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褐色少女の独立戦争  作者: mashinovel
第二章  セティアの戦い
13/63

12. 第三日目 少女と自動小銃

 旭日あさひを受けて輝く紺碧の海原を、大型のコンテナ船が進んでいた。

 「スタント―ル王国郵船」所属であることを示す赤色の三本のストライプが煙突に描かれているその船は、船出した大地で生産された食糧品や銃火器、弾薬を満載して「本国」目指して航行する。

 コンテナ船の近くには、ノルトスタントール連合王国海軍所属の小型駆逐艦1隻が並行して進んでいた。

 駆逐艦艦橋の観測員はソナーに耳を傾け、甲板の監視員は双眼鏡を手に周囲の海を油断なく見渡していた。敵対国家海軍所属の潜水艦による通商破壊を警戒しているのである。


 現在、戦時下にあるノルトスタントール連合王国。

 彼らが支配する膨大な資源と肥沃な大地を誇るファーンデディア広域州は、その北部が戦場となりながらも、大地の恵みの大半を、同じく戦場と化しているスタントール本国のフェターナ広域州へと供出していた。

 

 敵に傍受されることを警戒して無線封止中のスタントール王国郵船のコンテナ船の乗組員たちは、まだ自分たちが船出した愛する家族が待つ港街が「占領」された事実を知らない。

 褐色肌の怒れる原住民・ダニーク人たちにより、ノルトスタントール連合王国の一大物流拠点・セティアコンテナターミナルは昨日制圧された。

 もう、彼らに帰る港は存在していなかった。

 そして、彼らがその事実を知ることは、永遠になかった。

 三本の「死」が、狙いたがわずコンテナ船へと突き進んでいたからである。

 紺碧のアデア海を切り裂く3つの魚雷。僅かに水泡を立てながらコンテナ船へと向かっていく。


「警報!!魚雷3!!輸送船へと襲来中!」


 監視塔の乗員が艦内連絡器に向かって叫ぶ。

 たちまち駆逐艦内は慌ただしくなる。海軍将兵たちは直ちに対潜水艦戦戦闘配置に就く。


「敵潜水艦か!?音響観測員は何をしていた!」

「ソナーに感無し!静音性の新型高速魚雷と思われます!!」

「敵潜の位置は?」

「不明!!付近に海棲巨獣の群れが存在し、ノイズが酷いです!」

「クソッ!ソノブイを追加で投射しろ!音紋分析を急げ!!」

「はっ!!」


 駆逐艦艦橋で艦長と観測員らのやり取りが繰り広げられる間に、高速で突き進む魚雷はコンテナ船へと向かっていく。

 駆逐艦は全速前進。左舷より来襲する魚雷に向け、対空機関銃による阻止射撃を試みる。

 1発は何とか破壊に成功するも、残り2発はどうにもならない。

 コンテナ船もその巨体を何とか動かして回避行動を取るも、手遅れであった。


 コンテナ船左舷に巨大な2本の水柱が立ち昇る。

 大型空母にすら致命傷を負わせる程の絶大な威力を誇る高速魚雷の前に、民間船舶は余りに無力であった。コンテナ船は大量のコンテナを撒き散らしながら、左舷方向から瞬く間に海中へと没した。

