男の横顔に向ける。


「この女の名前は?」


 女王自らの尋問だ。


「い、言えません。いい、言えば、自分の両親や姉が殺されます。」


 これは事実である。しかし、女王は家族をダシにして逃れようとする姑息な手段と見做した。


「妾なら殺さないとでも思ったか?」


 シノーデル王家の現当主が放つ氷のような言葉に、男は神経を蝕まれ始めていた。


「あ、あああ、ああ、ど、どうか、どどど、どうかご慈悲を……」

「この女の名前を吐け。」

「あ、あ、あ、あ……か、かか、カレン・アクラコンです……」


 女王はおもてを上げ、デルバータに視線を向ける。

 彼は海軍総司令官であると同時に、王国防諜局の局長も兼ねている。

 デルバータは女王の視線に頷くと、部下の一人に何事かを告げる。

 するとその部下は急いで部屋を出ていった。

 女王の「インタビュー」は続く。


「何者だ。」

「ううう、う、う……じ、人民共和国のか、か、関係者だと……」


 恐怖で顔を引き攣らせる醜男は、酷い吃音を伴いながら何とか声を出す。

 これに女王の容赦無き怒声が返ってくる。


「妾の貴重な時間を無駄にして楽しいか?ああっ!?」

「ひいぃっ!!どうかお許しを!!本当に!本当にそれだけしか知らないんです!!神や両親に誓います!!彼女の素性は、よく知らないんですっ!!」


 醜男は、顔をぐしゃぐしゃにしながら抗弁した。

 本当に知らないようだ。

 女王は「売国奴」から顔を離すと、忠臣デルバータに向き直り命令した。


「……昔ながらの作法で行く。

 この男の身体や精神を徹底的に破壊して、知っていることを全部吐き出させろ。

 その後、用が済んだらゴブリン共の巣穴に放り込め。

 “タイマー”を3時間後にセットするのを忘れるな。」

「はっ!!女王陛下!」


 デルバータは女王の命令を確かに受け取った。

 「昔ながらの作法」とは、あらゆる肉体的拷問の許可、そして「3時間後のタイマー」とは、科学技術の発展著しい近世から近代にかけて重犯罪人に対して行われた「死刑」の一つのことである。

 それは、強力な時限爆弾を身体に縫いつけられた死刑囚を、ゴブリンの巣穴に放り込むという通称「食餓鬼刑」と呼ばれるもの。

 人間の科学技術の発展により人里を襲うことが出来なくなってしまい、極度な空腹状態に陥ったゴブリンたちに、死刑囚の身体を食わせるという死刑方法である。さらには、時限爆弾により確実に死刑を執行するついでにゴブリンも始末するという一石二鳥な処刑スタイルとして当時は頻繁に実施されてきた。

 しかし、現代以降の人道主義や人権主義の高まりに起因する国際的批判の集中、何よりゴブリンが絶滅の危機に瀕していることを受けて数十年前、正式に廃止となった。

 

 その「死刑」を再開せよ、と女王は命じたのだ。

 これは、それだけ女王が激怒していることの表れである。

 黒衣の兵士が痩せ男を背後から軽々と持ち上げると、そのまま連行しようとする。


「い、い、いやだ!やめてくれ!何でも話します!!だから、どうか、命だけは!!」

「黙りやがれ!小便野郎が!!」


 女王の強烈な右ストレートが男の顔面に炸裂する。

 醜男の鼻骨は粉砕骨折し、醜いツラがさらに醜さを増した。

 この一撃で監視官の痩せ男は完全に意識を失った。

 ぐったりと項垂れる男を、兵士が長いボロ布を扱う様に部屋から引きずり出した。


「はぁ~……」


 邪魔者がいなくなり、清々した若き女王は椅子に寝そべるように座り込む。


「お疲れ様でした。陛下。」


 ルクレールが女王の労をねぎらう。


「何を言う。本題はこれからだろう?」

「はい、その通りです。女王陛下。我ら王国軍将兵一同。陛下の“御親政”再開を心より祈念致します。」

「陛下。どうか我らに“ご命令”を。」


 デルバータ、エスデナント、ルクレールは女王に改めて指示を乞う。

 女王は、会議室の脇で一生懸命に議事録を取る若く大人しい書記官の男性を見た。


「ド・ルーゴ書記官。」

「はい。我らが女王陛下。」

「記録せよ。『国王、親政を再開す』と。」

「確かに記録致します、女王陛下。誠にありがとうございます。」


 書記官の若い男は微笑みを浮かべて起立すると、女王に向けて深々と頭を下げた。

 女王が書記官に「礼」の意味を問う。


「なぜ、礼を言う?」

「私も一介の王国臣民に過ぎません。

 陛下の“御親政”でどれだけの同胞が救われるかのと思い、一人の古き王国の民として僭越ながら感謝申し上げさせていただきました。」


 ド・ルーゴの言葉に、女王もまた笑みを見せて応じた。


「ふふっ……まぁ、せいぜい頑張るわ。」


 改めて椅子に座りなおる。

 女王は、直属の部下となった威風堂々とした佇まいの3人の将軍を見る。

 頼もしい笑顔を向けていた。

 女王は一回だけ力強く頷くと、意を決して立ち上がった。


「全てを取り返すぞ!まずは手始めに、最高裁判事全員の身柄を今すぐ拘束!それと同時にあらゆるメディアに全面検閲を実施!国家総動員令も直ちに発令!

 王国の全てを、このクソみたいな戦争に注ぎ込むぞ!

 邪魔する者は容赦なく皆殺しにしろ!