 その直後、今度は海中から何かが勢いよく飛び出してきた。

 長い筒状の飛翔体は、翼を展開すると残った駆逐艦に向け音速を超えて飛来する。

 潜水艦発射型対艦ミサイルである。直ちに、スタントール王国海軍駆逐艦はミサイルを迎撃すべく左舷側の全機関銃を持って全力射撃を開始。しかし、これも手遅れであった。


 ミサイルは駆逐艦上部構造物の中心部に命中。

 弾薬庫を直撃し、大爆発を起こした。


 船体はくの字に折れ曲がり、船首と船尾が数瞬の間、海面から浮かび上がる程の衝撃が発生。

 大海原は、浮力を完全に失い残骸と化した駆逐艦を容赦なく飲み込んでいった。


 その様子を、海面から少しだけ飛び出した潜望鏡が覗く。

 周囲の安全を確認すると、今しがた2隻の王国艦船を沈めた潜水艦が海面に姿を現した。


 全長100mを超す漆黒の巨体に赤い星が輝いている。

 最新型のディーゼル電気推進機関を搭載したこの巨大潜水艦は非常に静粛性に優れ、たった今屠ったような旧式小型駆逐艦の索敵システムでは感知不可能な程の性能を有する。

 浮上した潜水艦は艦橋上部の通信アンテナを伸ばし、目的地との交信を開始した。


「こちら海狼105。人民の夜明けは近い。送れ。」

『海狼105。こちら「団結と勝利」。我ら、暁に祈る。待ち人有り。』

「了解した、「団結と勝利」。夜明けは間もなくだ。海狼105、通信終了。」


 艦内の戦闘指揮所で陸と暗号通信を終えたこの潜水艦の艦長である茶色の将校用ジャケット姿をした老獪な中年男性は、傍らにいる副艦長の若手将校と顔を合わせる。


「よし、港は無事確保された。それに加えてお客さんも乗せるそうだ。ダニーク人たちへの「お土産」を降ろしたら、急いで準備しなきゃな。」

「了解しました、クラゲナン艦長。どんな客人が乗って来るんでしょうね?面倒を起こさなければいいですが。」

「まぁ、あのアクラコンも乗るんだ。「冷血女」に逆らえるヤツなんかいないさ。」

「艦長。どこで内務人民委員が聞き耳立ててるか知れたものじゃないですよ。」

「おお、そうだな。恐ろしや恐ろしや。」


 クラゲナン艦長は身体をブルブルと震わせてお道化てみせた。

 それに副長をはじめとする指揮所内の乗員たちも笑みを零す。

 戦闘指揮所の緊張感が一気に和らぐ。艦内の雰囲気は変わらず良好だ。

 だがそれも、目的地に辿り着き「冷血女」ことカレン・アクラコンを乗せるまでの僅かな時間である。

 それまでのひと時を、彼らは満喫していた。


 彼らは戦争勃発直前に就役したアーガン人民海軍所属の最新型長距離大型多目的潜水艦を駆る勇敢な乗組員たちである。

 目下最大の任務は、ファーンデディアで武装蜂起した褐色肌の原住民・ダニーク人たちへの大規模な軍事支援物資の輸送と、現地で作戦行動中の工作員部隊の交代である。

 アーガンからファーンデディアまで、交戦国やその同盟国の領海を突き進むことになる為、特に優秀な潜水艦乗りが選抜されてこの潜水艦「海狼105号」に乗り込んでいた。今回で15度目の作戦航海となる。乗組員たちの信頼関係は熟成され、今や家族同然であった。

 先程、敵艦船を攻撃したのは、飽く迄定期通信を行うのに邪魔だったからついでに排除したに過ぎない。

 敵王国に対する通商破壊作戦は、彼らの同盟国海軍の仕事だ。

 しかし、本来の任務では無いとは言え、強大な超大国海軍に属する艦船を一方的に撃破したことからも、この潜水艦と乗員たちの優秀さが垣間見えていた。


 目的地はファーンデディア最大の港湾都市・セティアのコンテナターミナル。

 積み荷を降ろすには、どうしてもクレーンが必要である。

 そう、今回の航海ではクレーンを使って降ろさなければならない程の「ダニーク人へのお土産」が、満載されていた。


「艦長。褐色の爆乳美女とお近づきになれる時間はありますよね?」


 戦闘指揮所の音響観測員の一人がクラゲナン艦長に冗談を飛ばす。


「残念だが無さそうだ。同志アクラコンとその御一行を乗せたら直ぐに本国に帰らにゃならん。なんなら、彼女に声をかけてみろよ。」

「そいつは絶対にご遠慮しておきます。半魚人の餌にはなりたくありませんので。」


 戦闘指揮所が笑いに包まれる。

 彼らの航海は順調そのもの。目的地には当初の予定通り到着できそうだった。


……


 スタントール王国のコンテナ船と駆逐艦が海の藻屑となってから約半日後。

 既に太陽は天空の頂点を過ぎ、時刻は午後を迎えていた。

 港湾都市・セティアが誇る巨大コンテナターミナルの新しい所有者となった褐色肌の精悍な顔立ちをしたダニーク解放戦線の男女たちは、ターミナルを手に入れる為に使用した銃火器を背に回して「自分たち」のターミナルの後片付けと人民共和国からの「土産品」受け入れ準備に追われていた。

 元々、港湾労働者であった彼らにとって、ここは勝手知ったる我が家も同然であった。

 撃ち倒したスタントール人兵士や民間軍事会社の社員らの死体を処分し、残骸を撤去。

 巨大なガントリークレーンをはじめとする主要な港湾施設の修理や整備も粗方終わり、残作業をしつつ「待ち人」を待っていた。


「……き、共和国!バンザーイ!!」


 銃声。

 ターミナルの小型船舶用桟橋にて、海を背にして立たされていた共和国空挺兵団の兵士が、頭を撃ち抜かれて海へと沈んだ。

 硝煙が燻る大型自動拳銃を持つのは、アーガン人民軍政治将校の制服を着た男。

 隣の桟橋でも似たような光景が繰り広げられていた。

 両手を後ろに縛られ、その手首に10キロ以上の重さがあるコンクリートブロックを紐でくくり付けられた共和国軍兵士が、次々とアーガン政治将校によって処刑されていく。

 ノルトスタントール連合王国のファーンデディアにおける交戦国・イェルレイム民主共和国が誇る陸軍最精鋭部隊・共和国空挺兵団は、こうしてその栄光の歴史に幕を閉じた。


 その凄惨な光景を、生気を失った目で見つめるイェルレイム人の中年男。

 両腕を政治将校の屈強な大男2人にガッチリ掴まれ、まともに身動き一つ取れない。


「こんな……こんなことが……どうして……なんで……」


 ブツブツと小声で呟く他無かった。

 かつては共和国情報局の凄腕工作員として活躍し、次期情報局局長とも目されていたミスターDことダヤン・モシャクニクは、今や全てを失い茫然自失の状態である。

 忠誠を尽くした祖国に裏切られ、完全に見捨てられた男の傍には、男から全てを奪った張本人の女が立っていた。

 カレン・アクラコン。アーガン人民共和国内務人民委員のNo,2にして対外工作部隊指揮官。

 目は細長く一見すると瞳を閉じているような印象を受けるが、それがこの女の冷徹で禍々しい美貌を際立たせているようだった。長く艶のある黒髪が、アデア海から吹く潮風に靡く。

 今、このアーガン女は上機嫌だった。

 自分にとって「幸せな時間」の一つを満喫していたからだ。

 それは、謀略で完膚なきまでに打ちのめした相手の生気を失ったツラを間近で見ること。

 後はこの男を本国アーガンに連行し、あらゆる手段を使って共和国の元エリート諜報員であるこの男が知り得た情報全てを吐き出させてから、世界最大のダムの底に沈めるだけ。

 イェルレイム政府上層部に属する人間の弱みや関係者の力関係を把握出来れば上等だが、自分の祖国の思惑すら見抜けなかったマヌケな男に、カレンは全く期待していなかった。

 それよりも次なる関心事は、このファーンデディアの大地に新たに登場した人民細胞たちのことである。

 まもなく到着する潜水艦には、細胞たちを大いに活性化させる物資が大量に積まれている。

 その細胞たち――ダニーク解放戦線――には、より一層踊って…否、活躍してもらわなければ困る。

 このファーンデディアに人民共和国の衛星国が誕生すれば、それが世界情勢にもたらす影響は計り知れない。

 