 北からやってきた緑色の化け物をぶっ飛ばして、ファーンデディアで大暴れしてる褐色肌の蛆虫に目に物を見せてやる!すぐにかかれ!!

 全省庁は速やかに具体的行動計画を立案し、命令書の束を妾の前に持って来い!!

 軍には全権を付与!あらゆる武器の使用を許可する!

 難癖つけてくる人民主義者の馬鹿は、その場で殺して構わん!!」

「ははっ!!偉大なる我らが女王陛下!御御心おみこころのままに!!」


 将軍とその部下、そして黒衣の兵士たちに加えて会議室に残っていた若手官僚たちも直立不動で女王の命令に答える。



 時に、新暦1925年1月17日。

 大戦勃発からおよそ4ヶ月。

 「王都陥落」という建国以来最大の危機を迎えつつある世界第二位の経済規模と軍事力を誇る超大国ノルトスタントール連合王国は、若く活力漲る女王の元で一つに纏まり、ついに大反撃を開始する。


 「支払い」の時だ。

※この後書きは、今回の第14話にほんの少しだけ関係しますが、読み飛ばしても問題ありません※



【新暦1925年1月20日付 スタントール毎日時事放送局(極左テレビ報道局)

          特別報道番組「憲法を考える市民の集い」より抜粋】

●女王による「再独裁」を防ぐには……民主主義を守る市民大討論会●


(前略)


・アナウンサー(40代男性)

「というように、もう女王の独裁再開に歯止めがかからない状態になってしまっているようですね。」


・タレント(30代女性)

「なんか、とっても怖いですね、あの女王。

 なんというか、生理的に受け付けないっていうか?

 凄く怖いもん。あれで本当に21歳なの?年ごまかしてるんじゃない?」


・作家(50代男性)

「実際、男性遍歴もすごいらしいですよ。王宮の関係者から聞いたんですけどね。

 権力に物言わせて何人もの10歳に満たない少年を寝室に連れ込んだり、若手男性アイドルグループにデートを強制したりとやり放題だとか。

 凄いですよね、へへっ!」


・コメンテーター(60代男性)

「あのね。そんなことよりも、これは我が国憲政史上最大の危機なんですよ。

 みんな、わかってます?

 最高裁判所判事の身柄を拘束した今回の「女王クーデター」に対して、市民は声を大にして反対を訴えなければなりませんよ。

 どんな形であれ……例えばディメンジアに王都を差し出してでも、直ちに戦争を終わらせて国民の平和な生活を取り戻すことこそ第一に優先すべきで……うん?どうしました?」


(スタジオが突然騒がしくなる。スタッフの一人がアナウンサーに何か伝える。)


・アナウンサー(男性)

「え、えーと……じょ、女王の兵隊がこのスタジオに来るの?なんで?」


(他の出演者たちも動揺する。)

(直後、武装した黒衣の戦闘服姿の男たちが現われる。)


・コメンテーター(男性)

「な、なんなんだ、お前たちは!帰りなさい!

 民主主義を蔑ろにする女王の犬は帰れ!」


(黒衣の男たちは無言でコメンテーターの両腕を掴むと、荒々しくスタジオの外へ連れ出す。)

(他の出演者たちも同様に連行される)


・コメンテーター(男性)

「お、おい離せ!離せ!!何をボサッと見てる、助けてくれ!!」


・タレント(女性)

「嫌!触らないで!やめて!何するの?私、何も悪い事してないのに……

 やめてっ!いやっ!!」


(タレントの拘束を試みた戦闘員が女の顔面を殴打。タレント気絶。そのまま引き摺り連行。)


・作家(男性)

「ひっ!お、お願いだから、乱暴しないでくれ。

 大人しくついていくから……」


(出演者全員がスタジオから連行される。)


・アナウンサー(男性)

「あー……はい……ちょっとお待ちください……はい。」


(スタッフが、慌てながら黒衣の兵士から渡された原稿をアナウンサーに渡す。)


・アナウンサー(男性)

「えーと……あー……こ、ここ、これを読めって?……兵隊さんたちが?わ、わかった……

 ……い、偉大なる我らがノルトスタントール連合王国カリーシア・シノーデルⅡ世女王陛下……ふ、古き王国よ偉大なれ……は、全ての国民に告げます……

 ……何?ぜ、ぜぜ、絶対にどもるなって?わかった……ハーッ……フーッ……

 『王国臣民よ。今は、祖国存亡のときと自覚せよ。斯様な情勢にあって、流言飛語を飛ばし、共和国の謀略に加担するような真似をする全ての者を、わらわは決して許さない。以後、我が親政下にあって、王国に対する根も葉もない流言誹謗、特定の思想を植え付けんとする偏向報道、敵に加担する為に情報の捏造を行い臣民を惑わす者は、容赦なく処刑する。これは、王の命令である。』

 ……え?……なに、これ?」


(原稿を読み上げた直後、スタジオの外で悲鳴と銃声が複数響く。)

(騒然とするスタジオ)


・アナウンサー(男性)

「ひぃっ!!お、俺は?俺は大丈夫だよね?ねぇ、俺は?……

 ……ひぃぃ!!あ、あの!じょ、女王陛下!!わ、わ、わ、私は、陛下を敬愛する王国の臣民であります!!ス、スタントール王国、万歳!シノーデル王家、万歳!!

 ……お、お、お願いだから、その銃を下ろしてください……

 ひぐっ、うぐっ……こ、ここ、こ、心を入れ替えてふ、ふふ、古き王国の為に」


(銃声と共に、アナウンサーの男の額に銃弾が撃ち込まれる)

(「しばらくお待ちください」の文字表記)

(その後、カラーバー画面に切り替わる)

(放送終了)

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