 愛しいあのお方に最高の土台を用意しなければ。

 彼なら……ザイツォン様ならきっと、この土台の上に強大な超大国を築いてくださる。



 カレンの顔は知らず知らずのうちに、愉悦に歪んでいく。

 その禍々しい笑みは、周囲の部下たちをも戦慄させた。

 周辺の空気がまるで絶対零度にまで降下したような感覚を覚えた。

 虚ろな目で同胞が処刑される様を眺めていたダヤンも、隣の女から放たれるおぞまましいオーラに強烈な恐怖を感じ、無様に失禁する。


「同志アクラコン。」


 そのカレンに話しかける人物がいた。彼女は声がした背後を振り返る。

 思わず周囲のアーガン人政治将校たちも声のする方を振り向く。

 自分に声をかけた人物を確認すると、カレンの纏う空気がガラリと変わった。

 友好的な空気。先程までの絶対零度の空気は雲散霧消した。


「あら、同志ベルカセム。如何いたしましたか?」


 カレンに声をかけたのは、褐色肌のダニーク人美少女だった。

 名はサーラ・ベルカセム。

 ここにいる誰もがこの少女が単なる原住民の小娘でないことを知っていた。

 ダニーク解放戦線の最精鋭部隊である革命親衛隊の指揮官にして、歴戦の戦士。

 自分たちの民族が自由を勝ち取る為ならば、女子供老人でも無表情で殺す革命の申し子。

 そして彼女の父親こそ、新しき人民細胞ことダニーク解放戦線の総書記長ゲイル・ベルカセム。

 今、このファーンデディアにおいてカレンとほぼ対等に話すことのできる数少ない存在である。


「積み荷の受け入れ準備、全て整いました。いつでも荷揚げ出来ます。潜水艦に補給する燃料や食糧品などの物資の準備もまもなく終わります。」

「ありがとうございます。同志ベルカセム。」


 カレンはにこやかに褐色の少女へ礼を述べた。


「あなた方、ダニーク解放戦線は大いなる偉業を達成しましたね。この港湾都市を手に入れたことは、世界史に記録されるでしょう。ファーンデディアに新国家が誕生するキッカケとして。」

「はい、ありがとうございます。私たちは必ず自分たちの国を手に入れてみせます。」

「ええ、是非頑張ってくださいね。人民共和国は常にあなた方の味方です。」


 サーラは一礼するとカレンの元を去り、作業に戻った。

 カレンは、そのサーラの背中を笑顔で見つめていた。

 しかし、その時脳裏を過ぎったのは、笑顔とはかけ離れた思考だった。



 あの少女は「まだ」使える。

 だが、「いずれ」始末しなければならないだろう。

 あの女のスタントールに対する強過ぎる復讐心は、将来全てを台無しにしてしまう恐れがある。

 十分に注意せねば。



 カレンは心の中に綴っている「粛清対象者リスト」のかなり後半のページに、サーラの名を書き記した。


 一方のサーラも、心中穏やかでは無かった。

 カレン……彼女への警戒心が心の片隅に燻っている。

 ダニーク人が自分たちの国を手に入れたとしても、それが「紐付き」では意味が無い。


 サーラや父ゲイルが目指すは、真の独立、真の自由である。

 人民共和国の傀儡国家では意味が無いのだ。


 しかし、だからと言って多大なる支援を寄越してくれる彼の国を無碍にすることは絶対に出来ないし、もしそんな真似をすれば、孤立無援となったダニーク人たちに待っているのは完全なる破滅だ。

 壮絶な怒りに燃えたスタントール人たちは、何の躊躇も無くダニーク人たちを抹殺するだろう。

 最悪の場合、民族絶滅の可能性すらある。

 彼らスタントール人は、今まで無数のエルフやドワーフなどの亜人種族国家を消滅させてきた「実績」がある。ましてや国を持たないダニーク人を皆殺しにすることなんぞ、彼らには赤子の手を捻るくらい簡単なことだ。

 


 私たちは「弱い」。

 それを忘れた時、私たちは滅ぶ。

 今は、「強き者」の力を借りないと……

 ナシカ。こんな「弱い」姉を見て、あなたは何を思うかしら。

 ……きっと、あなたのことだから無邪気な笑顔をくれるんでしょうね……



 サーラは亡き最愛の妹を思い浮かべ、無力さを噛み締めた。

 容赦なく敵を殺すことは出来る。しかし、巨大な国際政治の場において、自分という存在は余りにも小さく、無力な存在であることを感じ始めていた。


 様々な思いが交錯する中、ついに「待ち人」は現れた。

 アーガン人民海軍が世界に誇る最新鋭大型潜水艦。

 漆黒のボディに、艦橋部分にあしらわれた赤い星。


 ダニーク解放戦線の戦士たちに驚嘆の声が上がる。

 今までは、カレンの部下である内務人民委員の工作員たちから手渡された銃火器や通信機器等の個人用装備品が人民共和国からの具体的な支援の形だった。

 故に、まとまった数を揃えて全ての解放軍戦士たちに均一に供給することは中々出来なかった。

 人民共和国からの先端兵器や機材は、限られた精鋭部隊や幹部らが限定的に使用するに留まっていた。

 しかし今、ダニーク人たちの手に落ちた巨大コンテナターミナルに、人民共和国からの本格的な支援が届けれられたのである。

 ゆっくりとターミナルへ近付いてくる巨大潜水艦。

 ダニーク人港湾労働者が運転するタグボード数隻が、潜水艦の接岸を補助する。

 接岸成功。

 それと同時に潜水艦の艦橋後部にある船体上部ハッチが開く。

 ターミナルのガントリークレーンが、潜水艦が運んできた物資満載のコンテナをひとつずつ陸揚げしていく。

 サーラはその光景を目の当たりにしていた。

 部下で頼れる仲間たちである革命親衛隊の面々も、サーラの周囲で見守っている。


 次々と陸揚げされる膨大な物資。

 甲板上では、潜水艦の乗組員とダニーク人労働者たちが一緒になって陸揚げ作業を行っていた。


「ね、ねぇ、サーラ。あれって戦車じゃない?」

「う、うん……しかも、ただの戦車じゃない……あれは「主力級」の戦車だ。」


 筋肉逞しい褐色美女である革命親衛隊野戦指揮官のナリータが、興奮気味にサーラの肩を揺らす。

 サーラも真新しいオモチャを前にした子供のように目が輝くのを抑えられない。

 潜水艦からコンテナに続いて出てきたのは、卵を押し潰したような円盤型砲塔に105mm砲を搭載した戦車だった。アーガン人民軍機械化軍団の中核を担う「人民軍の花」の異名を持つ主力戦車(MBT)である。


「すごい……あれも私たちに無償で提供してくれるの?」

「おい!次のヤツは、機関砲とミサイルを積んでるぞ!なんだアレ!」


 親衛隊の戦士たちの興奮は収まらない。

 主力戦車に続いて潜水艦の背中から出てきたのは対空砲/ミサイル戦車である。

 これも、人民軍の代表的戦闘車両だ。

 前面に特徴的な円形の対空追尾レーダーを備えた砲塔の左右に35mm機関砲を搭載し、その機関砲と並ぶように中距離対空ミサイルランチャーを配置。

 敵航空機は元より、対人・対装甲車にも絶大な威力を発揮する強力な兵器である。

 彼ら人民共和国も、現在スタントール以上の超大国であるロングニル王国連合と全面戦争中だと言うのに、実に盛大な大盤振る舞いだ。


 陸揚げされたコンテナ一つの扉が開かれる。

 中から現れたのは、1000を優に超える人民共和国製の自動小銃だった。

 ハンドカバーとストックは木製。黒光りする機関部と銃身。銃弾は7.62mm弾を使用し、彼らダニーク人戦士たちがこれまで使用してきた略奪品のスタントール王国製の自動小銃に比べて命中精度はやや悪くなるが威力は高い。

 そして何よりも比較的教養レベルが低い者でも整備が簡単なように、細かなネジやバネの類を極力排して、部品一つ一つがブロック化されて取り扱いが非常に容易な構造をしているのが特徴だ。

 部品の隙間を大きく空けているお陰で、どんな劣悪な環境下でも確実に動作し、敵に向かって銃弾を吐き出してくれる。

 スタントール製の自動小銃は命中精度が高く人間工学も考慮されて取り回しが容易な格好をしていたが、如何せん整備に高い技術が求められ、満足に教育を受けていないダニーク人戦士にとってかなり扱い辛い銃であった。

 その点、このアーガンの自動小銃は命中精度こそ高くは無いが、点検整備が簡単で動作も確実と非常に優れた利点を持っていた。

 正式採用からまだ10年程しか経っていないが、このアーガン製自動小銃は人民軍は言うまでも無く、その衛星国家諸国軍をはじめ、ディメンジア国家社会主義国のオークや、赤道一帯に広がる無数の獣人国家の獣人兵、鬱蒼とした熱帯雨林が広がる南極大陸に点在する後進国の軍隊など王国陣営を除いた世界中の軍・警察・武装組織で使用されている。

 

 カレンは、コンテナに満載された自国製自動小銃の1挺を手に取る。

 銃と一緒に梱包されていた7.62mm弾30発入りのバナナ型弾倉を取ると、慣れた手付きで装填し、コッキングレバーを引く。

 それを、コンテナにやってきたサーラに手渡した。


「どうぞ、同志ベルカセム。あなたなら、きっとこの子と良い友達になれますわ。彼はあなたのような真の戦士に使われてこそ、その真価を遺憾なく発揮出来ます。」

「あ、ありがとうございます。同志アクラコン……」


 サーラはカレンから自動小銃を受け取った。

 ずっしりとした重みを感じる。今まで使用していた武装警察仕様の自動小銃がまるでオモチャの空気銃のように感じられた。

 アーガン製自動小銃を受け取ったダニーク人第一号に輝いたサーラは、銃を構えて照星を覗き込む。


「同志ベルカセム。是非、試射なさってください。ちょうどそこに、良い的がございます。」


 そう言うとカレンは桟橋で処刑を待つ怯えて泣きっ面の共和国空挺兵団の兵士を指差し、サーラを促した。

 サーラは言われた通り、銃口を約100メートル先にいる共和国の「負け犬」に向ける。

 兵士たちの処刑を行っていたアーガン人民軍政治将校は、カレンからの目配せに気付き、その兵士の傍から離れた。


 発砲。


 チャンバー内の弾薬に撃鉄が叩き付けられ、発射薬に点火。

 槍のように尖った約8グラムの完全被甲弾が、共和国軍兵士に向かって飛び出した。

 弾丸はファーンデディアの空気を切り裂き、兵士の額に命中。

 音速を超えて飛来した弾丸は兵士の頭を貫通し、後頭部を破壊。

 その脳漿を背後の海にばら撒くと、兵士の身体もそれに続いて桟橋から転落した。

 水飛沫が上がり、重しの付いた兵士の死体は海中へと没した。


 サーラは少しばかり感動していた。1発撃っただけで彼女には分かったのだ。

 威力は申し分ない。この命中精度と発射反動なら自分でも十分に制御できるし、何より動作が確実だ。

 サーラは銃を下ろし、カレンを見た。

 不気味なアーガン女は、この時ばかりは表裏の無い笑顔を見せていた。


「素晴らしい。この銃を初めて扱った者で、見事初弾を命中させたのは私の知る限りあなただけです。」

「……ありがとうございます……」


 サーラは改めてカレンから受領した自動小銃を眺めた。

 この銃なら、自分たちの国を、民族の自由を勝ち取れるのでは……

 何故かそんな気持ちが湧いてきた。

 

 

 この人民共和国製自動小銃は、すぐさまダニーク解放戦線の主だった戦闘部隊に供給された。

 真っ先に受け取ったのはサーラ率いる革命親衛隊の戦士たち。

 皆、最初は今まで使っていた王国製自動小銃よりも強い射撃反動に戸惑っていたが、フルオートで全弾発射しても全く動作不良を起こさないこの銃に驚喜していた。


 

 やがて物資全ての陸揚げを終えた潜水艦は、本国から連れてきた交代要員の内務人民委員会対外工作員数名を下船させ、入れ替わりにカレンとダヤン、カレンの側近である政治将校らを乗せると、慌ただしく出航準備に取り掛かった。帰路で使用する燃料や食糧品等の物資が、ダニーク人たちの協力を得て手早く潜水艦に積み込まれていく。

 去り際、カレンはサーラに声をかけた。


「私たちはまたやってきます。多くの物資を携えて。それまで同志の健闘を祈ります。」

「はい、同志アクラコン。」

「あなたのこと、気に入ったわ。絶対に死んだりしないでね、()()()()()。」

「死ぬつもりはありません。勝利するその時まで。」


 カレンは笑みを見せ、サーラにしばしの別れを告げた。

 心の中でこう付け加えながら。



 あなたは、私が殺す。

 ダニーク人が勝利を手にするその直前に。



 潜水艦に乗り込んだカレンの周囲を仄暗いオーラが包む。

 壮絶な笑みで顔が歪む。

 周りにいた政治将校たちは、カレンの傍から思わず一歩離れてしまう。

 彼女の悪い癖が出てしまっていた。

 気に入ったオモチャは自分の手で壊さないと気が済まない。

 そのオモチャを壊す時こそ、この女にとって愛する男ザイツォンの傍に侍っている時と同等の至福の瞬間であった。


 そんなカレンの姿を見ていたクラゲナン艦長と若い副長は、お互いに顔を見合わせると、とぼけた顔をして肩を竦めた。

 いくら美人でも、やはりこの化け物女には異性としての魅力を全く感じない。

 これから本国アーガンまでの長い道のりを、またしてもこの「冷血女」と狭い艦内で一緒に過ごさなければならないのかと思うと、艦長をはじめ潜水艦乗組員の誰もが暗澹たる思いに駆られた。


 

 黄昏近づく太陽の光に照らされながら出航する潜水艦。

 その姿を見届けるサーラとダニーク解放戦線の戦士たち。

 新しい銃に、膨大な物資、そして強力な戦車。

 自由を求める彼らの戦いは、更なる激しさを増すことになる。



 王国軍による反撃の時は、すぐそこまで迫っていた。

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